相続放棄(そうぞくほうき)とは、被相続人の財産について相続の権利を放棄することです。
たとえば、親の遺産に借金などが含まれる場合、相続放棄をすることで借金を引き継がなくてよくなります。
しかし、ほとんどの人は相続放棄を初めておこなうため、以下のような不安を抱えている方も多いでしょう。
- 相続放棄ってどうやるの?
- いつまでに相続放棄すればいいの?
- そもそも相続放棄しても大丈夫?
本記事では、相続放棄とはどんな手続きか、手続きの方法や必要書類、相続放棄をするときの注意点やすべきかどうかの基準などを解説します。
相続放棄を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
相続放棄でお悩みのあなたへ
相続放棄を考えていても、どうやって手続きすべきかや、そもそも相続放棄をしてもよいのかわからず、悩んでいませんか?
相続放棄はよく財産を調査してから判断しないと損をする可能性があるうえ、相続開始から3ヵ月以内におこなわないともあります。期限内に適切に相続放棄をするためにも、事前に弁護士に相談するのがおすすめです。
相続放棄について弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットを得ることができます。
- 相続放棄の期限内に適切に手続きしてもらえる
- 財産調査をして、本当に相続放棄すべきか判断してもらえる
- 相続放棄後の管理やトラブルについてもアドバイスがもらえる
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この記事に記載の情報は2024年05月22日時点のものです
相続放棄とは
まずは、相続放棄の特徴や、ほかの相続手続きとの違いなどについて解説します。
相続放棄の特徴
相続放棄とは、相続の際に被相続人の資産や負債などの財産全てに対する権利や義務を一切引き継がずに放棄することです。
通常の相続の場合は、資産・負債にかかわらず遺産は全て相続しますが、相続放棄をした場合はプラスの財産とマイナスの財産のいずれも相続人が相続することはありません。
たとえば、プラスの財産よりマイナスの財産が多いようなケースでは、借金を引き継がないために相続放棄をおこなうことが考えられます。
相続放棄は、裁判所に必要な書類を提出することで認められます。
手続きは自分でおこなうこともできますが、手続きには「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内」という期限があります。
また、相続に関する知識がない場合、書類の不備や提出漏れなどが発生して申述が認められない恐れがあります。
弁護士であれば、相続放棄に関する手続きを一任できるので、確実に手続きを済ませたい人は依頼しましょう。
相続放棄・限定承認・単純承認の違い
相続放棄は相続方法のひとつであり、ほかには単純承認や限定承認などがあります。
単純承認は相続放棄と正反対の手続きで、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全て相続するという方法です。
限定承認とは、相続財産に資産と負債が混在する場合、資産額に限定して負債を相続するという相続方法です。
相続放棄と限定承認の手続きの違いを比較すると、以下のとおりです。
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限定承認
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相続放棄
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申述期限
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3ヵ月以内
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3ヵ月以内
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申立方法
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相続人全員でおこなう
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単独で可
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申述期限については、限定承認・相続放棄ともに「自己のために相続の開始があったことを知ってから3ヵ月以内」です。
申立方法については、相続放棄は単独で可能であるのに対し、限定承認は相続人全員で共同しておこなわなければなりません。
ちなみに、弁護士であれば、限定承認の手続きを依頼することも可能です。
相続状況を考えた結果、相続放棄よりも限定承認のほうが向いているという人も、弁護士に対応を依頼することでスムーズに済ませることができます。
相続放棄をしたほうがよいケース
相続放棄は、どのような場合に選択するべきなのでしょうか?
