相続によって得られるものは、財産だけではありません。
借金をはじめとした負債も相続の対象となるほか、相続税の負担や遺産分割のトラブルなども無視できません。
そうしたトラブルやリスクを避けることができる選択肢のひとつが、相続権を放棄する「相続放棄」です。
しかし、相続放棄した場合に故人が住んでいた賃貸物件をどうすればよいのか、その後の生活にどのような影響があるのか、不安になる方も少なくありません。
本記事では相続放棄と賃貸物件をテーマに、相続放棄のメリットとデメリットを解説します。
また、賃貸物件の取り扱いのポイント、そしてそれにともなう法的な注意点などをわかりやすく解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
相続放棄とは、相続人が被相続人(故人)の遺産を受け取る権利を放棄する法的手続きです。
これにより、相続人は遺産に関するすべての権利と義務から解放されます。
相続放棄は、被相続人の債務が資産を上回る場合におこなわれるケースが多いようです。
相続放棄をすることで、相続人は故人の借金や負債を引き継ぐ必要がなくなります。
手続きは、被相続人の死亡を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
一度相続放棄をすると取り消すことはできません。
つまり、相続開始時から相続権がなかったものとみなされます。
相続放棄は重要な決定であり、慎重に検討する必要があります。
財産状況の把握や法的助言を得ることが推奨されます。
また、同じ順位の相続人全員が放棄した場合、次順位の相続人に相続権が移ります。
相続は、亡くなった人の財産をどのように扱うか親族間で相談しながら決める重要なプロセスです。
ここで注意しておきたいのが、「法定単純承認」という制度です。
この制度では、相続人がどのような行動を取るかによって自動的に相続を承認したとみなされる場合があります。
ここでは、法定単純承認に関わる保存行為と処分行為について解説します。
相続放棄を検討している方は、どのような行動が単純承認に該当するのかを把握しておきましょう。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
保存行為とは、相続財産を守るための行為を指します。
たとえば、被相続人が大切にしていた物(但し、経済的価値がないものに限る)を形見分けとして受け取る行為や、必要最低限の葬儀費用を相続財産から支払う行為などが該当します。
これらの保存行為は相続財産の価値を低下させるものとはみなされないため、法定単純承認事由には該当しません。
ただし、高価な時計や自動車、貴金属のアクセサリーといった財産的価値のあるものを形見分けした場合は単純承認にあたる可能性が高いといえるため、注意しましょう。
処分行為とは、相続財産の現状、性質を変える行為を指します。
具体的には、被相続人名義の預金を引き出す行為や、所有していた不動産を売却する行為などが該当します。
これらの行為は、単純承認をした相続人でなければおこなえないものとされており、こうした行動をすること自体が法定単純承認として相続が承認されたとみなされます。
また、相続方法を選択できる期間である熟慮期間内に相続放棄や限定承認の手続きをしなかった場合も、単純承認とみなされます。
相続に関する手続きや判断は複雑であり、専門的な知識が必要です。
誤った手続きをしてしまうことで予期しない結果を招くことがあるため、専門家のアドバイスを受けましょう。
相続は多くの人にとって、やがて直面する問題のひとつです。
特に悩まれる方が多いのが、賃貸アパートに住んでいる家族や親戚などの被相続人が亡くなった場合に、相続人としてどのような対応をすべきなのかという問題です。
相続することでマイナスになると判断できる場合は相続放棄という選択肢がありますが、その一方で相続放棄にはさまざまな制約や注意点が存在します。
ここでは、賃貸アパートと相続放棄に関連する以下の4つのケースについて詳しく解説していきます。
被相続人が亡くなる際まで賃貸アパートに住んでいた場合、契約していた本人が亡くなったからといって賃貸契約が自動的に解約されるわけではありません。
だからといって、相続人が賃貸契約を解約すると財産の処分行為とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
ケースバイケースの判断にはなりますが、あなたが相続人で相続放棄を考えているなら、賃貸契約の解約は避けたほうが無難でしょう。
