遺産分割が終わったあとで、被相続人の遺品などから遺言書が発見されるケースがあります。
遺言書があとから出てきた場合、原則として遺産分割をやり直さなければなりません。
面倒に感じられたとしても、遺産分割のやり直しをおこなわずに放置していると、深刻なトラブルが発生するリスクが高まるので注意が必要です。
弁護士のサポートを受けながら、速やかに遺産分割のやり直しを進めましょう。
本記事では、遺産分割の完了後に遺言書があとから出てきた場合の対処法を解説します。
時間が経ってから出てきた遺言書への対応にお悩みの方は、本記事を参考にしてください。
遺産分割が終わったあと、時間が経ってから遺言書が見つかり、どのように対応すればよいか迷ってしまっている方は少なくありません。
特に、亡くなった被相続人が遺言書の存在を家族などへ伝えていなかった場合は、このような事態が生じるリスクが高くなります。
遺産分割後に遺言書が出てきた場合には、まず遺言書が有効なものであるかどうかを確認しましょう。
遺言書が有効であれば、原則として遺産分割のやり直しが必要になります。
ただし、相続人全員の合意があれば、遺産分割をやり直さずに済むこともあります。
まずは、遺産分割のあとで発見された遺言書が有効なものであるかどうかを確認する必要があります。
遺言書の有効性を確認する際のポイントは、主に以下の3点です。
認知症によって判断能力が大幅に低下している場合などには、遺言能力が認められず、遺言書を作成することはできません。
遺言能力がない状態で作成された遺言書は無効です。
遺言書の日付を確認し、その時点において被相続人の判断能力が大幅に低下していなかったかどうかを確認しましょう。
遺言書は本人のみが作成できます。
偽造された遺言書は無効です。
また、遺言書の一部が変造(改ざん)された場合には、遺言書の全部または一部が無効となります。
公正証書遺言や法務局で保管されている自筆証書遺言については、基本的に偽造・変造のリスクはありません。
これに対して、法務局で保管されていない自筆証書遺言や秘密証書遺言については、偽造・変造のリスクがあります。
遺言書の筆跡が本人のものであるかどうかなどを確認しましょう。
遺言書は、民法の形式に沿って作成しなければ無効となります(民法960条)。
公正証書遺言については、公証人が作成するため、形式不備によって無効となるリスクは基本的にありません。
これに対して、自筆証書遺言や秘密証書遺言は、形式不備によって無効となるケースが多数見受けられます。
自筆証書遺言と秘密証書遺言については、以下の形式要件を満たしていなければなりません。
自筆証書遺言または秘密証書遺言があとから見つかった場合には、上記の形式要件を満たしているかどうかを確認しましょう。
判断が難しい場合には、弁護士に相談ください。
遺産分割のあとで発見された遺言書が有効なものである場合には、原則として遺産分割よりも遺言書が優先されます。
遺言書には時効のような期間制限がありません。
見つかったのがいつであるかにかかわらず、遺言書は有効なものとして取り扱われます。
よって、遺産分割のあとで遺言書が見つかった場合には、遺産分割によって分けた財産を元に戻したあと、遺言書に従って財産を分け、残った財産につき改めて遺産分割をおこなわなければならないのが原則です。
ただし、相続人全員の合意があれば、遺言書とは異なる方法によって遺産分割をおこなうこともできると解されています。
したがって、遺産分割のあとで遺言書が発見されても、先行する遺産分割の内容を維持する旨を相続人全員で合意すれば、遺産分割のやり直しを回避することが可能です。
ただし例外的に、相続人全員の合意があったとしても、従前の遺産分割の内容を維持することができず、遺産分割をやり直さなければならないケースがあります。
どのようなケースにおいて遺産分割のやり直しが必要となるかについては、次の項目で詳しく解説します。
あとから遺言書が出てきた場合は、まず遺言書の内容に従って遺産を分けたうえで、残った遺産について改めて遺産分割をおこなうのが原則です。
その一方で、相続人全員の合意があれば、遺言書とは異なる方法で遺産分割をすることもできます。
あとから遺言書が出てきても、遺産分割をやり直さずに、すでに完了した遺産分割の内容を維持することも可能です。
ただし、相続人の合意があったとしても、以下のような事情がある場合には、遺産分割をやり直さなければなりません。
遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。
遺言書があとから出てきたにもかかわらず、遺産分割をやり直さないということは、「遺言を執行しない」ことを意味しており、その判断は遺言執行者に委ねられています。
したがって、遺言書によって遺言執行者が指定されており、就任した遺言執行者が遺言執行の中止を拒否した場合には、遺言を執行したあとに残った遺産について、改めて遺産分割をおこなわなければなりません。
遺言書では、推定相続人を廃除する意思を表示することが認められています(民法893条)。
推定相続人の廃除とは、被相続人に対する虐待・重大な侮辱その他の著しい非行があった推定相続人につき、相続権をはく奪することをいいます。
家庭裁判所が廃除事由を認めた場合には、その推定相続人は相続権を失います。
遺言書によって一部の相続人が廃除された場合には、遺言書の発見前におこなわれた遺産分割の結果を維持することはできません。
相続人でない者が参加しておこなわれた遺産分割は、その効力を認められないためです。
この場合は、廃除された推定相続人を除いたうえで、遺産分割をやり直さなければなりません。
