遺産整理(いさんせいり)とは、亡くなった方(被相続人)が遺した財産のうち相続財産を洗い出し、相続人同士で分配して相続税申告や各種名義変更などをおこなう相続手続き全般を指します。
ただし相続手続きの際、相続財産の分け方で揉めたり手続きの期限に遅れたりして、不満の残る結果に終わってしまうことも珍しくありません。
手続きが不安な方は、弁護士・司法書士・行政書士・税理士などへの依頼も検討しましょう。
この記事では、遺産整理の手順や、遺産整理で損をしないためのポイント、遺産整理の依頼先や費用相場などを解説します。
遺産整理では、主に以下の流れで手続きを進めていきます。
ここでは各相続手続きについて解説します。
基本的に、遺言書がある場合には、遺産相続は、被相続人の遺言内容に沿って分割しなければなりません。
もし相続人同士で遺産分割協議がまとまった後に遺言書が見つかった場合は、協議のやり直しや、分割方法について相続人から同意を取るなどの対応が必要です。
余計な手続きを増やさないためにも、まずは遺言書を確認しましょう。
なお、遺言書には、自筆証書遺言書・公正証書遺言書・秘密証書遺言書の3種類あり、自筆証書遺言書や秘密証書遺言書については家庭裁判所での開封手続き(検認手続きと呼ばれます)が必要です。
相続人が勝手に開封してしまうと5万円以下の過料(罰金のようなものです)が課せられる恐れもあるため注意しましょう。
自筆証書遺言や秘密証書遺言と異なり、公正証書遺言は、公証人役場で作成されるため、全国のどこの公証人役場でも、亡くなった方が公正証書遺言を残していたかどうかを調べることができます。
相続では、相続人が一人でも欠けていると遺産分割協議が無効となります。
自分では親族関係を把握しているつもりでも、相続手続きの際に初めて存在を知るということもあり得るため、相続人の調査は必ずおこなわなければいけません。
相続人を調査する際は、本籍地の役所にて「被相続人の死亡から出生までの連続した戸籍謄本」や「相続人の戸籍謄本」の取得手続きをおこなって相続人を確定します。
窓口で申請する方法のほか、郵送などでも可能です。
なお民法では、法定相続人(相続を受ける権利がある人)の条件が定められており、それぞれ優先順位があります。
以下の通り、被相続人の家族構成に応じて相続人の範囲が異なるため、ケースごとに判断しなければなりません。
相続手続きでは、被相続人の保有財産についても各種書類を取り寄せるなどして調査する必要があります。
貯金・不動産・貴金属・自動車・有価証券・金銭債権などのプラスの財産のほか、借金や税金などのマイナスの財産も相続対象です。
相続ではあらゆる財産が相続対象となりますが、以下は原則的に相続財産には含まれません。
相続対象となる財産について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【関連記事】相続財産に含まれる財産と課税対象になる財産の違い
次に、相続人同士で相続財産の分け方について話し合います。
遺産分割協議では相続人全員の合意が必要であり、反対する相続人が一人でもいれば成立しません。
もし相続人が揃っていない状態で協議をおこなった場合には、無効となります。
遺産分割協議が成立した際は、合意内容をまとめた遺産分割協議書を作成して相続人が署名・押印します。
必ずしも作成する必要はありませんが、協議後の「言った言わない」などのトラブルを防止できるため作成したほうが安心でしょう。
なお遺産分割協議書に署名・押印した後は、一方的に合意内容を変更することは原則できません。
もし遺産分割協議では解決しなかった場合には、調停申立書を作成して遺産分割調停を申し立てます。
遺産分割調停とは「調停委員が相続人の間に立って話し合いを進めていく」というもので、家庭裁判所でおこなう手続きです。
相続人同士が顔を合わさずに済むため遺産分割協議よりも比較的スムーズに進められる点が特徴で、基本的には1年程度で成立することが多いようです。
調停が成立すると調停調書が作成され、内容に沿って相続手続きが進められます。
