「故人が書いたとは思えないような内容が遺言書に記載されていた」「遺言書の筆跡が不自然で、被相続人が自分で書いたとは思えない」というようなケースでは、遺言書が偽造された疑いがあります。
遺言書は被相続人の最終的な意思を示す書面であり、偽造されると被相続人の意思が遺産相続に正しく反映されません。
また、偽造された遺言書の内容どおりに遺言が執行されてしまうと、本来受け取ることができたはずの財産を承継できない相続人が発生したり、法定相続人が遺留分侵害額請求権を行使する負担を強いられたりします。
そこで本記事では、相続で遺言書の偽造が疑われる場合の対処法や、遺言書の偽造を疑ったほうがよいケース、遺言書の偽造を防ぐための対策などを解説します。
相続手続きの中には期限が定められているものもあるため、もし遺言書に偽造の疑いがある場合は、なるべく速やかに相続問題が得意な弁護士に相談することをおすすめします。
結論として、偽造された遺言書は効力が無効となります。
見つかった遺言書に偽造の疑いがある場合、家庭裁判所での検認を済ませたのち、遺言無効確認調停・遺言無効確認訴訟などの手続きをおこなって遺言書の有効性を争います。
遺言書の偽造が認められた場合は、相続人全員で遺産分割協議をおこない、相続財産の分割方法を決めることになります。
なお、遺言書の偽造は犯罪であり、偽造した加害者は処罰の対象となります。
加害者に対しては、相続権の喪失・拘禁刑などの刑事罰・賠償金の支払いなどのペナルティが科されるおそれがあります。
遺言書とは、被相続人の最終的な意思表示が記載された書面を指します。
民法で定められた方式を遵守していない遺言書については、効力が無効となります(民法第960条)。
遺言書の偽造とは、作成権限のない者が、あたかも被相続人が作成したかのような遺言書を作成することです。
たとえば「相続人の1人が被相続人の名前を騙り、自分にとって有利な内容の遺言書を作成した」というようなケースが該当します。
遺言書の偽造と似た概念として「遺言書の変造」があります。
遺言書の変造とは、被相続人が正式に作成した遺言書に手を加えて内容を改竄することです。
偽造と変造の意味は多少異なるものの、ともに「被相続人の最終的な意思表示の内容を歪める行為」という点に違いはありません。
ほかにも、相続に影響を与える行為として「遺言書の破棄」も存在します。
遺言書の破棄には、遺言書を勝手に廃棄したり燃やしたりするなどの行為が含まれます。
偽造・変造・破棄についてまとめると以下のとおりです。
遺言書の偽造を疑ったほうがよい代表的なケースとしては、以下のとおりです。
もしいずれかに該当している場合は、「遺言書に偽造の疑いがある場合の5つの対処法」で後述する手続きを検討しましょう。
遺言書を偽造した加害者に科されるペナルティとしては、以下の3つがあります。
ここでは、各ペナルティについて解説します。
遺言書を偽造・変造することは、相続人の欠格事由に該当します(民法第891条第5号)。
相続人の欠格事由に該当すると、以下のようなデメリットが生じます。
相続人の欠格事由が存在する場合、裁判などの特別な手続きを要することなく相続権が剥奪されます。
なお、相続人の欠格事由には、遺言書の偽造などの事案だけではなく「被相続人に対する殺害行為」などの極めて悪質なものも含まれます。
遺言書を偽造・変造した場合、加害者は刑事責任を問われるおそれがあります。
遺言書を偽造した場合は有印私文書偽造罪、遺言書を変造した場合は有印私文書変造罪が成立して罰則が科される可能性があります(刑法第159条1項、2項)。
有印私文書偽造罪・有印私文書変造罪の法定刑は「3ヵ月以上5年以下の拘禁刑」です。
また、遺言書を破棄した場合は私用文書等毀棄罪が成立して罰則が科される可能性があり、法定刑は「5年以下の拘禁刑」です(刑法第259条)。
遺言書を偽造した加害者としては、警察から捜査協力を求められたり勤務先などに知られたりすることは通常避けたいはずです。
したがって「遺言書の偽造について捜査機関に被害申告しない代わりに、相続欠格については反論せずに穏便な形で相続が済むように協力してほしい」というような形で交渉を進めることも選択肢のひとつとして考えられます。
ただし、状況によっても取るべき対応は異なるため、詳しくは相続問題が得意な弁護士にアドバイスしてもらうことをおすすめします。
遺言書の偽造や変造などによって相続人に損害が生じた場合には、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求が可能です(民法第709条)。
たとえば「偽造された遺言書に基づいて相続財産が配分されなかった結果、本来取得できたはずの収益不動産の権利を承継できなかった」というようなケースでは、本来得るべきだった財産分や遅延損害金相当額について損害賠償請求できる可能性があります。
なお、損害賠償請求権には以下のような時効が定められています。
加害者に対して損害賠償請求する場合、遺言書の偽造について主張立証が必要になるうえ、加害者側の故意・過失や、権利侵害行為と損害の因果関係の証明なども必要となります。
適切に対応するためには高度な知識が求められるため、損害賠償請求をおこなうのであれば弁護士にサポートを依頼しましょう。
