さまざまな事情で兄弟姉妹と絶縁状態になってしまっている方もいるでしょう。
そんな中、親が亡くなって遺産相続の手続きをしなければならないとなると、絶縁している兄弟姉妹に連絡を取らなければならない場面が出てきます。
しかし、「仲が悪く絶縁しているのですからできれば連絡を取りたくない、なんなら絶縁している兄弟姉妹に遺産を分け与えたくない」という気持ちまでもっている方もいるのではないでしょうか。
遺産相続の手続きを進めないまま、遺産分割協議が成立していない状態で亡くなった親の遺産を処分することはできません。
兄弟姉妹と絶縁していたとしても、何らかの方法で遺産相続の手続きは進めなければなりません。
本記事では、絶縁状態の兄弟姉妹がいる場合の遺産相続手続きについて、詳しく解説します。
本記事を読めば、絶縁した兄弟姉妹がいる場合の遺産相続の手続きについてどのように進めていけばよいのかを知ることができます。
親が亡くなったときに絶縁状態の兄弟姉妹がいる方の中には、「遺産相続手続きのためといえども絶縁した兄弟姉妹と連絡を取りたくないし話もしたくない」と思う方も多いのではないでしょうか。
中には、「適切に遺産を分けておきさえすれば、絶縁している兄弟姉妹との間では特に話し合いをしなくてもいいのではないか」と期待される方もいるかもしれません。
しかし、亡くなった親の遺産を正しく分けるためには「遺産分割協議」をおこなわなければなりません。
加えて、たとえ相続の時点で絶縁しているからといって、遺産分割の話し合いからその兄弟姉妹を勝手に除いて手続きを進めることはできません。
遺産分割をした場合には、どのように遺産を分けたのかということや遺産の分け方に相続人全員が同意したことを「遺産分割協議書」という書類を作成して残します。
この遺産分割協議書には、基本的には相続人全員が内容に同意したうえで実印を押すことが必要です。
そのため、遺産分割の内容について話し合って同意を得たり実印を押してもらったりするためには、絶縁した兄弟姉妹との間で連絡を取ったり話し合いをしたりすることは避けられません。
もし絶縁した兄弟姉妹と連絡を取らずに親の遺産を勝手に処分してしまうと、兄弟姉妹が親の遺産に対して持っていた権利を勝手に侵害したことにもなりかねません。
もちろん、他人の権利を勝手に侵害することは許されていません。
そのようなことをすると、後々大きなトラブルに発展していくことも十分に考えられます。
絶縁状態だと連絡を取りたくないというのは、自然な感情ですが、だからといって連絡を取らないまま勝手に亡くなった親の遺産を処分してしまうことは許されていないため注意しましょう。
絶縁状態にある兄弟姉妹の居所や連絡先を知っている場合、基本的には直接連絡を取る必要があります。
しかし、すでに絶縁している以上は遺産相続手続きのためとはいえ、直接連絡を取りたくないという方も多いでしょう。
この場合には、次の3つの対処法があります。
メールや電話などで連絡を取ることができるのであれば、直接連絡することもひとつの方法です。
遺産分割協議をするためには、直接対面で会って協議をしなければならないという決まりはありません。
メールや電話、手紙などでやり取りをして遺産をどのように分けるのか協議を進め、合意ができるのであればそれでもかまいません。
直接対面しないでメールや手紙などで話し合いを進めるのも、取り得るひとつの手段だといえるでしょう。
もっとも、メールや手紙などの文字だけでは、お互いの意思を十分に伝えることが難しいということもあります。
あとから「そんなつもりではなかった」などと遺産をめぐるトラブルに発展しては、せっかく協議をした意味がありません。
メールなどでやり取りをする場合には、慎重に文面を考えて丁寧に何度もやり取りを重ねて、お互いの意思を確認するようにしましょう。
お互いの意思疎通に誤りがないことを確認し、しっかりと考えを伝え合うことができていることを確かめて、遺産分割協議を進めることが大切です。
もしほかに絶縁していない兄弟姉妹があり、絶縁した兄弟姉妹との間に入ってやり取りを仲介してくれるというのであれば、絶縁していない兄弟姉妹に間に立ってもらうのもよいでしょう。
絶縁した兄弟姉妹とは仲が悪いはずですが、絶縁していない兄弟姉妹に間に立ってもらえば直接のやり取りをしないでも遺産分割協議を進められる可能性があります。
もっとも、この方法では他者を間に入れてやり取りすることになるので、お互いの考えが正確に伝わらないというリスクがあります。
また、絶縁していない兄弟姉妹がいない場合にはこの方法が取れないのも欠点といえます。
遺産相続の手続きは、弁護士に代理してもらうこともできます。
弁護士に遺産相続の手続きを任せれば、遺産分割協議の場でもほかの相続人との間に立ってくれますし、あなたの代理人としてやり取りをしてくれます。
