などと、お悩みの方もいるのではないでしょうか。
被相続人が経営していた会社を相続したくなければ、ほかの遺産と同様に相続放棄ができます。
会社だからといって、特別な手続きは必要ありません。
ただし、会社の相続だけを放棄することはできず、ほかの遺産も相続できないなど大きなデメリットや注意点もあるため、本当に相続放棄をしてよいのか慎重に検討することが大切です。
本記事では、被相続人が経営していた会社の相続放棄を考える場合に知っておきたい基本知識について解説します。
結論からいうと、被相続人が会社を経営していた場合でも相続放棄はできます。
ただし、相続の対象となるのは事業そのものではなく、原則として被相続人が所有していた会社の株式に限られます。
ただし、ほかに以下のようなものがある場合は、併せて相続の対象に含まれます。
プラスの財産 |
・被相続人から会社への貸付金 ・被相続人が所有し、会社に貸している不動産 など |
---|---|
マイナスの財産 |
・被相続人が会社から借り入れたお金 ・会社が金融機関などから借り入れたお金を被相続人が連帯保証している場合の連帯保証債務 |
相続放棄をしたい場合は、基本的に次のような流れで進めるとよいでしょう。
まずは、相続放棄をするのが適当かどうかをよく検討しましょう。
一般的に以下のケースであれば、相続放棄が適当とされています。
プラスとマイナスではどちらの財産が多いのかを判断するには、相続財産をきちんと調査することです。
ただし、非上場会社であった場合は株式の市場価格がわかりません。
評価額を求めるのが難しいため、適切に判断するには専門家に相談するのがよいでしょう。
また、連帯保証債務にも注意が必要です。
相続人が把握することは難しいため、取引のあった金融機関に確認するなどして調べる必要があるでしょう。
ほかにも、相続財産の状況にかかわらず特定の方に遺産を相続させたい場合は、ほかの相続人が相続放棄を選択するとスムーズです。
相続放棄の手続きは単独で進められるため、ほかの相続人に関わりたくない場合にも選択するとよいでしょう。
相続放棄は書類によって審理されます。
審理にあたっては、家庭裁判所に以下の書類を提出する必要があります。
相続放棄の申述書の書式は、下記裁判所のホームページからダウンロード可能です。
また、「自身が相続人であることを証明するための戸籍謄本類」とは、具体的に以下のようなものです。
相続人 |
自身が相続人であることを証明するために必要な戸籍謄本類 |
---|---|
被相続人の孫やひ孫など、第1順位相続人の代襲相続人 |
本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本類 |
親や祖父母など第2順位相続人 |
・被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類 ・子どもの出生から死亡に至るまでの戸籍謄本類(被相続人に死亡した子どもがいる場合) ・被相続人の親の死亡がわかる戸籍謄本類(祖父母が相続人であり、死亡した父母がいる場合) |
兄弟姉妹など第3順位相続人 |
・被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類 ・子どもの出生から死亡に至るまでの戸籍謄本類(被相続人に死亡した子どもがいる場合) ・親や祖父母が死亡したことがわかる戸籍謄本類 ・本来の相続人である兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍謄本類(甥や姪が相続する場合) |
申述に必要な書類を準備できたら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出しましょう。
最後の住所地とは、被相続人の住民票の除票や戸籍附票の最後に記載されている住所です。
管轄の家庭裁判所は下記裁判所のホームページで確認できます。
申し立てが受け付けられると、10日程度で家庭裁判所から照会書が届きます。
この照会書は主に次のようなことを確認する目的で送付されています。
単純承認とは、プラスもマイナスも含め全ての遺産を相続することです。
相続放棄をおこなう旨を回答し、家庭裁判所へ返送しましょう。
これらが疑われるような内容を回答してしまうと、相続放棄が認められない可能性もあります。
どのように記載すればよいのかわからない場合は、適当に記入せず、専門家に相談しましょう。
照会書の回答内容に問題はないと裁判所が判断すれば、相続放棄が認められ、おおむね10日ほどで相続放棄申述受理通知書が届きます。
相続放棄をしたことを証明できる大切な書類であるため、大切に保管しておきましょう。
万が一紛失してしまった場合は、家庭裁判所に申請すれば「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらえます。
債権者や金融機関から提示を求められる場合もあるため、必要に応じて取得するとよいでしょう。
相続放棄をするかどうか検討する際には、そのメリットやデメリットを知っておきたいところです。
ここでは、それぞれについて解説します。
相続放棄をする主なメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
相続放棄をすれば、最初から相続人ではなかったのと同じ扱いになります。
これにより、遺産分割協議に参加する必要もなく、それゆえ相続トラブルに巻き込まれる心配もありません。
