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遺言執行者の役割と権限|遺言の内容を確実に実行する方法

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遺言書の内容を実現するために、遺言執行者が必要になる場合があります。遺言執行者に任せられる役割や権限は大きく、慎重に選定しなくてはなりません。

そうはいっても、遺言による相続手続きに慣れていない場合、遺言執行者について分からないことも多いのではないでしょうか。

そこで本記事では遺言執行者とは何かや必要となるケース、選任方法、遺言執行者に与えられる権限や役割、遺言執行者の職務の流れについて解説します。

本記事を読めば、遺言執行者の必要性や概要を理解し、スムーズに遺言による相続手続きをすすめられるようになるでしょう。

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遺言執行者とは|遺言の内容を実現する権限と役割を任せられた人

遺言執行者は、故人の遺志を実現するために遺言に記された指示に従い、必要な職務を遂行する者のことです。

遺言の効力が発揮されるのは遺言者が亡くなった後であり、その際に遺言の指示に従って遂行する人が必要になることがあります。

遺言執行者が必要となるケース

相続の際に、必ず遺言執行者が必要になるわけではありません。相続人全員が遺言書の内容に反対することなく、スムーズに相続手続きを完了させられるのであれば、遺言執行者は必要ないのです。

遺言書の内容に納得していない相続人がいて、相続手続きが進まない場合に遺言執行者が必要になります。この場合、遺言執行者が自らの権限で遺言の内容を実現するわけです。

また遺言書で相続人廃除や認知に関する記載があるときも、遺言執行者が必要となります。相続人廃除とは、被相続人が相続人の権利をはく奪する手続きです。

被相続人が生前、その相続人から虐待を受けるなど際立った非行があった場合に、相続人廃除がおこなわれます。

次に被相続人が遺言書で婚姻関係のない相手との間に生まれた子どもを認知する場合、その子どもは相続人となるのです。

認知された子どもは、相続人として遺産を相続できるようになります。

遺言執行者は、遺言書に指定された相続人廃除や認知の手続きを実行する役割を担うのです。

遺言執行者に与えられる権限

日本の民法では、遺言執行者は遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をおこなう権限を持っています(民法1012条)。

具体的には、相続財産の管理や遺言の検認、各種の名義変更、預貯金の払い戻し及び相続人・受贈者への交付、遺産の分割、遺贈、寄付、子どもの認知、相続人の廃除やその取消しなどの権限が含まれます。

相続法改正により遺言執行者の権限が強化された

2019年7月1日に施行された改正民法により、遺言執行者の権限は以前よりも大幅に強化されました。この変更により、遺言執行者を選任することのメリットがいっそう明確になりました。

以下、具体的にどのような点が強化されたかみていきましょう。

相続人の代理人から独立した立場になった

改正前の民法では、遺言執行者は相続人の代理人とされていました。改正法では遺言執行者は相続人の代理人ではなく、独立した立場を持つと明記されています(民法1015条)。

相続人の代理人とされた従来は、遺言書の内容が相続人の利益と反する場合に疑義が生じることもありました。

遺言書の内容は、必ずしも相続人の利益につながるわけではありません。たとえば遺言書で「遺産は全て故郷の自治体に寄付する」といったように、相続人の利益に反する内容が指定されていることもあるでしょう。

そんなときに相続人からは、「相続人の代理人なのに、なぜ相続人に不利益な遺言を実行するのか」といわれていました。

そこで改正法では遺言執行者が相続人の代理人でなく、文字通り遺言の執行者として独立した立場であることを明示したのです。

(遺言執行者の行為の効果)

