自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)とは、遺言者が自分で本文・氏名・日付などを書いて作成する遺言書のことです(民法第968条)。
紙とペンさえあれば誰でも作成でき、特別な手続きなども必要ないため、非常に手軽な遺言方法です。
ただし、書き方を誤ると効力が無効になることもあり、どのように書けばよいかわからず悩んでいる方も多いでしょう。
なお、2020年7月に改正民法が施行されたことで、それによる変更点などもあります。
遺言書の書き方とあわせて確認しておきましょう。
本記事では、自筆証書遺言の作成で失敗しないための正しい書き方を解説します。
無効にならない自筆証書遺言を作成をしたい方へ
「せっかく自筆証書遺言を書いても、無効になってしまったら嫌だな...」と悩んでいませんか?
結論からいうと、自筆証書遺言に関する不安は弁護士への相談・依頼をおすすめします。後々の相続トラブルを避けるためにも、弁護士に相談しておくと安心でしょう。
弁護士に相談することで以下のようなメリットを得られます。
- 無効な遺言書にならない書き方がわかる
- 親族が揉めない書き方を相談できる
- あなたの希望に沿って相談できる
- 自筆証書遺言以外の遺言方法について相談できる
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自筆証書遺言のひな形
自筆証書遺言に決まった書式はないため、要点さえ記載していれば問題ありません。
以下はサンプルです。
遺 言 書
遺言者アシロ太郎は、この遺言書によって、妻アシロ花子、長男アシロ二郎に対して次のとおりに遺言する。
1. 現金4,000万円を妻アシロ花子に相続させる
2. 現金2,000万円と●●の自動車(ナンバー:●●●●●●)を長男アシロ二郎に相続させる
3. もしここに記載のない財産が発覚した場合、その全ては妻アシロ花子が相続するものとする
遺言者アシロ太郎は、遺言書の執行者として、下記の者を指定する
住 所 東京都新宿区西新宿●-●●-●
職 業 弁護士(※弁護士に限らず、友人や司法書士でも成人していれば誰でも選任可能)
遺言執行者 ●●●●
記
令和◯◯年◯◯月◯◯日
住 所 東京都新宿区西新宿●-●●-●
遺言者 アシロ 太郎 印
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なお、弁護士であれば、相続人への分配方法など「揉めないための遺言書作り」のアドバイスが受けられます。
遺言書作成が不安な方は、まずは無料相談の利用をおすすめします。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言では、主に以下の項目を記載します。
ここでは、自筆証書遺言を作成する際のポイントを解説します。
- 子の認知
- 後見人の指定
- 遺贈
- 相続の廃除・廃除の取消
- 相続分の指定または指定の委託
- 遺産分割の禁止
- 遺産分割方法の指定または指定の委託
- 遺言執行者の指定または指定の委託
- 相続人相互の担保責任
- 遺言減殺方法の指定
財産目録を作成する
まずは、自身の遺産がどの程度あるのか、かつ何があるのかなどを正確に把握しておく必要があります。
遺言書は遺族にとって大きな影響力を残すものであり、遺言書に書かれていない財産などがあると、財産を巡って争いになることもあります。
そのような事態を避けるためにも、はじめに財産目録を作成しておきましょう。
自筆証書遺言は手書きで作成する(財産目録はパソコンで作成可能)
自筆証書遺言は必ず手書きで作成しなければいけません。
代筆・音声・映像などは全て無効になります。
ただし、2020年7月より改正民法が施行されたことで、財産目録の部分についてはパソコンでの作成が可能です(添付書類の全ページに署名・捺印が必要)。
なお、用紙やペンの指定はなく、横書き・縦書きなども自由です。
ただし、偽造や変造を防止するためにも、破れやすい用紙・鉛筆・シャープペンシルなどは避けた方が無難でしょう。
相続財産を漏れなく正確に記載する
自筆証書遺言には「何を相続させるのか」だけでなく、遺言書を読んだ人がどの財産のことを指しているのか把握しやすいよう、細かく正確に記載することも大切です。
たとえば、土地や不動産などを複数所有している状態で「アシロ太郎に土地を相続する」と記載した場合、アシロ太郎はどの土地のことを指しているのか判断できないという事態になりかねません。
相続人が相続財産を正確に把握できずにトラブルになることを避けるためにも、土地であれば登記簿、預金であれば支店名や口座番号を記載するなど、誰が見ても判断できるようにしましょう。
相続人の範囲を確認する
相続財産が確定したあとは、相続人の範囲についても整理しましょう。
たとえば、以下のように配偶者と3人の子供がいるようなケースでは、4人分の相続内容を記載し、相続の順番としては「配偶者が最初で子供が2番目」となります。
例:相続人が配偶者と子供3人、財産が現金4,000万円と100平方メートルの土地の場合
- 配偶者:現金2,000万円
- 子供1:現金1,000万円
- 子供2:現金500万円
- 子供3:現金500万円、100平方メートルの土地 など
もし遺産分割の割合に差をつけたい場合は、遺言書にその内容を記載するか、「ここに指定のない財産は全て○○に渡す」などと記載するとよいでしょう。
日付を明記する
相続内容についてだけでなく、自筆証書遺言を作成した日付も忘れずに記載しましょう。
書き方の指定はありませんが、第三者が見ても特定できるように「20○○年○○月○○日」「令和○○年○○月○○日」とするのが一般的です。
なお、遺言書が複数あり、それぞれ日付が異なる場合は、新しい日付のものが効力を持ちます。
署名・押印する
遺言者の署名と押印も忘れないようにしましょう。
これらがなければ無効になります。
押印について特に指定はありませんが、なるべくシャチハタは避けて実印の方がよいでしょう。
自筆証書遺言の場合は封印がなくても問題ありませんが、未開封であることの証明として、念のため封筒に封印しておくことをおすすめします。
自筆証書遺言を書く際の注意点
自筆証書遺言を作成する際は、以下の点に注意しましょう。
夫婦共同の遺言書は作れない