相続放棄を検討すべきケースとしては、大きく分けて以下の2つが考えられます。
明らかに相続財産に負債が多い場合
被相続人について、プラスの財産とマイナスの財産を見比べた結果、マイナスの財産が多いという場合は、相続放棄をすることで相続により損害を被ることを回避できます。
たとえば、被相続人が莫大な借金を残して亡くなり、被相続人の財産だけでは返済しきれないケースでは、法定相続人がそのまま相続すると莫大な借金返済義務を負ってしまいます。
そのため、このようなケースでは、相続放棄について積極的に検討するべきでしょう。
なお、相続放棄をおこなうべきかどうかについて悩んでいる場合は、弁護士に相談することで法的視点からアドバイスしてもらうことができます。
初回相談無料の弁護士事務所もあるので、気軽に相談してみましょう。
そのほかの場合
相続放棄が検討されるケースとしては「借金の相続などによる損失を回避するため」というケースが多いですが、それ以外に以下のようなケースでも相続放棄がされることがあります。
- 相続問題に巻き込まれたくない場合
- 被相続人の財産を特定の相続人に全て承継させたい場合(事業承継など)
相続放棄をおこなった場合、その相続人は相続開始当初から法定相続人ではなかったことになるため、そのほかの相続人の相続割合が増えたり、相続権がなかった者が相続権を取得したりします。
なお、相続放棄をおこなった者に子どもがいたとしても、当該子どもが被相続人の財産を代襲相続することはありません。
相続放棄をしないほうがよいケース
相続放棄については、選択すべきかどうか慎重に判断したほうがよいケースもあります。
たとえば、被相続人について資産と負債のバランスが不透明なケースなどです。
この場合、相続放棄をしたあとに資産のほうが上回っていることがわかった際は相続人が損をしてしまうため、相続放棄よりも限定承認を検討したほうがよいでしょう。
限定承認が有効な場合
相続財産について資産と負債のバランスが不透明で、財産がプラスであるのかマイナスであるのかわからないという場合は限定承認が有効かもしれません。
たとえば、以下のような状況では明らかに相続分がマイナスになるので、迷わず相続放棄を選択すべきです。
- プラスの資産が100万円、マイナス資産が150万円以上あるとわかっている場合
しかし、以下のような場合には、相続放棄ではなく限定承認を選択することも積極的に検討するべきでしょう。
- プラスの資産が100万円、マイナス資産が50万円~150万円の範囲と、漠然としか判明していない場合
相続放棄を選択するべきケース
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相続財産のトータルがマイナスであることが明白な場合
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限定承認を選択するべきケース
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相続財産のトータルがプラスかマイナスか判然としない場合
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限定承認の条件
限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申述する必要がありますが、法定相続人が複数いる場合、相続人全員が共同でおこなわなければならないとされています。
つまり、相続人のうち1人でも反対する者がいれば、限定承認はおこなうことができません。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄をすべきケースについて理解したところで、具体的な手続き方法を押さえておきましょう。
主な相続放棄の手続きの流れは以下のとおりです。
- 財産調査をおこなう
- 相続放棄の必要書類を集める
- 相続放棄にかかる費用を用意する
- 相続放棄申述書を作成する
- 相続放棄の申述をおこなう
- 相続放棄の証明書を発行してもらう
①財産調査をおこなう
まずは、相続放棄をおこなうかどうかを判断するために、相続財産の調査をおこないましょう。
相続放棄は原則取り消しや撤回ができません。「あとになって多額の資産が見つかった」ということがないように、しっかりと調査をしておくのが安心です。
なお、被相続人の資産や負債が不透明な場合は、相続財産調査を弁護士や司法書士などに依頼するとよいでしょう。
②相続放棄の必要書類を集める
相続放棄をすることを決めたら、手続きに必要な書類を集めましょう。
相続放棄の申述時に必要な書類は、誰が申述するかによって異なります。
