相続放棄をすると、被相続人が遺した負債を含むすべての財産を受け取る権利を失います。
そこで多くの相続人が不安を覚えるのが、相続放棄によって遺族年金を受け取る権利も失うのではないかということです。
被相続人が借金などの負債を多く抱えていたケースでは相続放棄が一般的ですが、それでも受け取れる財産がある場合もあるため、遺族年金について知っておきましょう。
本記事では、相続放棄後の遺族年金に関する受給要件や手続きの流れ、注意点などをわかりやすく解説します。
相続放棄の決断を支える遺族年金の知識を深め、落ち着いて手続きを進めましょう。
相続放棄を検討している方々にとって、遺族年金の受給資格は大きな関心事となるのではないでしょうか。
相続放棄は故人による負債を含めたすべての財産継承を放棄する法的手続きを指しますが、実は相続放棄は遺族年金の受給資格には影響しません。
遺族年金は、故人が生前に加入していた国民年金や厚生年金制度に基づいて遺族に支給されるものであり、相続財産とは異なる性質をもつためです。
以下では、相続放棄をした場合でも遺族年金を受け取ることができる理由、受給条件、そして受給額の計算方法について詳しく解説します。
遺族年金とは、故人が加入していた年金制度に基づいて遺族に支給される公的な給付金です。
遺族年金は法律で定められた受取人固有の財産であり、相続財産には含まれないため、相続放棄をしても遺族年金の受給資格には影響しません。
また、遺族年金は遺産分割の対象にもなりません。
故人が家計の主たる支え手であった場合に、その遺族の生活を保障することが遺族年金の目的です。
受給資格は、故人と生計を同じくしていた配偶者や子どもなど特定の遺族に限られています。
遺族年金の受給資格を有するかどうかは、故人の加入していた年金制度や遺族の状況によって決定され、相続放棄の有無は考慮されません。
遺族年金を受け取るためには、一定の受給条件を満たす必要があります。
明確な受給条件は故人の年金加入状況や遺族の状況によって異なりますが、主に故人が加入していた年金制度の種類、故人の加入期間、遺族の年齢や障害の有無などが考慮されます。
また、遺族年金の受給資格を得るために重要になるのが、適切な手続きを済ませて必要な書類を提出することです。
遺族年金の種類には遺族基礎年金と遺族厚生年金があり、それぞれに異なる受給条件が設けられているため確認しておきましょう。
遺族基礎年金は、国民年金の加入者が亡くなったときに、その遺族に支給される年金です。
受給資格としては、18歳未満の子ども、または障害のある子どもをもつ配偶者に限られています。
遺族基礎年金による受給額は、故人が国民年金に加入していた期間や遺族の状況に応じて算定されます。
遺族厚生年金は、厚生年金保険の加入者が亡くなったときに遺族に支給される年金です。
受給資格は、故人の加入期間や遺族の状況に基づいて決定されます。
遺族基礎年金と比較して、受給額が高くなる傾向にあることが特徴です。
遺族年金の受給額は、故人の加入していた年金制度や加入期間、遺族の状況によって変わるため、計算方法も一人ひとり異なります。
以下では、仮の数字を設定して遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給額の計算方法を解説します。
遺族基礎年金は、国民年金の加入者が亡くなった際に、その遺族に支給されます。
受給資格は、亡くなった方が国民年金に加入していたとき、または老齢基礎年金の受給資格を満たしていたときに限られます。
受給できるのは、亡くなった方によって生計を維持されていた子どもをもつ配偶者と子どもです。
遺族基礎年金の支給額は、「基本額」と子どもの人数に応じた「加算額」を合わせることで計算できます。
子どものいる配偶者が受給するケースでは、昭和31年4月2日以後生まれの方であれば基本額は816,000円、加算額は子ども1人につき234,800円が加算され、子どもが複数いる場合は子どもの人数に応じて加算額が増えます(3人目以降は各78,300円)。
以下は、亡くなった方の配偶者が昭和31年4月2日以後生まれの方で、子どもが2人いたケースの計算式です。
基本額+(加算額×子どもの人数)=遺族基礎年金
816,000円+(234,800円×2人)=1,285,600円
遺族厚生年金は、厚生年金の加入者が亡くなったときに、その遺族に支給される年金です。
計算方法は、「老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3」が基本となります。
具体的には、亡くなった方の平均標準報酬月額や加入期間に基づいて計算され、その結果得られた報酬比例部分の4分の3が遺族厚生年金として支給されます。
以下では、仮に老齢厚生年金の報酬比例部分:を3,000,000円として計算します。
