親族が亡くなり相続が発生する場合、重要になるのは遺言書の有無です。
遺言書とは、被相続人が自分の財産を誰にどのように相続したいか意思を示すためのもので、遺産相続において強い効力をもっています。
しかし、遺言書の内容によっては、特定の親族がひいきされていたり、内容に不自然な点があったりと、納得できないこともありますよね。
そこで本記事では、残された遺言書の内容に納得できない場合に遺言の無効を主張する方法を解説します。
どのようなケースなら遺言書の無効を主張できるのか、どのような流れで無効を申し立てるかなどについても紹介するので、遺言書に問題があると感じた際には本記事を参考に無効を申し立てることを検討してみてください。
遺言書は被相続人の生前の意思を示すものであり、基本的には記載されている内容を尊重し遺産相続がおこなわれるべきものと考えられます。
しかし、遺言書は被相続人が亡くなって初めて効力が発生するものです。
そのため、その内容が本当に被相続人の最後の意思といえるのかどうか、効力が発生したときにはわからないものになってしまいます。
遺言書の作成から何年も経っているケースや、病気を患ってから遺言書の更新がおこなわれていないようなケースでは、はたしてその遺言書が被相続人の最後の意思を示しているものだといえるのか疑問が残るでしょう。
また、遺言書の内容が特定の相続人を極端にひいきするものだったり、愛人への相続を示すものだったりした場合、理不尽で納得できないこともあるでしょうし、生活を続けていくことも難しい状況となることもあるでしょう。
そのため、遺言書の内容に納得できない点や不服がある場合は、遺言書の無効を主張することができたり、遺留分の請求をおこなったりすることが可能です。
ただし、遺言書の無効が認められるかどうかはケースにもよるため、注意が必要といえます。
遺言書の無効が認められるケースとして、主に以下の9つがあります。
以下では、それぞれについて詳細に解説していきます。
遺言書は大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
そのなかでも自筆証書遺言は自分の好きなタイミングで作成することが可能、かつ作成の際に手数料がかからないため、遺言書の作成を最も気軽におこなえる方法となっています。
ただし、自筆証書遺言にはそれが遺言書と認められるための要件が存在しています。
自筆証書遺言が認められるためには、以下4つの要件を満たす必要があります。
自筆証書遺言が残されていたとしても、これらの要件が満たされていない場合は、そもそも遺言書としての効力を発揮できないことを理由に無効を主張することが可能です。
公正証書遺言とは、遺言者の意思をもとに公証役場の公証人が遺言書を作成し、証人による確認を踏まえたうえで作成される遺言書のことを指します。
公正証書遺言は、公証人が作成に関与することから、遺言の効力を発揮する確実性が高いほか、原本を公証役場で保管するため安全面も高い遺言書といえます。
しかし、遺産相続の公平性を保つため、以下の要素をもつ人は証人にはなれません。
公正証書遺言が残されていたとしても、証人に上記のような要素をもつ人が含まれる場合は、そもそも遺言書としての効力を発揮できないことを理由に無効を主張することが可能です。
遺言書の内容が不明確で曖昧な場合、遺言が無効となることがあります。
ただし、遺言書の内容が不明瞭であったとしても、遺言者の意思をなるべく尊重するために、内容をできるだけ有効とする解釈がなされることが基本です。
判例としても、さまざまな事情を加味して遺言の内容を推定し、有効としたケースが少なくありません。
遺言者に遺言能力がない状態で作成されたとみとめられた場合も、遺言書が無効になることがあります。
具体的な例としては、遺言書を作成したタイミングで認知症を患っていた場合などが挙げられます。
しかし、あくまでも「遺言能力がない状態で作成されたかどうか」が判断基準であるため、認知症であるからといって必ずしも遺言が無効になるわけではないことを覚えておきましょう。
第三者により遺言書の内容について強要されたものがあった場合、遺言書の無効が認められます。
ただし、遺言者が亡くなってから、遺言書が強要された内容で作成されていることを立証することはなかなか難しいことであるといえます。
また、遺言者の偽造がされた場合、自書により執筆された遺言書でなくなるため、遺言書の無効が認められます。
さらに遺言書を偽造した人は、その後相続人になることができなくなるペナルティも定められています。
複数人で遺言書を共同で作成することは民法で禁止されています(民法第975条)。
複数人による遺言書作成の例としては、夫婦で遺言書を共同で作成すればわかりやすいように感じられますが、遺言の範囲がそれぞれどこまでになるのかが不明瞭になったり、遺言の撤回が自由におこなえなくなったりすることが考えられ、遺言が非常に不安定なものとなってしまいます。
遺言書において重大な事実誤認(錯誤)があった場合、遺言の取り消しが認められるケースがあります。
錯誤が認められるケースは珍しいものですが、具体例として、付言事項には法的効力がないものの、法的効力があるものと誤信していたケースなどが挙げられます。
遺言の内容が公序良俗に反するものとみなされた場合、無効になることがあります。
よくある例としては、不貞相手に遺贈するケースです。
ただし、不貞相手への遺贈であれば必ずしも無効になるわけではなく、遺贈が不倫関係の維持や継続を目的としているかどうかや、その他の事情などを考慮して無効かどうかが判断されます。
遺言書は、一番新しく作成されたもののみが効力を発揮します。
そのため、遺産相続の手続きをしている間に、より新しい遺言書が発見された場合、古い遺言書の内容は無効となります。