まず、申述人が誰であろうと必ず必要な書類は以下のとおりです。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
そのほか、申述人によって以下の書類が必要となります。
申述人が被相続人の配偶者の場合
申述人が被相続人の子どもまたは孫の場合
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- 被代襲者(配偶者または子ども)の死亡の記載のある戸籍謄本
申述人が被相続人の親または祖父母の場合
- 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 配偶者または子どもの出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の親(父母)の死亡の記載のある戸籍謄本
申述人が被相続人の兄弟姉妹または甥・姪の場合
- 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 配偶者または子どもの出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の親(父母)の死亡の記載のある戸籍謄本
- 兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍謄本(死亡している場合)
各ケースで必要になる書類について、詳しくは「相続放棄の必要書類」を確認しましょう。
③相続放棄にかかる費用を用意する
次に、相続放棄にかかる費用を用意しましょう。
相続放棄の申述をおこなうには、収入印紙代として800円が必要になります。
また、戸籍謄本を入手する場合には1通につき450円がかかります。
戸籍謄本は、自身の戸籍がある本籍地の役所でしか取得できず、居住地の市区町村役場では入手することはできないので注意しましょう。
戸籍謄本
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450円
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収入印紙
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800円程度
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切手
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裁判所によって異なる
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④相続放棄申述書を作成する
次に、相続放棄申述書を作成します。
相続放棄申述書のひな型は、裁判所のホームページから入手できます。
この際、申し立てをおこなう申述人が成人の場合と未成年者の場合では申述書に記載する内容が異なるので、注意しましょう。
記入すべき事項自体は多くはありませんが、「申述の理由欄」が重要となる場合もあります。
場合によっては、家庭裁判所から追加で事情説明書などの説明資料の提出を求められることもあります。
相続放棄申述書の書き方
相続放棄申述書は、記入箇所がそれほど多くなく、書き方も一般的な住所や氏名などを記載するだけなので、それほど難しくはありません。
以下の記載例を参考に、記入してみましょう。
引用元:記入例1 申述人が成人の場合|裁判所
主な記載内容は、申述者の情報と相続放棄をおこなう理由です。
まず、相続放棄申述書の太枠内に「相続放棄申述書を提出する家庭裁判所の名前」「申述書提出日付」「相続人の名前」を書いて、提出書類にチェックを付けます。
また「相続人の住所および本籍」「被相続人との関係」「法定代理人に関する情報」「被相続人に関する情報」を書いて、相続人の方が捺印します。
次に、相続放棄をおこなう理由を記入します。
理由によって家庭裁判所が相続放棄を受理しないということは基本的にありませんが、「債務超過で支払いが不可能」など、できるだけ具体的な事情を記載しましょう。
⑤相続放棄の申述をおこなう
相続放棄の申述書の準備ができたら、申述をおこないましょう。
相続放棄の申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
提出方法は以下の2種類があるので、利用しやすい方法で提出・送付しましょう
管轄する家庭裁判所は「こちら」から検索できます。
申述人が未成年者・成年被後見人の場合
相続人が未成年者または成年被後見人である場合には、その法定代理人が代理して申述することになります。