老齢厚生年金の報酬比例部分×3/4=遺族厚生年金
3,000,000円×3/4=2,250,000円
相続放棄を検討している方が遺族年金を受け取るまでの手続きは、専門的な知識がなければ複雑に思えるかもしれません。
しかし、正しい手続き方法を理解することでスムーズに進めることが可能です。
以下では、被相続人の死亡届の提出から相続放棄の手続き、そして遺族年金の請求までの詳細な流れについて詳しく解説します。
相続放棄が遺族年金の受給資格に直接影響を与えることはありませんが、それぞれの手続きについて正確に理解することは重要です。
被相続人が亡くなった際には、速やかに死亡届を市区町村役場に提出することが求められます。
死亡届の提出は、法的に死亡を認定して相続手続きや遺族年金の請求を可能にするための最初の一歩です。
死亡届は、通常であれば医師が発行する死亡診断書をもとに遺族が役場に提出します。
死亡届を提出する段階で、故人の身分を証明する書類や遺族の関係を示す書類の準備も始めましょう。
相続放棄の手続きをおこなうためには、以下の表に記載した書類が必要です。
費用については、家庭裁判所に提出する際の収入印紙代や戸籍謄本などの取得にかかる手数料です。
必要書類 | 説明 | 費用 |
相続放棄申述書 | 家庭裁判所に提出する相続放棄の意志を示す書類 | 収入印紙代 約600円 |
被相続人の戸籍謄本 (死亡が記載されたもの) |
被相続人の死亡を証明する公的書類 | 取得費用 約450円/1通 |
被相続人の除籍謄本 | 被相続人の全生涯の戸籍の動きを示す書類 | 取得費用 約750円/1通 |
相続人全員の戸籍謄本 | 相続人の資格を証明する公的書類 | 取得費用 約450円/1通 |
相続人全員の住民票 | 現在の住所と家族構成を証明する公的書類 | 取得費用 約300円前後/1通 |
必要書類を収集できたら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申し立てをおこないます。
相続放棄の申し立ては、被相続人の死亡を知った日から3カ月以内に完了させなければなりません。
もし期日までに手続きがおこなえなかった場合、相続放棄は認められないため注意しましょう。
申し立てが受理されると相続放棄が法的に認められ、相続人は故人からの財産継承を放棄したことになります。
相続による借金などの負債を回避するためにも重要な手続きです。
また、相続放棄をおこなう際には次順位の相続人に相続権が移るため、事前に適切な情報提供をおこなうことを忘れてはなりません。
遺族年金を請求するためには、以下に挙げる書類を揃える必要があります。
上記の書類は、遺族年金の受給資格を証明し、年金の支払いを受けるために必要です。
遺族年金の種類によって必要な書類が異なるケースがあるため、事前に最寄りの年金事務所に確認することをおすすめします。
収集した書類をもとに、遺族年金の請求をおこないます。
提出場所は遺族年金の種類によって異なり、遺族基礎年金を請求する際には請求者の住所地を管轄する市区町村役場に、遺族厚生年金を請求する際には最寄りの年金事務所に提出します。
相続放棄と遺族年金の受給には、それぞれ留意すべき点が多く存在するため注意が必要です。
たとえば相続放棄の手続きには厳格な期限があるほか、特定の行為によっては相続放棄が認められなくなるケースもあるため、慎重な対応が求められます。
相続放棄は、故人からの財産だけでなく、借金をはじめとした負債からも逃れるための法的手段です。
相続放棄という選択が遺族年金の受給資格に直接影響を与えることはありませんが、相続放棄を検討している方が遺族年金を受け取る際には、いくつかの重要な注意点が存在します。
以下では、相続放棄と遺族年金の受給に関連する手続きの期限をはじめ、相続放棄が認められない特定のケース、そして次順位の相続人への通知義務について解説します。
相続放棄をおこなう際に、もっとも注意しなければならないのが期限内に手続きを完了させることです。
具体的には、故人の死亡を知った日から3カ月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申し立てをおこなわなければなりません。
もし3カ月以内に手続きをおこなうことができなかった場合は相続放棄の権利を失い、故人の財産だけでなく負債もすべて引き継ぐことになります。
また、遺族年金の請求にも期限が設定されており、故人の死亡日の翌日から5年以内に請求をおこなわなければ受給権を失う可能性があります。
設定された期限は、相続放棄や遺族年金の受給を検討している方が知っておくべき重要なポイントだといえるでしょう。
相続放棄の手続きをおこなうと、ほとんどのケースで受理されますが、実は必ず認められるわけではありません。
