相続放棄をすると、あらゆる相続権を失います。
遺産を消費したり、処分したりすると単純承認したとみなされるため、不用意に触るわけにはいきません。
そのため、これから相続放棄をするつもり、または、すでに相続放棄をした場合、扱いのわからない財産が見つかると困るものでしょう。
未支給年金もどうすればよいのかわからず、悩む方が多い財産のひとつです。
未支給年金は、遺族の固有財産と判断されるため受け取れます。
ただし、受け取れる方は限られており、故人と生計を同じくしていた3親等内の親族しか受け取れません。
本記事では「未支給年金があるとわかったが、受け取ってもよいのだろうか?」と疑問に思われている方に向けて、相続放棄をした場合の未支給年金の受け取りのほか、相続放棄をしても受け取れるそのほかのお金について紹介します。
相続放棄で失敗したり、損をしたりしないためにも、ぜひ参考にしてください。
相続放棄をすると、故人の遺産は受け取れません。
しかし、未支給年金は受け取れます。
ここでは、相続放棄をしても未支給年金を受け取れる理由と、受け取れる条件について解説します。
未支給年金は、受取人の固有財産です。
固有財産とは、もともとその人のものとされる財産をいいます。
未支給年金は通常、遺族が自分の名前で請求するため、遺族の固有財産とみなされます。
したがって、遺産分割の対象にはならず、相続放棄をしても受け取れるのです。
未支給年金を受け取れるのは、故人と生計を同じくしていた3親等内の親族に限られます。
また、未支給年金の受け取り順位については下表のとおりです。
【未支給年金を受け取ることができる方と受け取り順位】
順位 |
受け取ることができる方 |
1 |
配偶者 |
2 |
子 |
3 |
父母 |
4 |
孫 |
5 |
祖父母 |
6 |
兄弟姉妹 |
7 |
その他3親等内の親族 |
同順位の方が複数名いる場合は、代表者が請求手続きをおこないます。
個別に請求するわけではないので、注意しましょう。
実際に未支給年金を受け取るには、どうすればよいのでしょうか。
ここでは請求手続きについて紹介します。
未支給年金を受け取るには、故人の死亡の届け出と未支給年金請求の届け出をおこなう必要があります。
それぞれの届け出に必要な書類は、以下のとおりです。
【死亡の届け出に必要な書類】
【未支給年金請求の届け出に必要な書類】
受給権者死亡届、未支給年金・未支払給付金請求書、生計同一に関する申立書の書式は、日本年金機構の下Webサイトよりダウンロードできます。
記入例もあるので、参照してください。
必要書類の準備ができたら、年金事務所や年金相談センターに提出します。
近くの年金事務所および年金相談センターは、以下のページで探せます。
未支給年金の請求では、以下の点に注意しましょう。
未支給年金はいつでも請求できるわけではありません。
故人の年金支払日の翌月の初日を起算日として、そこから5年が経過すると時効が成立します。
時効が成立すると請求できないため、早めに手続きをしておくほうがよいでしょう。
未支給年金は相続財産ではないため、相続税の課税対象にはなりません。
しかし、一時所得であるため、所得税の課税対象となります。
一時所得とは、営利を目的とする継続的な行為によって生じる収入以外の所得、いわゆる臨時収入のことをいいます。
その額が50万円以下であれば課税されませんが、50万円を超えると所得税を支払わねばなりません。
故人が年金を定期的に受け取っていたのであれば、未支給年金の受領によって税金は発生しない可能性が高いでしょう。
しかし、年金の繰り下げをしていて受給前に亡くなってしまったのであれば、50万円を超える可能性が高く、所得税が発生する可能性も高いでしょう。
故人が亡くなったら、年金事務所にも死亡届を提出しなければなりません。
死亡届の提出が遅れたために、多く受け取りすぎると返還を求められます。
返還請求に応じないなど、悪質とみなされる行為があれば不正受給とされ、罰則が科される可能性もあります。
死亡届の提出は、できるだけ速やかにおこないましょう。
相続放棄をすると、故人の遺産は受け取れません。
しかし、未支給年金のように固有財産とみなされるものや、お墓など祭祀財産など受け取れる財産もあります。
ここでは、相続放棄をしても受け取れる未支給年金以外の財産を紹介します。
遺族年金は、支払いをしていたのが故人であっても、遺族に対して支給されます。
遺族の固有財産であり、相続財産ではないため、相続放棄をしても受け取れます。
死亡保険金は受取人が故人以外に指定されていれば、相続財産には含まれません。
受取人の固有財産とみなされるため、相続放棄をしても受領できます。
また、受取人を指定されていなくても、約款で法定相続人を受取人とすることが定められていれば受け取れます。
故人が勤めていた会社の就業規則において、未払い給与や死亡退職金の受取人を遺族と定められていれば、遺族の固有財産とみなされるため、相続放棄をしても受け取れます。
ただし、就業規則で受取人の指定がされていなければ相続財産に含まれるため、受け取れません。
お墓や仏壇など、祭祀財産と呼ばれるものは、相続放棄をしても受け取れます。
これは、「祭祀に関する相続権の承継はほかの財産と異なる扱いとされ、祖先の祭祀を主催すべき者が承継する」と、民法第897条1項で定められているためです。
相続放棄をした方が祖先の祭祀を主催する方であれば、相続放棄をしても引き継げます。
香典は喪主に対して贈られるものであるため、故人の財産とは考えられず、相続財産にはなりません。
したがって、相続放棄をしても受け取れます。
次に紹介する財産は故人の財産であり、相続財産とみなされるため、相続放棄をすると受け取れません。
受け取ってしまうと、相続する意思があり、単純承認をしたとして相続放棄ができなくなるため注意しましょう。
相続放棄で失敗しないためにも、故人の財産の扱いは慎重におこないたいところです。
ここでは、未支給年金や相続放棄についてよくある質問とその回答について紹介します。
未支給年金は、故人と生計を同じくしていた方でなければ請求できません。
生計を同じくしていたかどうかは、以下の基準で判断されます。
(生計同一認定対象者が配偶者または子である場合)
(生計同一認定対象者が故人の配偶者または子ども以外の場合)
未支給年金は、故人の口座に振り込まれたとしても受取人の固有財産とみなされるため受け取れます。
しかし、すでに金融機関に死亡の届け出をした場合は、口座が凍結され引き出せません。
金融機関に引き出しを依頼しても、応じてもらえないケースが多いでしょう。
ほかに相続人がいる場合は、相続人から相続人全員が相続放棄をしてしまった場合は相続財産清算人から、引き渡してもらうしかありません。
企業年金や個人年金の未支給分を受け取ると、相続放棄できなくなりますので注意しましょう。
企業年金や個人年金など公的年金以外の年金は、相続財産に該当するためです。
未支給年金は受取人の固有財産であるため、相続放棄をしても受け取れます。
ただし、請求には時効があり、5年以内に請求手続きをおこなわねばなりません。
受け取り忘れることがないよう早めに請求しましょう。
相続放棄をすると、基本的に遺産は受け取れず、万が一受け取ってしまうと相続放棄をできなくなります。
「受け取っても問題のない財産だと思ったら、相続財産だった!」ということのないよう、相続放棄は弁護士に相談しながら進めましょう。
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