上記のような理由で、遺産分割協議をやり直す方法はないかと考えている方もいるでしょう。
有効に成立した遺産分割協議は、原則としてやり直せません。
ただし、一部の例外に該当する場合には、遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。
本記事では、遺産分割協議のやり直しが認められるケースとやり直しの方法、注意点を解説します。
遺産分割のやり直しを弁護士に相談・依頼するメリットも解説しているので、ぜひ参考にしてください。
一度有効に成立した遺産分割協議は、原則としてやり直せません。
ただし、例外的に遺産分割のやり直しが認められるケースがあります。
有効に成立した遺産分割協議は、原則としてやり直せません。
遺産分割協議が有効に成立すると、各相続人は同協議に基づき、分割された遺産を相続開始時に遡って取得(承継)します。
いったん有効に成立した遺産分割協議について、一部の相続人のみの都合でやり直すことを認めると、法的安定性が著しく害されます。
遺産分割の結果に不満がある場合や、遺産分割協議後に約束(代償金の支払いなど)が守られない場合も、原則としてやり直しは認められません。
一部の例外に該当する場合は、やり直しが認められるケースがあります。
遺産分割協議は、多数当事者による一種の契約であり、私的自治の原則が働くと考えられています。
私的自治の原則とは、個人間で結ばれる契約は、個人の意思を尊重する原則のことです。
相続人全員の合意がある場合は、当初の遺産分割協議を解除したうえで、再協議をおこなうことが可能です。
また、当初の遺産分割協議が無効となる場合は、再協議が必要です。
民法上の取消原因がある場合には、取消権の行使により、遺産分割協議のやり直しが認められる可能性があります。
相続人全員の合意がある場合や、民法上の無効・取消原因がある場合には、遺産分割協議のやり直しが認められます。
具体例を以下で解説します。
相続人全員が合意している場合は、遺産分割協議をやり直せます。
私的自治の原則から、法令による制限がない限り、当事者間の合意によって解除することが認められるためです。
最高裁判所も、共同相続人全員の合意により当初の遺産分割協議を解除し、再度協議することを認めています(最高裁平成2年9月27日判決)。
登記実務上も、遺産分割協議の再協議を認めています。
たとえば、不動産の相続登記が完了していても、再協議が成立した場合には、当該相続登記を抹消したうえで新たな相続登記が可能です。
共同相続人から虚偽の事実を告げられて合意した場合や、脅されて合意した場合は、遺産分割のやり直しが認められる可能性があります。
詐欺や強迫によって遺産分割協議に合意した場合、合意の意思表示は民法第96条で規定されている取消しの対象となるためです。
取消権の行使によって合意の意思表示が取り消されると、当初の遺産分割協議は無効となるため、再協議が必要です。
たとえば、ほかの相続人が遺産の価値を低く見積もり、自分だけ多く相続していた場合などには、当初の協議の効力を争える可能性があります。
協議の前提となる事実に重大な誤りがあった場合、遺産分割協議のやり直しが認められる可能性があります。
民法第95条で、合意の意思表示の基礎となる要素に錯誤(勘違い)があったときは、当該意思表示を取り消せると規定しているためです。
たとえば、協議成立後に想定外の高額な相続税が課税されることが判明した場合には、錯誤による取消しが認められる可能性があります。
ただし、どのような誤解・勘違いでも取り消せるわけではありません。
重大な錯誤がなければ遺産分割協議に応じなかった、といえる程度の事情が必要です。
また、誤解・勘違いが単なる不注意に基づく場合には、取消しの主張が難しくなる可能性があります。
遺産分割協議の成立後に遺言を発見した場合は、やり直しが必要になる可能性があります。
発見された遺言が法的に有効なもので、内容が遺産分割協議書に抵触する場合には、錯誤を理由に取り消せる可能性があるためです。
遺言の内容を把握していれば当初の遺産分割協議の成立はあり得なかったという場合は、錯誤により取り消せる可能性が高いでしょう。
遺産分割協議が無効となる場合も、やり直しが必要です。
遺産分割協議が無効となる主なケースは、以下のとおりです。
共同相続人が一人でも欠けた状態でおこなわれた遺産分割協議は、原則として無効となります。
遺産分割協議は、相続人全員の合意により、有効に成立するためです。
また、包括受遺者がいる場合は、包括受遺者も遺産分割協議に参加させなければなりません(遺産の全てを受け継ぐ場合を除く)。