第千十五条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

引用元:民法 | e-gov法令検索

相続人の妨害行為は無効とされる

改正法では、遺言執行者の行為を妨害する相続人の行為は無効になるとされています(民法1013条1項)。

これにより、遺言執行者は遺言に基づいて行動する際、相続人からの不当な干渉を受けにくくなりました

ただし、善意の第三者に対する影響はこの限りではありません(民法1013条2項但し書き)。

単独での相続登記が可能となった

遺言で特定の不動産を特定の相続人へ相続させると明記されていた場合における遺言執行者の権限が、法改正によって強化されました。

従来は、このような場合に遺言執行者が単独で名義変更の登記申請をすることはできず、不動産の相続を受ける相続人が自分で登記をしなくてはならなかったのです。

改正法では遺言に従い特定の不動産が特定の相続人へ相続させる際に、遺言執行者が単独で登記申請をおこなえるようになりました。

預貯金の払戻・解約の権限が正式に認められた

法改正により、遺言執行者が被相続人の預貯金を払戻・解約する権限が正式に認められました。

具体的には、たとえば遺言でA銀行の普通預金500万円は相続人Bに相続させると特定されていた場合、遺言執行者は本権限を行使できるのです。

逆にいえば、遺言でこのように具体的な指定がない場合は、遺言執行者といえども預貯金の払戻や解約はできないことになります。

なお、改正前から金融機関では遺言執行者による預貯金の払戻・解約を認める慣習があったことから、実質的な影響はありません。

法改正により、このような権限が法律上正式に認められたということです。

権限強化に伴い、相続人に対する通知が必要に

改正法では、遺言執行者の権限が強化されたこともあり、遺言の執行を開始したことを相続人へ速やかに通知することが義務化されました。

改正前は通知の義務がなかったことから、相続人の知らないうちに相続が開始され問題になったことも少なくなかったのです。

なお、改正法で通知の義務があるとされているのは相続人に対してであり、受遺者※に対しては特に指定はありません。

しかし相続手続きを滞りなくすすめるためにも、受遺者に対しても通知することが推奨されます。

※遺言によって財産を渡す(遺贈の)対象とされた人のことを受遺者と呼びます。

遺言執行者に任せられる主な役割・義務

遺言執行者とはどのような存在かや、民法の改正で遺言執行者の権限が強化されたことをみてきました。

それでは遺言執行者は具体的にどのような役割が求められるのでしょうか。本項では、遺言執行者に任せられる主な役割や義務をみていきましょう。

相続人を確定すること

遺言執行者は相続が開始されたら、まず戸籍謄本などを調査して相続人を速やかに確定することが求められます。

遺言を実現するためには、対象となる相続人の範囲を認識する必要があるからです。そのうえで全ての相続人に遺言執行者に就任した旨の通知をします。

相続財産を調査すること

遺言執行者は、相続に関わる全ての財産を調査し、正確な財産目録を作成する義務があります。

この調査には、遺言書に記載されている財産だけでなく、遺言作成後に新たに発生した財産も対象として含まれます。

銀行の残高証明の取得や不動産関連書類の確保、さらには相続人からの情報収集など、状況に応じた幅広い対応が求められます。

財産目録を作成すること

遺言執行者は、相続財産の詳細な目録を作成し、全ての相続人に交付する必要があります。民法ではこの作成と交付を遅滞なくおこなうことが求められています。

この財産目録は、相続人が相続の方法(単純承認、限定承認、相続放棄)を決定するうえで重要な情報源となります。

相続人は財産目録の作成過程に立ち会う権利もあり、作成の遅延や重大な過失があれば損害賠償請求の対象となる可能性があります。

相続財産を引き渡すこと

遺言執行者は遺言の内容を実現するために、相続財産の解約や名義変更といった手続きをしたうえで、財産や権利を相続人へ引き渡します。

なお遺言の執行にあたってかかった費用に関しては、原則として相続人へ請求することが可能です。また遺言執行に関わる報酬を求めることもできます。

その他の主な役割・義務

遺言執行者は、遺言書を実現するための各種手続きについて、進捗状況を相続人に適宜報告する必要があります。また相続人から問い合わせがあった際には、随時回答しなくてはなりません。

遺言執行者は、相続財産を管理することも求められます。一般的に遺言執行者に求められる程度の注意義務を怠り、相続財産が失われた場合は相続人などから損害賠償を請求される可能性もあるのです。

