生前整理(せいぜんせいり)とは、生きているうちに死後のことを考えて身辺や財産の整理をすることをいい、近年は20代や30代といった若い世代の方も利用を始めている「終活」のひとつです。
生前整理を始めるのに早すぎるということはなく、20代・30代の若い方から、終末を見据えた高齢者の方まで、幅広い年代で終活や生前整理が一般的になりつつあります。
この記事では、生前整理とは何なのか、どういったやり方で進めるのが良いのかといった、すぐに使える生前整理の基礎知識をご紹介いたしますので、参考にしていただければ幸いです。
【注目】生前整理に際して 遺産を適切に遺したい方へ |
生前整理をする際に、自分の財産がどうなるかは気になる点ですが、遺産を希望通りに遺すためには、法的に効果のある遺言書が必要です。
ご自身が亡くなられた後に家族間で不要なトラブルを起こさないためにも、遺言書に詳しい弁護士に相談してみましょう。 |
生前整理は、生きている人が自己の死後を考えて身辺や財産の整理をすることを指しており、いわゆる「終活」のひとつとして認知度が高まっています。
主に高齢者の方が意識する終活ですが、病気の人と関わったり、親族の死を看取った後に、自己の死後について考え始める若い世代も増加しており、現在は幅広い年代の方が生前整理に関心を持っています。
しかし一口に生前整理と言っても、どういった内容なのか、どんなメリットがあるのかについては中々周知されていません。そこで、まずは生前整理の必要性と、生前整理をするメリットについてご紹介したいと思います。
なぜ生前整理が必要かと言うと、ズバリ「あなたの希望を死後にも確実に叶えるため」と「残される家族などの負担を減らすため」という2点に尽きるでしょう。
日本の民法上、15歳以上の人は有効に遺言をすることができるとされており、遺言を残すとあなたの財産等について、あなたの希望に沿った処分をすることができるようになります。
しかし、若い世代では遺言などを考える機会はほとんどなく、身近に死を感じた場合や災害に巻き込まれた際に初めて「自分の死後、残った財産はどうしたらいいんだろう」という思考に至るケースがほとんどです。
近年は、日本のあちこちで様々な自然災害が起こっているうえ、晩婚化も進んでいますから、死後のことをきちんと考えるのはむしろ好ましいことかと思います。
生前整理によって不要なものを減らし、あなたがどんな財産を有しているのかを把握することで、あなたの希望を死後に叶えるための選択肢が見えてきますから、生前整理を始める価値はあるでしょう。
大抵の方は、亡くなった時点である程度の財産を持っているかと思いますが、死んでしまった以上は自分で処分することができません。
あなたの財産を処分するのは、残される家族や友人・知人といったあなた以外の人たちになりますから、この人達が困らないように、どんな財産があるのか、どうやって処分してほしいのかを明確にしておくのは非常にありがたいことです。
生前整理では、単に断捨離を強制するというわけではなく、必要に応じて物を減らしたり遺言を行って物の行き先を決めるのが基本ですから、全く手付かずで亡くなるよりは少しでもしておいた方が、残される家族などの負担は絶対に小さくなります。
生前整理を始めるメリットは色々ありますが、中でも特に強調したいのが以下の3点です。
急な入院や事故などに巻き込まれた場合であっても、生前整理によってどこに何があるのかが分かる状態になっていれば、あなたも周りの人も困らないというのが生前整理のメリットです。
例えば入院費用を支払うにしても、保険の証書や預金通帳などの存在が分かっていれば家族としても安心できますし、入院中に家族に大切な書類を持ってきてもらう場合にもどこにあるのかを分かりやすく伝えることができるでしょう。
生前整理の際に不要な財産を処分して現金化したり、思い出深い財産をリストアップしておくことで、忘れていた財産を思い出したり、相続争いを回避できる確率が上がります。
相続の際には故人の財産を把握するのも一苦労なので、事前に目録などが作成されていると相続人としては非常に助かるという点もメリットです。
若いうちはあまり気にしなくて良いかもしれませんが、高齢になって慌てて生前整理をしている最中に怪我をしたり、判断能力が低下して生前整理を途中までしかできなかったというケースは珍しくありません。
判断能力が低下してしまうと、遺言をするのも大変になりますし、あなたが本当に望む方法での財産処分が叶わない可能性が高いので、早めに生前整理を始めるのは重要なことなのです。
【注目】生前整理に際して 遺産を適切に遺したい方へ |
生前整理をする際に、自分の財産がどうなるかは気になる点ですが、遺産を希望通りに遺すためには、法的に効果のある遺言書が必要です。
ご自身が亡くなられた後に家族間で不要なトラブルを起こさないためにも、遺言書に詳しい弁護士に相談してみましょう。 |
生前整理については以上のとおりですが、「終活」の中で生前整理に似たものとして「老前整理」や「遺品整理」といった活動があります。これらの活動と生前整理は、一体何が違うのでしょうか。