包括受遺者とは、遺言で遺産全体に対する割合を指定して遺贈された人または法人です。
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有します。
当時の遺産分割協議で、相続人の中に胎児が含まれていた場合も同様です。
胎児は、相続についてはすでに生まれたものとみなされ、死産であったときに権利を失うと民法886条で定められているからです。
相続人・包括受遺者の全員が協議に参加していなかった場合は、除外された人を含めて再協議をして、遺産分割協議を成立させなければなりません。
意思能力がない相続人が関与した遺産分割協議は、原則として無効となります。
遺産分割は、財産移転の効果が生じる重要な法律行為です。
通常の取引と同様、自分の行為が法的にどのような結果を生じさせるのかを理解できる能力(意思能力)が必要となります。
相続人本人の意思能力が欠如している場合は、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、成年後見人を選任してもらう必要があります。
成年後見人を選任せず、意思能力がない相続人に協議書に署名押印させても、遺産分割協議は有効に成立しません。
たとえば、相続人の中に重度の認知症の方がいて、合意当初すでに意思能力を欠いていたと認められる場合などが該当します。
未成年の相続人が参加する協議に、親権者も参加していた場合、当該遺産分割協議は無効となります。
相続人の中に未成年者がいる場合は、親権者が未成年者に代わって遺産分割協議に参加できます。
しかし、以下のいずれかに該当する場合は、家庭裁判所で特別代理人を選任してもらわなければなりません。
上記に当てはまる場合、特別代理人を選任せず、親権者が未成年者を代理して遺産分割協議を成立させると、当該協議は無効となります。
特別代理人を選任したうえで、あらためて遺産分割協議をやり直す必要があります。
遺産分割協議のやり直しを求める場合は、まず相続人全員での再協議を目指します。
相続人全員の合意が得られない場合や、当初の遺産分割協議に無効・取消事由が存在する場合は、訴訟手続きによる解決を図ります。
相続人全員に再協議を申し入れます。
当初の遺産分割協議に取消・無効となる事由がなければ、やり直しには相続人全員の合意が必要です。
相続人全員の合意が得られれば、当初の遺産分割協議と同様に手続きを進めます。
再協議の結果をまとめた遺産分割協議書を作成し、相続人全員で署名押印をおこないましょう。
なお、再協議の時点で死亡している相続人がいる場合は、死亡した人の相続人全員に参加してもらわなければなりません。
当初の遺産分割協議に無効・取消事由があるにもかかわらず、再協議について相続人全員の合意が得られない場合は、訴訟での解決を図ります。
遺産分割協議の有効性を争う手続きには、主に以下の2種類があります。
| 手続き | 検討する場面 |
| 遺産分割協議不存在確認請求 | 遺産分割協議をおこなっていないのに、遺産分割協議書を偽造された場合など |
| 遺産分割協議無効確認請求 | 参加すべき相続人が欠けているといった無効原因や錯誤・詐欺・強迫などの取消原因がある場合など |
いずれも調停前置主義が適用されるため、裁判を起こす前に家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。
調停で合意が成立すれば、訴訟には移行しません。
調停が不成立となった場合は、無効確認・不存在確認の訴えを提起します。
遺産分割協議の無効・取消しを求める場合は、法的根拠に基づいた主張・立証を適切におこなわなければなりません。
遺産分割のやり直しには、リスクやデメリットもあります。
以下の注意点を事前に把握しておきましょう。
協議のやり直し自体には時効はありませんが、取消権の行使には期限があります。
錯誤・詐欺・強迫を理由とする取消権は、以下のいずれかの期間が経過すると、時効により消滅します。
たとえば、ほかの相続人に騙されたと気づいた時から5年が経過すると、原則として取消しは認められません。
遺産分割協議が成立したときから20年が経過した場合も同様です。
また、騙されたと気づいたあとに以下のような行動をとると、当初の協議を有効なものと認めた(追認)とみなされ、取り消せなくなります。
相続人全員の合意に基づき遺産分割協議をやり直す場合は、贈与税や譲渡所得税が課税される可能性があります。
税法上、遺産分割協議のやり直しによって再分配した財産は、分割後の贈与または譲渡と評価されるためです。