そのため、あなたがほかの相続人との間で直接のやり取りをしなければならないことは基本的にはありません。
弁護士に間に入ってもらうことで、絶縁した兄弟姉妹とのやり取りをして遺産分割協議を成立させることに伴うストレスを大幅に軽減することができます。
絶縁状態にある兄弟姉妹であれば、いま現在の居所や連絡先などの所在について、把握していないということも多いでしょう。
所在を把握していない兄弟姉妹との間であっても、遺産相続の手続きを進めなければいつまでも遺産を分けることができません。
分け終えていない遺産は、基本的には勝手に処分することもできません。
そのため、何らかの方法で絶縁した兄弟姉妹の所在を突き止めるか、またはその代わりの手段をとらなければなりません。
ここでは、絶縁状態にある兄弟姉妹の所在が分からない場合の対処法3つについて説明します。
戸籍の附票とは、その戸籍に載っている人の住所などの履歴を記録した書類です。
戸籍の附票を見れば、過去から現在までの住所がわかります。
戸籍の附票は、本籍地が置かれている市区町村の役所において取得します。
もっとも、戸籍の附票は誰のものでも自由に取れるわけではありません。
プライバシー保護のため、他人が自由に取ることは許されていません。
兄弟姉妹といえども他人であることに変わりはないので、遺産相続の手続きのためとしてもあなたが兄弟姉妹の戸籍の附票を取れるとは限りません。
このような場合には、弁護士に依頼することで戸籍の附票を取得してもらえる可能性があります。
弁護士などの一部の専門家は、職務上必要がある場合には他人の戸籍や住民票などを取得することができます(職務上請求)。
弁護士に遺産相続手続きを依頼した場合にその手続きの一環としてであれば、弁護士に戸籍の附票を取得してもらえる可能性があります。
絶縁した兄弟姉妹の所在を調べてもどうしても分からないというケースもあります。
そのような場合には、「不在者財産管理人」を選任して代わりに手続きを進めてもらうという方法があります。
不在者財産管理人は、行方がわからなくなった人の財産を管理する役割の人です。
不在者財産管理人は、申し立てにより裁判所が選任します。
不在者財産管理人を選任してもらったあとは、その不在者財産管理人が行方のわからない兄弟姉妹の代わりに遺産分割協議の話し合いに参加します。
そして、行方のわからない兄弟姉妹の代わりに遺産分割協議に同意して、遺産相続の手続きを進めます。
相続が発生する前から長きにわたって誰にも消息がわからない状態が続いていれば、絶縁した兄弟姉妹について「失踪宣告」を申し立てることもできます。
失踪宣告とは、長期間消息がわからず、生きているか死んでいるかもわからない人について、裁判所に申し立てることによって、法的には死亡したとみなすことができる制度です。
失踪宣告がなされると法的には死亡したこととなるので、その後に親が亡くなって親の相続が発生したとしても、絶縁して失踪宣告が言い渡されている兄弟姉妹が遺産相続の手続きに参加することはありません。
絶縁状態の兄弟姉妹との間でうまくやり取りができれば一番望ましいことかもしれません。
しかし、絶縁した兄弟姉妹とはもう遺産相続の手続きのためといえども、関わりたくないという方もいるでしょう。
そのような場合には、いくつかの対処法があります。
ひとつ目の対処法が、あなた自身が「相続放棄」をするという方法です。
「相続放棄」とは、その名のとおり相続を放棄して相続人としての立場から離れることをいいます。
相続放棄をすれば初めから相続人ではなかったものとみなされるので、その後は遺産相続の手続きに加わる必要がなくなります。
相続放棄をするということは相続人ではなくなるということなので、相続放棄をした方は一切の財産を受け継ぎません。
このため、プラスの財産がたくさんある場合であっても、そのプラスの財産を受け継ぐことができなくなります。
このプラスの財産を受け継げないというデメリットと、遺産相続の手続きから解放されるというメリットとをよく比較して、相続放棄をするかどうか決めるようにしましょう。
相続放棄は、自己のために相続があったことを知ったときから3ヵ月以内であればすることができます。
ここでいう、「自己のために相続があったことを知ったとき」とは、被相続人が亡くなったことを知ったとき、または自分自身が相続人となることを知ったときのことです。
これらのときからそれぞれ3ヵ月以内であれば、相続放棄ができます。
相続放棄は、家庭裁判所で手続きをすることによっておこないます。
相続放棄は、このように3ヵ月以内という厳しい時間制限があります。
また家庭裁判所で手続きをしなければならず、提出する書類集めもそれなりに負担のかかるものです。
