「被相続人が借金を抱えていて相続放棄したい」というようなケースでは、兄弟姉妹でまとめて相続放棄の手続きができます。
しかし、相続に関する知識がない方は、以下のような疑問があるかもしれません。
兄弟姉妹がまとめて相続放棄すると、必要書類が少なくて済むため、手間や労力が軽減されます。
しかし、借金の返済義務は次の順位の相続人に引き継がれるため、注意しましょう。
本記事では、兄弟姉妹がまとめて相続放棄するときの手順や注意点、期限に間に合わないときの対処法などについて解説します。
相続放棄するには家庭裁判所に申し立てなければなりません。
そのため、兄弟姉妹の全員が相続放棄のルールを理解しておく必要があります。
以下の基礎知識を理解しておくことで、期限までに全員合わせて相続放棄できるでしょう。
相続放棄では相続人全員の同意は必要なく、単独で手続きがおこなえます。
たとえば「被相続人の配偶者と子ども2人が相続人」という場合、それぞれが単独で相続放棄しても構いません。
また、子ども2人がまとめて相続放棄することもできます。
たとえ一部の相続人が相続放棄に反対している場合でも、家庭裁判所の手続きには影響がないのです。
相続放棄した人には代襲相続が発生しないため、子どもや孫が相続人に繰り上がることはありません。
代襲相続とは「被相続人より先に子どもが亡くなっていた」というような場合に、次世代の孫に相続権が移行する仕組みです。
孫もすでに亡くなっていても、ひ孫がいれば代襲相続が発生し、直系の血族へ相続権が引き継がれます。
ただし、相続放棄した人は「最初から相続人ではなかった」扱いになるため、子どもや孫などに移行する相続権がなくなります。
その結果、代襲相続の対象外となります。
単純承認が成立した場合、「財産を相続する意思があるもの」とみなされるため、相続放棄は認められません。
具体的には以下のような行為が単純承認となるので、兄弟姉妹で共通認識をもっておくとよいでしょう。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄すると決めたら、親族から招集されても遺産分割協議には参加しないように注意してください。
なお、相続財産を使い込んだ場合でも、それが被相続人の葬儀費用や入院費などの支払いであれば、単純承認は成立しません。
相続放棄するときは、相続開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申し立てをおこなう必要があります。
期限後の相続放棄は原則的に認められないため、兄弟姉妹でまとめて申し立てる場合、全員が3ヵ月以内に必要書類を準備しなくてはなりません。
相続開始後は葬儀や法要が続いたり、年金や保険関係の手続きなども発生したりするので、兄弟姉妹で協力しながら準備を進めてください。
一方、足並みの揃わない相続人がいるときは、個別の相続放棄へ切り替えなければならないので注意しましょう。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄するときは、以下のように手続きを進めてください。
特に相続財産の調査では時間がかかる可能性があるため、兄弟姉妹で手分けするとよいでしょう。
詳しくは以下で解説します。
まずは以下の方法で、預貯金・不動産・株式・借金などを調べます。
預貯金や借金についてはインターネットで手続きできるタイプもあるため、被相続人宛てのメールや郵便物は必ず調べておきましょう。
不動産の情報は固定資産税の課税明細書に記載されていますが、直近のものがないときは役場で固定資産評価証明書を取得してください。
また、借金があるかどうかわからないときは、以下の機関で照会できます。
相続放棄の期限に間に合うように、兄弟姉妹で手分けして相続財産を調査してください。
相続放棄する人が被相続人の子どもであれば、家庭裁判所へ申し立てるときに以下の書類が必要です。
相続放棄の申述書は個別に作成しなければならないので、各自で裁判所のホームページからダウンロードしておくとよいでしょう。
被相続人の戸籍謄本や戸籍の附票などは共通書類になるので、一通だけで構いません。
なお、郵便切手は「80円切手×5枚」が一人分になりますが、家庭裁判所ごとに必要額が異なるので事前に確認してください。
全員分の必要書類が揃ったら、「被相続人の死亡時の住所地」を管轄する家庭裁判所へ相続放棄を申し立てます。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄するときは、代表者が一人で手続きしても構いません。
相続放棄の必要書類は郵送で提出することもできますが、申し立ての期限が近いときは直接提出したほうがよいでしょう。
なお、家庭裁判所への申し立てが終わったあとは、すべて個別の対応になるので注意してください。
家庭裁判所へ相続放棄を申し立てたあとは、1週間~2週間後に各相続人へ以下の書類が送付されます。
相続放棄は自分の意思で選択するものですが、ほかの相続人から強制されていないか確認するために、上記の書類が送られてきます。
照会書の内容や目的を理解したら、正直に回答書へ記載したうえで、家庭裁判所に返送してください。
家庭裁判所が相続放棄を認めた場合、1週間~2週間程度で相続放棄申述受理通知書が各相続人宛てに送付され、これで相続放棄の手続きは完了となります。
なお、相続放棄申述受理通知書は再発行されず、紛失リスクに備えたいときや、債権者へ相続放棄したことを証明したいときは、相続放棄受理証明書の交付申請をしましょう。
相続放棄受理証明書を交付申請するときは、家庭裁判所に以下の書類を提出します。
申請者が未成年者や被後見人の場合、法定代理人の本人確認書類も必要です。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄すると、以下のようなメリットがあります。
被相続人の子どもが全員で相続放棄すると、兄弟姉妹間の相続トラブルを回避できます。
相続放棄しても借金はそのまま残っているので、たとえば一人だけが遺産相続から離脱すると、残りの兄弟姉妹が被相続人の借金を負担しなければなりません。
そのように相続人の一部だけが相続放棄した場合、兄弟姉妹の関係が悪化する可能性があります。