| 贈与税 | 再協議によって新たに財産を取得した人が対価を払わない場合、財産を取得した人に対して課せられる |
| 譲渡所得税 | 再協議によって新たに財産を取得した人が対価を払った場合、売買とみなされ、対価を受け取った人に課せられる |
また、再協議時に相続税の申告・納税を完了している場合には、すでに納付した相続税は返還されません。
相続税と贈与税の二重課税となるうえ、贈与税は税率が高いため、税負担が大きくなるでしょう。
なお、当初の遺産分割協議の無効・取消しが認められた場合は、贈与税や譲渡所得税が課税されることはありません。
すでに相続税申告をおこなっている場合には、修正申告または更正の請求が必要です。
当初の遺産分割協議に基づき不動産や自動車の名義変更を完了していた場合には、登記・登録のやり直しが必要です。
たとえば再協議の結果、不動産の取得者が変わる場合には、登記済みの相続登記を抹消したうえで、新たに相続登記を申請しなければなりません。
抹消登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です(不動産20個以上の場合は、申請件数1件につき2万円)。
ただし、初回の登記申請時に支払った登録免許税は返還されません。
遺産分割のやり直しにより、二重の課税が生じます。
なお、相続人全員の合意による再協議によって不動産を再分配した場合、不動産取得税は課税されないのが一般的です。
最高裁判所も、再分割による不動産の取得は「相続による不動産の取得」に該当すると判断しています(最高裁昭和62年1月22日判決)。
相続人全員の合意だけでは、遺産分割調停・審判のやり直しはできません。
遺産分割調停・審判は、公的な手続きによって遺産分割の内容を確定するものです。
法的安定性の観点から、当事者の都合で簡単に覆すのは認められません。
調停・審判のやり直しが認められるのは、参加すべき相続人・包括受遺者が欠けていたなど、手続上に重大な瑕疵(かし)がある場合に限られます。
審判の内容に不服がある場合は、審判の告知日から2週間以内に即時抗告を申し立てる必要があります。
当初の遺産分割協議に基づき財産の所有権が第三者に移転している場合は、原則として取り戻せません。
詐欺・強迫による取消しの場合でも、第三者が善意かつ無過失であれば、第三者が保護されます。
登記完了後は、取消権を行使しても不動産を取り戻せないケースがほとんどである点に注意してください。
再協議前に第三者が登記を完了している場合は、売却益を相続財産に組み込んで再協議するなど、代替的な解決策を検討する必要があるでしょう。
遺産分割成立後に新たな財産が見つかった場合は、通常、遺産分割協議をやり直す必要はないでしょう。
当初の遺産分割協議を無効とするほど重要な財産でない場合は、新たに判明した遺産のみを追加協議により分割すれば足りるケースが多いです。
再協議を検討すべきケースは、新たに判明した財産の存在を知っていれば、当初の遺産分割協議が成立しなかったといえる場合などです。
なお、遺産分割協議書に、後日新たな遺産の存在が判明した場合の取得者をあらかじめ記載しておく方法もあります。
たとえば、「後日発見した財産については、〇〇が取得する」などと事前に定めておけば、追加協議・やり直しを回避できます。
遺産分割協議のやり直しを希望している場合は、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士に相談すれば、やり直しの可否を適切に判断してもらえます。
再度の遺産分割による課税リスクを踏まえ、具体的なアドバイスが得られるでしょう。
弁護士に相談すれば、遺産分割協議のやり直しが可能かどうかを適切に判断してもらえます。
相続人全員の合意が得られない場合、やり直しが認められるかどうかの判断には専門的な知識が必要です。
たとえば初期・軽度の認知症は、一律に判断能力が否定されるわけではありません。
認知症の診断は医学的な見地からおこなわれますが、遺産分割協議をおこなうに足りる判断能力の有無は、法的な見地から判断されます。
弁護士であれば、医療・介護記録などから読み取れる認知症の程度や症状だけでなく、協議当時の状況を踏まえた的確な判断が可能です。
また、ほかの相続人に騙されて遺産分割協議を成立させた場合などにも、詐欺・錯誤による取消しが可能か具体的な回答が得られるでしょう。
弁護士に相談すれば、やり直しによる課税リスクなどを洗い出してもらえます。
遺産分割協議のやり直しによる財産の取得が贈与にあたると判断された場合、贈与税に加えて加算税が課せられる可能性もあります。