なお、賃貸契約を解約する前に相続人が相続放棄をしていた場合、法的には「はじめから相続人ではなかった」とみなされます。
そのため、被相続人の賃貸契約を解約する権利もなくなってしまいます。
よく耳にする問題として挙げられるのが、被相続人が賃貸物件の家賃を滞納していた場合の対応です。
相続放棄をおこなった場合は、被相続人の債務を返済する義務は生じません。
また、相続人自身の財産から家賃を支払った場合、保存行為として単純承認にはならないと解釈できる場合は多いかと思います。
ただし、被相続人本人の財産から支払うと相続放棄ができなくなる可能性があるので、控えるようにしましょう。
ただし、もともと相続人が被相続人の連帯保証人として契約していた場合、たとえ相続放棄をしても連帯保証人としての責任は免除されません。
もし相続人が連帯保証人として賃貸契約をしていた場合は、家賃の滞納分については相続人が支払う必要が生じる可能性があります。
相続人が相続放棄を考えている場合、物件内に残された遺品を勝手に処分すると、単純承認とみなされて相続放棄ができなくなる可能性があります。
ただし、特に価値のない小物などを形見分けとして持ち帰る程度であれば、通常は問題となりません。
注意しておきたいのは、高額な腕時計や貴金属、アクセサリーなどといった金銭的に価値があるものを持ち帰った場合です。
その場合は、単純承認とみなされて相続放棄ができなくなるリスクがあります。
賃貸契約とは別に、電気・ガス・水道といったライフラインの契約があることも忘れてはいけません。
ただし、ライフラインに関する契約を解約する行為は財産の処分ではなく保存行為といえるため相続放棄の障害とはなりません。
そのため、このあと解説する賃貸契約とは異なり、相続放棄を考えている方であっても問題なく解約することができます。
賃貸アパートに住んでいた被相続人が亡くなり、管理人などから相続人へ連絡がくるというのはよくあるパターンです。
だからといって、相続人がそのまま賃貸アパートの解約をおこなうと、相続に関するリスクが増大します。
相続放棄を考えている方は、特に注意が必要です。
ここでは、被相続人が住んでいた賃貸アパートを解約することで生じる可能性があるリスクを3つ紹介します。
また、その詳細と対処法について詳しく解説します。
相続放棄を考えている方は、この情報に基づいて慎重に判断されることをおすすめします。
相続放棄を考えている方が賃貸アパートを解約した場合は単純承認とみなされ、解約費用が発生する可能性があります。
それに加えて、被相続人が滞納していた未払い家賃などの借金が発生するリスクがあります。
さらに、被相続人が賃貸アパート内で亡くなる際に物件に損害を与える等の事故を起こしていた場合、その事故による損害賠償も相続人の負担となる可能性があることも無視できません。
したがって、賃貸アパートの解約を検討しているなら、単純承認とみなされるリスクとその後にかかる負担を十分に考慮する必要があります。
上述のとおり、賃貸アパートを解約して単純承認とみなされた場合、被相続人の借金も相続することになるため、相続人が返済する義務が生じます。
借金が多額で返済が困難な場合は、債務整理や自己破産の手続きを検討しなければならないこともあります。
あらかじめ被相続人に借金があることを知っている場合は、アパートの解約の前に相続放棄を考えておきましょう。
相続放棄をしない場合、賃貸アパートに関わる返済に加えて遺産の分割や相続手続きを進めていくことなります。
財産を承継できるメリットはありますが、遺産分割協議や遺産の評価、相続税の申告など、多くの手続きがともなうため注意が必要です。
さらに、相続となると相続人間での意見の対立やトラブル(いわゆる争族)も考えられます。
その解決のためには専門家の協力や裁判所の介入がないと困難になることも十分にありえるでしょう。
相続を承認するか放棄するかを考える際には、これらの手続きの複雑さを理解し、適切な対応が求められます。
相続にはさまざまな手続きと法的な知識が必要ですが、なかでも賃貸物件に関連する手続きは複雑になりやすい傾向にあります。
賃貸アパートや家を相続した場合にはどのような手続きが必要なのか、手続きをスムーズに進めるために何をするべきなのか事前に調べておきましょう。
ここでは、相続における賃貸関連の手続きを単純承認にさせないための3つのポイントを紹介します。
賃貸物件の未払いが一定期間続いた場合、大家・管理会社はその賃貸借契約を解除することができます。
これを「法定解除」といいます。
大家・管理会社による法定解除であれば、相続人が自らの意思で処分したことにはなりません。
