相続放棄を検討している方の中には、故人の家の片付けをどこまですればよいのか迷っている方も多いでしょう。
実際、相続放棄を予定しているのであれば「ここまではやってもよい」「これはやらないほうがよい」という線引きがあります。
本記事を読むことで、相続放棄を予定している場合何であればやってもよいのか、何はしないほうがよいのかについて把握することができます。
どの範囲までやってもよいのかをしっかりと把握して、安心して故人の家の片付けをできるようになりましょう。
相続放棄を予定している場合には、原則として遺品の整理など故人の家の片付けをすることは控えたほうがよいでしょう。
特に、家の片付けの中で価値のある相続財産を処分してしまった場合には「単純承認」をしたとみなされて、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
「単純承認」とは、自己の相続分に従って相続財産をプラスの財産もマイナスの財産も全て受け継ぐことです。
価値のある相続財産を売却したり処分したりしたときには、それだけで単純承認をしたとみなされることがあります。
このことを「法定単純承認」といいます(民法第921条)。
たとえば、故人の家の片付けをする中で、価値のある宝石などの財産を見つけて売り払って現金に換えてしまうなどのことをすれば、単純承認をしたとみなされるおそれがあります。
単純承認をしたとみなされた場合には、もはやその後から相続放棄をすることはできません。
この場合には相続をすることとなり、相続分に従って亡くなった方の財産をプラスの財産もマイナスの財産も受け継ぐこととなります。
亡くなった方の家をうっかり片付けてしまうと、相続放棄ができなくなる可能性があります。
ここでは、相続放棄ができなくなる可能性のある行為についてご説明します。
亡くなった方の家を売却したり解体やリフォームなどをしたりしてしまうと、相続放棄ができなくなる可能性が高くなります。
亡くなった方の家は、基本的には価値のある相続財産です。
このような財産を売却などすることは、相続財産を処分する行為です。
これにより、単純承認したとみなされて相続放棄ができなくなる可能性があります。
亡くなった方の家が借家である場合、その家の賃貸借契約を解約してしまうこともまた、法定単純承認が認められる可能性のある行為です。
これは、賃借権という財産権を処分したと考えられるからです。
家の賃貸借契約を解約するのであれば、相続放棄をする予定がない他の相続人が解約をするようにしましょう。
また、相続人全員が相続放棄をする予定である場合には、相続放棄後に相続財産清算人を選任したうえで、相続財産清算人が賃貸借契約を解除するようにします。
もしあなたが亡くなった方の連帯保証人だった場合には、連帯保証人としての家賃の支い義務は依然として残ります。
このことは、相続放棄をしても同様です。
相続放棄をすると、相続人として負うべき債務からは逃れることができますが、連帯保証人としての責任からは逃れることができません。
このため、亡くなった方が残した家賃の支払義務などは消滅せず、連帯保証人として義務を果たさなければならないということになります。
宝石や貴金属などの高価な遺品を形見分けすることもまた、相続放棄ができなくなるリスクのある行為です。
宝石や貴金属などの高価な遺品は、相続財産の一部となるものであり、自由に処分することができません。
このような高価な遺品を譲り渡すなどして形見分けすることは、財産の処分をしたものとみなされて法定単純承認が認められる可能性があります。
形見分けといえども、法定単純承認のリスクがあるため、相続放棄を考えているのであれば安易にしてしまわないようにしたほうがよいでしょう。
家電や家具などの家財道具を売却したり捨ててしまったりするなどして処分してしまうことも、法定単純承認が認められる可能性のある行為です。
家電や家具などの家財道具は、通常は一定の財産的価値があります。
これを処分する行為によって、法定単純承認が認められるリスクがあります。
相続放棄を予定しているのであれば、家財道具を処分してしまうことのないようにしたほうがよいでしょう。
「亡くなった方の家賃や公共料金であれば明らかに支払う義務があるものだから、亡くなった方の預金などから支払いをしてもいいのではないか」と考えるかもしれません。
しかし、亡くなった方の預金などから家賃や公共料金を支払うことは、相続財産を処分したものとみなされ、法定単純承認をしたと認められて相続放棄ができなくなるリスクがある行為です。
