「一度は遺産分割協議に合意をしたが、よく考えると自分だけ不利な内容なので納得できない」「遺産分割協議で引き継いだ不動産の使い道がないので、もう一度相続人同士の話し合いをやりなおしたい」など、遺産分割協議のやりなおしに対するニーズは少なくありません。
遺産分割協議自体には期限がないため、たとえば被相続人が死亡してから数十年が経過したあとでも、そのための要件が満たされれば、遺産分割協議をやりなおすことは可能です。
ただし、先行する遺産分割協議の段階で一度は合意形成に至っている以上、ひとりの相続人だけがやりなおしを求めたからといって、遺産分割再協議が可能とは限りません。
それなりの法的な根拠が必要となります。
そこで本記事では、遺産分割協議のやりなおしを検討している方のために、以下4点についてわかりやすく解説します。
遺産分割協議のやりなおしは、先行する分割協議段階よりも慎重に手続きを進める必要があります。
ベンナビ相続では、遺産分割協議のやりなおしなどの遺産相続トラブルの実績豊富な弁護士を多数掲載しているので、できるだけ早いタイミングでお近くの弁護士まで相談することをおすすめします。
そもそも遺産分割協議自体には、期限は存在しません。
ですから、理屈上、相続が発生してから何年が経過したあとでも遺産分割協議はできますし、一度まとまった遺産分割協議をやりなおすことも可能です。
ここでは、遺産分割協議のやりなおしが認められるケースについて解説します。
遺産分割は常にやりなおせるのではなく、限られた状況下に限り認められることは、あらかじめ押さえておきましょう。
一度遺産分割協議がまとまったとしても、相続人全員の合意があればやりなおしが可能です。
そもそも、被相続人の遺言書が存在するケースでも相続人全員の合意があれば、相続人たちの協議によって遺言書の内容とは違った方法で財産を承継できます。
それほど、遺産分割における相続人全員の合意には力があるものです。
なお、相続人の過半数が遺産分割協議のやりなおしに賛成している状況において、たった1人でも反対している相続人がいると、遺産分割協議のやり直しは認められません。
また、遺産分割協議のやりなおしをする際には、以前の遺産分割協議書を破棄したうえで、新たな遺産分割協議書を作成することが重要です。
そうすることで、過去の遺産分割協議書が悪用されて、再合意の内容に反する不動産登記などがおこなわれることを防ぐことができます。
先行する遺産分割協議に以下のような無効事由がある場合には、遺産分割協議をやりなおすことができる可能性があります。
先行する遺産分割協議に無効事由があるときだけではなく、以下に挙げたような取消事由が存在するときにも遺産分割協議のやりなおしができる可能性があります。
ただし、錯誤、詐欺や強迫を理由に遺産分割を取り消したい場合には時効が適用されます。
取消権の時効は、詐欺や強迫などに気づいてから5年です。
また、遺産分割がおこなわれて20年が経過した場合も同様に取消権が消滅します(民法第126条)。
遺産分割協議がまとまったあとに新たな財産・遺言書が見つかったケースでは、相続人全体で慎重な判断が求められます。
まず、新たに財産が見つかった場合、原則として先行する遺産分割協議の内容はそのまま維持したうえで、新たに見つかった財産についてのみ再び遺産分割協議をすれば足りる場合が多いでしょう。
このような場合、全員でそのような合意が可能かどうかを検討することになります。
ただし、新たに見つかった財産を含めて遺産全体の分配をもう一度検討する必要がある場合や遺産分割協議を全体としてやりなおすのも選択肢のひとつでしょう。
もちろん、この場合にも相続人全員の同意が必要です。
また、新たに遺言書が発見されたようなケースでは、遺産分割協議の前提が大きく変わることも少なくありません。
このような場合、錯誤に基づく取り消しが可能となる可能性が高いといえます。
遺産分割協議が一度成立した以上、やりなおしは簡単なものではありません。
ここでは、遺産分割協議のやりなおしが認められない3つのケースについて解説します。
