被相続人の借金や相続人同士のトラブルなどで「相続放棄するかどうか迷っている」という方は多いのではないでしょうか。
「相続放棄した場合、あとから取消しはできるのか」などと考えている方もいるでしょうが、相続放棄は簡単には取消しできず、取消しが認められるケースは限られています。
また、相続放棄の取消しが可能なケースでも、期限内に手続きを進めなくてはなりません。
相続放棄の取消しを成功させたい場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
本記事では、相続放棄の取消しが認められるケースや、取消し手続きの流れ、相続放棄の取消しによるトラブルを避けるためのポイントなどについて解説します。
相続放棄を申し立てたあとに「やっぱり相続したい」などと思っても、相続放棄は基本的に取り消せません。
相続放棄の取消し・撤回が認められると相続関係が複雑化し、ほかの相続人達が想定外の損害を被る可能性があるからです。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
引用元:民法第919条
何らかの特別な事情があれば家庭裁判所が相続放棄の取消しを受理してくれることもありますが、これは非常にまれなケースです。
したがって、相続放棄するかどうかは慎重に判断する必要があります。
「相続放棄の取下げ」とは、相続放棄の申述が裁判所に受理される前に取下げることです。
相続放棄の申述が裁判所に受理されるまでには約1ヵ月かかり、その期間内であればいつでも取下げることができます。
(家事審判の申立ての取下げ)
第八十二条 家事審判の申立ては、特別の定めがある場合を除き、審判があるまで、その全部又は一部を取り下げることができる。
引用元:家事事件手続法第82条
相続放棄の申述を取り下げるには、取下書という書類を家庭裁判所に提出します。
申述が受理されたあとでは取下げができなくなるため、取下げを考えている場合は速やかに手続きを進める必要があります。
ここでは、相続放棄の取消しが例外的に認められるケースについて解説します。
2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
引用元:民法第919条
制限行為能力者とは、判断能力に問題があるために、自己の意思だけで契約や法律行為をおこなうことを制限されている人を指します。
たとえば、次のような人たちが制限行為能力者に該当します。
制限行為能力者が相続放棄するためには、それぞれの制限行為能力者が以下のような特定の対象から同意や許可を得なければなりません。
制限行為能力者 |
同意や許可を得る対象 |
未成年者 |
親権者または未成年者後見人の同意 |
成年被後見人 |
成年後見人の同意 |
被保佐人 |
保佐人の同意または家庭裁判所からの許可 |
被補助人 |
補助人の同意または家庭裁判所からの許可 |
相続放棄の申立ては、法律行為に当たります。
そのため、制限行為能力者が同意や許可を得ることなく単独で相続放棄をおこなう場合、例外的に相続放棄を取り消すことができるのです。
あとから相続財産について重大な錯誤・誤解があったことが判明した場合、相続放棄の取消しが認められる可能性があります。
たとえば「被相続人に多大な負債があって相続放棄を決めたものの、そのあとに負債をはるかに上回る資産が見つかった」というようなケースです。
ただし、重大な錯誤があったからといって必ずしも相続放棄の取消しが認められるわけではなく、以下のような点を考慮したうえで総合的に判断されます。
ただし、上記について証明するのは容易ではなく、過去の判例でも微細な判断が求められています。
相続放棄が取消されるとほかの相続人に損害が及ぶ可能性があることから、裁判所も慎重に判断するため、簡単には認めてもらえないと考えたほうがよいでしょう。
相続人のひとりが、財産を独占する目的でほかの相続人を騙したり脅したりして相続放棄させた場合、あとから取消しできる可能性があります。
たとえば「相続放棄をしないと家に火をつけるぞ」と恐怖を与えられたり、「被相続人に莫大な借金がある」と嘘をつかれたりした、というようなケースです。
このようなケースでは、相続人が自身の本意とは異なる選択によって相続放棄をしているため、あとから相続放棄の取消しが認められます。
ただし、実際に詐欺や強迫がおこなわれた事実については、証明しなければならないため、やり取りの履歴などについては、証拠として残しておきましょう。
相続放棄の取消し手続きをおこなう際は、家庭裁判所に申述する必要があります。
4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
引用元:民法第919条
ここでは、相続放棄の取消し手続きの流れを解説します。
相続放棄取消申述書に必要事項を記載したうえで、以下とあわせて家庭裁判所へ提出します。
必要書類を提出したあとは、家庭裁判所で相続放棄の取消しを認めるかどうかの審理がおこなわれます。