遺産分割調停でも解決しなかった場合には、自動的に遺産分割審判へ移行します。
遺産分割審判とは「相続人が書類や証拠などを提出して主張や立証をおこなう」というもので、家庭裁判所でおこなう手続きです。
遺産分割調停とは異なり必ず決着がつく点が特徴で、基本的には1~2年で終了することが多いようですが、長ければ3年以上かかることもあるようです。
審判が下ると審判書が作成され、内容に沿って相続手続きが進められます。
相続人は審判での決定内容に従う義務があり、もし従わない場合には強制執行などの措置が可能です。
なお、ケースによっては裁判官から和解案を提示されることもあり、双方が和解案に納得すると裁判所で調書が作成され、手続きは終了となります。
以下の財産を相続する際は、それぞれ名義変更手続きが必要です。
相続手続きの際は忘れずに対応しましょう。
なお上記のほかにも、社会保険の資格喪失手続きや年金受給の停止手続きなどもケースに応じて必要になります。
相続登記とは不動産の名義変更手続きのことを指します。
相続登記には期限がないため好きなタイミングで手続き可能ですが、相続手続きで余計な手間を増やさないためにも、なるべく速やかに済ませておいたほうがよいでしょう。
相続登記をせずに放置した場合、権利関係が曖昧になって将来自分の子どもが相続する際に相続トラブルが起きたりする恐れもあります。
相続登記では以下の書類が必要ですが、司法書士であれば手続きを一任できます。
自力で手続きができるか不安な方は依頼を検討してもよいでしょう。
相続手続きでは、相続税の申告が必要かどうかも判断しなければいけません。
相続税の申告手続きを正確に済ませないと加算税や延滞税などが発生する恐れもあるため、申告ミスがないよう注意しましょう。
相続税には基礎控除という制度があり、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という式で基礎控除額を計算できます。
自分の相続財産のうち、課税価格の合計額が基礎控除額を上回る場合には相続税の申告手続きが必要です。
なお、基礎控除のほかにも「配偶者が相続するケース」や「不動産を相続するケース」などでは、特例を利用して相続税を引き下げることも可能です。
相続税の計算や申告手続きが不安な方は、税理士に依頼しましょう。
遺産整理では、ケースごとに適した対応を選ばないと結果的に損をしてしまう可能性もあります。
少しでも多くの遺産を受け取るためにも、以下のポイントを押さえておきましょう。
相続手続きでは、単純承認・限定承認・相続放棄という3種類の相続方法があります。
選択を誤ると借金を抱える可能性もあるため、どの相続方法が適しているかよく考えて選びましょう。
単純承認とは、被相続人の相続財産を全て引き継ぐ相続方法のことです。
他の相続方法を選ぶ手続きをおこなわなかったり、相続財産を消費・処分したりした場合には、自動的に単純承認で相続手続きが進められます(民法第921条)。
なお注意点として、プラスの相続財産よりもマイナスの相続財産の方が上回っている場合、単純承認で相続すると借金を背負ってしまうことになります。
限定承認とは、プラスの相続財産の範囲内でマイナスの相続財産も引き継ぐ相続方法のことです。
どうしても引き継ぎたい財産がある場合や、被相続人が借金を抱えている可能性がある場合には効果的な相続方法でしょう。
例えば「相続財産が600万円の車(プラスの財産)と2,000万円の借金(マイナスの財産)」という場合、限定承認を利用すれば、600万円の車と600万円の借金を相続することになります。
なお注意点として、限定承認を利用するには共同相続人全員の同意を得て手続きをしなければいけません。
相続放棄とは、被相続人の相続財産に関する相続権を放棄する相続方法のことです。
マイナスの相続財産の方が大きいことが明らかである場合や、相続トラブルに巻き込まれたくない場合には効果的な相続方法でしょう。
なお注意点として、相続財産の内訳がよく分からないまま相続放棄を選択した場合、マイナスの相続財産よりもプラスの相続財産のほうが上回っていて結果的に損をしてしまうという可能性もあります。