ここまで紹介したように、遺言書の無効が認められるためにはさまざまな条件をクリアする必要があります。
また、無効となる条件として、遺言書に形式的な不備があるなど、そもそも遺言書として認められるものではないようなものでなければなりません。
つまり、記載されている内容を理由として遺言書を無効にすることは難しいといえます。
ただし、遺言書があっても遺産分割協議をおこない相続人全員の合意が得られさえすれば、遺言書の内容を無視して遺産分割をおこなうことは可能です。
遺言書の内容が相続人の誰もが望まないものになっているようなケースであれば、遺言書に従うことなく相続をおこなえるケースもあるでしょう。
遺言書を無効にしたい場合は、以下の流れで手続きをおこなうことになります。
遺産の無効を申し立てた場合、非常に長い時間や労力がかかるうえ、費用も発生してしまいます。
そのため、まずはほかの相続人と交渉をおこない、合意形成ができないか確認してみるのがおすすめです。
遺産分割協議をおこなった結果、相続人全員の合意を得ることができれば、必ずしも遺言書の内容に従う必要はありません。
遺産分割協議で合意が得られなかった場合、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
調停では改めて相続人間での話し合いがおこなわれ、合意形成を目指します。
遺言書の無効に対して合意が得られなければ、調停は成立されません。
調停でも遺言書の無効について合意が得られなければ、地方裁判所に遺言無効確認請求訴訟を起こすことになります。
訴訟では遺言の無効を主張する側が原告、遺言は有効だと主張する側が被告となります。
遺言無効確認請求訴訟の審理では、通常の裁判と同様に、当事者による事実関係の主張や、その主張を裏付ける証拠の取り調べという形で審理がおこなわれます。
審理で用いられる証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
お互いに主張や立証を重ねた結果、最終的に裁判官による判断がおこなわれ、遺言に無効となる理由があると認められれば遺言の無効が確認されます。
また、場合によっては訴訟の中で和解する形で決着するケースもみられます。
裁判所での判決に納得できない場合には、控訴をおこない、上級裁判所での再度の判断を求めることができます。
また、控訴審での判断にも納得できなかった場合には、さらに上訴をおこない上告審で判断を求めることが可能です。
遺言書の無効申し立てをおこないたい場合、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に依頼するメリットとしては以下の3つの要素が挙げられます。
遺言書の無効が認められるためにはさまざまな要件をクリアする必要があります。
主張に正当性がない場合は、時間や労力をかけたにもかかわらず、何の成果も得られないことが考えられます。
そのため、遺言書を無効としたい主張に正当性があるか、まずは弁護士に相談し、法的な視点から判断してもらうことが大切です。
遺言書を無効にするためには、相続人間での遺産分割協議・調停・訴訟と、さまざまな手続きをおこなう必要があります。
これらの手続きに対して知見がない場合、訴訟に向けてどのように進めたらいいかわからなくなってしまったり、適切な主張がおこなえなくなったりしてしまう可能性があります。
適切な手続きを速やかにおこなうためにも、弁護士のサポートを得ることは非常に重要といえます。
遺言書の無効が認められなかった場合でも、遺留分の請求をすすめられる可能性があります。
遺留分とは、法律上相続人に最低限確保された財産のことで、遺言書によって遺留分を加味しない内容となっていることが多々あります。
ただし、遺留分の請求には相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内という短い期間が設定されています。
速やかな手続きをおこなう必要があるため、専門家である弁護士へ相談をおこなうことは十分視野に入るでしょう。
さいごに、遺言書の無効申し立てに関して、よくある質問とその回答を紹介します。
封印されている遺言書を開封するためには、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いが必要です。
勝手に開封してしまったとしても遺言書自体が無効になることはありませんが、代わりに開封してしまった人が5万円以下の過料に処されることがあります。
遺言無効確認請求の調停や訴訟には、時効は設けられていません。
ただし、遺産の散逸や遺留分侵害請求をおこなうことを視野に入れると、早めに対応すべき問題であるといえるでしょう。
遺言書の無効が認められなかったとしても、遺言書の内容が遺留分を侵害していた場合、遺留分侵害請求をおこなうことで、法律で定められた最低限の相続を受けられる可能性があります。
遺留分侵害請求をおこなうには、相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内と期間が設定されているため、早めに解決することをおすすめします。
遺言書は作成段階で不備があった場合、無効が認められるケースがあります。
しかし、遺言書の無効を主張する場合、遺産分割協議での交渉や裁判所での調停・訴訟をおこなう必要があり、多くの時間や労力を消費するため、専門家である弁護士への依頼をおすすめします。
弁護士に依頼をおこなう際には、遺産相続問題に強みをもつ弁護士に依頼することが大切です。
たとえば、相続問題に注力した弁護士の情報が数多く掲載されている「ベンナビ相続」を利用することで、トラブルの解決に向けて速やかに対応してくれる弁護士と出会うことができるでしょう。
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