相続財産調査が終わって相続放棄を決断したときは、ほかの兄弟姉妹にも相続放棄する意思があるかどうか、確認しておくことをおすすめします。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄する場合、被相続人の戸籍謄本や除籍謄本などは一通だけでよいため、家庭裁判所への提出書類が少なく済みます。
個別に取得すると時間・労力・費用が人数分かかるので、まとめたほうが効率的です。
また、本籍地の役場で戸籍の附票などを取得するときは、距離的に近い相続人が対応することで素早く準備できます。
相続放棄を兄弟姉妹でまとめておこなうと、専門家に依頼したときのコストも抑えられます。
たとえば、相続放棄を弁護士に依頼した場合、一人につき以下のような費用がかかります。
弁護士が代理人として家庭裁判所へ申し立てる場合、1時間あたり1万円程度の日当も発生するので、一人につき3万円~4万円程度の加算もあるでしょう。
兄弟姉妹でまとめて依頼すればコストダウンになるほか、必要書類の収集時間も短縮でき、期限内に余裕をもって手続きを済ませることができます。
なお、相続放棄申述書の作成費用については、戸籍謄本などの取得費・通信費・交通費などの実費が含まれているケースが一般的です。
「被相続人の子ども同士」と「被相続人の兄弟姉妹」では、熟慮期間の起算点や相続権の移行などが異なります。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄するときは、以下の注意点をよく理解しておきましょう。
相続放棄を兄弟姉妹でまとめておこなう場合、以下の2パターンがあります。
被相続人の子どもは第1順位の法定相続人であり、親が多額の借金を残して亡くなったときは、すぐに相続放棄を検討しなければなりません。
一方、被相続人の兄弟姉妹は第3順位の法定相続人であり、「被相続人に子どもや父母がいないとき」または「子どもや父母が相続放棄したとき」だけ遺産相続に関わります。
相続放棄は相続権のある人しか手続きできないため、多額の借金があるとわかっていても、被相続人の兄弟姉妹は相続権が回ってくるまで相続放棄できないので注意しましょう。
相続放棄では3ヵ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要がありますが、この期間を熟慮期間といい、相続開始日が起算点になります。
相続開始日とは「自分が相続人になったことを知った日」なので、何らかの事情で被相続人の死亡を後日に知った場合はその日が熟慮期間の起算点になります。
また、「被相続人の子どもや親が相続放棄した結果、兄弟姉妹が相続人になった」という場合は、自分に相続権が発生したことを知ったタイミングから熟慮期間がスタートします。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄する場合、相続権の移行について注意しましょう。
兄弟姉妹のうち一人だけ相続放棄するときには相続権の移行はありません。
しかし、兄弟全員が相続放棄する場合には相続権が次の順位の相続人に移ることになります。
相続順位は以下のようになっており、相続放棄が誰に影響するのか理解しておかなければなりません。
被相続人の子ども全員が相続放棄した場合、被相続人の父母に相続権が移り、借金の返済義務も引き継がれてしまいます。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄するときは、次の順位の相続人に相続放棄する旨を伝えておきましょう。
相続放棄は兄弟姉妹でまとめて家庭裁判所へ申し立てできますが、相続放棄が認められるかどうかは個別に判断されます。
たとえば、相続放棄回答書に「被相続人の財産を使った」などの回答をした場合には、相続放棄が認められない恐れがあります。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄するときは、全員が照会書や回答書の目的などを理解しておかなければなりません。
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄する場合、ほかの相続人よりも必要書類が多いので注意してください。
相続順位が下位の場合、上位の相続人がいないことを証明する必要があり、被相続人の兄弟姉妹は以下の書類を準備する必要があります。
必要書類が多いと、収集に時間がかかって相続放棄の期限を過ぎる可能性があるので、自力での対応が難しそうであれば弁護士に依頼しましょう。
被相続人の兄弟姉妹にも代襲相続が発生するため、甥や姪が相続放棄するというパターンがあります。
たとえば、被相続人の子ども全員と親が相続放棄し、すでに亡くなっている兄弟姉妹がいる場合、甥や姪に借金が引き継がれてしまいます。
代襲相続した甥や姪が相続放棄する場合、戸籍謄本などの多くの書類を集めなければならず、自力では3ヵ月の熟慮期間のうちに間に合わない可能性があります。
親族全員で相続放棄した場合でも、財産の管理義務は残ります。
全員が相続放棄したからといって借金が消滅するわけではないので、現金や預貯金などがあれば弁済に充てなければなりません。
一部の財産については国のものになるケースもありますが、その場合は国庫へ帰属させるための手続きが発生し、相続財産管理人の選任が必要です。
相続財産管理人の選任では家庭裁判所への申し立てが必要であり、10万円~100万円程度の予納金を納めることになります。
また、財産処分が完了するまでの間は相続財産管理人への報酬も発生します。
兄弟全員で相続放棄するときには、一定の費用がかかるということを理解しておきましょう。
兄弟姉妹でまとめて相続放棄すると相続トラブルが発生しにくいので、被相続人が多額の借金を抱えている場合には兄弟姉妹に相続放棄を打診してみましょう。
兄弟姉妹で相続財産調査や必要書類の収集などを手分けすれば、効率的に相続放棄の準備を進められます。
ただし、それぞれ住んでいるところが離れている場合などは、一部の人にだけ手続きの負担がかかり、相続放棄の期限に間に合わない恐れがあります。
場合によっては個別の相続放棄に切り替えなければならないので、お互いの状況をよく確認しておく必要があるでしょう。
「兄弟姉妹でまとめて相続放棄したいが足並みが揃わない」など、困ったときは弁護士に相談してください。
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