遺言書に偽造の疑いがある場合は、以下のような流れで手続きを進めましょう。
ここでは、遺言書に偽造の疑いがある場合の具体的な対応方法について解説します。
通常の相続手続きと同様に、遺言書の偽造が疑われる場合でも家庭裁判所にて検認手続きをおこないましょう。
検認とは、家庭裁判所で相続人が立ち会って遺言書を開封し、遺言書の状態や内容などを確認する手続きのことです。
検認手続きの申立人は「遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人」で、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にて申し立てます。
各裁判所の管轄先は「裁判所の管轄区域|裁判所」から確認できます。
なお、検認手続きが必要であるにもかかわらず無視して開封した場合には、5万円以下の過料が科される可能性があります(民法第1005条)。
遺言書が偽造された疑いがある場合、当事者同士での話し合いや裁判手続きなどをおこなって意見を主張し合うことになります。
「遺言書が偽造されていること」や「遺言書が無効であること」などを主張する際は、主張内容の裏付けとなる客観的な証拠が必要です。
遺言書の偽造の証明に役立つ証拠や証明方法の代表例は、以下のとおりです。
遺言書が偽造されていることを証明するためには、説得力のある証拠や主張が必要となるため、もし自力での対応が不安なら弁護士にサポートを依頼しましょう。
遺言書の有効性について争う裁判手続きとしては、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟などがあります。
基本的には、まずは遺言無効確認調停を申し立てて争うことになります。
遺言無効確認調停とは、調停委員が仲介役となり、家庭裁判所で遺言書の有効性について話し合いをおこなって解決を図る手続きのことです。
「遺言書は偽造されたものである」という形で話し合いがまとまれば、調停成立となって遺言書の無効が確定します。
遺言無効確認調停が不成立となった場合は、遺言無効確認訴訟を提起します。
遺言無効確認訴訟とは、家庭裁判所にて遺言書の有効性について主張立証をおこない、最終的には裁判官に判断してもらう手続きのことです。
遺言無効確認訴訟では、遺言書が偽造されていることを原告側が主張立証する必要があります。
たとえば、遺言書の筆跡が被相続人のものとは異なること、遺言書作成時点で被相続人は自身の判断で作成できる状態ではなかったこと、被相続人と相続人の関係を前提にすると遺言内容があまりにも不自然であることなどを、証拠とともに証明しなければいけません。
裁判手続きは複雑であり、なかには終結までに1年以上かかることもあるため、なるべく適切かつスムーズに済ませるためにも弁護士にサポートしてもらうことをおすすめします。
遺言書の偽造が認められて無効になった場合は、遺産分割協議をおこないます。
遺産分割協議では、相続人全員が参加して相続財産の分割方法を決定します。
話し合いを重ねて分割方法が決まったら、合意内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成したのち、相続財産の分配や相続税の申告手続きなどを済ませて終了となります。
なお、遺産分割協議書の作成は義務ではありません。
ただし、のちのちの「言った言わない」などの余計なトラブルを避けるためにも、念のため作成しておいたほうが安心です。
今後の相続で遺言書が偽造されないように備えておきたい場合は、以下の方法が有効です。
ここでは、遺言書の偽造を防ぐための対策について解説します。
遺言書の偽造を防止したい場合は、被相続人が自分で作成・保管する「自筆証書遺言」ではなく「公正証書遺言」を選択するのが有効です。
遺言書は自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類に大きく分けられ、それぞれ以下のような特徴があります。
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
| 作成する人 | 本人 | 公証人 | 本人(代筆可能) |
| 作成費用 | 不要 | 財産に応じて手数料が発生 | 一律1万1,000円 |
| 証人の有無 | 不要 | 2人以上 | 2人以上 |
| 検認手続き | 必要 | 不要 | 必要 |
| 秘密性の程度 | 内容を秘密にできる | 秘密にできない | 内容を秘密にできる |
| 偽造・変造・破棄のリスク | ある | ない | 低い |
| 保管する人・保管場所 | 遺言者本人または法務局 | 公証役場 | 遺言者本人 |
公正証書遺言の場合、公証役場での厳格な手続きを経て作成され、作成後は公証役場にて原本が保管されます。
第三者が勝手に持ち出したり書き換えたりすることはできないため、偽造・変造・破棄が不安な場合はおすすめです。
自筆証書遺言を作成する場合は、自筆証書遺言書保管制度を利用するのが有効です。
自筆証書遺言書保管制度とは、作成した自筆証書遺言を法務局が保管してくれる制度のことです。