先行する遺産分割が家庭裁判所における審判によって決定されたときには、遺産分割協議のやりなおしは認められません。
たとえ無効や取消の原因があったとしても、家庭裁判所が介在して終局的な遺産分割方法を決めた以上、これを覆すことはできません。
仮に、審判手続きで下された遺産分割協議内容に不満があるなら、審判後2週間以内に即時抗告をする必要があります。
なお、先行する遺産分割協議後に新たな財産が見つかったときには、新たな財産に対してのみ遺産分割協議をおこなうことが可能です。
遺産分割協議のやりなおしには、原則として相続人全員の同意が必要です。
無効原因や取消原因がある場合は別ですが、相続人全員の同意を根拠としてやり直そうとする場合、たった1人でもやりなおしに反対している相続人が存在するのであれば、遺産分割協議のやり直しはできず、先行する遺産分割協議の内容がそのまま維持されます。
錯誤、詐欺、強迫によって遺産分割協議のやりなおしをする場合には、取消権の消滅時効に注意しなければいけません。
たとえば、遺産分割協議時に錯誤に基づいて合意をしたとしても、遺産分割協議が成立してから5年もしくは遺産分割のときから20年間が経過すると、取り消すことはできなくなります(民法第126条)。
なお、内容証明郵便によって取り消しの意思表示をしたり、遺産分割調停の申し立てや無効確認請求訴訟を提起したりすることで、取消権の時効完成を阻止することができます。
遺産分割の完了後に取消事由が明らかになった場合は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
遺産分割協議をやりなおすときの方法・流れについて解説します。
なお、先行する遺産分割協議に基づいてすでに財産の移動などがおこなわれた場合には手続きが複雑になるので、可能な限り相続問題に強い弁護士へ相談することをおすすめします。
遺産分割協議のやりなおしには相続人全員の同意が必要なので、まずは相続人全員に連絡をしてください。
連絡をしても遺産分割再協議に合意をしてくれないときや、先行する遺産分割協議の無効主張・取消権行使を考えているときには、法的措置を検討する必要があります。
なお、先行する遺産分割協議に参加していた相続人に死亡者がいるケースでは、「死亡した相続人の相続人」が遺産分割再協議に参加することになります。
遺産分割協議のやりなおしに向けて相続人全員の同意を得られたときには、相続人全員で話し合いの場を設けましょう。
「遠方に住んでいるため、協議に参加することが難しい」「病気やけがで移動できない」などの諸事情で話し合いに参加できない相続人については、委任を受けた代理人に参加させることも可能です。
遺産分割協議のやりなおしでは、話し合った内容を改めて遺産分割協議書にまとめる必要があります。
なお、基本的に必要となる書類は、当初の遺産分割協議と同じです。
以下は、必要となる可能性のある書類の代表例です
相続財産の内容が複雑な事案では、相続人だけでは必要書類や遺産分割協議書の内容に漏れが出るリスクを避けられません。
また、先行する遺産分割協議での合意内容を修正しなければいけないので、相続人間の話し合いが難航する可能性も高いと考えられます。
相続人間で交渉が決裂すると遺産分割手続きが長期化するので、遺産分割協議のやりなおしを検討している場合は可能な限り、弁護士などの専門家のサポートを受けるべきでしょう。
遺産分割協議のやりなおしが円滑に合意形成に至らないときには、調停を申し立てて解決を目指すことができます。
調停とは、家庭裁判所における法的手続きのことです。
中立の立場である調停委員が事情・意見を聴取して、相続人全員が納得した形で遺産分割協議に賛同できるように仲介をしてくれます。
調停段階で遺産分割協議のやりなおし案がまとまったときには、遺産分割手続きは終了します。
一方、調停段階で相続人全員の意見がまとまらなかった場合は、自動的に審判手続きに移行して、家庭裁判所の裁判官が判断した内容に従って遺産分割します。