ご自身だけで相続放棄ができないという場合や、そもそも自分のケースで相続放棄をするほうがよいのかわからないという場合には、遺産相続に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士に相談すれば、相続放棄をするべきかアドバイスをしてくれます。
また、相続放棄の手続きを代わりにおこなってくれます。
弁護士に代理人として対応してもらうという方法もあります。
弁護士であれば、あなたの代理人として遺産相続の手続きを代行してくれます。
この場合には、あなたがほかの相続人と直接やり取りする必要は基本的にはありません。
代理人となった弁護士に、ほぼ全ての手続きを任せてしまうことが可能です。
弁護士に代理人として対応してもらえば、あなたが絶縁した兄弟姉妹と直接やり取りする必要がなくなります。
また、弁護士という冷静な第三者が間に立ってくれるので、絶縁した兄弟姉妹との間の遺産分割協議でも感情的になりにくく、スムーズに協議が進む可能性が高まります。
さらに、弁護士に代理人となってもらっていれば、遺産分割をめぐって調停や審判など裁判手続きに進むこととなったとしても、難しい裁判手続きへの対応を弁護士に任せることができます。
絶縁状態にある兄弟姉妹に遺産を相続させたくないというケースもあるでしょう。
もちろん、絶縁しているからといって、それだけの理由でその兄弟姉妹に遺産を相続させないことは基本的にはできません。
しかし、絶縁する原因などに一定のものがあれば、そのことを理由として絶縁している兄弟姉妹に遺産を相続させないことができる可能性があります。
絶縁状態にある兄弟姉妹に遺産を相続させないための方法について紹介します。
ひとつ目の方法が、親に生前に遺言書を作成してもらっておくということです。
有効に作成された遺言書があれば、その内容は基本的には遺産分割協議に優先します。
そのため、遺言書があれば遺産分割協議をする必要がなく、絶縁した兄弟姉妹と遺産を分けるためのやり取りをしなくても済みます。
親が兄弟姉妹の絶縁の状況を考慮して適切な内容の遺言書を作成してくれるようであれば、この方法が適しているといえます。
もちろん、親に対して無理やり親の意思に反するような内容の遺言書を作成させるのは、遺言書の有効性などさまざまなトラブルの元になるので、やってはいけません。
あくまでも親が自分の意思で遺言書を書いてくれる場合に限ります。
なお、絶縁した兄弟姉妹に全く遺産を渡さないというような内容の遺言であれば、「遺留分」という最低限度の取り分を侵害しているものとして、遺留分侵害額請求をされるおそれがあります。
こうなるとトラブルが大きくなるので、遺留分は侵害しないように遺言書を作成することが大切です。
どのような遺言書であれば適切であるか、遺言書を作成する際には遺産相続に詳しい弁護士に確認してもらうのもよいでしょう。
一定の理由がある場合には、被相続人となる親が生前に相続廃除を裁判所に申し立てて、推定相続人(将来相続人となる予定の者)を廃除する(相続人から除外して相続の権利を失わせる)ことができます。
相続廃除ができるための一定の理由とは、次のようなものです。
相続廃除は、そう簡単には認められるものではありません。
しかし、絶縁するほどの何かがあったのであれば、相続廃除が認められる可能性もあります。
相続廃除が認められるかどうかは、具体的な事情によりますので、親が絶縁した兄弟姉妹を勘当している、絶縁した兄弟姉妹が親に対して過去にとてもひどいことをしたなどの事情がある場合には、相続廃除が認められるかを弁護士に相談して確認してもらうとよいでしょう。
絶縁した兄弟姉妹に「相続欠格」の事由があれば、そもそも相続する権利がありません。
「相続欠格」とは、相続の秩序を乱すような行為をした者について、申し立てによらずに当然に相続人から除外する制度です。
相続欠格の事由には、次のものがあります。
これらは、いずれも相続秩序を大きく乱す行為です。
これらの事情があれば、相続人となる資格が当然にありません。
絶縁した兄弟姉妹に相続放棄をしてもらうと、その兄弟姉妹は遺産を受け継ぐことがありません。
相続放棄には、被相続人の生前にすることができないという注意点があります。
また、相続放棄は自由な意思でおこなうものなので、絶縁した兄弟姉妹に無理矢理相続放棄をするように迫るということはできません。
あくまでも自分の自由な意思でする場合に限られるということに注意しましょう。
被相続人となる親が生きている間には、相続人は相続放棄をすることができません。
絶縁した兄弟姉妹が自由な意思に基づいて相続放棄をしてくれるという場合でも、被相続人である親が亡くなってからしてもらう必要があります。
また、相続放棄は親が亡くなってから3ヵ月以内にしなければならないので、結局、親が亡くなってからすぐに何らかの方法で絶縁した兄弟姉妹に連絡を取って、相続放棄をしてもらうように相談するということになります。