法務局で保管してもらうことで偽造・変造・破棄を防止できますし、相続が発生した際には相続人などに対して遺言書が保管されていることを通知してもらうことも可能です。
なお、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、家庭裁判所での検認手続きは不要です。
具体的な手続きの流れは「自筆証書遺言書保管制度について|法務省」から確認できます。
遺言書トラブルが不安なら、弁護士にサポートしてもらうのも効果的です。
弁護士は大半の相続手続きに対応しており、遺言無効確認調停・遺言無効確認訴訟・遺産分割協議などの手続きのほか、遺言書作成にも対応しています。
弁護士なら、正しい遺言書の作成方法をアドバイスしてくれますし、作成した遺言書を保管してもらえる場合もあります。
また、相続発生後は「遺言執行者」となって各手続きを進めてもらうことも可能です。
初回無料相談を実施している法律事務所も多くあるので、まずは気軽にご相談ください。
遺言書の偽造トラブルを相談できる主な窓口としては、以下の4つがあります。
ここでは、各窓口の特徴やサポート内容などを解説します。

遺言書トラブルで悩んでいるなら、まずはベンナビ相続で相談するのがおすすめです。
当サイト「ベンナビ相続」は、相続問題が得意な全国の弁護士を掲載しているポータルサイトです。
遺言書トラブルに力を入れている弁護士も多く掲載しており、都道府県・主要都市・最寄り駅などから付近の弁護士を一括検索できます。
検索結果からは、注力案件・解決事例・弁護士費用・弁護士歴などの詳細情報も確認でき、希望条件に合った弁護士が見つかったらメールや電話で連絡可能です。
多くの法律事務所では初回相談を無料にしており、法律相談だけの利用も問題ありません。
電話相談可能・オンライン相談可などの法律事務所も掲載しているので、来所が難しい方も気軽にご利用ください。
弁護士会の法律相談センターでも、遺言書トラブルに関する相談を受け付けています。
弁護士会とは、全国の弁護士や弁護士法人が所属している団体のことです。
弁護士会では、弁護士への指導・連絡・監督などのほか、法律問題で悩む方のために「法律相談センター」という相談窓口も運営しています。
基本的には30分5,500円程度の相談料が発生しますが、弁護士が相談に乗ってくれます。
各法律相談センターの所在地や連絡先は「全国の弁護士会の法律相談センター」から確認できます。
法テラスでも、遺言書トラブルに関する相談を受け付けています。
法テラスとは、法的トラブルの解決をサポートするために設置された公的機関のことです。
サポートダイヤルにて問題解決に役立つ法制度や相談機関を紹介してくれるほか、民事法律扶助制度として無料法律相談や弁護士費用の一時立替えなどのサポートも提供しています。
民事法律扶助制度には収入要件や資力要件などの利用条件がありますが、条件を満たしていれば30分×3回まで弁護士が無料で相談に乗ってくれます。
民事法律扶助制度の利用条件や利用の流れは「民事法律扶助業務|法テラス」から確認できます。
地域によっては、地域住民などを対象に無料法律相談会を定期的に開催している場合もあります。
各市区町村の無料法律相談会でも、遺言書トラブルに関する相談を受け付けています。
お住まいの地域で開催されていれば、近場で気軽に弁護士と無料相談できます。
ただし、地域によって受付時間・対応内容・予約方法などは異なるため、利用する際は各ホームページなどを確認しておきましょう。
ここでは、遺言書の偽造に関するよくある質問について解説します。
遺言書の偽造は犯罪であり、偽造した加害者は処罰の対象となります。
加害者に対しては、相続権の喪失・拘禁刑などの刑事罰・賠償金の支払いなどのペナルティが科されるおそれがあります。
なお、偽造された遺言書は法的に無効となるため、相続人全員で遺産分割協議をおこなって相続財産の分割方法を決めることになります。
遺言書が偽造されているかどうかは、筆跡・体裁・遺言内容・発見の経緯などの要素を総合的に考慮したうえで判断します。
たとえば、以下のようなケースでは遺言書が偽造されている可能性があります。
遺言書が無効になるケースはさまざまあり、偽造されている場合だけではありません。
一例として、以下のようなケースでは一部の遺言内容が無効になったり、遺言書全体が無効になったりする可能性があります。
遺言書が偽造された疑いがある場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談しましょう。
弁護士なら、今後取るべき対応をアドバイスしてくれますし、遺言無効確認調停・遺言無効確認訴訟といった裁判手続きや、加害者への損害賠償請求などのサポートも依頼できます。
遺言書トラブルで信頼できる弁護士を探したいなら、ベンナビ相続がおすすめです。
ベンナビ相続では、都道府県・主要都市・最寄り駅などの地域検索や、初回相談無料・電話相談可能・オンライン面談可などの条件検索も可能です。
「とりあえず弁護士の話を聞いてみたい」「弁護士に依頼するかどうか迷っている」という方も、まずは気軽にご相談ください。
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