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相続放棄したあとの管理義務とは?|回避する方法や注意点を解説

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相続放棄をした場合でも、その時点で現に占有している相続財産は、他の相続人や相続財産清算人に引き継ぐまで管理(保存)を続ける必要があります。

このことを管理義務(保存義務)といいます。

この義務に違反し、故意または重大な過失によって財産を滅失・損傷させた場合、相続人や相続財産清算人から損害賠償請求を受ける可能性があるため、注意しましょう。

本記事では相続放棄したあとに発生することがある相続財産の管理義務(保存義務)の概要と管理義務(保存義務)を負ったときにするべき対応、また回避する方法や注意点などについて解説します。

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相続放棄後したあとの管理義務(保存義務)とは

相続放棄をした場合、遺産を相続しないことになり、ほかの相続人や相続財産清算人が遺産の管理を引き継ぎます。

しかし相続放棄をした途端に遺産の管理をやめてしまっては、その遺産が滅失・毀損したり、近隣被害を生じさせたりするおそれがあります。

そこで民法では、一定の要件を満たす場合に、相続放棄した人に対して相続財産の保存義務を課しています

相続放棄しても残る管理義務

相続放棄の管理義務とは、相続放棄をしても相続財産を管理する義務を負う制度です。

相続放棄をすると相続人ではなくなりますが、相続放棄をする時点において占有していた財産については、次の相続人が財産の管理を始めるまで、自己の財産と同じくらいの注意を持って、管理しなければなりません。

なぜなら、相続放棄した方が財産の管理をしなくなると、保存状態が悪化して第三者に被害が及ぶ可能性があるからです。

たとえば、相続財産に自宅が含まれている場合、管理が行き届かないことで建物が倒壊したり、悪臭が発生して近隣住民に迷惑をかけるおそれがあります。

その結果として、苦情や損害賠償請求を受けることにつながります。

このため、相続人全員が相続放棄したとしても、残された財産を管理する労力や費用は発生することになるのです。

民法改正による2023年4月1日以降の管理義務

相続放棄の管理義務は民法改正によって、2023年4月1日以降から新しい制度が施行されています。

改正された民法では相続放棄の管理義務について、次のように規定しています。

(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

引用元:民法|e-Gov法令検索

改正後の民法940第1項の主な要点は、以下のとおりです。

  • 対象者:その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している
  • 期間:財産を引き渡すまでの間
  • 内容:自己の財産と同一の注意をもって財産を保存する

この改正により、相続放棄をした方が負う管理義務の範囲がより明確になっています。

相続放棄したあとに管理義務(保存義務)が発生する場合とは

相続放棄をした方が相続財産の管理義務(保存義務)を負うのは、相続放棄の時点で相続財産を現に占有している場合です(民法940条1項)。

たとえば以下のような状態にある場合に、その遺産について相続放棄後の管理義務(保存義務)が発生します。

  • 生前に被相続人から預かった現金を、相続放棄をした時点で自宅の金庫に保管している場合
  • 被相続人が所有していた建物に生前の被相続人と同居しており、相続放棄をした時点でも住み続けている場合
  • 生前の被相続人から投資用物件の管理を任されており、相続放棄をした時点で、物件の管理(修繕や賃料の収受など)を継続している場合 など

管理義務(保存義務)が発生しないケース

相続放棄した時点で相続財産を「現に占有していない」場合には、管理義務が発生しません。

たとえば、以下のような状態にある場合には、その遺産について相続放棄したとしても、管理義務(保存義務)は発生しません。

  • 生前に被相続人から預かった現金や自宅に一切関与していない
  • 被相続人が所有していた建物に住んでおらず、相続しても財産から遠く離れており物理的に管理することが難しい
  • ほかの相続人や相続財産清算人がすでに管理を開始している場合 など

相続放棄したあとの管理義務(保存義務)の内容

相続放棄したことで相続財産の管理義務(保存義務)を負った方は、どのような対応をしなければならないのでしょうか。

管理義務(保存義務)の具体的な内容には、以下のようなものがあります。

自己の財産と同一の注意義務

「自己の財産と同一の注意義務」とは、自分の財産を管理するのと同じくらいの注意を持って、相続財産を保存・管理することを意味します。

これにより、相続財産の管理義務(保存義務)を負った方は、当該財産を引き渡すまで故意や重大な過失により相続財産が減失・損傷しないように、慎重に取り扱う必要があります(民法940条)。

