相続税にはさまざまな控除制度があり、一定の要件を満たしている場合は相続税の負担が軽減されます。
また、相続税の控除制度以外にも節税方法はあり、どの選択肢が最適なのかは状況によって異なります。
できるだけ相続税の負担を減らすためにも、各制度の控除額や節税方法の種類などについて知っておきましょう。
本記事では、相続税の控除制度や、控除制度以外の節税方法などについて解説します。
主な相続税の控除制度は7つあり、ここでは各制度の該当要件や控除額の計算方法などを解説します。
基礎控除とは、相続税を算出する際に必ず適用される控除制度です。
基礎控除の金額は、以下のように配偶者・子ども・父母・兄弟姉妹などの「法定相続人が何人いるか」によって異なります。
基礎控除の計算例は以下のとおりです。
- 法定相続人が子ども2人で、遺産が6億円の場合
基礎控除後の金額=6億円-{3,000万円+(600万円×2)}=5億5,800万円
配偶者控除とは、被相続人の配偶者が相続を受ける場合に適用される控除制度で、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分」のどちらか多い方の金額まで相続税がかかりません。
なお、配偶者控除の適用を受けるためには、次の4つの要件を満たさなければなりません。
また、配偶者控除にはいくつか制約が設けられており、詳しくは以下の記事で解説しています。
相続の開始前3年以内に贈与された財産は相続税の課税対象となりますが、すでに支払った贈与税額が相続税から差し引かれるという制度です。
これは税金を二重に支払うことを防ぐためのものであり、くれぐれも申告忘れがないようにしましょう。
未成年者控除とは、相続人が未成年者である場合に一定の金額が控除されるという制度です。
控除額の計算方法は以下のとおりで、たとえば10歳の子どもが相続する場合には「10万円×(18歳-10歳)=80万円」となります。
障害者控除とは、相続人に障害がある場合、障害の程度に応じて一定の金額が控除されるという制度です。
控除額の計算方法は以下のとおりで、たとえば30歳の一般障害者が相続する場合には「10万円×(85歳-30歳)=550万円」となります。
相次相続控除とは、相続発生後の10年以内に新たに相続が発生した場合、その相続で発生する相続税について一定額控除されるという制度です。
外国税額控除とは、外国で日本の相続税に相当する税金を支払っている場合、日本で支払う相続税について一定額控除されるという制度です。
外国税額控除の場合、「外国で納めた相続税額」または「日本の相続税額×(外国にある相続財産額の合計/相続人の相続財産額の合計)」のどちらか小さい方の金額が控除されます。
控除制度のなかでも計算方法が複雑であるため、もし適用条件に該当する場合は税理士にサポートを依頼することをおすすめします。
相続税の節税方法は、上記のような控除制度だけではありません。
ここからは、そのほかの節税方法について解説します。
生前贈与とは、存命中の個人が他者に財産を無償で渡すことで、亡くなる前に生前贈与しておくことで相続税の課税対象となる財産を減らすことができます。
ただし、生前贈与では贈与税が課されるため、場合によっては多額の贈与税が課されて結果的に負担が大きくなることもあります。
なお、贈与税の課税制度としては「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、どちらか選択することができます。
それぞれ特徴としては以下のとおりで、贈与税対策について具体的なアドバイスが欲しい方は税理士に相談しましょう。
生前贈与についてはいくつか注意点があり、まずひとつ目として、生前贈与は税務署に否認されてしまう場合があります。
生前贈与を税務署に否認されると、贈与分に対して相続税が課されてしまいます。
対策としては、贈与契約書を作成しておく・金銭を受贈者の銀行口座に振り込むなどの方法があり、「客観的に贈与がなされた」とわかるようにしておくことが大切です。
2つ目の注意点として、毎年一定額を贈与していると定期贈与とみなされて、贈与税が課される恐れがあります。
定期贈与とは、毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与のことで、たとえば「1,000万円を渡すために毎年100万円を10年間贈与する」という契約を締結し、これに基づいて毎年100万円を贈与した場合は定期贈与となります。
このようなケースでは、「契約した年に1,000万円の定期金に関する権利を贈与した」として贈与税が課されます。
3つ目の注意点として、生前贈与をしても生前贈与加算がされる場合があります。
生前贈与をしてから3年以内に贈与者が亡くなった場合には、「その贈与はなかったもの」という扱いになり、贈与された分は相続財産に加えて相続税を計算します。
