相続放棄をした場合でも、その時点で現に占有している相続財産は、他の相続人や相続財産清算人に引き継ぐまで管理(保存)を続ける必要があります。
相続放棄後の管理義務(保存義務)に違反すると、他の相続人等から損害賠償請求を受けるおそれがあるので注意してください。
本記事では相続放棄後の遺産の管理義務(保存義務)について、相続放棄をした人がなすべき行為、遺産を引継ぐ際の手続きや注意点などを解説します。
相続放棄をした場合、遺産を相続しないことになり、他の相続人や相続財産清算人に遺産の管理を引き継ぎます。
しかし相続放棄をした途端に遺産の管理をやめてしまっては、その遺産が滅失・毀損したり、近隣被害を生じさせたりするおそれがあります。
そこで民法では、一定の要件を満たす場合に、相続放棄した人に対して相続財産の保存義務を課しています。
相続放棄をした者が相続財産の保存義務を負うのは、相続放棄の時点で相続財産を現に占有している場合です(民法940条1項)。
たとえば以下のような状態にある場合に、その遺産について相続放棄後の保存義務が発生します。
相続放棄後の保存義務を負う人は、以下の対応をおこなわなければなりません。
相続放棄後の保存義務を怠ると、他の相続人または相続財産清算人から損害賠償を請求されるおそれがあります。
また、相続財産の保存の不備によって近隣被害などを生じさせた場合には、被害者に対して損害賠償責任を負うこともあるので注意が必要です。
相続放棄後の保存義務は、対象財産を他の相続人または相続財産清算人に引き渡した時点で消滅します。
相続放棄をしていない他の相続人がいる場合は、残りの相続人に対して相続財産を引き渡せば保存義務が消滅します。
もともと相続人が自分しかいなかった場合や、全員が相続放棄をして相続人がいなくなった場合は、相続財産清算人に対して相続財産を引き渡せば保存義務が消滅します。
他の相続人または相続財産清算人に相続財産を引き渡す際の手続きは、以下のとおりです。
他の相続人に相続財産を引き渡す場合は、引渡方法や引渡時期などを話し合ったうえで、合意に基づいて相続財産の引渡しをおこないます。
実際に相続財産を他の相続人へ引き渡した際には、引渡しを証する書面(=受領書)を交付してもらいましょう。
受領書を作成する際には、以下の記載例を参考にしてください。
相続財産の受領書
○○ ○○ 殿
下記の対応する引渡日において、貴殿より下記の相続財産の引渡しを受けました。
記
1. 土地
<土地の表示>
所在:
地番:
地目:
地積:
<引渡日>
△年△月△日
2. 建物
<相続財産の表示>
所在:
地番:
家屋番号:
種類:
構造:
床面積:1階
2階
<引渡日>
△年△月△日
3. 預貯金
<相続財産の表示>
金融機関名:
支店名:
種別:
口座番号:
口座名義人:
金額:
<引渡日>
△年△月△日
以上
□年□月□日
東京都×××
○○ ○○ 印
相続人が誰もいなくなった場合に、相続放棄後の保存義務を免れるためには、相続財産清算人に対して相続財産を引き渡す必要があります。
相続財産清算人は、利害関係人または検察官の請求に基づいて家庭裁判所が選任します(民法952条1項)。
相続放棄後の保存義務を負う人は、利害関係人として、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることができます。
<申立先>
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
<申立てに必要な費用>
<申立てに必要な書類>
※必要書類の詳細については、裁判所のウェブサイトをご参照
相続人の存在が明らかでないと認めた場合、家庭裁判所は相続財産清算人を選任します。
相続財産清算人の選任後の流れは、他の相続人に引き継ぐ場合と同様です。
相続財産清算人と話し合って相続財産の引渡方法や引渡時期を合意し、合意内容に従って引渡しをおこないましょう。
相続放棄後の相続財産の保存については、以下の各点にご注意ください。
遠方に所在する不動産については、全く使っていなければ相続放棄後の保存義務の対象になりません。
保存義務が適用されるのは、相続放棄の時点で現に占有している相続財産に限られるためです。
ただし自分が実際に住んでいなくても、被相続人から管理を委託されていた不動産については、相続放棄後の保存義務を負います。
遠方の不動産については、こまめな管理が行き届かないケースも多いでしょう。
知らないうちに地盤の緩みや建物の老朽化が進み、近隣住民にとって危険な状態になっていることもあります。
このような状態の不動産を放置していると、思いがけず近隣被害が発生してトラブルになる可能性が否めません。
相続放棄をする場合には、特に遠方の不動産について、ご自身の保存義務が発生しないかどうかを検討しましょう。
もし遠方の不動産を保存しなければならない場合は、早めにその状態を確認したうえで、安全確保等の必要な措置を講じることをおすすめします。
相続放棄をする場合、他に相続人がいればその人に相続財産を引き渡すことになります。
相続放棄後の保存義務も、他の相続人に相続財産を引き渡さない限り消滅しません。
早期に保存義務を免れるためには、スムーズに引渡しを完了する必要があります。
しかし、特に管理が難しい不動産などについては、他の相続人が受け取りを拒むケースが少なくありません。
複数の相続人の間でたらい回しにされて、なかなか相続財産の引渡しが完了しないこともよくあります。
相続放棄後の相続財産の引渡しをスムーズにおこなうためには、あらかじめ相続放棄をする旨を他の相続人に連絡しておくことが大切です。
その際、相続財産の引渡方法や引渡時期などについても、できる限り合意しておくことが望ましいでしょう。
相続放棄をする際には、相続財産を処分してはいけません。
相続財産を処分すると「法定単純承認」が成立し、相続放棄が認められなくなります(民法921条1号)。
また、相続放棄後に相続財産を処分した場合は、すでにした相続放棄が無効となってしまいます(同条3号)。
たとえば管理している被相続人の預貯金を引き出して使い込んだり、被相続人が所有していた不動産を勝手に売却したりすることは厳禁です。
管理している相続財産は、他の相続人または相続財産清算人へ引き継ぐまでの間、現状を変更せずに管理を続けましょう。
相続放棄をした場合でも、放棄の時点で現に占有する相続財産については、他の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで保存を続けなければなりません。
故意または重大な過失により、相続財産が滅失または損傷しないようにすることのほか、保存状況の報告なども必要になります。
さらに相続放棄については、期限(自己のために相続が開始したことを知った時から3か月)や法定単純承認との関係でもさまざまな注意点があります。
スムーズに相続放棄をおこなうためには、弁護士のサポートを受けるのが安心です。
弁護士に依頼すれば、相続放棄に当たって必要な準備や、やるべきこと・やってはいけないことについてアドバイスを受けられます。
財産の調査や申請書類の作成・取得も代行してもらえるので、スムーズに相続放棄をおこなうことができるでしょう。
相続放棄の手続きに不安がある方や、相続放棄すべきかどうか悩んでいる方は、お早めに弁護士へご相談ください。
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