「自分が亡くなったあとの妻の生活が不安だから、できるだけスムーズに遺産相続をさせたい」「夫が亡くなったのに遺言書がなくて困っている」など、配偶者に先立たれたときや自分が亡くなった後の配偶者のことを考えると、さまざまな不安・疑問が生じるのは当然です。
たとえば、妻のために遺言書を作成するとしても、ほかの相続人とのトラブルが生じないように配慮しなければいけません。
また、遺言書の内容がほかの相続人の遺留分を侵害するものだと、妻側が遺留分侵害額請求権を行使されるなどのトラブルに巻き込まれる可能性が高いでしょう。
そこで今回は、夫の遺産相続をめぐる以下のポイントについてわかりやすく解説します。
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相続対策は準備を始めるタイミングが早いほど幅広い選択肢を考慮できるので、この機会にぜひ信頼できる弁護士や法律事務所までお問い合わせください。
まずは、法定相続人の範囲や相続順位、法定相続分などの基本ルールを押さえましょう。
法定相続人とは、被相続人の財産を承継する権利があると民法上定められた人物のことです(民法第886条?第890条)。
被相続人が遺言書を遺していた場合には、法定相続人以外の人物が遺産を承継することがあります。
一方、遺言書が遺されていないケースでは、法定相続人同士が遺産分割協議をおこなって、遺産の分配方法などについて合意形成を目指します。
配偶者である妻は、常に法定相続人になります(民法第890条)。
ただし、民法上の配偶者と認められるのは正式な婚姻関係にある配偶者に限られ、事実婚状態や内縁関係にあるパートナーは者として認められません。
つまり、相続上のルールでは「長年夫婦同然の生活を送っているか否か」は、法定相続人の資格の有無を判断する際に考慮されないということです。
たとえば、長期間別居状態が継続していたとしても、離婚届を提出していない限りは、配偶者として相続権を有すると扱われます。
そのため、長年連れ添ったものの籍を入れていないパートナーに対して財産を遺したいと考えているのであれば、その旨を記載した遺言書の作成が必要です。
常に法定相続人となる妻以外の血族相続人については、以下のとおり相続順位がルール化されています(民法第887条、民法第889条)。
第1順位の法定相続人:子ども |
直系卑属である子どもおよび代襲相続人(孫・ひ孫)が第1順位と扱われる。 なお、元配偶者との間に子どもがいる場合には、その子どもも第1順位の法定相続人になる。 |
---|---|
第2順位の法定相続人:直系尊属 |
直系尊属である父母・祖父母などが第2順位の法定相続人と扱われる。 第2順位の法定相続人に相続権が生じるのは、第1順位の法定相続人が存在しない場合に限られる。 |
第3順位の法定相続人:兄弟姉妹 |
傍系血族である兄弟姉妹およびその代襲相続人(甥・姪など)が第3順位の法定相続人と扱われる。 第3順位法定相続人に相続権が回ってくるのは、第1順位および第2順位の法定相続人が存在しない場合に限られる。 なお、同じ傍系血族でも、伯父・伯母は第3順位法定相続人には含まれない。 |
後順位の法定相続人が相続権を取得するのは、自分よりも先順位の法定相続人が存在しない場合に限られます。
たとえば、被相続人に子どもがいるケースなら、直系尊属や兄弟姉妹が相続権を取得することはありません。
民法では、誰が法定相続人として財産を承継するかによって、法定相続分の割合を定めています(民法第900条)。
相続人の構成別の法定相続分については、下表のとおりです。
相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者のみ | 配偶者:100% |
配偶者と子ども | 配偶者:1/2 子ども:1/2(人数で等分。たとえば、子どもが2人の場合は1/2×1/2=1/4) |
配偶者と親 | 配偶者:2/3 親:1/3(人数で等分。たとえば、両親がご存命の場合は1/3×1/2=1/6) |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4(人数で等分。たとえば、兄弟姉妹が3人の場合は1/4×1/3=1/12) |
遺言書が存在しない場合や、遺言書は遺されているものの具体的な相続分について記載がない場合には、遺産に含まれる全ての財産の経済的価値を算出したうえで、上記の法定相続分ルールどおりに配分することになります。
そのため、妻が夫の遺産相続について検討する際には、「ほかの法定相続人は誰か」「ほかの法定相続人との関係性から導かれる具体的な法定相続分はいくらなのか」を確認しましょう。
夫が死亡して遺産相続をする時の手続きの流れは、夫が遺言書を遺しているか否かによって異なります。
ここでは、遺言書がある場合とない場合に分けて、夫の遺産相続の流れを紹介します。
夫が遺言書を作成していなかった場合、夫の遺産相続をどうするかについては相続人全員で話し合い(遺産分割協議)をして分割方法を決定するのが原則です。
相続人全員での遺産分割協議が円滑に進んで夫の遺産分割方法について合意形成に至ったときには、遺産分割協議書を作成します。
そして、遺産分割協議書の内容に従って、夫の遺産は各相続人等に分配されます。