この審理では、相続放棄の取消し手続きをおこなった経緯や事情を確認するために家庭裁判所から呼び出しを受けたり、郵便で質問状が届いたりすることもあります。
なお、家庭裁判所から呼び出された場合、弁護士に同席してもらうこともできるため、きちんと事情を説明できるか不安な方は弁護士に依頼しましょう。
相続放棄の取消しが認められると「はじめから相続放棄はおこなわれなかった」という扱いになり、遺産を相続する権利が戻ります。
ただし、すでに進行している遺産分割や相続財産の処分などまで取消せるわけではありません。
遺産分割をやり直したり財産の引き渡しを受けたりするためには、ほかの相続人に協力してもらう必要があります。
もし協力が得られず遺産を受け取れなければ、遺産分割調停などで争うことになる場合もあります。
相続放棄の取消しを認めてもらうのは簡単ではなく、たとえ認められたとしても思うように相続が受けられないおそれがあります。
ここでは、誤った判断で相続放棄することなく、相続放棄の取消しトラブルを避けるために覚えておくべきポイントを解説します。
相続財産については、弁護士や司法書士などに依頼して詳しく調べてもらうことをおすすめします。
資産や借金などの状況を正確に把握しておくことで、相続放棄すべきかどうか適切に判断でき、トラブルを防げます。
注意点として、30万円〜100万円程度の依頼費用がかかります。
ただし、相続放棄には「被相続人が亡くなったことを知ってから3ヵ月以内」という期限があり、相続放棄するかどうか速やかに判断する必要があります。
判断を誤って後悔しないためにも、自力での対応が不安であれば弁護士などに依頼しましょう。
「相続財産調査が思ったように進まない」などの理由で、相続放棄の期限内に判断することが難しい場合、期間を伸ばしてもらうよう裁判所に申し立てることができます。
申し立てが認められた場合、1ヵ月~3ヵ月程度期間が延長されます。
相続問題が得意な弁護士に相談すれば、相続放棄すべきかどうかアドバイスしてくれます。
なお、司法書士や税理士などの士業と同様に、弁護士にも得意分野があります。
全ての弁護士が相続問題を得意としているわけではなく、相続問題の解決実績が少ない弁護士に相談すると的確なアドバイスが得られない可能性があります。
全国の弁護士を検索できるポータルサイト「ベンナビ相続」であれば、相続問題を得意とする弁護士を地域別などで一括検索できます。
無料相談や休日相談の可否などで弁護士検索できる機能もあり、相続問題について相談する弁護士を探す場合はベンナビ相続がおすすめです。
ここでは、相続放棄の取消し手続きをする際の注意点について解説します。
相続放棄の取消し手続きは、民法で定められた以下いずれかの期限内におこなわなければなりません。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
引用元:民法第919条
「追認が可能になった日」とは、取消しの理由となる事情が解消され、かつ取消しができることを知った日のことです。
たとえば、詐欺によって相続放棄させられた場合は、詐欺であることが判明して取消しができることを知った日となります。
相続放棄の取消しが受理されたあと、相続財産の引き渡しを受けるためには、遺産分割協議などの手続きをやり直す必要があります。
遺産分割協議をやり直したり財産を渡してもらったりするためには、ほかの相続人に協力してもらわなければならず、もし協力してもらえない場合は裁判などで争うことになります。
相続放棄の取消しが認められるケースはあるものの非常にまれであり、困難な手続きといわざるを得ません。
相続放棄を取消すべき理由があっても、それを証明する資料を提出しなければなりませんし、資料が用意できたとしても、相続放棄の意思決定に重大な影響を及ぼしたことなどを証明することは容易ではありません。
これらのハードルをクリアして相続放棄の取消しを受理してもらうためにも、相続問題を得意とする弁護士にサポートしてもらうことをおすすめします。
また、「相続放棄するべきかどうか迷っている」という方も、相続放棄の申立てをする前に弁護士へ相談することをおすすめします。
相続放棄の取消しは、原則として認められていません。
「重大な錯誤・誤解によって相続放棄してしまった」などの場合、例外的に相続放棄の取消しが認められることもありますが、その際は相続放棄を取消すべき事情があることなどを主張しなければいけません。
自身で手続きをおこなうのが不安であれば、相続問題が得意な弁護士にサポートしてもらいましょう。
「ベンナビ相続」では、相続問題が得意な弁護士を都道府県別・主要都市別で検索でき、無料相談や休日相談の可否などの条件を指定して検索することもできます。
相続放棄に関する不安があれば、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
相続放棄とは、亡くなった人の財産についての相続の権利を放棄することです。本記事では相続放棄の手続きの流れや注意点、どんなケースで相続放棄を検討すべきかを解説しま...