民法第900条では、相続人ごとに「法定相続分」として相続割合が定められています。
必ずしもこれに従って相続しなければならないというわけではありませんが、特段の事情がなければ法定相続分を目安に分割するのが通常です。
相続では被相続人の配偶者・子ども・直系尊属・兄弟姉妹などが相続人となりますが、相続人の組み合わせによって相続割合も異なります。
以下はケースごとの法定相続分の内訳です。
組み合わせ |
配偶者 |
子ども |
直系尊属 |
兄弟姉妹 |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ |
全て |
― |
― |
― |
配偶者+子ども |
1/2 |
1/2 |
― |
― |
子どものみ |
― |
全て |
― |
― |
配偶者+直系尊属 |
2/3 |
― |
1/3 |
― |
直系尊属のみ |
― |
― |
全て |
― |
配偶者+兄弟姉妹 |
3/4 |
― |
― |
1/4 |
兄弟姉妹のみ |
― |
― |
― |
全て |
相続手続きには期限が定められているものもあり、期限に遅れるとお金を多く支払わなければならないこともあります。
相続手続きは以下のスケジュールで進めるのが通常です。
ここでは、各相続手続きの期限について解説します。
相続開始から1週間以内におこなう手続きは「死亡届の提出」です(戸籍法第86条)。
なお提出する際は死亡診断書(死体検案書)や印鑑なども準備して、以下いずれかの場所に提出しなければいけません。
相続開始から3ヵ月以内におこなう手続きは「相続放棄・限定承認の選択」です(民法第915条)。
期限内に手続きをおこなわなければ単純承認で相続手続きが進められますが、家庭裁判所に申し立てることで手続き期限を延長することも可能です。
その際は、延長理由などを記載した申立書や添付資料などを準備する必要があります。
【関連記事】相続放棄の期限は3ヵ月|期間を過ぎたときの対処法を解説
相続開始から4ヵ月以内におこなう手続きは「準確定申告」です。
準確定申告とは、被相続人の代わりに相続人が確定申告することを指します。
準確定申告は、被相続人が確定申告しなければならない場合のみ必要な手続きです。
期限内に手続きをおこなわなければ加算税が課されるため、必ず期限内に済ませておきましょう。
【関連記事】準確定申告が不要な場合とは|必要になるケースと申告に使う書類
相続開始から10ヵ月以内におこなう手続きは「相続税の申告・納付」です。
相続税が発生する場合には、必要な手続きです。
期限内に手続きをおこなわなかったり申告内容に誤りがあったりすると加算税や延滞税などが課されるため、迅速かつ正確に済ませましょう。
もし「遺産分割協議が長引いて期限内に対応できない」という場合には、一旦未分割の状態で申告・納付を済ませて、分割が完了したあとに修正申告・更生請求をおこなうことになります。
なお、未分割の状態で申告する際は「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類もあわせて提出することで、申告期限後3年以内に分割が完了していれば、相続税の特例などを利用することもできます。
【関連記事】相続税の申告期限はいつまで?延長できるケースや間に合わない場合の対処法を解説
相続開始から1年以内におこなう手続きは「遺留分侵害額請求」です(民法1048条)。
遺留分侵害額請求とは、法定相続人の最低限の取り分(遺留分)を請求する手続きのことです。
以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれており、2019年7月1日より改正民法が施行されたことで名称が変更されました。
遺産整理については、弁護士・司法書士・行政書士・税理士などの士業のほか、信託銀行にも依頼可能です。
ここでは、各依頼先の対応業務や、それぞれどのようなケースで依頼するのが向いているのか解説します。
弁護士の場合、相続トラブル(遺産分割協議・遺産分割調停・遺産分割審判)に唯一対応できる点が特徴です。