もちろん会社の面倒事に関わるのも避けられます。
さらに、全ての遺産についての相続権を放棄できるため、個人の負債も引き継がずに済みます。
相続放棄には、メリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
相続を放棄するのは、マイナスの財産だけではありません。
プラスの財産の相続権も放棄することとなります。
一度受理されれば撤回はできず、あとから莫大な財産が見つかったとしても、相続できないことにも気をつけたいところです。
さらに、相続人には下記のような相続順位があります。
相続順位 |
相続人 |
---|---|
第1順位 |
子どもや孫など直系卑属 |
第2順位 |
親や祖父母など直系尊属 |
第3順位 |
兄弟姉妹 |
ご自身だけでなく、同順位の相続人全員が相続放棄をすれば相続権は次の順位に移ります。
次順位の方も相続を望まないのであれば、相続放棄の申述手続きをせねばなりません。
ご自身の相続放棄によって、次順位の方に相続権が移る場合は、できる限りあらかじめ事情を知らせておくのが親切でしょう。
相続放棄をする場合は、次の3つのことに注意が必要です。
相続放棄の申述には期限があり、自分が相続人であることを知ったときから3ヵ月以内に手続きをしなければ、原則として受け付けてもらえません(熟慮期間)。
どうしても期限に間に合わない場合は、期間の伸長を申し立てれば延長してもらえる可能性があります。
そのためには、「相続財産の調査が難航した」など正当な理由が必要であり、「うっかり忘れていた」「忙しくてできなかった」といった理由では認められません。
期限を守るためにもできる限り早期に準備を始めましょう。
相続放棄をしたいなら、相続財産に手をつけてはいけません。
処分したり使ったりしてしまうと、プラスもマイナスも含めて全遺産の相続をする単純承認をしたとみなされ、相続放棄ができなくなってしまうからです。
単純承認をしたとみなされる具体的な行動の例として、以下のようなことが挙げられます。
ただし、葬儀代は被相続人の預金から支払ったとしても、その額が社会通念上相当な範囲内である場合には、単純承認に該当しません。
葬儀を執りおこなうことは、社会的に当然のことであり、そのための費用負担を誰がするのかは自由と考えられているためです。
したがって、相続財産から支払っても基本的に問題はありません。
ただし、その額が並外れて高額である場合は、単純承認とみなされる可能性があります。
許容範囲がわからず不安な場合は、相続財産からの支出は控え、立て替えておくのが無難でしょう。
領収証をとっておき、あとから専門家に扱いを相談することをおすすめします。
相続放棄の申述が受理されたあとでも、遺産を使ったり隠したりすれば単純承認をしたとみなされ、申述の受理は無効となるため注意しましょう。
被相続人が会社を経営していた場合の相続放棄について、よくある質問とその回答を紹介します。
相続する場合であれば、会社の株式の相続人が後継となる代表取締役を選任します。
しかし、相続人全員が相続放棄をしてしまえば、後継者を選任できる人がおらず会社は動かせません。
そのため、会社は休眠状態にならざるをえないでしょう。
廃業手続きもできないため、休眠状態のまま放っておき、12年経過したあとにみなし解散をするケースがほとんどです。
なお、みなし解散とは、登記上は存在するものの経営実態がないとして、法務局によって解散登記をされることをいいます。
このみなし解散は、登記簿に変更がないまま12年が経過した会社に対しておこなわれます。
被相続人が個人事業主だった場合は、事業用の財産も個人の財産と同様、全て相続の対象です。
相続放棄をするなら、特別な手続きは必要ありません。
通常どおり相続放棄の申述を申し立てましょう。
相続放棄は、特定の遺産のみおこなうことはできません。
そのため、どうしても取得したい財産があるなら相続するしかないでしょう。
不要な財産は相続後に何らかの形で手放すことになります。
会社を手放したい場合は、次のいずれかの方法を検討することになるでしょう。
財務状況がよかったり、事業内容に将来性があったりするなど、企業価値の高い会社であれば売却できる可能性があります。
成功すれば、相続人に多額の資金が入る可能性もあるでしょう。
M&A仲介業者に相談するなどして、買い手を探してみるとよいかもしれません。
また、会社をたたみたいと考えている場合は、相続人が廃業手続きをします。
解散登記のほか、清算手続きも必要であるなど、法律知識がなければ難しく感じられる手続きも多いでしょう。
従業員がいる場合は、解雇予告手当を支払い、解雇する必要もあります。
自分でおこなうのが難しい場合は専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。
相続放棄自体はそれほど難しい手続きではありません。
しかし、相続放棄をすれば、全ての遺産についての相続権を放棄せねばならず、会社の相続だけの放棄はできず、個人の遺産で相続したい財産がある場合などには向かないでしょう。
後悔しないためにも、相続放棄をするのがよいのか、しない場合は会社をどうするのか、よく検討したうえで結論を下すことをおすすめします。
特に不明点や悩みがある場合は、弁護士に相談しましょう。
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