相続放棄では、被相続人との続柄によって必要な書類が異なります。提出期限などもあるすので、漏れなく迅速に対応しましょう。本記事では、相続放棄の必要書類や、注意すべ...
相続放棄の手続きは、手順を理解すれば自分でおこなうことが可能です。ただし、原則として3ヵ月の期限内に裁判所への申述をおこない、手続きを始める必要があります。本記...
親が作った借金の返済義務は子どもにはありません。ただし、相続が発生した場合は借金などのマイナスの財産も継承されるため、子どもにも返済義務が生じます。本記事では、...
相続放棄申述書とは、相続放棄をおこなう際に必要な書類です。書き方にはルールがあり、ほかの必要書類も収集したうえで、期限内に提出しなければいけません。本記事では、...
相続放棄の費用で悩んでいる方は必見です!本記事では、相続放棄の費用について「自力でおこなう場合」や「司法書士・弁護士に依頼する場合」などのケース別に解説します。...
再婚すると家族関係が複雑になり、相続時に深刻なトラブルに発展することも珍しくありません。実子や連れ子などがいる場合、権利関係が曖昧になることもあるでしょう。この...
限定承認とは、プラスの財産の範囲内で借金などを引き継ぐという手続きです。どうしても引き継ぎたい財産がある場合などは有効ですが、手続きの際は期限などに注意する必要...
生前のうちから、相続を見据えて相続放棄はできるのでしょうか?結論を言いますと、生前に相続放棄はできません。生前から相続放棄ができない理由と、その代替案として考え...
相続放棄申述受理証明書は、相続登記や債権者とのやり取りなどの際に必要な書類で、誰が交付申請するのかによって必要書類が異なります。本記事では、相続放棄申述受理証明...
親が経営していた会社の相続放棄はできるのか気になる方向けに、相続せずに済む方法や手続きの流れを解説します。特に相続放棄は撤回できないため、メリット・デメリットも...
相続放棄をすれば、全ての遺産についての相続権がなくなります。借金などを支払う必要もなくなりますが、被相続人が所有していた不動産にかかる固定資産税は負担せざるを得...
相続放棄についてお困りではありませんか?本記事では、相続放棄が無効になる判例について解説します。ケース別に詳しく解説しているので、相続放棄を検討している方や、相...
相続放棄については、市役所の法律相談会で無料相談可能です。しかし、申述は裁判所でおこなう必要があるなど注意点もあります。そのため、できる限り早い段階で相談にいく...
相続放棄は自分で行うことができます。しかし、書類に不備や記入漏れがあると相続放棄が認められなくなる可能性があるため、慎重に記入しなければなりません。 この記事...
相続放棄をおこなうと、被相続人の債権者からの督促が自動的になくなるわけではありません。 本記事では、相続放棄申述受理通知書と相続放棄申述受理証明書の違いについ...
親などの被相続人が借金を抱えたまま死亡した場合、相続放棄することで借金返済の義務がなくなります。 本記事では、相続放棄をしたら、被相続人の借金は誰が支払うのか...
相続放棄したからといって、必ずしもすぐに管理や保存義務がなくなるわけではありません。本記事では、相続放棄をした相続人にはどのような保存義務が課せられるのか、また...
入院していた方が亡くなると、その入院費は亡くなった方の親族に請求されることが一般的です。本記事では、相続放棄をおこなう際の入院費の取り扱いについて詳しく解説しま...
相続する財産に田舎の空き家や山林があると相続放棄を検討される方も多いです。2023年4月の民法改正で、相続放棄をした場合の管理義務と責任がより明確化されました。...