相続放棄を予定しているのであれば、亡くなった方の相続財産から家賃や公共料金の支払いをすることもやめておくのが無難でしょう。
亡くなった方が生前に入院していた場合などには、入院費の支払いについて病院から請求が来ることがあります。
「亡くなった方の入院費の支払いだから、亡くなった方の預金などから支払っても問題ない」と考える方もいるでしょう。
しかし、入院費の支払いも家賃や公共料金と同様に、亡くなった方の財産から支払うのはやめておくべきです。
亡くなった方の財産から入院費の支払いをすれば、亡くなった方の財産を処分したとみなされ、法定単純承認が認められて相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続放棄を予定しているのであれば、亡くなった方の相続財産から入院費を支払うのはやめておくのが無難です。
相続放棄を予定しているのであれば、家の片付けが全く許されないとなると困るでしょう。
実際、家の片付けであっても一切の片付けが許されないわけではありません。
一定の範囲内の行為であれば、家の片付けをしてもなお相続放棄ができる場合があります。
相続放棄を予定している場合に許される家の片付けについて説明します。
明らかにゴミとわかるものを処分する行為は、法定単純承認にあたらず、相続放棄を予定していてもすることができます。
たとえば、次のような行為は許されるゴミの処分といえます。
これらの行為は通常、価値のある相続財産を処分したとはみなされません。
むしろ、そのような行為をしなければその他の価値ある相続財産に悪影響を及ぼして価値を損なうことにつながるともいえます。
このように、その他の価値ある相続財産の価値を守るための行為は、保存行為として法定単純承認事由にはあたらないものとされます。
明らかにゴミであるものを処分しても、相続放棄ができなくなるということはないので、安心して必要な掃除をしましょう。
金銭的な価値のないものをもらうことも、法定単純承認にはあたらず、相続放棄を予定していたとしてもすることが許される行為です。
金銭的な価値のないものであっても、思い出の品など主観的にはとても価値の高い物も多くあるでしょう。
そのような金銭的な価値のない思い出の品を分けたりもらったりすることは、法定単純承認事由である財産の処分にはあたらないため、相続放棄を予定していたとしても許されます。
具体的には、次のような遺品であれば分けたりもらったりしても問題ないことが多いでしょう。
これらは、主観的には価値が高い一方で、客観的には売却したとしても価格がつかず、金銭的な価値がないといえるからです。
なお、思い出の遺品であっても、次のような物であって金銭的な価値のあるものは、財産の処分とみなされるおそれがあります。
これらのものは、形見分けで受け取ることは控えたほうがよいでしょう。
結局、どのようなものであればもらってよいのか判断する基準のひとつに「売却などした際に金銭的な価値があるかどうか」という点があります。
金銭的な価値があれば、いかに思い入れがあっても相続財産の処分として相続放棄が許されなくなるリスクがあります。
相続放棄を予定しているのであれば、少しでも「売ったらお金になるかもしれない」と思うようなものは分けたり、もらったりしないようにしておくのが無難です。
亡くなった方に持ち家がある場合には、相続放棄をしたらその後はもはや、その家の管理責任を一切負わないというわけではありません。
相続放棄をしたあとも、その人が相続放棄時に亡くなった方の持ち家を現に占有している場合などには、一定の管理責任を負うことがあります(民法第940条第1項)。
この管理責任に関するルールは2023年4月以降に新しくなっています。
2023年4月以降の新ルールについて説明します。
まず、ほかに相続放棄をしていない相続人がいる場合には、その相続人に亡くなった方の持ち家などの財産を引き渡せば、それ以降は管理責任を負うことがなくなります。
亡くなった方の持ち家に同居していた相続人は、相続放棄をした場合でも、一定の管理責任を負います。
同居していた相続人は、亡くなった方の持ち家を現に占有しているといえるからです。
亡くなった方の持ち家を現に占有している相続人は、相続放棄をした場合であっても、ほかの相続放棄をしていない相続人などにその家を引き渡すまでの間は、一定の管理責任(保存義務)を負うこととされています(民法第940条第1項)。
