遺産相続が発生し、相続税の支払いが必要になることは理解しているものの、何から手をつけてよいのかわからず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、相続税の計算手順を5つのステップに分けてわかりやすく解説します。
納税額を抑えるポイントなども紹介するので、ぜひ最後までチェックしてみてください。
相続税の計算をおこなう際は、まず相続税シミュレーターを使ってみてください。
遺産総額や配偶者の有無、配偶者以外の法定相続人の数、地域を入力すれば、相続税の目安が瞬時に表示されます。
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|
|
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配偶者以外の |
子
親 兄弟
人
人 人 |
---|
相続税シミュレーターは簡易的なシミュレーションであり、正確な数字を計算することはできません。
しかし、おおよその金額感だけでも把握できていれば、納税資金の用意などにも早めに着手できるようになるでしょう。
相続税の計算手順は、大きく5つのステップに分けられます。
まずは、最初のステップとなる「遺産の総額を求める」手順を詳しく見ていきましょう。
はじめに、遺産総額を計算しましょう。
遺産総額の計算式は、以下のとおりです。
課税対象の財産から課税対象外の財産を差し引けば、相続税算定の基となる遺産総額を算出できます。
なお、墓地や仏壇などの非課税財産や自治体に寄付した財産がある場合は、マイナスの財産とあわせて遺産総額から差し引くようにしてください。
遺産総額の算出に関係する遺産の種類について、実際にどのようなものが挙げられるのか具体例を紹介します。
プラスの相続財産には、以下のようなものが挙げられます。
現金・預貯金やお金に換価できる財産に関しては、そのままの金額で計算することになるため大きな問題は生じないでしょう。
しかし、建物や土地などの不動産は一度評価額を計算したうえで、遺産総額に組み込む必要があります。
建物の評価額は、固定資産税評価額と同額です。
固定資産税評価額は固定資産税の納税通知書に記載されているので、比較的容易に確認できます。
土地の評価額を計算する方法は、基本的に路線価方式もしくは倍率方式のいずれかです。
まず、国税庁が路線価を定めている地域にある不動産は、路線価方式で評価額を計算しましょう。
路線価とは、各道路に面する宅地1㎡あたりの評価額を指し、国税庁のホームページで公開されています。
なお、被相続人が住んでいた土地を配偶者や同居していた親族が相続する場合などは、「小規模宅地等の特例」を適用できるかもしれません。
土地の評価額が最大80%減額され、大きな節税効果が見込めるので積極的に活用してみてください。
路線価が定められていない地域の場合は、倍率方式で評価額を計算します。
固定資産税評価額は固定資産税の納税通知書、倍率は国税庁のホームページで確認できます。
みなし相続財産とは、死亡保険金または死亡退職金を指します。
被相続人の財産ではないものの、死亡をきっかけに受取人は大きな利益を得ることになるため、相続財産のひとつとして遺産総額に含めなければなりません。
ただし、死亡保険金と死亡退職金には「相続人の数×500万円」の非課税枠があります。
相続開始前から7年以内において、被相続人から相続人に対しておこなわれた贈与は相続財産に加算しなければなりません。
贈与税の非課税範囲に収まっている場合や、贈与税の申告を済ませている場合でも、贈与財産を相続財産に含めて再計算する必要があります。
もともと生前贈与の加算期間は3年でしたが、2024年から7年に延長されました。
ただし、延長された4年間でおこなわれた贈与については、100万の控除が認められています。
たとえば、被相続人が亡くなる直前の7年間で、毎年110万円の生前贈与をおこなったとしましょう。
このとき、7年前から4年前までの贈与からは100万円を控除できるので、結果として、相続財産に加算するのは770万円-100万円=670万円です。
なお、2023年以前におこなわれた贈与には改正前のルールが適用されるため、3年を経過すれば相続財産に含める必要はなくなります。
相続税には「債務控除」と呼ばれる制度があり、遺産総額を計算する際にマイナスの財産を差し引くことが可能です。
具体的には、借金・未払い金などの債務や葬式費用などが挙げられます。
医療費や公共料金、家賃などは未払いの状態になっていることも多いので、忘れずにマイナスの財産として整理しましょう。
最終的な税負担を軽減させるためにも、マイナスの財産をもれなく洗い出すことが大切です。
遺産総額が算出できたら、課税遺産総額を求めましょう。
課税遺産総額とは、実際に相続税の課税対象となる財産の総額を指し、遺産総額から基礎控除額を差し引いて計算します。
ここでは、基礎控除額の求め方がポイントとなるので詳しく見ていきましょう。
基礎控除額の計算式は、以下のとおりです。
法定相続人にはまず、配偶者が該当します。
そのほかの相続人は以下のように順位付けされており、法定相続人になれるのは最も順位の高い人だけです。
上位順位が不在の場合にのみ下位順位が繰り上がり、法定相続人になることができます。
