親などの被相続人が借金を抱えたまま死亡した場合、相続放棄することで借金返済の義務がなくなります。
しかし、相続を放棄するとほかの相続人に借金に返済義務が生じる可能性があるため、相続放棄を検討している方は放棄後の借金を誰が払うのかも理解できるようにしておいたほうがよいでしょう。
本記事では、相続放棄をしたら、被相続人の借金は誰が支払うのか、相続放棄の際に気をつけたい注意点などについて詳しく解説していきます。
親が借金を抱えている方や、借金を抱えたまま死亡してしまった方はぜひ参考にしてください。
被相続人が借金を抱えていた場合、相続放棄をすることで借金の返済義務から免れます。
しかし、相続放棄したからといって、借金そのものが消滅するというわけではありません。
1人の相続人が相続放棄した場合、借金の返済義務はほかの相続人へ移ります。
相続放棄によって誰に借金の返済義務が残るのかについては、相続順位に大きく左右されます。
まずは、相続順位(相続の優先順位)を頭に入れておきましょう。
相続順位 |
法定相続人 |
---|---|
第1順位 |
被相続人の子供(直系卑属) |
第2順位 |
被相続人の父母・祖父母(直系尊属) |
第3順位 |
被相続人の兄弟姉妹 |
なお、被相続人に子供がいてもいなくても、配偶者は常に相続人となります。
もし、相続順位が第1位の法定相続人が不在、または全員が相続放棄をしたような場合、権利は次の順位の法定相続人へと権利移行します。
相続人の1人が相続放棄をすると、同じ順位のほかの相続人が借金を返済することになります。
たとえば、被相続人の子どもは相続順位において第1順位です。
被相続人の配偶者がすでに亡くなっており、子どもが2人いた場合、相続人は子ども2人だけです。
子どものうちの1人が相続放棄をしたら、相続放棄をしなかった子どもに返済義務が移ります。
一方、配偶者は相続順位には関係ないため、相続権がほかの相続人に移ることはありません。
たとえば、被相続人の配偶者が存命で、かつ子どもが2人いた場合、配偶者が相続放棄すると、子ども2人が相続人となります。
相続順位で上位の相続人が相続放棄をした場合には、下位の法定相続人に相続権が発生します。
たとえば、子ども全員が相続放棄をした場合、第1順位の相続人がいなくなるため、第2順位である父母や祖父母(直系尊属)へ相続権が移ります。
つまり、第2順位の父母や祖父母(直系尊属)が相続放棄をしなければ、借金の返済義務が発生するということになります。
もし、第2順位の父母・祖父母全員が相続放棄をした場合には、第3順位である兄弟姉妹に相続権が移り、兄弟姉妹が相続放棄をしない限り、借金の返済義務を負う必要があります。
相続人全員が相続放棄をした場合でも、連帯保証人の支払義務は残ります。
仮に相続人の誰かが連帯保証人になっていた場合、たとえ相続放棄をしたとしても、連帯保証人としての立場は消えないことから、借金の返済義務は残ってしまいます。
連帯保証人は、債務者とまったく同じ返済義務を負っており、債権者は連帯保証人に対していつでも返済を要求することができます。
相続放棄によって債務者の地位を放棄することはできますが、連帯保証人の義務はそのまま残ってしまいます。
そのため、相続放棄の際には被相続人の借金を保証してくれた連帯保証人に対して大きな迷惑をかけてしまう点には十分注意したうえで判断する必要があります。
もともと相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合は、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任の申し立てをおこない、家庭裁判所から相続財産管理人を選任してもらう必要があります。
相続財産清算人とは相続人が存在しない場合に、相続財産の管理や清算をおこない、最終的に残った財産を国庫に帰属させる人のことをいいます。
借金が残る場合、家庭裁判所の承認を得て被相続人の資産から借金の弁済をおこないます。
それでも借金が残る場合は、連帯保証人がいるのであれば、債権者から連帯保証人へ請求をおこないます。
一方、連帯保証人がいない場合は、債権者が債務の返済を受けられないという結論で終わることになります。
相続財産清算人を選定するためには、相続財産に関する利害関係者や検察官が家庭裁判所へ申し立てなければなりません。
一般的には申し立て先の家庭裁判所の地元の弁護士が選定されることが多く、弁護士への報酬として月額1万円〜5万円程度の支払いが必要になります。
また、予納金として10万円〜100万円程度が必要になります。
「相続放棄をしたから自分には関係ない」と思いがちですが、相続放棄をしても相続財産清算人選定の申し立てや費用の負担が発生する点には十分注意してください。
ここでは、相続放棄を検討している際の注意点について詳しく解説していきます。
「借金がある」というだけで慌てて相続放棄をするのではなく、まずは資産や負債の状況を詳細に調べましょう。
被相続人に借金があっても資産から弁済できるのであれば、相続したほうがメリットがあるケースも考えられるためです。
たとえば、被相続人に借金が1,000万円ある場合。
預金が1,500万円あれば、そこからから借金を返済しても500万円は残るため相続したほうがメリットがあるという判断になります。
また、借金額以上の不動産がある場合には、慎重に検討する必要があります。
不動産は立地や種類によってはすぐに現金化できる資産ではなく、管理コストもかかるため、場合によっては相続放棄をしてしまったほうがよいこともあります。
ほかにも、よく調べたら「別の借金もあった」というケースや、他人の借金の連帯保証人になっていたというケースもあるかもしれません。
このように、相続放棄したほうがメリットがあるかどうかについては、資産や借金や保証債務の状況などを詳細に調べなければ判断することは困難です。