また、未成年者と法定代理人が共同相続人であり両者の利害が対立するような場合(たとえば、未成年者が相続を放棄すると、法定代理人の相続分が増えるようなケース)や未成年の共同相続人間で利害が対立するようなケース(一人の未成年者が相続放棄すると、ほかの未成年者の相続分が増えるようなケース)では、法定代理人が代理権を行使することができず、当該未成年者について特別代理人を選任する必要があります。
⑥相続放棄の証明書を発行してもらう
相続放棄の申述が裁判所に受理されると、数日〜2週間程度で、裁判所から「照会書」が送付されてきます。
相続放棄をする場合は、この照会書に書かれている事項に回答し署名押印したうえで、裁判所へ返送してください。
照会書を返送後、特に問題がなければ「相続放棄申述受理通知書」が郵送されます。
この通知書の受け取りをもって、相続放棄の手続きは完了です。
相続放棄申述受理証明書を持っておくと相続登記の際に便利
相続放棄の申述が受理されたあとに交付される「相続放棄申述受理証明書」は、相続放棄の申述が受理されたことを公的に証明する書面です。
たとえば、不動産の相続登記などで相続放棄に関する書類を提出する必要がある場合には、「相続放棄申述受理証明書」を添付して登記申請することになります。
相続放棄申述受理証明書の取得方法
家庭裁判所に置いてある申請用紙、または裁判所のホームページにある書式をダウンロードして必要事項を記入し、1件につき150円分の収入印紙、郵送の場合は返信用の切手を添えて申請してください。
相続放棄をしたことを債権者に証明するためには、当該証明書の写しを各債権者に送付またはFAXにて提出するとよいでしょう。
詳しくは「相続放棄申述受理証明書の申請手順」を確認してください。
引用元:相続放棄申述受理証明書の申請書 記入例|裁判所
弁護士であれば、相続放棄の手続きに関する必要書類の収集や裁判所への提出などを一任できます。
自分で対応できるかどうか不安な人は、弁護士に依頼することをおすすめします。
相続放棄をおこなう際に知っておくべき注意点
相続放棄をおこなう際にはいくつか注意点があるので、詳しく確認していきましょう。
①相続放棄の手続きには期限がある
相続人は「自己のために相続の開始があったことを知ってから3ヵ月以内」に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを決めなければいけません。
3ヵ月の期間内に相続放棄も限定承認もしなかった場合は、単純承認で相続をしたことになります。
なお、3ヵ月を過ぎたあとでも、家庭裁判所に申し立てて裁判所が期間伸長を認めれば、相続放棄は可能です。
具体的には、家庭裁判所に対して、熟慮期間内に相続財産の状況を調査しても相続放棄の要否について判断できないことを理由に相続放棄期間の伸長を申し立て、家庭裁判所がこれを認めれば熟慮期間が伸長されます。
この場合は、伸長された期間が経過するまで相続放棄をすることが可能です。
そのため、3ヵ月の熟慮期間が過ぎてしまったからといって、必ずしも諦める必要はありません。
熟慮期間の伸長には「相当の理由」が必要になりますが、相当の理由にあたるかどうかは事案に応じて判断されます。
ただし、「相続財産が債務超過状態であることを認識しながら、日常の仕事が忙しくて熟慮期間を過ぎてしまった」というようなケースでは、特段の事情がないかぎり、熟慮期間の伸長が認められる可能性は高くないといえます。
一方で、「被相続人と極めて疎遠であり、ほかの相続人の協力も得られず、相続財産がプラスかマイナスかを把握することがそもそも困難だった」というようなケースでは、熟慮期間の伸長が認められる可能性は相当程度あるといえます。
②相続開始前に相続放棄はできない
プラスの財産もマイナスの財産も相続権の一切を放棄するのが相続放棄ですが、相続放棄は相続開始後に家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることで成立するものです。
そして、家庭裁判所は相続開始前の相続放棄を受け付けていません。
そのため、相続人が相続開始前に相続を放棄するということはできません。
相続人間で「自分は相続しない」という意思表明をすることがありますが、これは単なる相続分の譲渡であり相続放棄ではないので注意しましょう。
③相続人全員が相続放棄をした場合の相続財産の扱い
相続放棄をすると相続放棄した人は「初めから相続人ではなかった」ということになり、法定の相続順位に従って相続人が変更されていきます。
しかし、全ての法定相続人が相続放棄して相続人が誰一人いなくなってしまった場合、被相続人が持っていた財産や借金はどうなるのでしょうか?