生命保険金や死亡退職金には非課税枠が設けられており、税負担を抑えることができます。
生命保険金については「500万円×法定相続人の数」で算出された金額が控除されます。
企業に在職中の方が亡くなった場合、本来その従業員が受け取るはずだった退職金を遺族が受け取れる制度のことを「死亡退職金制度」といいます。
遺族に死亡退職金が支払われるかどうかは企業によって異なります。
死亡退職金の非課税枠も生命保険金と同様で、「500万円×法定相続人の数」です。
法定相続人の数が多ければ基礎控除の金額も高くなるため、養子縁組をすることも節税方法のひとつです。
また、養子縁組によって相続人が増えることで、各相続人の法定相続分が少なくなって相続税の税率が下がる場合もあります。
なお、法定相続人に含められる養子の数には制限があり、実子がいる場合はひとり、実子がいない場合は2人までです。
注意点として、節税のみを目的とする養子縁組は税務署に否認される可能性があるうえ、親族間のもつれを生じさせる恐れもあります。
相続状況によっては、以下のような特例を利用できる場合もあります。
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たしている場合、土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
故人が亡くなる前に老人ホームに入居していても適用対象になる場合もあり、詳しくは税理士に相談してみましょう。
小規模宅地等の特例の場合、被相続人の親族については「被相続人と同居していたこと」などの適用要件を満たしている必要があります。
家なき子特例とは、被相続人と同居していない親族でも「一定の要件を満たしていれば小規模宅地等の特例の適用が受けられる」という制度です。
基本的に被相続人の財産は相続税の課税対象になりますが、例外的に以下のような財産は「非課税財産」として相続税がかかりません。
なお、非課税財産でも、投資目的で所有している場合には課税対象になることもあるので注意しましょう。
<非課税財産の一例>
日常礼拝をしているもの |
死亡前から所有していた墓地・墓石・霊廟・仏壇・仏具などの神を祭る道具 |
寄付財産 |
相続税の申告期限までに、国または地方公共団体や公益を目的とする事業をおこなう特定の法人に寄附したもの |
公益事業用の財産 |
宗教・慈善・学術・その他公益を目的とする事業をおこなう一定の個人などが相続や遺贈によって取得した財産で、公益を目的とする事業に使われることが確実なもの |
相続税申告を依頼した場合の税理士報酬は相続発生後に支払うのが一般的ですが、相続発生前に支払うことで相続税を節税できます。
なお、全ての税理士事務所が税理士報酬の前払いに対応しているわけではないため、依頼前には確認しておきましょう。
2013年度の税制改正によって設けられた制度で、信託銀行などに子どもや孫の教育資金を信託した場合、1,500万円まで贈与税が非課税になります。
ここでは、相続税以外に課税されるケースについて解説します。
遺贈とは、被相続人が遺言によって財産を譲ることです。
遺贈の場合も相続税がかかりますが、不動産を遺贈する場合には「登録免許税」や「不動産取得税」などが発生する可能性もあります。
死因贈与とは、被相続人が存命中に贈与の契約をして、財産を譲ることです。
死因贈与の場合も相続税がかかり、不動産を譲る場合には「登録免許税」や「不動産取得税」などが発生する可能性もあります。
生前のうちに自身の財産を贈与した場合には、贈与税が発生します。
親族や特定の人に財産を生前贈与しておくことで、死後の相続税を軽減できたり、親族間での争いを防止できたりするなどのメリットが望めます。
以下の記事では、生前贈与の方法や注意点などについて詳しく解説しています。
いつか来るときのために相続税対策しておくことは大切ですし、控除制度の種類などもきちんと把握しておく必要があります。
ここでは、相続について真剣に考えなければならない理由について解説します。
2015年の税制改正によって相続税の税率は引き上げられ、以下のように課税割合は増加しています。
<相続税率の改正早見表>
法定相続人の取得金額 |
改正前 |
改正後 |
||
税率 |
控除額 |
税率 |
控除額 |
|
1,000万円以下 |
10% |
0 |
10% |
0 |
1,000万円を超えて3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
15% |
50万円 |
3,000万円を超えて5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
20% |
200万円 |
5,000万円を超えて1億円以下 |
30% |
700万円 |
30% |
700万円 |