もし調査に不安がある場合には、弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
相続放棄を検討している場合、自分が放棄することによって借金を引き継いでしまう可能性があるほかの相続人へも事前に連絡しましょう。
相続放棄をおこなえば、借金の返済義務は次順位の相続人へ移行するものの、債権者や裁判所からの通知が届くことはありません。
そのため、相続人の中には被相続人が借金を抱えていたことを知らずに相続放棄をせず、借金を相続してしまう可能性があります。
なんの知らせもないまま借金の返済負担を負わなければならないのは、誰にとっても不快かつ避けたいものです。
もしご自身が相続放棄を選択したのであれば、ほかの相続人へ必ず伝えるようにしましょう。
法定相続人の誰か1人が相続放棄をしても、借金のうちの1人分が減額になるわけではなく、借金の返済義務はほかの相続人へ引き継がれます。
被相続人が資産を上回る借金を抱えていた場合、相続人全員で話し合って、全員で足並みを揃えて相続放棄をしたほうがよいでしょう。
なお、相続放棄の具体的な手順については以下の記事を参考にしてください。
相続放棄を検討している場合、被相続人の死亡後に相続財産には一切手をつけないのが無難です。
被相続人の財産を使用すると単純承認が成立してしまい、相続放棄の手続きが認められない可能性があります。
単純承認とは、被相続人の財産を無条件で相続することです。
財産の処分は単純承認にあたり、借金の返済も単純承認に該当する可能性があるため、返済しないほうがよいでしょう。
特に被相続人の死亡後に、債権者から借金の返済を迫られた際、被相続人の預金から返済をおこなうと単純承認と見なされる可能性が高くなります。
返済を迫られた場合には相続放棄の手続き中である旨を伝え、請求を待ってもらいましょう。
相続放棄を検討しているのであれば、弁護士へ相談するのがおすすめです。
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
弁護士へ相談・依頼することで、相続放棄以外の方法についてもアドバイスをもらうことができます。
親に借金がある場合には、相続放棄のほかにも限定承認などの解決策もあります。
限定承認とは、借金などのマイナスの財産を清算したうえで、残った財産があればそれを引き継ぐ方法です。
たとえば、親が2,000万円の借金を抱え、評価額800万円自宅を所有している場合です。
限定承認を実施すれば、資産額と同額である800万円だけ借金を相続することで、自宅を相続できます。
このように、被相続人に借金があるものの手放したくない資産がある場合には有効な方法です。
ただし、手続きが複雑で費用もかかるため、限定承認に関しては弁護士への依頼がほぼ必須です。
また、親が生存中であれば、贈与を活用することで、資産を引き継ぎながら借金の相続が可能です。
このように、親の借金を相続しない方法はいくつもあり、どの方法が最適なのかはケースバイケースです。
弁護士へ相談・依頼することによって、多様な解決策の中からご自身のケースにおいてにベストな方法についてアドバイスを受けられるのはメリットといえるでしょう。
弁護士へ相談すると、相続財産の調査も任せられます。
死亡した被相続人がどこにいくら資産や借金を持っているのかを把握することは非常に困難です。
そして、正確に財産や借金を把握できない限り、相続放棄を実施するかの意思決定を正確におこなうことはできません。
詳細な相続財産の状況がわからない場合、弁護士へ依頼することで相続財産の調査から任せられる点は大きなメリットといえます。
なお、相続財産の調査は通常の相続放棄の手続きに加えて10万円〜30万円程度の費用がかかる点には注意しましょう。
弁護士へ依頼することで相続人同士のトラブルを回避できます。
相続の際、相続人間でトラブルになってしまうケースは非常に多くあります。
誰がいくらの財産を相続するのかの配分で揉めることがありますし、借金問題で相続放棄をする場合も、借金があると信じてもらえずに「自分が財産を独占したいから相続放棄を迫っている」などと疑われてしまう可能性も否定できません。
しかし、弁護士が間に入れば当事者同士で話すことはないため、トラブルに発展することを防げます。
親族間の関係を壊さないためにも、弁護士へ依頼したほうがメリットは大きいといえるでしょう。
相続を放棄したからといって、放棄をした事実が債権者に通知されて自動的に債務が免除されるわけではありません。
債権者に対して個別に「相続を放棄した」という証明書を提出し、債権者が相続放棄を確認してはじめて、請求が止むことになります。
そのため、被相続人が複数の借金を抱えていた場合は何度も同じ手続きを踏む必要があり、一般の方が全てを対応することは困難です。
弁護士へ依頼することでこれらの債権者への対応を全て任せられるため、相続放棄後の手間も負担もかからない点もメリットです。
被相続人に借金があるのであれば、相続放棄をすることで借金を返済する義務から免れます。
しかし相続放棄をすることによって、ほかの相続人や下位順位の相続人に借金の返済義務が生じるため、相続放棄の手続きは慎重におこなう必要があります。
さらに、相続放棄以外にも被相続人の借金に対処する方法はいくつかありますし、相続放棄を検討するためには被相続人の財産状況を正確に把握することが必須です。
相続放棄を円滑かつ安全に進めたいのであれば、弁護士へ相談するのがおすすめです。
弁護士であれば、被相続人の財産状況を正確に調査し、他の相続人との交渉も円滑におこなってくれます。
なお、相続放棄の期間は自己が相続人となって相続が開始したことを知った日から3ヵ月以内ですので、早めに相談することをおすすめします。
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