ここでは、相続人全員が相続放棄をした場合について解説します。
相続放棄後に財産が残る場合は国のものになる
相続人全員が相続放棄をおこない、最終的に被相続人の財産がプラスとなる場合、特別に相続財産を受け取ることができる特別縁故者がいないかぎり、財産は全て国のものになります。
一方で、最終的な被相続人の財産がマイナスとなるのであれば、マイナスの財産は債務者の消滅に伴って消滅します。
④相続財産清算人の選任について
相続放棄をした人は、相続人ではなくなるので、相続財産について権利・義務を負うことはありません。
ただし、民法940条1項では「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と定められています。
そのため、相続人が不在となる場合は、相続財産清算人が選任されるまで自己の財産と同一の注意義務を負担する必要があります。
とはいえ、「自己の財産と同一の注意義務」はそれほど重い義務ではなく、相続財産を保全・維持する積極的義務まで認めるべきかは疑問です。
また、実務的には相続財産清算人が選任されないケースも多く、当該管理義務が顕在化しないこともあります。
なお、相続放棄した相続人が必ずしも相続財産清算人を選任する義務を負うわけではありません。
相続人が誰もいない場合は相続財産清算人が相続財産を清算する
相続放棄により相続人がまったくいない状態になった場合、被相続人の財産は法人とみなされます。
この場合に、利害関係人の申し立てにより相続財産清算人が選任されれば、法人化された相続財産を管理・清算することになります。
なお、ここでいう利害関係人とは、被相続人の債権者や特別縁故者がこれに該当するとされています。
相続財産清算人は申立人が特定人を推薦することも可能ですが、家庭裁判所はそれに拘束されないので、別途適任者を選ぶことができます。
また、相続財産清算人の選任を請求する際は、「予納金」を裁判所に納める必要があるケースもあります。
予納金の金額はケースバイケースであり一概にはいえません。
事案に応じて家庭裁判所が決定しているのが実情です。
⑤相続放棄と代襲相続の関係
まず、「父・子ども・孫」というケースで子どもが父の相続を放棄した場合、子どもは父の相続をすることはできず、孫が子どもに代わって父の財産を代襲相続するということはありません。
一方で、子どもが先に死亡して孫が子どもの相続を放棄した場合、孫は子どもの相続人ではなくなります。
しかし、父との関係では直系卑属の地位を失ったわけではないうえ、孫の相続放棄はあくまで子どもの財産に対するものであり、父の財産に対するものではありません。
そのため、この場合、子どもの次に父が死亡した場合、孫は父の財産を代襲相続することができます。
相続放棄と代襲相続の違い
相続放棄は、もともと相続権を有していた相続人が権利を放棄して、はじめから相続権を有していなかったものとして扱う制度です。
当初から相続人が一人いなくなったことになるので、ほかの相続人の相続分が変動したり、相続人でなかった者が相続人となったりします。
代襲相続は、被相続人の死亡時に、本来相続人となるはずであった者がすでに死亡している場合に、相続人となるはずであった者の子どもが、被相続人の財産を当該者の代わりに相続する制度です。
このように、両者は適用場面がまったく異なる制度であり、特に関連性のある制度ではありません。
それでも、相続放棄と代襲相続がセットで説明されることが多々あります。
それは、相続放棄の効果である「相続人でなくなる」ということと、代襲相続の要件である「相続人の死亡」という事象が似通っているせいであると思われます。
しかし、相続放棄の効果と「相続人の死亡」という代襲相続要件はまったく別物ですので、両者を混同する必要はありません。
⑥生命保険の相続での取り扱い
相続の場面では、被相続人が生命保険契約を締結しており、その受取人として特定の相続人が指定されているという場合があります。
この場合、原則として生命保険金は受取人指定がされた者の固有財産と評価され、相続財産には含まれないと考えられています。
そのため、生命保険金は、受取人指定されている相続人が被相続人の相続を放棄したとしても、自身の権利として支払いを受けることができます。
一方で、被相続人が生命保険の受取人を自分に指定している場合、保険金支払請求権は被相続人の財産ということになるので、相続の対象となります。
そのため、相続放棄をした相続人は、当該保険金に対する相続分を失うことになります。
⑦積立保険の解約返戻金を受け取った場合は相続放棄できない可能性がある
生命保険金・死亡保険金は、被相続人が死亡したことを条件として、指定受取人が保険金を受け取ることができる契約です。
一方で、被相続人による積立式の生命保険については、死亡に伴い保険契約が解約され、一定の解約返戻金が支払われるというケースもあります。
解約返戻金は、あくまで契約当事者である被相続人に対して支払われるものであるため、被相続人の相続財産となります。
このような被相続人の財産となる解約返戻金などの保険積立金を相続人が使ってしまったり、処分したりすれば、それは「法定単純承認事由」となり、相続人は以後、相続放棄や限定承認ができなくなるのが原則です。