これに対して、相続人同士で意見が衝突するなどして遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、家庭裁判所の調停委員のサポートを受けながら合意形成を目指さなければいけません。
遺産分割調停手続き内で無事に和解に至れば、作成された調停証書の内容に沿った形で夫の遺産が分割されます。
一方、遺産分割調停手続きを経ても和解成立に至らないケースでは、自動的に遺産分割審判手続きに移行し、家庭裁判所が遺産分割方法について終局的な判断を下します。
遺産相続について被相続人である夫の意向を知る手段がない以上、相続人全員で話し合いをするのは仕方のないことですが、相続人同士の関係性がうまくいっていないケースなどでは、遺産分割協議や遺産分割調停手続きが長期化しかねません。
遺産相続問題に強い弁護士へ相談すれば、遺産分割協議段階から相続人全員の意見・感情に配慮して交渉などをサポートしてくれるので、遺産相続手続きの早期終結を期待できるでしょう。
遺言書は、遺産相続等について被相続人の最終的な意思や考えが記載された書面のことです。
そのため、被相続人である夫が遺言書を作成していた場合、故人の意を汲んで遺言書の内容に従って遺産分割するのが通常でしょう。
ただし、遺言書の内容が過度に配偶者にとって有利な内容になっており、他の相続人の遺留分を侵害するような状況だと、被相続人が死亡した後に遺留分侵害額請求権を行使される危険性が生じます。
また、認知症などが原因で遺言書作成時に正常な判断能力を有さなかった疑いがあるケースでは、遺言無効確認訴訟を提起されるなどして、遺産相続トラブルが深刻化しかねません。
つまり、遺言書の内容や作成プロセスに疑義が生じる事案では、仮に夫の遺言書が遺されていたとしても、夫の遺産相続が円滑に進まない可能性があるということです。
ですから、夫の遺言書が存在する場合でも、その内容どおりに遺産分割手続きを進めても問題ないのかを確認するために、念のため一度は遺産相続問題に強い弁護士へ相談することを強くおすすめします。
夫が死亡して妻が遺産を相続する場合、遺産分割手続きだけではなく、相続後に発生する相続税にも注意が必要です。
ここでは、妻が負担する相続税の計算方法や相続税の節税対策に役立つ制度について解説します。
相続税とは、被相続人の遺産を相続したときに課税される税金のことです。
財産を取得した人それぞれの課税価格の合計額が、遺産に係る基礎控除額を超える場合に、その財産を取得した人は、相続税の申告・納付をしなければいけません。
相続税の計算手順は、大きく5つのステップに分けられます。
遺産総額 =(プラスの財産 + みなし相続財産 + 相続開始前7年以内の贈与)- マイナスの財産 |
課税遺産総額 = 遺産総額 - 基礎控除額 |
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数) |
相続税額 = 法定相続分による取得金額 × 税率 - 控除額 |
なお、ここまで紹介したものは大まかな流れとなります。
詳細な手順や計算式については、以下の記事を参考にしてください。
なお、相続税の申告・納付期限は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内」と定められています。
この申告・納付期限までに、被相続人の住所地を所轄する税務署へ必要書類を提出し、相続税が発生する場合には納付まで済ませなければいけません。
相続税の申告・納付期限までに必要な手続きを完了しなければ、延滞税や各種加算税がペナルティとして科されるので、ご自身だけで相続税関連の処理を進めるのが不安なら、できるだけ早いタイミングで弁護士や税理士まで相談・依頼しましょう。
次に、妻が夫の遺産相続をするときに課税される相続税を計算するときのポイントや配偶者控除制度について解説します。
相続税を計算する際には、基礎控除額がポイントになります(③、④)。
なぜなら、夫の遺産総額が基礎控除額の範囲内で収まるなら、相続税が課税されることはないからです。
なお、相続税の基礎控除額は、【3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)】で算出できます。
たとえば、法定相続人が妻と子ども2人の合計3人なら、【3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円】が基礎控除額となります。
遺産総額が4,800万円以内に収まる場合には相続税が発生しないので、相続税の申告・納付手続きをする必要はありません。
「相続税を納付できないから相続放棄をするしかない」など、被相続人の配偶者が希望どおりに遺産相続できない状況を回避するために、相続税制度には「配偶者の税額の軽減(相続配偶者控除)」という制度が設けられています。
「配偶者の税額の軽減(相続配偶者控除)」とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した正味の遺産額が、以下の金額どちらか多い金額までなら配偶者に相続税はかからないという制度のことです。