裏を返せば、自分の財産に対しておこなうのと同じ程度の注意をもって、相続財産を管理していれば、適切な注意義務を果たしているとみなされるでしょう。

相続財産の保存状況および保存経過の報告

相続放棄して管理義務(保存義務)を負うと、相続財産の保存状況や保存経過について報告を求められることがあります。

  • 他の相続人または相続財産清算人の請求に応じて、相続財産の保存状況を報告する(民法645条
  • 他の相続人または相続財産清算人に相続財産を引き渡した後、それまでの保存の経過および結果を遅滞なく報告する(同)

ほかの相続人や相続財産清算人から請求があった場合には、管理・保存している相続財産がどのような状態にあるのか、たとえば建物の老朽化や修繕の必要性などについて、適切に報告しましょう。

また、財産の保存経過についても、財産を引き渡したあとは速やかに報告する必要があります。

相続財産の引き渡しおよび権利の移転

相続放棄して管理義務(保存義務)を負った場合、ほかの相続人または相続財産清算人に対して、次のような相続財産の引き渡しおよび権利の移転義務が発生します。

  • 相続財産を保存する過程で受け取った金銭その他の物(賃料など)を、他の相続人または相続財産清算人に引き渡す(民法646条1項
  • 相続財産に関して、自己の名で取得した権利を他の相続人または相続財産清算人に移転する(同条2項

たとえば、相続財産を管理・保存中に得た賃料収入や利息収入などは、相続財産の管理義務が移るタイミングで一緒に引き渡さなければなりません。

また、相続財産の管理・保存に必要な一時的な所有権や名義などについても、移転する必要があります。

これは、相続財産が適切に引き継がれることを目的としています。

相続放棄したあとに管理義務(保存義務)を回避するには

相続放棄後の管理義務(保存義務)は、対象財産をほかの相続人または相続財産清算人に引き渡すことで回避することが可能です。

主に次のような方法が考えられます。

  1. ほかの相続人に相続財産を引き渡す
  2. 相続財産清算人を選任して引き渡す

自分のほかに複数の相続人がいる場合には、残りの相続人に対して相続財産を引き渡すことで、管理義務(保存義務)を回避できます。

一方、相続人が自分しかいない場合や、すでに相続人全員が相続放棄している場合には、相続財産清算人の選任を申請し、清算人に財産を引き渡すことで、管理義務(保存義務)を回避できます。

相続財産を引き渡す際の各手続きは、以下のとおりです。

他の相続人に相続財産を引き渡す際の手続き

ほかの相続人に相続財産を引き渡す場合は、引渡方法や引渡時期などを話し合ったうえで、合意に基づいて相続財産の引渡しをおこないます。

実際に、相続財産をほかの相続人へ引き渡した際には、引渡しを証する書面(=受領書)を交付してもらいましょう

なお、受領書を作成する際には、以下の記載例を参考にしてください。

相続財産の受領書

 

○○ ○○ 殿

下記の対応する引渡日において、貴殿より下記の相続財産の引渡しを受けました。

 

 

1. 土地

<土地の表示>

所在:

地番:

地目:

地積:

<引渡日>

△年△月△日

2. 建物

<相続財産の表示>

所在:

地番:

家屋番号:

種類:

構造:

床面積:1階

            2階

<引渡日>

△年△月△日

3. 預貯金

<相続財産の表示>

金融機関名:

支店名:

種別:

口座番号:

口座名義人:

金額:

<引渡日>

△年△月△日

 

以上

 

□年□月□日

東京都×××

○○ ○○ 印

相続財産清算人に相続財産を引き渡す際の手続き

相続財産清算人は、利害関係人または検察官の請求に基づいて家庭裁判所が選任します(民法952条1項)。

相続放棄したあとに管理義務(保存義務)を負った方は、利害関係人として、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることができます。

<申立先>
  • 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
<申立てに必要な費用>
  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手(裁判所によって金額が異なる)
  • 官報公告料5,075円(家庭裁判所の指示があってから納付する)
<申立てに必要な書類>
  • 申立書
  • 戸籍謄本類
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 財産を証する資料(不動産登記事項証明書、未登記の場合は固定資産評価証明書、預貯金や有価証券の残高が分かる書類)
  • 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(戸籍謄本や全部事項証明書など)
  • 相続財産清算人の候補者がある場合には、その住民票または戸籍附票