相続財産に関わる受取物があった際には、それを相続人に引き渡す義務もあります。

遺言執行者を選任する3つの方法

遺言執行者はどのようにえらばれるのでしょうか。本項では、遺言執行者を選任する3つの方法をひとつずつみていきましょう。

被相続人が遺言書で指定する方法

遺言執行者を選任するもっとも一般的な方法は、遺言者が遺言書において直接遺言執行者を指名することです。

たとえば、◯◯氏を遺言執行者とする」という具体的な記載を遺言書に加えることで、遺言執行者が指定されます。

この方法では、遺言者は遺言内容をきちんと実現してくれるような信頼のおける人物を遺言執行者として指名するのです。

被相続人が遺言書で遺言執行者の指定者を指示する方法

遺言者は遺言執行者を誰にするか決めかねる場合に、遺言書で遺言執行者を指定する人物を定めることも可能です。

この場合、遺言執行者の指定者とされた人は、相続が開始されたら速やかに遺言執行者を選任する必要があります。

相続人が家庭裁判所に申し立てて選任してもらう方法

遺言書に遺言執行者の記載がない場合や、遺言執行者に指定された人に就任を拒否された場合などは、家庭裁判所に申し立てることで遺言執行者を選任してもらうことができます。

相続人、受遺者、または遺言者の債権者がこの申し立てをおこなうことができ、遺言執行者の候補者を裁判所に提案することも可能です。

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遺言執行者の職務の流れ

遺言執行者は、就任後どのような流れで役割を遂行する必要があるのでしょうか。ここでは、遺言執行者が期待される職務をおこなう際の一般的な流れをみていきましょう。

①相続人調査をおこなう

相続人を特定するため、被相続人の生涯にわたる戸籍謄本などの収集・調査をおこないます。この作業は時間と労力を要し、戸籍に関する深い知識が必要です。

②遺言執行者に就任した旨を通知する

相続人の特定がすんだら、遺言執行者に選ばれ、その役割を受諾したことを、全ての相続人に対して通知することが必要です。各相続人へ就任通知を発送します。

➂相続財産の調査をおこなう

被相続人の財産を総合的に調査し、積極財産(プラスの財産)と消極財産(マイナスの財産)の両方を特定します。

この調査は相続税の計算や節税戦略を検討するうえでも必要となるので、細心の注意を払っておこなわれるべきです。

④財産目録の作成と送付をおこなう

相続財産の調査が完了次第、財産目録を作成し、全ての相続人に送付します。この際、遺言書のコピーも一緒に添付することが望ましいです。

⑤遺言内容を実現するための各種手続きをおこなう

遺言に基づくさまざまな手続きを進めます。具体的には、預貯金口座の解約や名義変更、相続人への払い戻し、相続に伴う不動産の相続登記などが含まれます。

特に不動産に関する手続きは複雑であり、収集すべき書類の種類や量が膨大なので専門家でないと難しいでしょう。

その他、必要に応じて公共料金の支払いや株式、自動車などの名義変更などもおこないます。

⑥相続人全員に業務の終了報告をする

全ての職務が完了したら、相続人全員に対して業務の終了を書面で報告します。これにより、遺言執行者の役割が正式に完了したことになります。

遺言執行者になれる人・なれない人

誰でも遺言執行者になれるわけではありません。また相続人や親族でなくても遺言執行者になることはできます。

ここでは遺言執行者になれる人・なれない人は誰か、具体的にみていきましょう。

遺言執行者の資格がある人

基本的には、遺言執行者の資格がない人でなければ、誰でも遺言執行者になれます。

一般的には相続人や配偶者・子どもなどの親族、遺言書作成を依頼した弁護士などの専門家が選任されることが多いです。

遺言執行者は相続人の利害と特に関係はしないことから、法律的に相続人が遺言執行者になることもできるのです。

また遺言執行者は、必ずしも1人だけというわけではありません。複数人選任して、職務を分担することも可能です。

遺言執行者が複数人いる場合、任務の遂行は過半数で決めることになります。

そのため遺言執行者が偶数で過半数にならない可能性がある場合、遺言の執行がスムーズに進まなくなる可能性があるので注意してください。

遺言執行者の資格がない人

遺言執行者になる資格がない人は、未成年者と破産者です。遺言執行者としての資格の有無は、遺言書の作成時ではなく、遺言者の死亡時点で判断されます。

たとえば、遺言書作成時に未成年であった人も、遺言者の死亡時に成人していれば遺言執行者になることができます。

逆に、遺言書作成時には債務がなかったとしても、遺言者の死亡時に破産者となっている場合、遺言執行者になる資格はありません。

遺言執行者の報酬の相場

専門家が遺言執行者として選任された場合、その報酬は遺産の総額に応じて変動します。遺産の価値が高くなるほど、報酬も増加する傾向にあります。

また、依頼される専門家の種類や事務所によっても報酬額は異なります。一般的な相場は以下のとおりです。

  • 遺産の価額が約300万円の場合:30万円が相場。
  • 遺産の価額が約3,000万円の場合:60万円が相場。
  • 遺産の価額が更に高額の場合:報酬は遺産総額の1~3%が一般的

遺言執行者についてよくある質問

相続手続きに慣れていない方の場合、遺言執行者についてわからないことも多いでしょう。本項では、遺言執行者に関してよくある質問をみていきましょう。

遺言執行者に選任されたら拒否や辞任はできる?