「配偶者の税額の軽減(相続配偶者控除)」制度が適用されるためには、以下の要件を満たす必要があります。
ここからわかるように、「配偶者の税額の軽減(相続配偶者控除)」を利用できるのは、婚姻届を提出した戸籍上の配偶者に限られます。
婚姻期間が数ヵ月、数日程度であったとしても、戸籍上の妻でありさえすれば、「配偶者の税額の軽減(相続配偶者控除)」の適用対象になる一方で、どれだけ長期間同居の実態があったとしても、内縁や事実婚状態のままでは「配偶者の税額の軽減(相続配偶者控除)」は利用できません。
被相続人が死亡すると、故人の意思に反して想定外の遺産相続トラブルが生じる可能性があります。
「妻を遺産相続トラブルに巻き込みたくない」「自分が生きているうちに妻の老後の生活を保障できる環境を作っておきたい」とお考えなら、可能な限りの準備を早めに進めておくのがおすすめです。
ここでは、遺産相続争いに妻を巻き込まないために夫ができる3つの生前対策について解説します。
妻を遺産トラブルに巻き込みたくないなら、被相続人の意思を明確にした遺言書を作成するのがおすすめです。
遺言書には遺産分割に関する被相続人の意思や希望を記載できるので、遺言書を確認した相続人たちが故人の意思を汲んだ遺産分割に同意してくれるでしょう。
ただし、遺言書には何を記載してもよいというわけではありません。
たとえば、「妻に全財産を相続させる」というような、ほかの相続人の遺留分を侵害するような内容の遺言書を作成すると、被相続人の死亡後に妻が遺留分侵害額請求権を行使されるなどのトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
そのため、自分が亡くなったあとの妻のためのことを思うなら、ほかの相続人の感情や考え、遺留分などにも配慮した遺言書を作成するようにしましょう。
生前贈与とは、存命中に自己の財産を無償で他者に譲ることです。
被相続人の死亡後に財産を移転する相続と異なり、生きている間に希望する相手に財産を分け与えることができる点に特長があります。
一般的に、生前贈与には以下のメリットがあります。
ただし、節税効果を意識しながら生前贈与を実施する際には、相続時精算課税制度や暦年贈与をどのように駆使するのか、暦年贈与を選択するとして毎年どのような方式で生前贈与をするのかなど、中長期的な観点から判断をする必要があります。
妻に対して優先的にまとまった現金を承継させたいなら、生命保険の受取人を妻に指定しておくこともおすすめです。
生命保険を契約しておくことで、被保険者が死亡した際に保険金が受取人へ支払われます。
この保険金は、遺産ではなく受取人の固有財産となるため、ほかの相続人と遺産分割せずに保険会社から受け取ることが可能です。
遺言書を作成したものの、相続人間でのトラブルが想定される場合には、遺留分としてほかの相続人へ支払うためのお金を、保険金としてあらかじめ受け取れるよう対策を講じるのもひとつの手です。
最後に、夫の遺産相続について妻からよく寄せられる質問をQ&A形式で解説します。
法定相続人の地位を与えられるのは、「戸籍上の配偶者」だけです。
そのため、どれだけ長期間同居をして夫婦同然の生活をしていたとしても、内縁関係や事実婚状態だけでは法定相続人として相続権を取得することはできません。
そのため、内縁関係や事実婚状態のパートナーに対して財産を遺すには、婚姻届を提出して法律上の夫婦になるか、内縁関係のパートナーに対して財産を承継させる旨の遺言書を作成する必要があります。
離婚をした場合、前妻は法定相続人の地位から外れるので、相続権を取得することはありません。
ただし、前妻との間の子どもは第1順位の法定相続人のままです。
たとえば、前妻との間に子どもを授かったあとに離婚をし、再婚後に死亡すると、前妻との間に授かった子どもと後妻が法定相続人となり、それぞれ1/2ずつ相続をします。
生前贈与が「特別受益」に該当すると判断されると、生前贈与分の財産が遺産分割の対象に含まれます。
特別受益とは、一部の相続人だけが被相続人から遺贈・生前贈与によって利益を受けた場合に、その相続人が受けた贈与などの利益を指します(民法第903条第1項)。
特別受益に該当すると判断されると、生前贈与として引き渡された財産が相続財産に持ち戻され、生前贈与分も含めて遺産分割がおこなわれます。
特別受益に含まれるか否かは、時流や被相続人の経済状況、ほかの相続人との格差を鑑みつつ、「遺産の前渡しに該当するか」という基準で判断されます。
具体的には、親族間の扶養の範囲を超えるような援助であれば特別受益に該当すると扱われることが多いようです。
ただし、生前贈与のうち、特別受益にあたる贈与とそうでない贈与の区別は容易ではありません。
以下の記事を参考にしつつ、弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
夫の遺産相続について不安がある場合や、妻を遺産相続トラブルに巻き込みたくないと考えている場合には、念のために弁護士へ相談することを強くおすすめします。
相続問題に強い弁護士の力を借りることで、以下に挙げたようなメリットを得られます。
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