※必要書類の詳細については、裁判所のウェブサイトをご参照

相続人の存在が明らかでないと認めた場合、家庭裁判所は相続財産清算人を選任します。

また、上記の費用に加えて相続財産清算人の選任手続きに、30万円〜100万円の予納金が必要になる場合があります。

相続財産清算人の選任後の流れは、ほかの相続人に引き継ぐ場合と同様です。

相続財産清算人と話し合い、相続財産の引渡方法や引渡時期について合意し、その内容にしたがって引渡しをおこないましょう。

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相続放棄したあとの相続財産の管理(保存)に関する注意点

相続放棄したあとの相続財産の管理(保存)については、以下の点に注意しましょう。

  1. 遠方の不動産については近隣トラブルに要注意
  2. 相続放棄をする旨は、ほかの相続人に連絡したほうがよい
  3. 管理している相続財産を処分してはならない

遠方の不動産については近隣トラブルに要注意

遠方に所在するなど、相続放棄の時点で占有していない不動産については、全く使っていなければ相続放棄後の管理義務(保存義務)の対象になりません。

あくまでも管理義務(保存義務)が適用されるのは、相続放棄の時点で現に占有している相続財産に限られるからです。

ただし自分が実際に住んでいなくても、被相続人から管理を委託されていた不動産については、相続放棄後の管理義務(保存義務)を負うことになります。

遠方の不動産については、こまめな管理が行き届かないケースも多いでしょう。

知らないうちに地盤の緩みや建物の老朽化が進み、近隣住民にとって危険な状態になっているケースもあります。

このような状態の不動産を放置していると、思いがけず近隣被害が発生してトラブルになる可能性が否めません。

相続放棄をする場合には、特に遠方の不動産について、自身の管理義務(保存義務)が発生するかどうかに気を付けましょう。

また、もし遠方の不動産を保存しなければならない場合は、早めにその状態を確認したうえで、安全確保のために必要な措置を講じることをおすすめします。

相続放棄をする旨は、ほかの相続人に連絡したほうがよい

相続放棄をする場合、ほかに相続人がいればその人に相続財産を引き渡すことになります。

しかし、特に管理が難しい不動産などの相続財産については、ほかの相続人が受け取りを拒むケースが少なくありません。

また、複数の相続人の間でたらい回しにされて、なかなか相続財産の引渡しが完了しないこともよくあります。

このため、相続財産の引渡しをスムーズにおこなうためにも、あらかじめ相続放棄をする旨について、ほかの相続人に連絡しておくことが大切です。

その際には相続財産の引渡方法や引渡時期などについても、できる限り合意しておくことが望ましいでしょう。

管理している相続財産を処分してはならない

相続放棄をする際には、相続財産を処分してはいけません。

相続財産を処分すると「法定単純承認」が成立し、相続放棄が認められなくなります(民法921条1号)。

また、相続放棄してから相続財産を処分した場合は、すでにした相続放棄が無効となってしまいます同条3号)。

たとえば、管理している被相続人の預貯金を引き出して使い込んだり、被相続人が所有していた不動産を勝手に売却したりすることは厳禁です。

管理義務を負った相続財産は、ほかの相続人または相続財産清算人へ引き継ぐまでの間、現状を変更せずに管理を続けましょう。

まとめ|相続放棄をする前に弁護士に相談を

相続放棄をした場合でも、その時点において占有している相続財産は、ほかの相続人または相続財産清算人に引き渡すまで管理・保存を続けなければなりません。

故意または重大な過失により、相続財産が滅失または損傷しないようにすることのほか、ほかの相続人や相続財産清算人から請求があった場合には、保存状況の報告なども必要になります。

また、相続放棄には、期限や、法定単純承認との関係など、さまざまな注意点があります。

そのため、スムーズに相続放棄をおこなうためには、弁護士のサポートを受けるのが安心です。

弁護士に依頼すると、相続放棄のための必要な準備や、やるべきこと・やってはいけないことなどについて、適切なアドバイスをもらえます。

財産の調査や申請書類の作成・取得も代行してもらえるので、スムーズに相続放棄をおこなえるでしょう。

相続放棄の手続きに不安がある方や、相続放棄すべきかどうか悩んでいる方は、「ベンナビ相続」から、お早めに弁護士へ相談してください。

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この記事の監修者
横浜平和法律事務所
大石 誠 (神奈川県弁護士会)
相続問題の解決実績多数。相続診断士や終活カウンセラーの資格を有し、ご相談者様のお悩み解決に向けて親身にサポートしています。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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