まずは簡単に表を作成しましたので、是非ご覧ください。
|
生前整理 |
老前整理 |
遺品整理 |
When いつ始めるか |
生きている間 |
老いてきたら |
誰かが亡くなった後 |
Who 誰が行うか |
本人 |
本人または家族 |
残された家族など |
Why 何のために行うか |
本人の希望を死後に反映させるため 人生を快適に過ごすため(断捨離など) |
家族の負担を減らすため 老後を快適に過ごすため(断捨離など) |
亡くなった人の物を片付けるため |
What 何をするのか |
物の処分や遺言の作成 |
物の処分や遺言の作成 |
物の処分や相続手続き |
基本的には、生前整理はあなた自身がその希望を叶えるために始めるもので、老前整理や遺品整理は家族などの負担を減らすために始めるといった特徴が挙げられます。
また、遺品整理に関しては、あなたが死んだ後で行われるものなので、あなたの意思に関係なく家族や業者が独断で行うものという点でも生前整理と異なりますね。
生前整理と老前整理は、主に始める時期と行う人、基本的な目的などが若干異なるものの、行う内容自体はあまり変わりません。どちらも死後の財産処分について一定の意思を表明し、それを実現するための手段なので、明確に区別する必要はないかもしれませんね。
生前整理の基本的な知識は以上のようになりますが、実際に生前整理を行う場合に気をつけるべきポイントや進め方をまとめてみましたので、身近な方に生前整理を勧めたり、あなた自身が生前整理を行う際に思い出していただければ嬉しいです。
前提として、生前整理は必ずしも断捨離しなければならないというわけではありません。なので、片付けが苦手だとか、物を捨てるのは少し嫌だなと感じている方も、まずは生前整理に興味を持っていただけたら良いと思います。
生前整理の目標は「あなたの希望をあなたの死後も叶えること」にあり、物を整理する反射的効果として「快適に過ごせる」ようになるに過ぎませんから、少しずつでも始めてみるのがおすすめです。
参考:終活20代では早すぎる?!若い年齢から取り組む終活のメリットと方法
生前整理に限らず、片付けの基本は「必要なものと不要なものに分ける」ことで、その際に自分が何を持っているのかを把握することが大切です。
洋服や書類から始めるのが簡単ではありますが、「不要だけどまだ捨てたくない」ものも中には沢山あるかと思います。そういった場合には、現状で無理に捨てようとせず、「不要だけど捨てたくない」カテゴリを作っておくのがおすすめです。
この「不要だけど捨てたくない」カテゴリの物に関しては、「1年以上そのままだったら捨てる」や「自分が死んだら一緒に処分してもらう」といったルールを決めておくと、その後の処分の際に困らないうえ、あなたの気が変わったら簡単に処分することができるので、片付けが苦手な方でも問題ないかと思います。
空き巣などの可能性を考慮して、印鑑や通帳などの貴重品をバラバラに保管する方も多いのですが、保険証書や契約書などの重要書類に関しては、できるだけ一箇所に固めて保管するのがおすすめです。
その際、意外と忘れがちなのが「公共料金に関する書類」や「家賃等の振込先の管理」、「クレジットカード会社等からの通知」などで、こういったものも重要書類の近くにまとめておくと、何かあった時に素早く手続きできるので安心です。
ここからは相続を見据えた少しネガティブな話になりますが、もしあなたの財産のうち誰かにあげたいと思うものが既に存在している場合には、その財産を含め、現金・預貯金・不動産・証券などのある程度の財産をきちんと目録にまとめておくのがおすすめです。
相続の際には相続人などが財産目録を作ってあなたの相続財産を管理しますが、財産の調査自体が手間のかかる作業なので、あらかじめ目録を作っておくことで作業の手間を減らすとともに、不要な財産を把握し処分したり、一定の財産について誰に相続させるかを考えるきっかけになります。
▶参考:相続財産に含まれる財産と課税対象になる財産の違い/【サンプル付】財産目録を自分で作成して相続争いを未然に防止する方法
また、財産目録を作成すると、その財産に対してどの程度の相続税がかかるのかをざっくりと計算することができるようになります。
【簡単3ステップ】財産目録を作成したい方必見! |
⇒ 財産目録で全ての財産内容を管理すると、共同相続人による財産隠しの予防ができるかもしれません。 |
贈与税は相続税の課税逃れを防止するため、相続税よりも高い税率が設定されていますが、場合によっては生前贈与等で財産を減らすほうが節税効果が高くなる可能性があります。
例えば直系尊属から20歳以上の直系卑属への贈与などは、特例税率が設けられているため、相続によって財産を承継させるよりも節税効果が高いケースもあるのです。
相続や税金について不安がある場合には、弁護士等の無料相談を利用して話を聞いてもらうのもおすすめで、遺言等の相続対策を考える上でも非常に役に立つかと思います。
関連記事:相続の無料相談先を比較|弁護士・司法書士・税理士・行政書士でおすすめなのは?