この管理責任の内容は、持ち家を滅失させたり、損傷させたりする行為をしてはならないという責任だという考え方があります。
つまり、「家の価値を損なわないようにする」という責任を負うということです。
相続人の全員が相続放棄をした場合には、家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任をするように申し立てます。
相続財産清算人は、亡くなった方の債権者に対して債務の支払いをするなどして清算をし、清算後に残った財産を国庫に帰属させます。
このように、相続人全員が相続放棄をしたあとは相続財産清算人が手続きを進めることになりますので、家庭裁判所に選任を申し立てるようにしましょう。
亡くなった方の持ち家についても、相続財産の一部を構成するものであるため、相続財産清算人に引き渡せば、その時点で相続放棄をした相続人の負う管理責任は終わります。
相続放棄を予定している場合の家の片付けは、「どこまでのことならしてもよいのか」「何をしてはいけないのか」など、なかなか線引きが難しくわからないことも多いのではないでしょうか。
ここからは、相続放棄を予定している場合の家の片付けについて、よくある質問とその回答を紹介します。
携帯電話などの解約は、慎重になったほうがよい行為といえます。
携帯電話などの解約により、法定単純承認が認められて相続放棄ができなくなる可能性もあります。
たしかに、使うことのなくなった携帯電話を解約すれば、無駄な利用料金の支払いを避けられるという意味で保存行為にあたると考える余地もあります。
一方で、携帯電話の契約という契約上の地位は、相続財産を構成すると考えることもできます。
このように考えると、携帯電話の解約は、相続財産の処分と考えられるおそれもあります。
相続財産の処分とみなされた場合には、相続放棄ができなくなる可能性が出てきます。
このようなことから、携帯電話の解約には慎重になったほうがよいといえるでしょう。
携帯電話については、携帯電話会社に契約者である故人が亡くなった事実を伝えるとともに、解約などはしないで相続放棄をする予定であるということを伝えるに留めておくというのがひとつの取り得る方法です。
家財道具であっても価値のあるものを勝手に捨てたり売ったりすると、相続財産を処分したとみなされて、相続放棄ができなくなる可能性があります。
たとえ部屋を明け渡すように言われているとしても、価値のある家財道具を勝手に売却したり捨てたりするのはやめておくのが無難です。
とはいえ、いつまでもそのままにしておくわけにもいかないでしょう。
明らかに価値のない家財道具は捨てるなどしても構いません。
また、少しでも価値のありそうな家財道具については、あなたの自宅やその他の場所に保管するなどしたうえで部屋を明け渡すというのもひとつの方法です。
相続放棄の手続きをおこない、相続財産清算人が選任されたら、すみやかに家財道具などを相続財産清算人に引き渡すようにするとよいでしょう。
葬儀費用を相続財産から支払うのは、社会生活上はよくあることです。
しかし、葬儀費用の支払いといえども、亡くなった方の財産から支払えば相続財産の処分をしたともいえるように思われ、相続放棄できなくなるのではないかと心配になるかもしれません。
葬儀費用を相続財産から支払った場合でも、通常必要な範囲内の支払いであれば、相続放棄は認められる傾向にあります。
葬儀を執りおこなうことやその費用を故人の財産から支出することは、慣例であると考えられるからです。
このことから、葬儀費用を相続財産から支払ったからといって、ただちに相続放棄ができなくなると心配する必要はありません。
相続放棄を予定している場合には、どこまでの範囲であれば家の片付けとしてやってもよいのか判断に迷うことが多いでしょう。
実際、明確な線引きができない場面も多くあります。
「これくらいなら許されるだろう」と思っておこなった行為によって相続放棄が許されなくなれば、それはとてもつらいことです。
相続放棄を予定しているが家の片付けもしなければならないという場合には、できるだけ早く弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士であれば、どこまでのことであればしてもよいのか、しないほうがよいのか、適切なアドバイスをしてくれます。
弁護士に相談して、安心して故人の家の片付けをするようにしましょう。
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