法定相続分(ほうていそうぞくぶん)とは、遺産を遺して亡くなった被相続人の相続において、各相続人の取り分として法律上定められた割合のことです。
被相続人が遺言書を作成していた場合は、原則として遺言内容に従って相続財産を分配するため、遺産分割協議はおこなわないのが通常です。
一方、被相続人が遺言書を作成していない場合は遺産分割協議をおこない、遺産分割協議がまとまった場合は合意内容に従って遺産分割し、決裂した場合は調停や審判などで取り分を決定します。
法定相続分は、基本的に調停や審判などで取り分を決定する際に基準として用いられます。
法定相続分について正しく理解しておけば、調停などに移行した場合も冷静に対応できますし、法定相続分を参考に遺産分割協議をすることで争いを避けられる可能性もあります。
この記事では、法定相続分の基礎知識や計算方法、パターン別の法定相続分などを解説します。
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身内同士で遺産をめぐって対立するのは、資産家のときだけで、一般人である自分には関係ないと思っていませんか。
遺産分割事件の総数6934件の内、遺産の総額が,1000万円以下で2,279件(約32%)、1000万円以上5,000万円以下で3037件(約44%)となっています。(令和3年 司法統計年報 3 家事編)
つまり相続争いは一般的な家庭でも、充分に起こり得るのです。
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被相続人が遺言書を作成していない場合の相続については、民法で相続人の範囲が定められており、これを法定相続人といいます。
法定相続人には、被相続人との関係性によって優先順位が設けられており、順位ごとに法定相続分が変わります。
まずは、法定相続人の順位や、法定相続人別の法定相続分などの基礎知識を解説します。
法定相続人の順位は以下のとおりです(民法第887条1項~3項、第889条1項~2項、第890条)。
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相続では、自分より順位の高い人がいる場合は相続人になれません。
被相続人に配偶者がいる場合は「配偶者」と「最も順位の高い人」が相続人になり、配偶者がいない場合は「最も順位の高い人」だけが相続人になります。
なお、第1順位~第3順位の人がおらず配偶者しかいない場合は、配偶者だけが相続人になります。
ここでは、法定相続人の法定相続分について、ケースごとに解説します。
相続では必ず配偶者が法定相続人になり、婚姻期間が1日であろうと30年であろうと法定相続分は同じです。
ただし、事実婚のような内縁関係の場合は法定相続人にはなれません。
配偶者について、相続人の状況ごとの法定相続分は以下のとおりです。
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実子はもちろん、養子や認知された子なども法定相続人になります。
胎児にも相続権は認められていますが、亡くなった状態で生まれた場合は対象外です(民法第886条2項)。
なお、被相続人に子どもと孫がおり、すでに子どもが亡くなっている場合は孫が相続人になりますが、これを代襲相続と呼びます。
子どもや孫などについて、相続人の状況ごとの法定相続分は以下のとおりです。
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「父母が健在で祖父母は亡くなっている」「父母・祖父母ともに健在である」という場合は父母、「すでに父母が亡くなっていて祖父母は健在である」という場合は祖父母が法定相続人になります。
なお、被相続人が養子の場合は、実親だけでなく養親も法定相続人になります。
父母や祖父母などについて、相続人の状況ごとの法定相続分は以下のとおりです。
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子どもと孫のケースと同様に、兄弟姉妹と甥姪も代襲相続の対象になります。
なお、代襲相続は甥姪までの範囲に限られており、甥姪も亡くなっている場合は再代襲できません。
兄弟姉妹や甥姪などについて、相続人の状況ごとの法定相続分は以下のとおりです。
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なかには、家族関係が複雑だったりトラブルを抱えていたりして、相続権があるのかどうか判断に迷っている人もいるでしょう。
ここでは、相続権を持たない人について解説します。
事実婚などで被相続人と内縁関係にある人には、相続権がありません。
ただし、相続では、遺言によって相続財産を贈与する「包括遺贈」という方法があり、内縁の妻・夫でも包括遺贈の対象になります。
被相続人から内縁の妻・夫に包括遺贈がおこなわれた場合、内縁の妻・夫は法定相続人と一緒に遺産分割協議に参加できます。
被相続人の子どもであれば離婚後も相続権が残りますが、被相続人の元配偶者は離婚時点で相続権を失います。
「離婚後も事実婚状態で一緒に生活している」という場合でも、相続権は復活しません。
一方、法律上の配偶者であれば、たとえ離婚協議をしていて別居状態でも相続権があります。
再婚相手の連れ子は、被相続人と養子縁組をしないかぎり相続権はありません。
なお、再婚相手には相続権があります。
本来であれば法定相続人になるはずだった人でも、以下のような行為をすると相続欠格となり、相続権が剥奪されます。
相続欠格について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
被相続人は、一定の要件を満たしている場合に推定相続人の相続権を剥奪でき、これを相続廃除と呼びます。
推定相続人とは、被相続人が亡くなった場合に相続人になるはずの人のことです。
相続廃除では裁判所による許可が必要で、以下のいずれかの要件を満たしていなければいけません(民法第892条)。
相続廃除について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
一般的な相続では、孫や甥姪は法定相続人になりません。
しかし、被相続人によって包括遺贈がおこなわれた場合や、被相続人よりも前に亡くなっている相続人がいて代襲相続が発生した場合などは、孫や甥姪も包括受遺者や代襲相続人として相続に参加します。