先行する遺産分割協議によって既に財産が移転したケースでは、やりなおしによって納税義務や登記手続きの負担が発生する可能性があります。
先行する遺産分割協議に基づいて遺産を受け取って相続税を支払っていたケースでは、その後遺産分割協議をやりなおして当該遺産を引き渡すことになったとしても、納付済みの相続税が返還されることはありません。
そして、遺産分割再協議に基づいて別の相続人に対して一定の財産を引き渡した場合には、贈与税や譲渡所得税が発生する可能性があります。
相続税の負担に加えて、贈与税・譲渡所得税の負担を強いられる可能性があることは押さえておきましょう。
遺産分割協議のやりなおしによって不動産の所有者に変更が生じた場合には、該当する不動産の登記手続き自体をやりなおす必要があります。
このケースでは、「先行する遺産分割協議によって所有者となった相続人名義」から「遺産分割協議のやりなおしによって新たな所有者となるべき相続人名義」に直接所有権移転登記をすることは認められません。
いったん所有権の抹消登記手続きをおこなったうえで、新しい相続人に対して相続登記手続きをやりなおすことになります。
その際、別途不動産取得税・登録免許税の負担も必要となります。
預貯金などの再分配については金銭で解決が可能ですが、土地・建物などの不動産の名義移転については、第三者保護のために複雑な手続きが求められます。
特に相続財産に不動産が含まれる事案に関して遺産分割をやり直す場合には、必ず遺産相続問題に強い弁護士・司法書士まで相談してください。
さいごに、遺産分割協議をやりなおすときの注意点について解説します。
遺産分割協議のやりなおしは、想像以上の時間・労力を要します。
なぜなら、相続人同士で話し合いの場を設けるだけではなく、先行する遺産分割協議を巻き戻す作業が必要となるためです。
また、やりなおすためには法的根拠が必要となりますが、一度は解決に至ったはずの遺産分割協議をやりなおすということもあり、相続人間での交渉が難航するリスクも想定されます。
遺産分割協議のやりなおしを弁護士に相談・依頼すれば、相続人それぞれの意見を法的に整理しながら、合意形成を目指すのか法的手段をとるべきなのかを判断してくれ、より良い結果に繋がりやすいでしょう。
先行する遺産分割協議の合意内容に基づいて不動産を承継した相続人が当該物件を第三者に売却してしまったあとでは、遺産分割協議のやりなおしによって当該不動産を相続財産に取り戻すことは原則としてできません。
相続人側の事情によって無制限に取り戻せるとなると、「相続人が当該不動産の完全な所有者である」と信じて取引をした第三者の信頼を害することになるからです。
このように、相続人全員の同意があったとしても、遺産分割協議を完全にやりなおせるとは限りません。
すでに相続人以外の人物に遺産が流出している事情がある事案では、「そもそも遺産分割協議をやりなおすべきなのか」という点から慎重な判断を要するため、必ず遺産相続問題を専門に扱う弁護士・司法書士までお問い合わせください。
一度は遺産分割協議によって相続財産の配分について合意に至ったとしても、新しく遺産・遺言書が見つかるなどの後発的な事情が発生したり、錯誤・詐欺などに基づく取消権を行使できるような状況だったりすると、遺産分割協議のやりなおしが必要になることもあるでしょう。
しかし、遺産分割協議をやりなおすには相続人全員の同意を得たり、取消権を行使したりするなどの手間がかかります。
特に、遺産に含まれる財産が複雑な事案や相続人が多いケースやや、相続人同士の関係性が悪いケースでは、簡単にやりなおしに向けた動きを取ることができません。
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やりなおしを検討している段階から弁護士が介入することで、事務手続きや相続人同士の交渉をサポートしてくれるので、短期間で円満解決を実現しやすくなるでしょう。
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