さらに士業のなかでも対応範囲が幅広いため、相続が初めてという方も弁護士に依頼すれば大半の相続手続きが完了します。
弁護士の場合、以下の相続手続きを依頼できます。
以下のケースに該当する場合、弁護士に依頼するのが向いているでしょう。
司法書士の場合、相続登記を一任できる点が特徴です。
弁護士ほど対応範囲は広くないものの、相続税が発生せず相続トラブルもないケースであれば、司法書士に依頼することで大半の相続手続きが完了します。
司法書士の場合、以下の相続手続きを依頼できます。
以下のケースに該当する場合、司法書士に依頼するのが向いているでしょう。
行政書士の場合、相続手続きで必要な書類対応を一任できる点が特徴です。
なお依頼費用については他の士業に比べて安いところが多いようですが、各事務所でもバラつきがあります。
詳細は直接事務所に確認することをおすすめします。
行政書士の場合、以下の相続手続きを依頼できます。
以下のケースに該当する場合、行政書士に依頼するのが向いているでしょう。
税理士の場合、相続税に関する手続きに唯一対応できる点が特徴です。
相続税が発生する場合はもちろん、相続税が発生するのかどうか自分では分からない場合なども、税理士に相談すれば安心でしょう。
税理士の場合、以下の相続手続きを依頼できます。
以下のケースに該当する場合、税理士に依頼するのが向いているでしょう。
信託銀行の場合、相続財産の活用方法に関するアドバイスなども望める点が特徴です。
なお信託銀行が直接相続手続きを代行するわけではなく、基本的には信託銀行が各士業へ外注することになります。
信託銀行の場合、以下の手続きを依頼できます。
以下のケースに該当する場合、信託銀行に依頼するのが向いているでしょう。
ここでは、遺産整理を依頼した際の費用相場を解説します。
ただし費用は各事務所でもバラつきがあるため、詳しい金額が知りたい方は直接事務所に確認しましょう。
相続を弁護士に依頼した場合の費用相場は以下の通りです。
依頼内容 |
費用相場 |
---|---|
遺言書検認 |
10万~15万円程度 |
遺言書作成 |
10万~20万円程度 |
遺産分割協議書作成 |
10万円程度 |
相続放棄 |
10万円程度 |
相続人調査 |
10万円程度 |
相続財産調査 |
20万~30万円程度 |
相続財産の名義変更(不動産を除く) |
10万円程度 |
なお相続トラブルの対応を依頼する場合には、着手金のほか成功度合いに応じて報酬金も発生します。費用相場は以下の通りです。
依頼内容 |
着手金相場 |
---|---|
相続トラブルの対応 |
20万~200万円以上 |
経済的利益の額 |
報酬金相場(旧弁護士会報酬規程を参考) |
---|---|
300万円以下 |
16% |
300万円を超えて3,000万円以下の場合 |
10%+18万円 |
3,000万円を超えて3億円以下の場合 |
6%+138万円 |
3億円を超える場合 |
4%+738万円 |
信託銀行に依頼した場合、相続財産額に応じて費用が異なります。費用相場は以下の通りです。
相続財産額 |
費用相場 |
---|---|
5,000万円以下 |
2.200% |
5,000万円を超えて1億万円以下 |
1.650% |
1億万円を超えて2億円以下 |
1.100% |
2億円を超えて3億円以下 |
0.880% |
3億円を超えて5億円以下 |
0.550% |
5億円を超える場合 |
0.440% |
遺産整理では、相続人や相続財産の調査・遺産分割協議・相続財産の名義変更・相続税の申告など、さまざまな手続きが必要になります。
場合によっては、相続トラブルの対応に追われることもあるでしょう。
相続手続きをスムーズに済ませるには、最低限の相続知識が必要です。
少しでも不安を感じる方は、状況に応じて弁護士・司法書士・行政書士・税理士などに依頼することをおすすめします。
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