遠方に存在するなどの理由で管理が難しい土地については、相続放棄をすることも検討すべきでしょう。
ただし、相続放棄にはメリット・デメリットの両面があるので、本当に相続放棄すべきかどうかは慎重に検討しなければなりません。
また、期限の経過や相続財産の処分などが原因で、土地の相続放棄ができないこともあります。
相続放棄ができない場合は、他の相続人に土地を相続してもらうか、相続土地国庫帰属制度の利用をご検討ください。
本記事では土地の相続放棄について、メリット・デメリットや相続放棄できない場合の対処法などを解説します。
遠方で管理が難しい土地や、立地的に買い手が付きにくい土地などは、相続したくないと考える方が多いです。
土地を相続したくない場合は、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄をすれば、遺産を一切相続せずに済みます。
遺産分割協議への参加が不要となるほか、相続人が生前負っていた債務を支払う必要もありません。
ただし、土地だけを相続放棄することはできません。
相続放棄は、あくまでもすべての遺産を相続しない旨の意思表示だからです。
たとえば田舎の土地だけを相続放棄して、都市部の高価なマンションは相続することなどは認められないのでご注意ください。
土地(を含めたすべての遺産)を相続放棄することには、メリット・デメリットの両面があります。
実際に相続放棄するかどうかは、メリットとデメリットを比較した上で判断しましょう。
土地を相続放棄することには、主に以下のメリットがあります。
遠方や山間部など、管理が難しい土地を管理する必要がなくなります。
※ただし後述のとおり、相続放棄の時点で現に占有している相続土地については、他の相続人または相続財産清算人に引き継ぐまでは保存義務があります。
借金などの債務を相続する必要がなくなります。
債務が多額に及ぶために、相続財産全体の価値がマイナスである場合は、相続放棄を選択するのが賢明です。
相続放棄をした人は、遺産分割協議への参加資格を失います。
遺産相続に関わりたくないと考えている場合は、相続放棄を検討しましょう。
これに対して、土地を相続放棄する場合には、主に以下のデメリットに注意が必要です。
土地以外に価値のある遺産や、手元に残しておきたい遺産が存在する場合でも、その遺産を相続することはできなくなります。
相続放棄によって同順位の相続人がいなくなると、後順位相続人へ相続権が移動します。
たとえば被相続人の配偶者と子が相続人であるケースにおいて、子全員が相続放棄をすると、被相続人の直系尊属(親など)が存命であれば直系尊属に、直系尊属がすべて死亡していれば兄弟姉妹に相続権が移ります。
子から兄弟姉妹に相続権が移ったとして、配偶者と兄弟姉妹の関係性が悪ければ、相続トラブルのリスクが高まってしまいます。
このように、相続放棄に伴う相続権の移動により、相続トラブルを誘発してしまうことがあるので注意が必要です。
相続放棄の時点で、相続財産である土地を占有している場合は、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その土地を保存しなければなりません。
相続放棄後の保存義務は、対象財産を他の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで続きます。
保存義務が継続している間は、以下の対応をおこなわなければなりません。
なお土地の保存に要した費用については、他の相続人または相続財産清算人に対して、利息を付して償還するよう請求できます(民法650条1項)。
また、土地の保存に必要と認められる債務(未払いの管理費など)を負担したときは、自己に代わって他の相続人または相続財産清算人が支払うことを請求できます(同条2項)。
相続する人がいない土地などの相続財産は、最終的に国庫へ帰属します。
相続財産を国庫へ帰属させる手続きをおこなうのが、「相続財産清算人」です。
利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します(民法952条1項)。
相続財産清算人は、相続財産を用いて相続債権者や受遺者に対して弁済をおこないます(民法957条)。
さらに公告手続きによって相続人がいないことを確認した上で(民法952条2項)、特別縁故者への財産分与を経て(民法958条の2)、相続財産を国庫へ帰属させます(民法959条)。
土地を含む遺産を相続放棄するかどうかは、相続放棄のメリット・デメリットの両面から検討をおこなって判断しましょう。
土地を相続放棄した方がよい場合と、相続放棄すべきでない場合の例を紹介します。
たとえば以下のようなケースでは、土地を含む遺産を相続放棄した方がよいと思われます。
これに対して以下のようなケースでは、相続放棄をせずに、土地を含む遺産を相続した方がよいと思われます。
相続放棄をするためには、民法のルールに従う必要があります。
土地を含む遺産を相続放棄したいと考えていても、以下のようなケースにおいては、相続放棄が認められないことがあるので要注意です。
相続放棄は原則として、自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内におこなわなけばなりません(民法915条1項本文)。
3か月の期限が経過すると、原則として相続放棄が認められなくなってしまいます(民法921条2号)。
相続放棄をするに当たっては、財産の調査や戸籍書類の取得などに一定の時間を要します。
期限に間に合うように、早い段階から相続放棄の準備を進めましょう。
ただし、相続放棄の期限に間に合わない場合には、家庭裁判所に期間の伸長を請求できます(民法915条1項但し書き)。
また相続発生後に時間が経ってから借金の存在が判明したなど、手続きが遅れたことについて正当な理由がある場合は、期限後であっても相続放棄が認められることがあります。