遺産分割協議では、相続人全員が合意すれば取り分は自由でよく、必ずしも法定相続分に従う必要はありません。
なお、被相続人が遺言書を作成している場合でも、相続人全員が合意すれば、遺産分割協議をして取り分を自由に決定できます。
遺産分割協議が決裂して調停や審判などで取り分を決定する際は、法定相続分に基づいた内容になるのが一般的です。
なお、相続では法定相続分が利用されないケースもあり、詳しくは「相続での取り分が法定相続分どおりにならないケース」で後述します。
ここでは、パターンごとの法定相続分について解説します。
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さらに詳しいパターンを確認したい人は、以下の記事をご覧ください。
以下の相続シミュレーターに遺産総額・配偶者の有無・配偶者以外の法定相続人の数などを入力すれば、相続額が自動で算出されます。
各相続人の相続税や遺留分なども一緒に確認できますので、まずは利用してみましょう。
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配偶者以外の |
子
親 兄弟
人
人 人 |
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遺留分とは、一定の相続人が最低限受け取れる取り分のことです。
遺留分は、配偶者・子ども・孫・父母・祖父母などに認められており、兄弟姉妹や甥姪などは対象外です。
たとえば、被相続人である夫が「全財産を愛人に遺贈する」という遺言書を作成していた場合は、相続人である妻は愛人に対して遺留分を主張でき、最低限の取り分を確保できます。
法定相続分と遺留分は「民法が定める相続財産の取り分」という点は共通していますが、具体的な割合などが異なります。
ここでは、遺留分の請求方法や割合などを解説します。
遺留分を請求する際は、まずは直接交渉での解決を目指し、相手が応じてくれない場合は調停や訴訟などに移行するというのが一般的な流れです。
なお、遺留分の請求には時効があり、時効期間は「相続が開始して遺留分が侵害されていることを知ってから1年」、相続の開始や遺留分の侵害に気付いていない場合は「相続が開始してから10年」です(民法第1048条)。
遺留分の割合は、以下のように相続人の組み合わせによって異なります。
※子どもや父母などが複数人いる場合は、その人数で個別的遺留分を頭割りする
ここでは、相続での取り分が法定相続分どおりにならないケースについて解説します。
被相続人は、相続人の遺留分を侵害していなければ、法定相続分と異なる取り分を遺言書で指定して相続させることができます。
相続では遺言が最優先の規律になるため、相続人全員の同意がないかぎり、遺言内容に従って相続財産を分配します。
たとえば、「相続人が配偶者と子ども2人」というケースでは、法定相続分は配偶者2分の1・子ども4分の1ずつですが、被相続人の遺言によって「配偶者も子どもも3分の1ずつ」などと指定することもできます。
寄与分とは、被相続人に対して特別な寄与をした場合、相続での取り分が増えるという制度です。
現行法上、寄与分が認められるのは相続人だけですが、2019年7月1日に改正相続法が施行されたことで、相続人以外の親族でも特別の寄与に応じた金銭を請求できるようになりました。
寄与分は自動的にもらえるわけではなく、まずは遺産分割協議にて寄与分を主張し、ほかの相続人からの同意が得られない場合は調停や審判などに移行して争います。
寄与分には、以下のような成立要件が定められています(民法第904条の2第1項)。
一例として、以下のようなケースでは寄与分が認められる可能性があります。
なお、寄与分は家事従事型・金銭等出資型・療養看護型・扶養型・財産管理型の5つに分類され、それぞれ計算方法が異なります。
寄与分について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
特別受益とは、生前贈与などの被相続人から特別に受け取った利益のことです。
特別受益がある場合の相続では、特別受益の金額を相続開始時の財産に加えて計算し、これを持ち戻しと呼びます。
以下のように、特別受益の内容によって持ち戻しの対象になるものは異なります。
※高額な教育費なども特別受益に含まれる可能性があります
なお、特別受益の持ち戻しについては、被相続人によって免除の意思表示をすることもできます。
もし被相続人が遺言などで持ち戻し免除の意思表示をした場合は、基本的に特別受益の持ち戻しはせずに計算します(民法第903条3項)。
特別受益者の相続分は、以下のような式で計算します。
特別受益者の具体的相続分=(相続開始時の財産の価額+相続人が受けた贈与の金額)×指定相続分または法定相続分ー特別受益者が受けた遺贈または贈与を受けた金額 |
ここでは、以下のようなケースでの各相続人の具体的相続分を解説します。
まずは、長男の特別受益について以下のように処理します。
8,000万円(遺産総額)+4,000万円(生前贈与)=1億2,000万円
上記の式で算出されたものを「みなし相続財産」と呼び、ここから各相続人の具体的相続分を計算します。
この場合、妻と長女の合計分は相続開始時の遺産総額である8,000万円を1,000万円超過しており、長男は1,000万円余分にもらっているということになります。
民法では、特別受益者の超過分について返還を求めていないため、妻と長女は少ない取り分で相続を終えることになります。
特別受益などがある場合は計算が複雑になりやすく、本来的相続分を基準に負担額を按分する方法や、具体的相続分を基準に負担額を按分する方法などもあります。
自力での計算が難しい場合は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
法定相続分は、被相続人の配偶者・子ども(孫)・父母(祖父母)・兄弟姉妹(甥姪)などに認められており、相続人の組み合わせによって具体的な割合は変わります。
必ず法定相続分どおりに分配しなければならないわけではなく、被相続人が遺言書を作成している場合や、寄与分や特別受益がある場合などは割合が異なることもあります。
「法定相続分の計算方法がわからない」「相続手続きが難航している」などの相続に関する不安やトラブルがある場合は、弁護士に相談しましょう。
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