そのため、相続放棄をしつつ、被相続人が住んでいた賃貸物件を解約することができます。
大家・管理会社から相続人に対して滞納家賃を支払うよう請求されることがあります。
しかし、相続放棄を検討している場合、その支払いには応じないほうが望ましいです。
相続人が支払いに応じなければ、大家・管理会社は連帯保証人に請求をおこないます。
滞納家賃の支払いは、連帯保証人に任せるほうがよいでしょう。
相続放棄をおこなうことで、被相続人が所有していた財産だけではなく相続の義務も放棄できます。
つまり、賃貸物件に関連する複雑な手続きや滞納家賃の問題などを避けたい場合には相続放棄が得策です。
ただし、相続放棄には専門的な知識が必須になりますので、事前に相続放棄が得意な弁護士に相談することをおすすめします。
専門家のアドバイスを受けることで、適切に手続きを済ませ、将来的なトラブル回避にもつながります。
被相続人に多額の負債がある場合や親族間でのトラブルが想定される場合、また相続財産の取り扱いに困惑する場合などに選択肢として挙げられるのが相続放棄です。
ここでは、相続放棄を検討している方が知っておくべき注意点や重要な3つのポイントを解説します。
家族で賃貸アパートに住んでいたものの契約者が亡くなってしまった場合、その物件にそのまま住み続けていると相続放棄ができなくなる可能性があります。
実は、「賃借人」という立場も相続財産として扱われており、住み続けるということ自体が実質的に相続した行為に近しく、単純承認とみなされるためです。
だからといって賃貸アパートの契約を解除することも、相続財産の「処分行為」とみなされることがあるため注意が必要です。
しかし、相続放棄後に新しく賃貸契約を結び直すことで対策できますので、大家や賃貸管理会社へ問い合わせてみましょう。
なお、大家や管理会社からの一方的な解約要求があることは相続放棄の障害にはなりません。
相続放棄をする場合、相続人は相続の開始を知ったときから3ヵ月以内に相続放棄をしなければなりません。
この相続方法が選択できる3ヵ月間を「熟慮期間」と呼びます。
相続放棄をする場合は熟慮期間内に手続きを踏まなければ、債務を含む全ての財産を相続する「単純承認」とみなされるため注意が必要です。
ただし、上申書を用いて家庭裁判所に事情を説明すれば、たとえ3ヵ月を過ぎてしまったと思われるような事例でも相続放棄が受け付けられる可能性があります。
たとえば被相続人の死亡を知らなかったケースや、相続財産の有無の調査が困難だったケースなどは例外的に認められた事例もあります。
このようにケースバイケースなので、相続放棄を考えている場合は自分で対応しようとせずに、まずは専門家に相談することが重要です。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
相続放棄を検討している場合、たとえ必要であると思えても相続財産の処分行為は避けるべきです。
たとえば、被相続人の預貯金の引き出しや住まいの解体、家具や家電の遺品整理などをおこなうことで単純承認とみなされてしまい、相続放棄の障害となる可能性があります。
特にトラブルの原因になりやすいのが、自動車や高価な時計などの資産価値があるものを処分する行為です。
通常、経済的価値のない物を対象とする形見分けに関しては、単純承認とはみなされません。
しかし、資産価値があるものに関しては形見分けとして受け取っても処分行為とみなされることがあるため慎重に取り扱う必要があります。
また、相続放棄後に相続財産を隠匿・消費する行為も避けるべきです。
【処分に該当する主な行為】
相続は多くの方が通る道であり、親族間でのトラブルや借金などの負債まで引き継ぐことになるなど、問題も少なくありません。
相続放棄はそんな問題を解決するための有効な選択肢のひとつではありますが、故人が住んでいた賃貸アパートの解約や滞納していた家賃の支払いなど、お悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこでおすすめするのが、法律の専門家である弁護士への相談です。
弁護士であれば相続放棄に関する正確な知識をもっているため、手続きのサポートはもちろん賃貸アパートの解約や家賃の滞納問題、その他の処分行為に関する疑問や不安などにも適切に対応ができます。
相続放棄に関するお悩みは、一人で抱え込まずにまずは弁護士に相談しましょう。
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