絶縁した兄弟姉妹がいる場合の遺産相続手続きは、そうでない場合と比べても特に注意して進める必要があります。
ここでは、相続人の中に絶縁した兄弟姉妹がいる場合の遺産分割での注意点について説明します。
絶縁したというくらいですから、相当な感情のしこりがあり、関わるとなると冷静ではいられないかもしれません。
しかし、もめていては遺産相続手続きを進めることができません。
遺産相続手続きが進められず遺産を分割できないままとなると、いつまでも遺産を自由に処分することができずに相続人の全員が困ってしまいます。
絶縁していない仲の良い兄弟姉妹であっても、遺産相続手続きの際にはどのように分けるのかでもめてしまうということはよくあります。
絶縁した兄弟姉妹との間での遺産相続手続きとなると、なおさらでしょう。
絶縁した兄弟姉妹と遺産相続手続きのために関わる場合には、できるだけ冷静になり、感情的になってトラブルとなってしまうことのないように努めましょう。
遺産相続手続きという事務的な作業をこなすためだけに連絡を取るのだと思えば、冷静でいられるかもしれません。
また、どうしても冷静でいられないという場合には弁護士に代理人になってもらい、間に立ってもらうということも検討してよいでしょう。
遺産相続手続きが完了するまでは、まだ分け終えていない遺産に手をつけてはいけません。
まだ分け終えていない遺産は、相続人間で共有の状態になるとされています。
あなた一人の判断で自由に処分することは基本的にはできません。
絶縁した兄弟姉妹と連絡を取りたくないから連絡を取らずに遺産を処分してしまおうと考える方もいるかもしれません。
しかし、そのようなことをすると遺産をめぐるトラブルの元になるので、遺産分割未了の遺産に勝手に手をつけてしまうことのないようにしましょう。
残念なことに、それまでは仲が良かったのに遺産相続をきっかけにもめてしまって遺産相続の手続き中に兄弟姉妹と絶縁状態になってしまうこともあります。
遺産相続手続き中に兄弟姉妹と絶縁状態になってしまった場合の対処法を紹介します。
ひとつ目の方法は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることです。
「遺産分割調停」とは、遺産分割について裁判所に仲介してもらいながら話し合いを進めて、円満な解決を目指す裁判所での手続きです。
遺産分割調停では話し合いで手続きが進みますが、実際にはあなたが直接ほかの相続人と対面して話をするわけではありません。
調停の場では、調停委員がそれぞれの相続人を順番に調停室に呼び、一人ずつ事情を聴くという方法で話し合いがおこなわれます。
ご自身の主張は、調停委員に対して話すこととなります。
ほかの相続人に直接主張を伝えたり、伝えられたりすることはありません。
また、事情を聴く際には個別に事情を聴かれますが、場合によっては全員が集められて手続きについて説明をしたりする場面もあります。
このような場ですら絶縁した兄弟姉妹の顔を見たくないという場合には、あらかじめ裁判所に対して「ほかの相続人と顔を合わせたくない、同席したくない」などと希望を伝えておくと、配慮してもらえることがあります。
弁護士に依頼すれば、弁護士があなたの代理人として遺産相続手続きを進めてくれます。
遺産分割協議についてもあなたの代理人としてほかの相続人とのやり取りを全ておこなってくれるので、あなたがほかの相続人と直接やり取りをしなければならないことは基本的にありません。
あなたが絶縁したほかの相続人と直接やり取りをする負担を減らすことができます。
また、弁護士に依頼すれば、どのように遺産相続手続きを進めればいいのかをアドバイスしてくれますし、難しい相続手続きも代わりに進めてくれます。
遺産相続の手続きで困ったら、遺産相続手続きに詳しい弁護士に依頼するようにしましょう。
絶縁した兄弟姉妹との遺産相続手続きを進めなければならないとなると、とても気が重かったりしんどかったりすることも多いでしょう。
それでも、遺産相続の手続きは進めなければなりません。
絶縁した兄弟姉妹との間での遺産相続の手続きは、弁護士に依頼しておこなうのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、あなたの代理人としてほとんど全ての手続きを代わりにおこなってくれます。
これにより、あなたが絶縁した兄弟姉妹と直接やり取りをしなければならないことは基本的にはありません。
また、弁護士に遺産相続の手続きを依頼すれば、専門的な知識を用いてどのように手続きを進めればよいのか、あなたの味方としてアドバイスしてくれます。
絶縁した兄弟姉妹との間での遺産相続手続きを進めるなら、遺産相続に詳しい弁護士に依頼するようにしましょう。
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