エンディングノートとは、あなたのプロフィールや資産状況等に加え、身近な人へのメッセージなどを記すノートのことで、民法上の「遺言」とは全く別のものを言います。
民法上の遺言は、法で決められた方法で作成すると、あなたの死後にその効力を発揮して財産処分をしたり、一定の法的効力を生じさせる強力な書面になりますが、エンディングノートは単なるメモやメッセージ的な効力しか持ちませんので、それに従って遺族が行動してくれるという保証はありません。
しかし、遺言を作るのは早いと感じている方やとりあえず何か準備しておきたいという方の場合は、エンディングノートを活用すれば遺族等に対する簡単な指示も出せますし、後々遺言を作る際に便利です。
エンディングノートは書店などでも扱っていますので、気になる方はチェックしてみてくださいね。
生前整理のゴール地点は、おそらく「遺言書を作る」ことになるかと思います。
ここでいう「遺言書」は、「遺書」など故人のメッセージ性の強い手紙のことを言うのではなく、民法で決められた方式に従い決められた内容を記載した書面(遺言)のことを言いますので、作成の際には遺言書を作るための正しい知識を押さえておく必要があります。
遺言は必ず残さなければならないというわけではないのですが、適切に作成された遺言があると、遺産分割協議を経ずに財産を取得させたり,遺言の内容に沿った遺産分割が行われるのに対し、一切遺言を作成していないと、原則として法定相続分に沿った遺産分割が行われることになります。
それで問題なければ良いですが、例えば相続人でないお世話になった人に財産を渡したい場合などは、あらかじめ遺言を作っておかなければそのような処分はできないのです。
もし遺言をしたくなったら、民法の決まりをきちんと理解していただき慎重に作成してください。また、より確実にあなたの意思を反映させたいならば、弁護士や公証役場での相談をおすすめします。
▶参考:【弁護士監修】遺産相続の優先順位と遺産割合を55パターンで図解解説/遺言書とは|種類・書き方・効力などを解説
家族信託(かぞくしんたく)とは、あなたがあなたの家族に財産管理を託してその管理・処分を任せるもので、成年後見制度を補う制度と言うことができます。
大手金融機関なども信託サービスを提供していますが、
といった特徴があります。
ただし、利用例自体があまり多くなく、家族信託自体をきちんと理解している専門家が少ないために具体的な利用方法がわかりにくいといったデメリットもありますので、利用の際にはあなた自身で調べていただくか、家族信託を扱う弁護士や司法書士への相談をしていただいたほうが確実かと思います。
▶参考:家族信託とは|メリット・デメリット・手続き・相談先を解説
生前整理は、言葉だけを捉えるとマイナスなものに感じられますが、若い世代でも関心が高まってきている「当たり前の準備」なので、敬遠せずに興味を持っていただけると良いかと思います。
また、生前整理をすることで相続税や贈与税の節税に繋がったり、相続時の紛争を回避できる確率が上がりますので、この機にあなたの財産と向き合ってみるのは価値があると言えるでしょう。
本記事が、少しでもお役に立てれば幸いです。
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