民法第975条では、「遺言は2人以上の者が同一の証書で作成することはできない」と規定されており、夫婦共同の遺言書は作れません。
どうしても2人で残したい場合には、共同名義ではなく用紙を分けて、それぞれ単独の遺言書を作成するという手段があります。
ただし、遺言内容に重複部分や意見の異なる部分があると、相続の際に混乱が生じる恐れがあります。
したがって、基本的には夫婦でよく話し合って、どちらか一方だけの名前を残すようにした方が無難でしょう。
遺言内容は修正できる
遺言者であれば、いつでも遺言内容を修正できます(民法第1022条)。
該当箇所に二重線を引いて訂正印を押し、近くに書き加えることで訂正できます。
ただし、があります。
そのような場合は、一から書き直すことも検討しましょう。
遺言執行者の選任は必須ではない
遺言執行者とは、遺言内容を正確に実現させるために、遺言者の代理人として必要な手続きをおこなう人のことです。
遺言書にて指定するのが通常ですが、必ず指定しなければいけないわけではありません。
ただし、遺言執行者を選任しないと、相続の際に手続きが滞る可能性があります。
遺言執行者について詳しくは以下の記事をご覧ください。
自筆証書遺言を書いたあとの保管方法
遺言書は、遺族に見つけてもらわなければ意味がありません。
紛失しないように注意して、なるべくわかりやすい場所に保管しておきましょう。
配偶者などには、保管場所を教えておくのもよいかもしれません。
なお、2020年7月の改正民法の施行により、自筆証書遺言は法務局で保管してもらうこともできます。
法務局で保管してもらう場合、以下のようなメリットがあります。
- 遺言書の紛失や改ざんなどの恐れがない
- 相続発生時に遺言書があることを通知してもらえる
- 開封する際の検認が不要
ただし、法務局で保管してもらうためには申請手続きが必要で、遺言書形式や手数料などの規定も設けられています。
詳しくは「自筆証書遺言書保管制度について|法務省」をご確認ください。
自筆証書遺言を開封するには家庭裁判所での検認が必要
自筆証書遺言の場合、遺言者が亡くなって相続手続きを進めるには「検認」という手続きが必要です。
検認とは、家庭裁判所で遺言書を開封して、遺言内容を確認する手続きのことです。
ここでは、検認の流れや、検認が必要ないケースなどを解説します。
検認の方法
検認を受けるためには、遺言書の保管者または発見者が、被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
管轄先は「裁判所の管轄区域|裁判所」で確認できます。
申し立てる際の費用や必要書類は以下のとおりです。
費用
- 収入印紙代:遺言書1通につき800円
- 連絡用の郵便切手代(申立書記載の関係者が3名以下の場合):82円切手を(関係者の数×2)の枚数
- 連絡用の郵便切手代(申立書記載の関係者が4名以上の場合):82円切手を(関係者の数+3)の枚数
必要書類
- 家事審判申立書(申立書記入例|裁判所)
- 遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者の子(およびその代襲者)で死亡した者がいる場合は、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
なお、相続人が以下いずれかのケースに該当する場合は、上記に加えて以下の書類も必要です。
相続人が遺言者の父母・祖父母などの場合
- 遺言者の直系尊属で死亡した者がいる場合は、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
相続人がいない・遺言者の配偶者のみ、または遺言者の兄弟姉妹およびその代襲者の場合
- 遺言者の父母の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 遺言者の兄弟姉妹に死亡した者がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 代襲者としての甥または姪に死亡した者がいる場合、その甥または姪の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
検認が不要なケース
自筆証書遺言を開封する際は検認が必要ですが、例外として法務局に保管してもらっている場合は検認不要です。
検認を受ける場合、申し立てから1~2ヵ月程度かかるのが一般的です。
一方、法務局で保管してもらっている場合は、スピーディに相続手続きを進めることができます。
自筆証書遺言以外の遺言方法
遺言方法は、自筆証書遺言だけでなく、公正証書遺言や秘密証書遺言などもあります。
以下では、それぞれの特徴を解説します。
公正証書遺言
公正証書遺言は、法律を専門とする公務員である公証人が作成する遺言書のことです。
遺言者が公証人に遺言内容を口頭で伝えて、それをもとに公証人が作成します。
公正証書遺言の場合、専門家が作成するため内容に間違いがなく、変造や偽造の心配もありません。
また、検認が必要ないというのもメリットです。
ただし、作成にあたっては遺言者が公証役場に行かなければならず、証人2名の立ち合いなども必要です。
作成費用もかかり、自筆証書遺言と比べて手間や費用がかかるというのがデメリットです。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言内容を秘密にしたまま、遺言書の存在のみを公証人に証明してもらう遺言書のことです。
「何を書いたのか誰にも知られたくないが、遺言書が見つからないという事態は避けたい」という場合にはおすすめです。
秘密証書遺言の場合も、作成にあたっては公証役場に行かなければならず、証人2名の立ち合いなどが必要です。
作成費用もかかり、自筆証書遺言と比べて手間や費用がかかるというのがデメリットです。
さいごに
自筆証書遺言は最も手軽に作成できる遺言書で、要点さえ記載していれば問題ありません。
ただし、遺言書作成の経験がない方などは、不安に感じることもあるかもしれません。
弁護士であれば、遺言書の内容をチェックしてくれたり、状況に応じて盛り込むべき事項などをアドバイスしてくれたりします。
事務所によっては無料相談できるところもあり、まずは一度相談してみることをおすすめします。