相続は、故人が遺した財産や負債を引き継ぐかどうかを決める重要な手続きです。
故人が債務を残して亡くなった場合、相続放棄をおこなわなければ自分で負債を返済しなければならないため、相続放棄が重要となります。
そのようなときに、自分が相続放棄をすることで親戚に迷惑を与えてしまわないか、気になっている方もいるのではないでしょうか。
結論からいうと、自分が相続放棄をすることで、全ての親戚に影響が出るとは限りません。
ただし、いくつかの条件で親戚に影響が出ることがあります。
本記事では、相続放棄が親戚に与える影響、その際に考慮すべき注意点、そして相続放棄を検討している方が取るべき対策について詳細に解説します。
相続放棄は、負債を相続することから身を守るための手段です。
しかし、相続放棄をおこなうことで、親戚にどのような影響を与えるのかを知っておく必要があります。
特に、被相続人が多額の債務を残して亡くなった場合、相続放棄を選択することにより、どのような影響があるのか解説します。
相続放棄をすると、相続権は自動的に次の順位の相続人に移ります。
これは民法第887条〜890条に定められています。
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
第八百八十八条 削除
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
もし相続人のひとりが相続放棄を決意した場合、次順位の人が自動的に相続人となり、負債を背負うことになります。
それを避けるためには、次順位の方も相続放棄をおこなわなければなりません。
親戚が被相続人の負債の連帯保証人になっていた場合、相続放棄をすると自分に代わって連帯保証人が直接責任を負うことになる可能性があります。
もちろん、自分が相続放棄をしても次順位の方が相続放棄をしない場合は、その方に支払い義務が移ります。
全ての相続人が相続放棄をした場合は、連帯保証人が支払いを求められるということになります。
親戚に連帯保証人がいる場合は、相続放棄をする前に故人の負債の詳細を把握し、その方とも相談する必要があるでしょう。
被相続人が多額の負債を抱えていた場合に相続放棄をすることは、重大な決断をともないます。
自分の決定が親戚に迷惑をかける可能性があることを知ると、その決断を下すことはさらに難しくなるかもしれません。
しかし、以下に挙げる理由から、相続放棄は重要な選択肢であると考えられます。
最も明白な理由は、相続放棄によって被相続人が遺した借金の責任から自由になれることです。
法律上、相続放棄をすることで、負の遺産に対する責任を免れることができます。
この手続きをおこなうことで、借金の相続により自分の人生に重大な影響を及ぼすことを防ぐことができます。
この点からも、相続放棄は将来的な経済的困難から自分を守るために有効な手段といえます。
ただし、相続放棄を選択した場合には、正の遺産も相続できなくなる点には注意が必要です。
相続は、しばしば家族間のトラブルの原因となり得ます。
特に借金が絡む場合、相続に関する意見の不一致は深刻な対立を引き起こす可能性があります。
相続放棄を選択することで、このようなトラブルの可能性を減少させ、親族間の関係を保つことができるかもしれません。
さらに、相続放棄をおこなうことで、遺産分割協議がスムーズに進むことが期待できます。
借金の相続先が明確になるため、残された資産についての話し合いがより建設的におこなわれる可能性が高まります。
相続放棄を検討する際、親戚への影響や彼らに迷惑をかける可能性について心配するのは自然なことです。
なるべく親戚に迷惑をかけずに相続放棄したい場合は、以下のような対策を検討しましょう。
何よりもまず、自分が相続放棄をおこなうことを親戚に明確に伝えることが大切です。
なぜ相続放棄を選択したのか、その理由を明確に説明することが重要になります。
特に、被相続人が遺した借金の存在や、それが自分に与える可能性のある負担についてできるだけわかりやすく説明するように努めましょう。
費用面で親戚に迷惑をかけたくないのであれば、次順位の相続放棄費用を負担するという方法があります。
相続放棄の手続きを弁護士などに依頼する場合、費用がかかります。
相続放棄によって相続権が親戚に移る可能性がある場合、費用の負担がネックとなり、親戚が相続放棄をためらうことも考えられます。
そのような場合に、自分が親戚の相続放棄にかかる費用を負担することを提案することで、負担を軽減できる可能性があります。
こうすることで、親戚との信頼関係を守ることができる可能性があります。
全面的な相続放棄だけでなく、限定承認という選択肢もあります。
これは、故人の負債を超える資産(遺産から負債を差し引いた残りの部分)の相続のみを承認する手続きです。