被相続人の契約保険が積立保険である場合には、これを使ってよいものかどうかについて、慎重な判断が必要でしょう。
相続放棄が認められないケース
裁判所により相続放棄の申述が却下されるケースはほとんどありませんが、相続人の行為によって相続放棄が認められず、単純承認をしたものとみなされることがあるので、注意が必要です。
単純承認したものとしてみなされる主なケースは、以下のとおりです。
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相続人が相続財産の全部、または一部を処分した場合
-
相続人が相続財産の全部または一部を隠匿、消費した場合
上記のようなケースでは、相続人は相続財産を単純承認したものとみなす旨の法令上の定めがあるため、相続放棄は認められません(民法第921条1項、3項)。
なお、家庭裁判所から、法定単純承認事由があるとして相続放棄の申述が却下されたような場合には、東京高等裁判所に対して2週間以内に「即時抗告」をおこなうことができます。
相続放棄の申述が却下された場合、不服申立ての期間制限があるので、速やかに弁護士に相談するのがよいでしょう。
ほかの相続人が相続放棄しているか確認する方法
遺産分割協議をおこなうにあたり、一部の相続人が相続放棄をした場合、相続人に変動が生じてしまい、相続人の確定ができずに遺産分割手続きが進められないというケースがあります。
また、被相続人の債権者からすれば、誰が被相続人の負債を相続したのかがわからないということもあるでしょう。
そのような場合に、関連する被相続人について、相続放棄や限定承認の有無を家庭裁判所に照会することができる制度があります。
照会の申請が可能な人
相続放棄の照会は誰でもできるわけではなく、照会の申請ができる人は以下の2パターンに限られます。
- 被相続人の相続人
-
被相続人の利害関係人:被相続人の債権者などの利害関係を有する者
照会に必要な添付書類
相続放棄の申述の有無を確認する際には、「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会書」のほか、以下の書類が必要となります。
相続人が申請する場合
- 被相続人の住民票の除票
- 照会者と被相続人の発行から3ヵ月以内の戸籍謄本
- 照会者の住民票(本籍地が表示されているもの)
- 委任状(代理人に委任する場合)
- 返信用封筒と返信用切手
- 相続関係図
上記の書類などの提出が必要になります。
なお、相続関係図は手書きのもので問題ありません。
利害関係人が照会する場合(債権者など)
- 被相続人の住民票の除票(本籍地が表示されているもの)
- 照会者の資格を証明する書類
[個人の場合] 照会者(個人)の住民票
[法人の場合] 商業登記簿謄本または資格証明書
- 利害関係の存在を証明する書面(コピー)|金銭消費貸借契約書・訴状・競売申立書・競売開始決定・債務名義などの各写し・担保権が記載された不動産登記簿謄本・その他債権の存在を証する書面など
- 委任状(代理人に委任する場合のみ)
- 返信用封筒と返信用切手
- 相続関係図
債権者などの利害関係人が照会する場合は、上記の書類などの提出が必要になります。
照会手数料
照会の手数料は無料です。
照会の申請にあたっては、「照会申請書」および「被相続人等目録」を提出する必要があります。
照会する管轄裁判所
相続放棄の申述があったどうかの照会は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対しておこないます。
管轄する家庭裁判所は「こちら」から検索できます。
照会にかかる調査期間
被相続人の死亡日が「申請日まで回答する始期」以降の場合は、現在までの申述の有無を調査します。
また、被相続人の死亡日が「申請日まで回答する始期」以前の場合は、第1順位者については被相続人の死亡した日から、後順位者については先順位者の放棄の受理がされた日からそれぞれ3ヵ月間が調査対象期間となります。
さいごに
もし自分で相続放棄の手続きをおこなうのが難しいと思ったら、弁護士に依頼しましょう。
弁護士であれば相続放棄に必要な対応を一任でき、安心して手続きを済ませることができます。
相続放棄でお悩みのあなたへ
相続放棄を考えていても、どうやって手続きすべきかや、そもそも相続放棄をしてもよいのかわからず、悩んでいませんか?
相続放棄はよく財産を調査してから判断しないと損をする可能性があるうえ、相続開始から3ヵ月以内におこなわないともあります。期限内に適切に相続放棄をするためにも、事前に弁護士に相談するのがおすすめです。
相続放棄について弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットを得ることができます。
- 相続放棄の期限内に適切に手続きしてもらえる
- 財産調査をして、本当に相続放棄すべきか判断してもらえる
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