遺言とは、被相続人の相続財産に関する最終的な意思表示のことで、遺言は民法で定められた方式によっておこなう必要があります(民法第960条)。
そして、遺言には大きく分けて公正証書遺言・自筆証書遺言・秘密証書遺言の3つがあります。
このうち、もっとも一般的で法的リスクが少ないものが「公正証書遺言」です。
公正証書遺言の要件・方式として、民法ではさまざまなルールが定められていますが、そのなかでも重要なのが「証人2人以上の立会い」です(民法第969条第1号)。
そこで本記事では、公正証書遺言で要求される証人資格の内容、証人の手配方法、証人をめぐる法律トラブルなどについてわかりやすく解説します。
ベンナビ相続では、公正証書遺言の作成やさまざまな相続トラブルを得意とする弁護士を多数紹介中です。
相続財産の処分方法について悩みを抱えている人は、できるだけ早いタイミングで問い合わせをしてください。
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が作成する遺言書のことで、作成にあたり2人の証人の立会いが必要です。
公証人は法律実務の経験がある準公務員のことで、業務の一環として公正証書遺言書の作成業務もおこなっています。
公正証書遺言の作成にあたっては、以下に挙げたようなルールが定められています(民法第969条各号)。
このように、公正証書遺言を作成する場合には遺言者・公証人・証人2人以上最低でも4人が手続きに関与することになります。
ここでは、公正証書遺言の作成に証人が必要な理由やメリットについて解説します。
遺言は、被相続人の最終的な意思表示を示す重要な文書として扱われ、公正証書遺言を作成する際には2人以上の証人の立会いが必要です。
これは、遺言書の内容が本人の意思をたしかに反映したのであるかを第三者が確認することを目的としているためです。
公正証書遺言を選択すると、次のようなメリットがあります。
以上を踏まえると、公証役場での手続きや証人を用意する手間はあるものの、公正証書遺言には「遺言者の意思表示を確実に相続へ反映できる」というメリットがあるといえるでしょう。
ここでは、公正証書遺言の証人になれる人・なれない人について具体的に解説します。
公正証書遺言の証人になれるのは、信頼できる友人や弁護士・司法書士といった専門家など、遺言内容において利害関係のない第三者であれば誰でもなることが可能です。
証人を依頼する人を決める際は、信頼にあたる人物かどうかをよく検討して依頼するようにしましょう。
公正証書遺言の証人資格が認められない人物として、民法では以下のとおり規定されています(民法第974条)。
まず、未成年者は親などの法定代理人の同意がなければ有効な法律行為をできない以上、未成年者が単独で公正証書遺言の証人になることはできません。
次に、推定相続人や受遺者、これらの配偶者や直系血族については、相続発生時の相続関係次第で財産を承継する可能性がある人物です。
相続について一定の利害関係を有する以上、公正証書遺言の作成プロセスを適切にチェックできず、証人になることは許されていません。
さらに、公証人の配偶者などの身内が証人に就いてしまうと、悪意のある公証人と結託して遺言書の内容が歪められるおそれもないとはいえません。
証人は公証人の業務をチェックする役割を担うことから、公証人の配偶者などが証人に就任することは禁止されています。
中には、遺言者本人の兄弟姉妹が公正証書遺言の証人になれるかどうかが気になる方もいるかもしれません。
被相続人の兄弟姉妹が証人になれるか否かは、「推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族」に該当するかがポイントになります。
この要件に該当する場合には証人に就くことはできませんが、これに当てはまらなければ証人資格が認められます。
たとえば、遺言者本人に子どもがおらず、既に両親も亡くなっている場合、被相続人の兄弟姉妹が推定相続人になります。
このケースでは、遺言者本人の兄弟姉妹は公正証書遺言の証人になることはできません。
もっとも、遺言者本人の子どもが存命中でであれば、法律上公正証書遺言の証人になることができます。
ただ、当該人物が受遺者であれば当然証人になることはできません。
不測の事態も考えられますし、遺言が無効となるリスクがありますので、一般的には兄弟姉妹に証人になってもらうことは避けるべきでしょう。
ここでは、証人を手配する3つの方法について解説します。
公正証書遺言の証人を手配する最も簡単な方法は、自分の友人や知人、親族を頼ることです。
その際には、推定相続人や受遺者などに該当しないような人物を選出する必要があります。
なお、公正証書遺言の証人には、遺言の内容、遺言者本人の資産状況や家族の関係性など、他人には話しにくい事情を知られてしまいます。
ですから、友人・知人・親族なら誰でもよいというわけではなく、信頼できる人物を選ぶようにしてください。
自分で公正証書遺言の証人を手配できない場合、公証役場に紹介してもらうという方法もあります。
なお、公証役場によって、証人を紹介してもらうときの流れや費用が異なるので、事前に利用を検討している公証役場へ確認するようにしましょう。
公正証書遺言の証人が見つからず困っている方や、自分だけでの判断で希望に沿った遺言書を作成できるか不安な方は、弁護士や司法書士へ依頼するのがおすすめです。
弁護士や司法書士は法律家として相続に関する高い専門知識を備えており、かつ相続実務にも詳しいので、遺言書に関する相談・作成・証人としての業務などを全面的にサポートしてくれます。
また、弁護士や司法書士には守秘義務が課されているので、情報漏えいのおそれがなく、安心して相続をめぐる相談をすることができます。