1億円を超えて2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
40% |
1,700万円 |
2億円を超えて3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
||
3億円を超えて6億円以下 |
50% |
4,700万円 |
50% |
4,200万円 |
6億円を超える |
55% |
7,200万円 |
特に、相続財産が高額なケースでは、改正前に比べて相続税の負担が大幅に重くなる場合もあります。
税制改正の詳細や相続税対策のポイントなどについては、以下の記事で詳しく解説しています。
相続税は人が亡くなった場合に発生するものであり、現時点では現実味がなくても家族がいるのであれば、いずれ考えなければならないタイミングがやってきます。
「実際に相続が起きたら、とても納められるような金額ではなかった」というような事態も起こり得るため、今から相続税対策を意識しておくことが大切です。
これは家族間での揉め事などを避けるためにも重要なことであり、控除制度についてもきちんと把握しておきましょう。
誰が相続税の申告を行っても、納める相続税額は同じ金額になると思っていませんか? 実は、その考えは間違っています。
税理士業務の中でも「相続税の申告」は非常に特殊なもので相続税の専門的な知識が求められます。税理士ごとに、計算される相続税額が異なることも少なくないのです。
ここでは、「相続税専門」の税理士に依頼することが相続税を抑えることにつながる理由についてご紹介します。
医者に外科や内科などの専門分野があるように、税理士にも専門分野があります。
税理士になるには、「所得税法」「法人税法」「相続税法」「消費税法又は酒税法」「国税徴収法」「住民税又は事業税」「固定資産税」のうち、所得税法と法人税法を含む3つの科目に合格することが求められます。つまり、相続税について勉強せず税理士になった人も数多くいるのです。
一般的な税理士の仕事は法人税や所得税の申告です。全国の年間の相続税申告件数は約10万件なのに対し、税理士は約8万人存在しています。つまり、税理士一人あたりの相続税の申告件数は年間で1~2件程度が実状です。全国に企業が400万社以上あることからも、いかに相続税の申告業務が稀であるか理解できるでしょう。
そのため、相続税の申告を数多くこなしている税理士は少なく、専門的に扱っていない税理士に依頼すると、本来払わずに済んだ税金を支払う事態になりかねません。
相続税を抑えるためには、相続財産(特に土地や家屋)を正しく評価することや、特例・各種控除などを適用させることが必要不可欠です。
相続税の金額を正しく計算するには、もとになる遺産の価値を正しく評価する必要があります。預金や株式といった金銭価値がはっきりしているものであれば問題ありませんが、土地や家屋、さらに車などの一般動産や家財一式などの評価は難しく、税理士や税務署によって解釈が異なることもあり、遺産の価値を過大に評価してしまうこともあるのです。
また、相続税額を抑えるには控除や特例を利用することが不可欠ですが、適用条件が複雑なこともあり、適用できるのに気づかなかったり、適用できるかどうかの判断が困難な場合もあります。
さらに、本来の金額よりも少ない金額を誤って申告してしまうと、税務調査が行われ、延滞税や加算税などの追微課税が発生し、本来よりも高い税金を納めなければならないといった事態になりかねないのです。
あなた自身や経験の少ない税理士では、正しく申告するのが困難な場合もあるでしょう。そのため当サイト編集部では、相続税を専門に取り扱う税理士に依頼することを強く推奨しています。
依頼した場合は税理士報酬を支払う必要はありますが、それを上回って相続税額を抑えられることも少なくありませんし、ご自身での申告書作成から申告までの一連の手間や税務調査に対処する手間も省けます。
相続税を専門とする税理士は、相続問題解決が得意な弁護士と提携しているケースもあります。
相続弁護士ナビでは、税理士・司法書士・不動産鑑定士などと業務提携している事務所も多数掲載中です。
無料相談も可能ですので、まずはご相談ください。
|
相続税の申告・納税期限は「相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内」であり、期限を遅れないように早いうちに対応しましょう。
なお、相続税の控除制度の適用を受けるためには申告手続きが必要であり、控除制度の適用によって相続税がかからなくても申告が必要な場合もあります。
相続税の節税方法についてアドバイスが欲しい場合や、申告手続きや金額計算が不安な場合などは、速やかに税理士に相談しましょう。
相続税の税率を求める計算は比較的簡単で、相続税の対象となる課税価格が分かっていれば簡単に求めることができます。今回は税率と計算方法、そして非課税に関して解説しま...