遺言書では、非嫡出子(婚姻外で生まれた子)を認知することが認められています(民法781条2項)。
認知とは、生物学上の子であるものの法律上の親子関係がない者を、生物学上の親が自らの子であると認め、法律上の親子関係を発生させる手続きです。
認知されていない非嫡出子は、生物学上の子であっても親の相続権を有しません。
しかし、遺言によって認知された非嫡出子は、相続権を取得します。
この場合、遺言書の発見前におこなわれた遺産分割は、相続人である非嫡出子が参加していないため無効となり、やり直しが必要になります。
遺言書では、相続人以外の者に対して遺贈をおこなうことも認められています(民法964条)。
遺言書によって財産が相続人以外の第三者に遺贈された場合、その財産は当該第三者に移転しなければなりません。
遺言書が発見される前の遺産分割では、第三者に遺贈された財産も相続人が譲り受けているでしょうから、遺産分割のやり直しが必要になります。
遺産分割からかなりの時間が経過していると、あとから遺言書が発見されても、遺産分割のやり直しが難しいケースがあります。
すでに譲り受けた遺産を処分してしまっていたり、金銭を使い込んでしまっていたりすることがあるからです。
遺産分割そのもののやり直しが難しい場合には、遺産の価値を金銭に換算して精算するなど、別の方法を検討しなければなりません。
どのような解決策が妥当であるかは状況によって異なるので、弁護士と相談しながら適切に判断しましょう。
遺産分割の完了後に遺言書が発見された場合には、状況に応じて異なる対応を使い分けることが必要になります。
どのような対応が必要になるかを判断するに当たっては、遺言書の有効性や内容、各相続人の意向、遺産の内容や現況など、さまざまな要素を総合的に考慮しなければなりません。
そのため、弁護士のサポートを受けながら対応を検討することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、あとから出てきた遺言書について、個々の事情に合った対応の方法をアドバイスしてもらえます。
できる限りトラブルのリスクを抑えつつ、手間の少ない方法を提案してもらえるでしょう。
遺産分割が終わったあとに遺言書が見つかって、その対応にお悩みの方は、お早めに弁護士へご相談ください。
遺言書あとからみつかった場合の対応に関して、よくある質問と回答をまとめました。
遺産分割をやり直す必要があります。
具体的には、遺産分割によって分けた財産を元に戻したあと、遺言書に従って財産を分け、残った財産につき改めて遺産分割をおこないます。
遺言書の隠匿は相続欠格事由に当たるため(民法891条5号)、遺言書を隠した相続人は、やり直しの遺産分割に参加できません。
複数の遺言書が存在する場合には、法律上の有効要件を備えているもののうち、最後に作成されたものが効力を有します(民法1023条1項)。
ただし、後の遺言の内容と抵触しない前の遺言の内容については、引き続き効力を有する場合がある点に注意が必要です。
また、遺言能力や偽造・変造、形式要件などの観点から法律上無効である遺言書については、除外する必要があります。
どの遺言書のどの内容が有効であるかについては、弁護士にアドバイスを求めるのが安心です。
遺言書の存在を無視して、従前の遺産分割の内容を維持しようとすると、遺言書によって財産を取得する者(=受遺者)のうち、少なくとも一部は不利益を被ります。
受遺者が不利益を受け入れるのであれば問題は生じませんが、一人でも不利益を拒否する受遺者がいれば、ほかの相続人との間でトラブルになってしまう可能性が高いです。
また、見つかった遺言書への対応を放置していると、時間の経過に伴って承継した遺産が散逸し、遺産分割のやり直しが難しくなってしまうことも懸念されます。
有効な遺言書に基づく受遺者が権利を主張すれば、相続人は基本的にそれを拒むことができません。
遺産分割のやり直しについて深刻なトラブルを生じさせないためにも、遺言書が見つかったら無視せず対応することをおすすめします。
その際には、対応の方法について弁護士のアドバイスを求めましょう。
遺言書の存在を知らなかったことが重大な「錯誤」であることを理由に、相続放棄を取り消せる可能性があります(民法95条、919条2項)。
錯誤に基づいて相続放棄を取り消そうとする際には、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法919条4項)。
取り消しが認められるかどうかは、家庭裁判所の判断に委ねられます。
なお、相続放棄の追認をすることができる時(=遺言書の存在を知った時)から6か月間が経過すると、取消権が時効によって消滅します(民法919条3項)。
取消権が時効消滅すると、相続放棄を取り消すことはできなくなります。
遺産分割が完了したあとで遺言書が見つかった場合には、原則として遺産分割をやり直さなければなりません。
相続人全員の合意があれば、従前の遺産分割の内容を維持できることもありますが、それが認められないケースもあるので注意が必要です。
相続開始後時間が経ってから見つかった遺言書については、個々の状況に応じた慎重な対応が必要になります。
どのように対応すべきかについては、弁護士のアドバイスを求めるのが安心です。
弁護士に依頼すれば、依頼者の希望や家庭の状況などを踏まえつつ、相続トラブルを適切な形でスムーズに解決できるようにサポートしてもらえます。
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