なお、ベンナビ相続では、公正証書遺言の内容相談や証人依頼に対応できる弁護士を多数紹介しているので、相続について少しでも不安や疑問がある方は、この機会にぜひ活用してください。
公正証書遺言の証人に対して支払う費用相場について解説します。
友人や知人、親族に公正証書遺言の証人をお願いする場合、報酬金額の相場はありません。
たとえば、当事者間での合意に至っているのであれば、数千円~1万円程度の報酬を設定したり、無償で証人を引き受けてもらったりすることも可能です。
ただし、公正証書遺言の証人は大切な役割です。
あとからトラブルが生じないようにするためにも、証人の依頼をする段階で報酬面についても丁寧に交渉するよう努めましょう。
公正証書遺言の証人を公証役場で紹介してもらうときには、証人ひとりあたり一定の費用が発生します。
一般的には1人あたり6,000円~1万円程度が相場です。
ただし、公証役場によって費用体系が異なる点には注意が必要です。
事前に公証役場に問い合わせをしたうえで、証人を依頼するときの流れや費用を教えてもらいましょう。
弁護士や司法書士を頼る場合、相続に関する相談、遺言書の内容に関する打ち合わせ、公正証書遺言の証人業務などをセットで依頼するのが一般的です。
法律事務所によって費用体系は異なりますが、相談料や着手金などを合算した相場は約10万円~が目安です。
公正証書遺言の証人に支払う費用のほか、公正証書遺言を作成するときには手数料が発生します(相談は無料)。
公正証書遺言の作成費用については、公証人手数料令第9条別表で以下のように定められています。
目的の価額 |
手数料 |
100万円 |
5,000円 |
100万円超200万円以下 |
7,000円 |
200万円超500万円以下 |
1万1,000円 |
500万円超1,000万円以下 |
1万7,000円 |
1,000万円超3,000万円以下 |
2万3,000円 |
3,000万円超5,000万円以下 |
2万9,000円 |
5,000万円超1億円以下 |
4万3,000円 |
1億円超3億円以下 |
4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額 |
3億円超10億円以下 |
9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額 |
10億円超 |
24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
※公正証書遺言の作成については、全体の財産額が1億円以下のときには、1万1,000円を加算(遺言加算)
※原本・正本・謄本の発行手数料、公証人の出張手数料など、実費が発生することもある
ここでは、公正証書遺言の証人にお願いする作業や作成当日の流れを解説します。
公正証書遺言を作成するときには証人の立会いが必要です。
証人に公証役場へ来てもらうときには、以下のものを持参してもらいましょう。
公正証書遺言の作成日時はあらかじめ公証役場側から指定されるので、時間に遅れないように丁寧にスケジュールを伝えておきましょう。
公正証書遺言の作成は、おおむねこのような流れで進められます。
(具体的な確認方法は上記と異なる場合があります)
さいごに、公正証書遺言の証人になったときに巻き込まれる可能性があるトラブルについて解説します。
公正証書遺言の証人は相続関係に直接関与するわけではありません。
ですから、遺留分侵害額請求や遺言無効確認訴訟など、相続や遺言をめぐるさまざまな法律トラブルに当事者として巻き込まれる可能性は低いと考えられます。
もっとも、遺言書に不備がある場合には注意が必要です。
手続に沿って作成されている場合には通常問題となりませんが、証人が故意または過失によって遺言書の不備の原因となった場合には損害賠償を請求される可能性はあります。
損害賠償の請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時点から3年間、もしくは不備のある遺言を承認してから20年間消えません。
そのため、証人となったことを忘れた頃に損害賠償を請求されるリスクも否めないため、くれぐれも注意が必要です。
公正証書遺言のケースでは考えにくいものの、遺言書の有効性が争われるような事案では証人は遺言無効確認訴訟への出頭を求められることもあります。
裁判手続では、公正証書遺言を作成した当日の様子について証言を求められるのが一般的です。
たとえば、遺言者本人の意識が明確であったか、遺言者本人の意思確認はどのような方法でおこなわれたのか、公正証書遺言作成当日の手続きの様子などが細かく聴取されます。
なお、裁判所から証言のために出頭を求められた場合、正当な理由がない限りは証言を拒むことはできません。
正当な理由がないにもかかわらず証言を拒否した場合、10万円以下の罰金、もしくは拘留されることがあるだけでなく、裁判所は証人を強制的に出頭させることも可能です。
公正証書遺言の作成を検討していたり、公正証書遺言作成時の証人が見つからずに困っていたりするのなら、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談するのがおすすめです。
というのも、相続や遺言関係の案件を得意とする弁護士へ相談すれば、以下のメリットが得られるからです。
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遺言書の準備など、”終活”を始めるタイミングは早いほうがよいので、できるだけ早いタイミングで信頼できそうな弁護士まで問い合わせをしてください。
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