遺言執行者に選任された後でも、就任前であれば自由に拒否することが可能です。「忙しくて対応できない」という方も少なくないでしょう。

拒否する方法に決まりはありませんが、かたちに残るように口頭より書面の方が推奨されます。

なお選任者に指定された期間内に返答しなかった場合、就任を承諾したものとみなされるので注意してください。

一方、一度就任した後の辞任には正当な理由が必要とされます。たとえば、重い病にかかったり長期の出張をすることになったりなど、客観的に職務を続けるのが困難な状況となった場合です。

就任後に辞任する場合は、家庭裁判所に申し立てをおこない、裁判所がその申し立ての正当性を判断します。

このように就任後は自由に辞任できなくなるので就任前に職務の完遂が可能かしっかりと検討することが必要です。

遺言執行者を解任することはできる?

家庭裁判所に申し立てることで、遺言執行者を解任することは可能です。ただし解任するためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 相続人・受遺者など相続の利害関係者全員が解任に同意していること
  • 解任する正当な理由があること

解任の正当な理由とは、たとえば遺言執行者が著しく職務を怠っていたり病気によって職務を遂行できる状態でなかったりなどです。

相続財産を不正に使い込んでいた場合や、一部相続人の利益に加担していたような場合なども、解任の正当な理由とされます。

一方、単に「気に入らない」とか「報酬を支払いたくない」といっただけでは正当な理由とみなされません。

遺言執行者が亡くなってしまった場合はどうすれば?

遺言執行者が相続開始前に死亡した場合、遺言者は遺言書を書き換えて新たな遺言執行者を指名することができます。

しかし、遺言書の書き換えがおこなわれずに相続が始まった場合、遺言執行者が不在となり、相続人は家庭裁判所に新たな遺言執行者の選任を申し立てる必要があります。

もし遺言執行者が相続開始後に死亡した場合、その地位は遺言執行者の相続人には引き継がれず、相続人が再度遺言執行者の選任を申し立てる必要が生じます。

このプロセスを通じて、新たな遺言執行者が選ばれ、遺言の意図に沿った執行が継続されることになります。

遺言執行者への報酬を遺留分から支払うことはできますか?

遺言執行費用は、相続財産から控除して支払われます。一方で遺言を執行するための費用によって、遺留分を減ずることはできないと民法で定められています。

そのため遺言執行者への報酬を、遺留分から捻出することはできませんので、遺言書で予め遺言執行者を指定するときは注意が必要です。

※遺留分とは兄弟姉妹以外の相続人に保障されている、最低限度の相続割合です。

(遺言の執行に関する費用の負担)

第千二十一条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。

引用元:民法 | e-gov法令検索

さいごに

遺言による相続手続きに納得しない相続人がいる場合などは、相続手続きをすすめるために遺言執行人が必要です。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するための役割と責任を担います。遺言執行者には遺言を遂行するのに必要となる多くの権限が与えられており、慎重に選定することが必要です。

遺言執行者には、法律的に専門的な知識を要する複雑な職務が任されることもあります。

遺言執行者が就任した場合、正当な理由なく辞任したり解任したりすることもできません。遺言執行者が必要となる場合は、慎重に選定する必要があるのです。

遺言執行者の選任をはじめ、相続手続きに不明点がある場合は早めに弁護士へ相談することが推奨されます。

弁護士に相談すれば、相続手続きをスムーズに進めるための有効なアドバイスをしてくれるでしょう。

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この記事の監修者
井澤・黒井・阿部法律事務所 横浜オフィス
佐山亮介 (神奈川県弁護士会)
遺産分割協議/不動産相続/遺留分請求など相続の悩みに幅広く対応。相談者のそれぞれの事情や意向をきちんと把握したうえで、適切な解決策の提案に定評あり。個人・法人を問わず、相談可能。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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