相続放棄の期限が過ぎてしまった場合でも、諦めずに弁護士へご相談ください。
相続財産の全部または一部を処分したときは、原則として「法定単純承認」が成立し、相続放棄が認められなくなります(民法921条1号)。
また相続放棄をした後であっても、相続財産の全部または一部を消費した場合は、相続放棄が無効となってしまいます(同条3号)。
相続放棄をする場合、基本的には遺産に一切手を付けないように注意しましょう。
やっていいこととやってはいけないことについて、判断が難しい場合は弁護士にご相談ください。
他に相続したい遺産がある場合や、期限の経過や法定単純承認により相続放棄ができない場合には、以下の方法によって対処を試みましょう。
相続放棄ができないとしても、相続人間における遺産分割協議で合意すれば、他の相続人に土地を相続させることはできます。
管理が難しい土地については、どの相続人も相続したがらないことが多いです。
しかし、土地を相続する人に対して多めに遺産を与えるなど配分を工夫すれば、遺産分割協議がまとまる可能性は十分にあります。
遺産分割協議がまとまらない場合は、弁護士を通じて協議をおこなうことや、遺産分割調停・審判の利用も検討しましょう。
相続や遺贈によって取得した土地については、「相続土地国庫帰属制度」を利用できることがあります。
相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって取得した土地を国に引き取ってもらえる制度です。
相続放棄とは異なり、他の遺産を相続しながら、土地だけをピンポイントで手放すことができます。
相続土地国庫帰属制度については、法務局および地方法務局で相談を受け付けています。
相続土地国庫帰属制度の利用を希望する方は、最寄りの法務局または地方法務局へご相談ください。
【参考】令和5年2月22日から相続土地国庫帰属制度の相談対応を開始します|法務省
相続土地国庫帰属制度の利用に当たっては、特に以下の2点に注意が必要です。
相続した土地について相続土地国庫帰属制度を利用するかどうかは、これらの注意点を踏まえた上で適切に判断しましょう。
相続土地国庫帰属制度を利用して国庫へ帰属させることができるのは、却下事由(相続土地国庫帰属法2条3項)および不承認事由(同法5条1項)がいずれも存在しない土地に限られます。
①却下事由
(a)建物の存する土地
(b)担保権または使用・収益を目的とする権利が設定されている土地
(c)通路用地、墓地、境内地、水道用地、用悪水路、ため池が含まれる土地
(d)特定有害物質により汚染されている土地
(e)境界が明らかでない土地など、所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地
②不承認事由
(a)勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用・労力を要するもの
(b)土地の通常の管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木その他の有体物が地上に存する土地
(c)除去しなければ土地の通常の管理・処分をすることができない有体物が地下に存する土地
(d)以下の土地であって、現に他の土地の通行が妨げられているもの
・公道へ通じない土地
・池沼・河川・水路・海を通らなければ公道に至ることができない土地
・崖があって公道と著しい高低差がある土地
(e)(d)のほか、所有権に基づく使用・収益が現に妨害されている土地(その程度が軽微で、土地の通常の管理・処分を阻害しないと認められるものを除く)
(f)(a)~(e)のほか、通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として、相続土地国庫帰属法施行令3条3項で定めるもの
却下事由が存在すると申請自体ができず、不承認事由が存在すると国庫帰属が不承認となってしまいます。
相続した土地について相続土地国庫帰属制度を利用できるかどうかは、あらかじめ法務局または地方法務局に確認しましょう。
相続土地国庫帰属制度の利用を申請する際には、土地1筆当たり1万4,000円の審査手数料を納付する必要があります。
さらに、相続土地の国庫帰属が承認された場合は、土地の地目や面積に応じて以下の負担金を納付しなければなりません。
宅地 |
①原則 20万円 ②市街化区域・用途地域が指定されている地域内の土地 面積に応じて計算(たとえば、200㎡の場合は79万3000円) |
田・畑 |
①原則 20万円 ②市街化区域・用途地域が指定されている地域、農用地区域、土地改良事業などの施工区域内の農地 面積に応じて計算(たとえば、1000㎡の場合は112万8000円) |
森林 |
面積に応じて計算(たとえば、3000㎡の場合は29万9000円) |
その他 |
20万円 |
特に、市街化区域や用途地域が指定されている土地については、負担金が高額となることがあるので注意が必要です。
負担金額については、あらかじめ法務局または地方法務局へご確認ください。
相続放棄をするかどうかは、相続財産の調査を適切におこない、資産と債務の状況を比較したうえで判断する必要があります。
また、相続放棄の期限に間に合うように準備を進めることや、法定単純承認に当たらないように注意することも大切です。
各種の注意点を踏まえて、適切に相続放棄の検討や準備をおこなうためには、弁護士に相談することをおすすめします。
依頼者の状況に応じて、相続放棄に関する留意事項ややるべきこと・やってはいけないことについてアドバイスを受けられるでしょう。
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