「相続放棄が無効になった判例はある?」
「どんなケースで相続放棄が無効になるの?」
相続放棄をおこなう際、手続きが無効になって負債を相続しなければならなくなってしまわないか不安な方も多いでしょう。
相続放棄は、相続人が被相続人の全財産の引き継ぎを拒否する意思を指します。
被相続人が多額の借金を抱えていた場合は、相続放棄を選択したほうが良いケースもあるでしょう。
しかし、相続放棄は正しく手続きをしないと無効になるケースもあるため注意が必要です。
本記事では、相続放棄が無効になるケースとならないケースについて解説します。
実際の判例も含めて詳しく解説しているので、相続放棄を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
相続放棄が無効になるケースは、主に4つ存在します。具体的には以下のとおりです。
ここでは、相続放棄が無効になるケースとその判例について詳しく解説します。
具体的な判例を知れば、相続放棄が無効となる理由についてより理解が深まるでしょう。
相続放棄に対する認識に何らかの誤りや勘違いがあったときは、相続放棄が無効となります。
たとえば、相続放棄の手続きをおこなったにもかかわらず、相続人が相続放棄の具体的な意味や影響を正しく理解できていなければ、手続きが無効となる可能性があるのです。
裁判所は、相続人が放棄の結果や影響を十分に認識しているかを確認し、認識が誤っていないかを確認します。
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相続放棄は、相続の開始があった事実を知ったときから3ヵ月以内の手続きが必要です。
「相続の開始があった事実を知ったとき」とは、以下2つを満たす状態のことを指します。
この3ヵ月の期間を、「熟慮期間」と呼びます。民法第921条では、この熟慮期間内に手続きをおこなわなければ、借金も含めた相続の承諾をしたとみなされてしまいます。
ただし、熟慮期間を過ぎても相続放棄が認められるケースも存在します。
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被相続人の相続財産を処分した際は、相続を承認したとみなされ、相続放棄が無効になります。
具体的には、以下のような相続財産の売却・贈与・損壊・破損などの行為が該当します。
相続放棄を受理されたとしても、相続財産を処分した事実が発覚すれば、相続放棄が無効になる可能性があるでしょう。
不在者財産理財人は不在者(相続人)に代わり、家庭裁判所の許可を得て財産を売却していた。
この不在者財産管財人の行為は民法第921条第1項の単純承認に該当するため、相続人自身が財産を売却していなかったとしても、相続人がおこなった相続放棄は無効となる。(名古屋高裁平成26年9月18日判決)
債権者は、相続人が相続放棄をおこなっても、それが適法でなかったと判断したときに裁判を提起できます。
裁判で相続放棄が無効と認定されると、相続人は被相続人の債務を負担しなければなりません。
特に、相続放棄の手続きに不備があった場合や、実際は相続財産を処分していた事実が判明した場合などは、無効とされる可能性が上がります。
裁判を起こされたときは、速やかに弁護士に相談し、適切な対応を取る行動が重要です。
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相続放棄が無効とされるケースが存在する一方で、無効にならないケースも多く存在します。
相続放棄が無効にならない具体的なケースは、以下のとおりです。
ここでは、相続放棄が無効とならず有効と認められる状況や、それに関連する判例について解説します。
相続財産を使っても、葬式費用や墓石購入費用であれば相続放棄が無効になりません。
なぜなら、相続財産を葬儀費用に充てるのが社会的見地から妥当と判断されるからです。
ただし、純金の仏像・仏壇のような祭祀財産に換金性があり、かつ高額すぎる際は、相続財産を葬儀費用に充てるのが無効になる可能性があります。
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未支給の年金や死亡一時金は、相続遺産ではなく、受取人の固有財産に該当します。
相続人が固定財産を受け取っても、相続放棄は無効にはなりません。
ただし、これらは営利目的の事業などで得られた所得ではなく、一時的に得られる一時所得として扱われます。
そのため、年間50万円の特別控除額を超えたときは、確定申告が必要となるため、注意が必要です。
生命保険金は受取人の固有財産となるため、相続遺産には該当しません。
このケースも同様に、生命保険金を受け取ったとしても、相続放棄は無効になりません。
ただし、受取金額が一定のラインを超えると課税対象になるため、注意が必要です。
通常、債権者には家庭裁判所から発行される相続放棄受理証明書を提示すれば請求されなくなります。
しかし、債権者がその相続放棄が無効だと主張して訴訟を提起してくるケースもあるでしょう。
債権者から訴訟を提起された場合は、法廷で主張立証を繰り返して相続放棄の効力を争う必要があります。
訴訟では、相続放棄が法律上の要件を満たしていることを証明する証拠が必要となります。
証拠を提出できなければ、裁判で不利な判決が下される可能性があるため、しっかりと準備しなくてはなりません。
訴訟の手続きに不安がある方や、状況が複雑で対処にお困りの方は、弁護士に相談すると良いでしょう。
相続問題に強い弁護士を味方につければ、訴訟手続きを代行してくれるため、安心して手続きを進められます。
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次に、相続放棄の無効に関する疑問と回答例を解説します。
「無効」と「取消し」は、法的にどのように対処すべきかや手続きの方法に大きな違いがあります。
「無効」は、法律的にその行為が最初から無効であるとされる状態を指します。
無効な行為は法的に存在しないものとして扱われるため、あとからその状態を覆すことは不可能です。
一方、「取消し」は既に受理されている相続放棄などの法的行為をあとから取り消すことを指します。
取消しには、手続きの方法や期限が定められており、手続きを踏めば取消しが可能です。
裁判所が公表している「令和5年 司法統計年報(家事編)」によると、相続放棄の却下率は0.14%(既遂事件総数28万1,681件、却下件数395件)となっています。
相続放棄が認められない割合は非常に低いですが、正当な理由なく熟慮期間を経過した場合や相続財産を処分してしまった場合などに該当すると、申述が認められない可能性があるため、注意が必要です。
孤独死した被相続人の住居を特殊清掃した場合でも、相続放棄には影響を及ぼさないとされています。
なぜなら、特殊清掃は、相続財産の処分ではなく、住居を現状維持するための「保存行為」とみなされるからです(民法921条1号但書に該当)。
相続放棄は、慎重な判断と適切な手続きが求められる手続きです。
相続放棄が無効になるケースとならないケースが存在するため、自己判断のみで進めるのはリスクが伴います。
相続に関する問題や不安がある場合は、専門知識を持つ弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、あなたの状況に合った最適なアドバイスを提供し、スムーズに手続きを進めるためにサポートしてくれるでしょう。
安心して相続放棄の手続きを進めるためにも、相続問題に精通した弁護士から力を借りてください。
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