予期せぬ税負担を防ぐためには、相続税法や贈与税に関する知識が欠かせません。
税理士と連携している弁護士に依頼すれば、具体的な納税額をシミュレーションしてもらえるでしょう。
税務上のデメリットを踏まえたうえで、十分な事前検討をおこなえます。
弁護士に依頼すれば、やり直し後の遺産分割協議書の作成や各種手続を一任できます。
遺産分割協議をやり直す場合は、あらためて遺産分割協議書の作成が必要です。
再協議の時点で、すでに当初の遺産分割協議に基づき相続登記が完了している場合などには、抹消登記などの手続きを経なければなりません。
弁護士に依頼すれば、遺産分割協議書を法的に不備なく作成できます。
当事者が作成した協議書に比べ、名義変更などの手続きもスムーズに進められるでしょう。
司法書士・税理士と連携している弁護士に依頼すれば、税務申告や相続登記までワンストップで対応してもらえます。
調停や訴訟で遺産分割協議の有効性を争う場合も、弁護士に手続きを任せられます。
調停・訴訟による解決を図る場合には、申立書や訴状をはじめとした書面の作成や裁判所とのやり取りが必要です。
遺産分割協議の無効・取消しを求めるには、主張を裏付ける証拠を確保しなければなりません。
証拠の収集・選定にあたっては、裁判例の傾向などの専門的知識を要します。
法的手続に不慣れな方にとっては、解決までには相当な時間や労力を要するでしょう。
弁護士に依頼すれば、書面の作成や証拠の選定から裁判所とのやり取りまで、一貫したサポートを受けられます。
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本章では、遺産分割協議のやり直しに関して、よくある疑問にQ&A形式で回答します。
共同相続人のひとりが死亡していても、遺産分割協議のやり直しは可能です。
ただし、死亡した人の相続人全員に再協議に参加してもらう必要があります。
死亡した人に相続人が複数いれば、合意を得るハードルは高くなるでしょう。
ひとりでも反対すれば、遺産分割協議のやり直しはできません。
相続税申告前の遺産分割のやり直しが贈与とみなされるか否かは明確な基準が示されていないため、確答するのは困難です。
相続税法基本通達19の2-8但し書きは、相続税法の適用について、以下のように定めています。
「ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。」
また、国税不服審判所の裁決も以下のように判断しています。
「遺産分割協議がいったん成立すると、相続開始時に遡って同協議に基づき相続人に分割した相続財産が確定的に帰属する。したがって、遺産分割協議をやり直して相続財産を再配分したとしても、当初の遺産分割協議に無効又は取り消し得べき原因がある場合等を除き、相続に基づき相続財産を取得したということはできない。そして、この場合、対価なく財産を取得したとすれば、贈与とみるほかはない。」
上記の考えに従うと、再協議が相続税の申告前でも、一度有効に遺産分割協議が成立した以上、相続による財産の取得とは認められないでしょう。
もっとも、個々の事情によって判断が変わる余地があるため、税務に詳しい弁護士への相談をおすすめします。
協議を始める前に、漏れのない相続人調査と相続財産調査をおこないましょう。
相続人全員が遺産の全容を把握できるよう、財産の一覧(財産目録)を作成するのも有効です。
遺産分割協議書は、誰が見ても内容が特定できるよう、正確な情報を記載しましょう。
不安がある場合は、弁護士への依頼も積極的に検討してください。
有効に成立した遺産分割協議は、原則としてやり直せません。
ただし、相続人全員が合意した場合や、詐欺・強迫・錯誤による取消原因や無効原因がある場合は、例外的にやり直しが認められます。
遺産分割協議をやり直す場合は、まず相続人全員の合意に基づく再協議を目指します。
無効・取消原因があるにも関わらず、相続人全員の合意が得られない場合は、調停や訴訟による解決を検討しましょう。
遺産分割協議のやり直しには、取消権の消滅時効や贈与税・登記費用などの課税リスクも伴います。
第三者に財産が渡っている場合は、原則として取り戻せません。
遺産分割協議のやり直しの可否や税務上のリスクを正確に判断するには、専門知識が欠かせません。
遺産分割協議のやり直しを検討している方は、「ベンナビ相続」を活用のうえ、弁護士に相談してください。
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