たとえば、被相続人に配偶者と2人の子どもがいた場合、法定相続人の数は3人となるので基礎控除額は【3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円】と計算できます。
このとき、遺産総額が4,800万円を下回るようなら課税遺産総額がマイナスとなるので、相続税は一切かかりません。
基礎控除額を上回った部分に対してのみ、相続税が課税されることを覚えておきましょう。
課税遺産総額を求めたあとは、相続税の総額を算出します。
3つのステップで算出できるので、難しく考えずに作業を進めましょう。
まずは、課税遺産総額を法定相続分で按分することから始めます。
法定相続分とは、民法で定められている各相続人の相続割合のことです(民法第900条)。
実際には法定相続以外の方法で相続する場合でも、一度法定相続分を利用して計算する必要があります。
法定相続分は法定相続人の組み合わせによって変動するので、以下の表を参考にしてみてください。
相続人の組み合わせ |
法定相続分 |
配偶者のみ |
1 |
配偶者と子ども |
配偶者:1/2、子ども:1/2 |
配偶者と親 |
配偶者:2/3、親:1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 |
配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4 |
子どものみ |
1 |
親のみ |
1 |
兄弟姉妹のみ |
1 |
たとえば、被相続人の課税遺産総額が9,000万円で、配偶者と親が相続する場合は、3分の2にあたる6,000万円と3分の1にあたる3,000万円に按分されることになります。
次に、各人が課税遺産総額の法定相続分を相続すると仮定して、それぞれの相続税額を計算します。
相続税額の計算式は、以下のとおりです。
税率と控除額は法定相続分による取得金額ごとに、以下のとおり定められています。
法定相続分による取得金額
税率
控除額
1,000万円以下
10%
ー
1,000万円超から3,000万円以下
15%
50万円
3,000万円超から5,000万円以下
20%
200万円
5,000万円超から1億円以下
30%
700万円
1億円超から2億円以下
40%
1,700万円
2億円超から3億円以下
45%
2,700万円
3億円超から6億円以下
50%
4,200万円
6億円超
55%
7,200万円
たとえば、法定相続分による取得金額が配偶者6,000万円、親3,000万円とすると、各人の相続税額は以下のとおり計算できます。
最後に、各人の相続税額を合算して相続税の総額を求めましょう。
たとえば、配偶者の相続税額が1,100万円、親の相続税額が400万円とすると、1,500万円が相続税の総額となります。
課税遺産総額と相続人の数がわかっている場合は、早見表で相続税の目安を把握することができます。
相続人が配偶者と子どもの場合と、相続人が子どものみの場合の2パターンがあるので参考にしてみてください。
相続人が配偶者と子どもの場合は、以下の早見表を活用してみてください。
配偶者が相続する場合は後述する配偶者控除を利用できるので、相続税額が低く抑えられています。
(単位:万円)
課税遺産総額 |
配偶者・子ども1人 |
配偶者・子ども2人 |
配偶者・子ども3人 |
3,600万円以下 |
0 |
0 |
0 |
4,000万円 |
0 |
0 |
0 |
5,000万円 |
40 |
10 |
0 |
6,000万円 |
90 |
60 |
30 |
7,000万円 |
160 |
113 |
80 |
8,000万円 |
235 |
175 |
138 |
9,000万円 |
310 |
240 |
200 |
1億円 |
385 |
315 |
263 |
2億円 |
1,670 |
1,350 |
1,218 |
3億円 |
3,460 |
2,860 |
2,540 |
4億円 |
5,460 |
4,610 |
4,155 |
5億円 |
7,605 |
6,555 |
5,962 |
6億円 |
9,855 |
8,680 |
7,838 |
相続人が子どものみの場合は、以下の早見表を参考にしてみてください。
各種控除による減税効果が小さくなるので、配偶者がいる場合と比較して高額になる点が特徴といえます。
(単位:万円)
課税遺産総額 |
子ども1人 |
子ども2人 |
子ども3人 |
3,600万円以下 |
0 |
0 |
0 |
4,000万円 |
40 |
0 |
0 |
5,000万円 |
160 |
80 |
20 |
6,000万円 |
310 |
180 |
120 |
7,000万円 |
480 |
320 |
220 |
8,000万円 |
680 |
470 |
330 |
9,000万円 |
920 |
620 |
480 |
1億円 |
1,220 |
770 |
630 |
2億円 |
4,860 |
3,340 |
2,460 |
3億円 |
9,180 |
6,920 |
5,460 |
4億円 |
14,000 |
10,920 |
8,980 |
5億円 |
19,000 |
15,210 |