限定承認は相続放棄ではないため、次順位の方に相続権が移ることはありません。
したがって、親戚に迷惑がかかる可能性はなくなるのです。
本章では、親戚への迷惑が心配な方が弁護士に相続放棄を依頼するメリットを解説します。
弁護士に依頼することで、相続放棄に必要な手続き全般を任せることが可能となります。
相続放棄には、法律に基づいた正確な手続きが必要です。
これには、相続放棄の申し立てをおこなう際には、所定の書類を提出することが必要です。
自分でこれらの手続きを正確におこなうことは難しく、ミスが発生すれば手続きの遅延や申し立ての却下につながるリスクがあります。
弁護士に相続放棄を依頼することで、これらの手続きを全て任せることができます。
特に、複雑な財産の場合に大きなメリットになります。
相続放棄をする際に、親戚にどのような影響を与えるかを正確に理解することが重要です。
相続放棄をすると、必ず全ての相続人に影響があるというわけではありません。
「自分が相続放棄をしたときに親戚にかかる2つの迷惑」内でも解説したように、相続放棄をして影響が出るのは、主に相続権をもつ次順位の方です。
弁護士は、相続放棄が親戚に与えうる影響を詳細に分析し、説明することができます。
これにより、親戚への迷惑を最小限に抑えつつ、自分の法的権利を守ることが可能となります。
弁護士によっては、次順位の相続人に連絡してくれるサービスをおこなっている場合もあります。
相続放棄をおこなう場合、次順位の相続人へ、その影響についての説明をすることは非常に重要です。
弁護士であれば、法律的な知識を踏まえ、次順位の方に詳しく説明してくれるでしょう。
法律の知識のない方が説明するよりも、理解してもらいやすくなる可能性もあります。
ただし、全ての弁護士が次順位の相続人に連絡してくれるとは限りません。
弁護士を選ぶ際には、次順位の相続人への連絡をしてもらえるか、事前に確認しておくとよいでしょう。
相続放棄が得意な弁護士は、ベンナビ相続で探すのがおすすめです。
ベンナビ相続は、相続放棄の経験豊富な弁護士や法律事務所を紹介するのに特化したポータルサイトです。
また、ベンナビ相続は得意分野や所在地だけでなく、初回相談無料、夜間・土日に営業をしているかどうかなどの細かな情報を指定して、弁護士を探すことも可能です。
相続放棄を考える際には、適切に行動するためにいくつかの重要な注意点を理解しておく必要があります。
これらの点を押さえておくことで、手続き中のミスや誤解を避け、相続放棄をスムーズに進めることができます。
相続放棄には、「自己が相続人となって、相続の開始を知った日から3ヵ月以内」という期限が設けられています(熟慮期間)。
この期限を過ぎてしまうと、相続放棄は受理されず、債務も含む全財産を相続したものとみなされます(民法第921条2号)。
相続が開始したことを知ったら、できるだけ早めに必要な手続きを始めることが大切です。
期限内に確実に相続放棄をしたいのであれば、弁護士への相談を検討することをおすすめします。
相続放棄を検討している場合、故人の財産を使ったり、処分したりする行為は避けましょう。
たとえば、故人の預金を引き出す、不動産を売却するなどの行為は、相続を事実上受け入れたと見なされ、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
このような行動は、相続放棄の意思がないと解釈されるため、相続放棄を考えている際には、相続財産に一切手を付けないようにしましょう。
相続放棄をしたあとでも、故人の財産を実際に占有している場合(故人の家に住んでいる など)は、その財産を管理する義務が残ります。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
これは、相続人のいない家屋などを放置することで、第三者に迷惑かかることを阻止する必要があるためです。
相続放棄をしても、故人の財産に関する一定の責任が残ることを可能性がある理解しておくことが重要です。
相続放棄は、自身や家族を負債から守るための法的手段です。
しかし、相続放棄を決断する過程で、親戚への迷惑がかかることを心配する方もいます。
確かに、相続放棄によって次順位の方に影響が出ることは否定できません。
親戚への迷惑を考慮し、相続放棄の決断に躊躇している場合は、弁護士に相談することは非常に有効です。
弁護士に相談することで、相続放棄が親戚に与える影響を明確にすることが可能となるためです。
そのうえで、自分は相続放棄をすべきかどうかのアドバイスを仰ぐこともできるでしょう。
親戚への配慮と自身の法的な権利を守るバランスを取りながら、最適な解決策を見つけるためにも、早めの相談をおすすめします。
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