相続税には配偶者控除(配偶者の税額軽減制度)があり、配偶者が取得した相続財産のうち1億6,000万円または法定相続分相当額のどちらか高い方が控除できるというメリ...
不動産を相続する際に最も気になる相続税も、やり方次第で大きな節税を行うことができます。今回は相続税の計算方法や不動産を相続する際の注意点などをご紹介していきます...
ここでは相続をする人が知っておくべきことを以下の5つのポイントに沿って説明していきたいと思います。
遺産相続をすると税金がかかるのをご存知でしょうか。二次相続は一次相続と違い、配偶者控除を利用できないので多くの相続税を払う必要があります。ここでは、配偶者控除に...
税理士への相談料の相場と、費用が発生するタイミング、そして費用を抑えて賢く税理士を利用するためにはどうすれば良いのかをご紹介していきます。
遺産相続によって相続税の支払いが必要になることは理解しているものの、何から手をつけてよいのかわからず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。本記事では、相続税...
相続税の申告手続きは、相続人自らがおこなう必要があります。しかし、相続財産の内訳や相続・遺贈の状況、法定相続人の数によって、相続税の申告手続きは異なります。本記...
相続税対策の代表例としては生前贈与が挙げられます。しかし相続や贈与にはさまざまな非課税枠が設けられており、状況に応じた適切な判断が必要となります。この記事では、...
代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)とは、代襲相続が起こった際に本来の相続人に代わって相続人になった「本来の相続人の子」などのことをいい、代襲者(だいしゅうしゃ...
本来相続人になれない人や、相続税対策として、養子縁組の制度を利用することがあります。養子縁組によって、子として(親としても)相続人となることができるので対策とし...
相続税において、政策的な観点などから相続税を軽減する制度が用意されています。夫婦の財産は夫婦の共有財産であることや配偶者の生活を守るという観点から定められている...
相続財産のほとんどが不動産で現金が乏しく、相続人も現金・預金があまりないような場合には、現金の一括納付が原則の相続税の納付ができないことがあります。このような場...
本記事では、相続で司法書士に依頼できることとその費用について紹介しています。相続で司法書士に依頼するメリット、ほかの士業に相談したほうが良いケース、司法書士を選...
本来保険契約を履行するもので相続財産とはならない生命保険金ですが、契約形態によっては被相続人から相続人に財産を移したと評価できるものであるため、相続税法において...
相続をする際、相続税と同時に所得税が取られてしまうのではないかと心配な方も多いでしょう。本記事では、相続の際にかかる相続税や所得税について詳しく解説します。
相続税の申告をする場合に相続財産を調べて計算します。このときに借金をしている場合、どのように取り扱うのでしょうか。相続税において借金をどのように取り扱うのかにつ...
相続税対策にはさまざまな方法がありますが、大胆な方法の一つとして海外に移住して日本の相続税法の適用を避けるという方法はそのひとつです。もちろんこれを簡単に認める...
相続・相続税の各種制度において、10年という期間が区切りとなる制度がいくつかあります。本記事では相続・相続税における「10年ルール」について詳しく解説します。
相続問題では、もしも遺産相続で得た財産が年収に該当する場合、翌年の住民税や保険料が増額してしまうのではないかと心配されている方もいるはずです。本記事では、遺産相...