特定の行動や状況下では、相続放棄の申し立てが却下されることがあることを知っておきましょう。
たとえば、相続人が相続放棄の前に故人の財産を使用したり売却したりした場合、これらの行為は相続の承認とみなされ、その後の相続放棄が認められなくなります。
具体的には、故人の銀行口座からの資金引き出し、不動産の売却、または故人の財産の管理をおこなった場合などが該当します。
これから相続放棄を検討している方は、故人の財産に対していかなる行動も慎重に考慮し、必要に応じて専門家に法的なアドバイスを受けるようにしましょう。
相続放棄をおこなうと、相続権は自動的に次順位の相続人に移行します。
しかし、相続権の移行は家庭裁判所から次順位の相続人に直接通知されるわけではありません。
そのため、次順位の相続人が知らないうちに負債を抱えてしまうリスクがあるのです。
相続放棄をおこなう際には次順位の相続人にその旨を伝え、必要な情報を共有することが非常に重要です。
次順位の相続人とコミュニケーションをとることで相続プロセスがスムーズに進行するほか、将来的なトラブルや誤解を防ぐことができます。
相続放棄の意思決定は、関係するすべての相続人にとって明確かつ透明性の高いものであるべきです。
相続放棄は、故人からの財産継承を放棄する法的な手続きであり、相続人が故人の負債を引き継ぐことを避けるためにおこなわれるのが一般的です。
相続放棄をおこなうことで受け取れなくなる財産がある一方で、実は相続放棄をしても法律によって定められた特定の財産は受け取ることができます。
以下では、相続放棄をした場合にどのような財産が受け取れるのか、また受け取れなくなるのかについて解説します。
相続放棄をおこなう前に、受け取れる財産と受け取れなくなる財産を正確に把握し、慎重に判断することが重要です。
相続放棄をおこなっても受け取ることができる財産には、以下のようなものが含まれます。
財産 | 概要 |
遺族年金 | 故人が加入していた国民年金や厚生年金制度に基づく遺族年金は、相続財産とは別に遺族に支給されるため、相続放棄の影響を受けません。 |
未支給年金 | 故人が生前に受け取る権利を有していたものの、まだ支給されていない年金も相続財産には含まれないため、遺族が受け取ることができます。 |
生命保険金 | 故人が契約者で、受取人が明確に指定されている生命保険金は、受取人固有の財産であり、相続財産には含まれないため、相続放棄の影響を受けずに受取人が直接受け取ることができます。 |
死亡退職金 | 故人が勤務していた会社から支払われる死亡退職金も、特定の受取人が指定されているケースでは、受取人固有の財産であり、相続財産には含まれず、相続放棄の影響を受けません。 |
上記に挙げた財産は、相続放棄をしても遺族が受け取ることが可能です。
ただし、それぞれの制度や契約に基づく適切な手続きをおこなう必要があります。
相続放棄をすると受け取ることができなくなる財産には、以下のようなものが挙げられます。
財産 | 概要 |
故人の預貯金 | 故人名義の銀行口座にある預貯金は、相続放棄をおこなうことで相続人が受け取る権利を放棄したとみなされ、受け取れなくなります。 |
不動産 | 故人が所有していた不動産に関しても、相続放棄をおこなうことで受け継ぐ権利を失うため、受け取れなくなります。 |
株式や有価証券 | 故人が保有していた株式や有価証券についても、相続放棄によってこれらの資産を受け継ぐ権利がなくなります。 |
故人名義の車両 自動車やバイクなど、故人名義で登録されている車両も、相続放棄をおこなうことで受け取る権利を放棄することになります。
相続放棄をおこなうと、上記に挙げた財産に関する相続人としての権利を放棄することになります。
そのため、相続放棄の決断をする前に、どの財産を受け取れるのか、また受け取れなくなるのかをしっかりと理解しておくことが必要です。
相続放棄をおこなった場合でも遺族年金を受け取ることができるという事実は、多くの人にとって安心材料の一つとなります。
しかし、専門的な知識が必要になるため、手続きの過程で疑問や不安が生じることは少なくないのではないでしょうか。
特に、遺族年金の受給資格や必要書類、手続きの流れについては正確な手続きの理解と適切な対応が求められます。
相続放棄や遺族年金の手続きで不明点があるときや、相続放棄に関する法的なアドバイスが必要なときには、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
故人の意志を尊重しつつ遺族が適正に権利を行使できるように、専門家の力を借りて適切な手続きをおこないましょう。
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