12,980 |
6億円 |
24,000 |
19,710 |
16,980 |
相続税の総額を把握できたら、各相続人の相続税額を求めます。
相続税は遺産全体にまとめて課税されるものではなく、相続割合に応じて相続人ごとに課税されるのが基本的な仕組みです。
そのため、実際の相続割合にあわせて、算出した相続税の総額を割り振らなければなりません。
たとえば、相続税の総額が900万円で、配偶者・長男・長女が3分の1ずつ相続するケースでは、それぞれの相続税額は300万円ずつになります。
あとは後述する各種控除を反映させ、納税額を減額していくだけです。
最後に、各種控除を反映させれば最終的な相続税の納付額が確定します。
主に3種類の控除が活用できるので、それぞれ詳しく見ていきましょう。
配偶者が遺産を相続する際は、配偶者控除を適用することが可能です。
配偶者控除を適用すると、配偶者が相続する遺産額が1億6,000万円または法定相続分以下の場合に相続税が非課税となります。
控除額が非常に大きいので、基本的に配偶者が相続税を課税されることはないでしょう。
なお、配偶者控除が適用されるのはあくまでも「配偶者が相続する遺産にかかる相続税」のみであり、ほかの相続人の相続税には関係しません。
未成年者控除とは、相続人が未成年の場合に本来納める相続税額から一定額を控除できる制度のことです。
控除額は相続開始時の年齢によって変動し、以下の計算式で求められます。
たとえば、15歳の子どもが遺産を相続する場合は、【10万円×(18歳-15歳)=30万円】を実際の納税額から差し引くことができます。
なお、未成年者控除を利用できるのは、遺産を相続する未成年が法定相続人である場合だけです。
たとえば、遺言によって孫が相続するケースは多く見られますが、基本的に孫は法定相続人にあたらないため、未成年者控除は利用できません。
障害者控除とは、相続人が障害者である場合に一定額を控除できる制度のことです。
控除額は、次の計算式を用いて算出します。
障害の程度がより重たい特別障害者の場合は、10万円ではなく20万円を乗じて計算することになります。
また、障害者控除額が相続税額よりも大きいときは、その分を扶養義務者の相続税額から差し引くことが可能です。
たとえば、障害者の長女と扶養義務者の長男がいて、相続税額は各300万円、障害者控除額は400万円だったとしましょう。
この場合、長女の相続税額300万円から障害者控除額400万円を差し引くと、控除額が100万円分余るため、長男の相続税額300万円から100万円を差し引くことができます。
なお、未成年者控除と同様に、障害者控除は法定相続人でなければ利用できないので注意してください。
相続税を計算する際は、以下の3点に注意しておく必要があります。
相続税を正しく計算できていないと、あとでお金の工面に苦しむことになるので、一つひとつのポイントをしっかりと押さえておきましょう。
配偶者と子ども・親以外が相続する場合は、相続税が2割加算されます。
たとえば、兄弟姉妹や甥姪、孫などは2割加算の対象です。
算出した相続税額が200万円とすると、最終的な納税額は2割加算によって240万円になります。
なお、子どもが死亡しており、孫が代襲相続する場合には2割加算の適用はありません。
先述したとおり、相続税を計算する際は、死亡保険金も課税対象となる点に注意してください。
死亡保険金は被相続人が直接的に保有している財産ではありませんが、死亡をきっかけとして、受取人が大きな利益を得ることになります。
そのため、死亡保険金は「みなし相続財産」として扱われることを覚えておきましょう。
ただし、相続人が死亡保険金を受け取る場合は、「500万円×法定相続人の数」が非課税となります。
たとえば、死亡保険金が5,000万円で法定相続人の数が2人とすると、「5,000万円-(500万円×2人)=4,000万円」が課税対象です。
基礎控除が認められる養子の数には上限があることも、相続税を計算する際の注意点といえるでしょう。
課税遺産総額を求めるときは、遺産総額から【3,000万円+(600万円×法定相続人の数)】の基礎控除を差し引くことになります。
しかし、節税目的の養子縁組を防ぐため、法定相続人の数に含められる養子の数は実子がいる場合で1人、実子がいない場合で2人までが上限とされています。
なお、特別養子縁組や連れ子とする養子縁組は、節税対策とは無関係におこなわれるものと考えられるため、上限なく法定相続人の数に含めることが可能です。
相続税の計算が難しい場合は、まず税理士に相談してみることが大切です。
なかには自力で計算できるケースもありますが、相続財産に不動産が含まれる場合や生前贈与がおこなわれていた場合などは計算が複雑になってしまいます。
相続税の計算を誤るとあとで資金繰りに苦労したり、過少申告加算税が課されたりするため、無理をせず専門家を頼るのが賢明な判断といえるでしょう。
税理士に依頼すれば、相続税の申告手続きを一任できるほか、相続税控除や特例制度を活用した節税対策ももれなくおこなってくれます。
無料相談に応じている税理士も多いので、遺産の相続が決まった段階で早めに相談してみてください。
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