被相続人が多額の借金を抱えていた場合など、なかには相続せずに相続放棄したほうがよいケースもあります。
しかし、そこで不安になるのが、相続権が相続人の子どもや孫に移る代襲相続です。
自分が負債の相続を放棄することで、子どもや孫に負債を押しつけてしまう形になるのは本意ではないでしょう。
本記事では、被相続人の遺産を相続放棄した場合の代襲相続の扱いや、相続放棄によって誰に相続権が移るのかなどを詳しく解説します。
相続放棄には複雑なルールがあり、専門家のアドバイスが必要になるケースも珍しくありません。
相続放棄を検討している方は、まず本記事で基礎知識を身につけたうえで専門家への相談を検討しましょう。
相続放棄とは、相続人が故人である被相続人のプラスの財産だけでなく、負債も含めて相続を放棄する手続きを指します。
代襲相続とは、本来の相続人が亡くなっている場合などに、その子どもが相続人となる制度です。
どちらも、相続について考える際には知っておくべき概念です。
以下では、相続放棄と代襲相続のそれぞれの制度について解説します。
代襲相続とは、相続が発生した際に本来であれば相続人になるはずだった人がすでに亡くなっている場合や、相続欠格・相続廃除があった場合などに、その人の子どもが相続人となる制度です。
たとえば、祖父が亡くなったものの、相続人となる父がすでに亡くなっていたケースでは父の子どもが代襲相続人になります。
相続欠格・相続廃除については、それぞれ以下のとおりです。
相続欠格 |
被相続人の意思とは無関係に相続人の相続権が剥奪される制度 例:「相続人が被相続人を殺害した場合」や「遺言書を偽装した場合」など |
相続廃除 |
被相続人の意思によって相続人の相続権を剥奪する制度 例:「相続人が被相続人を虐待した場合」や「重大な侮辱を加えた場合」など |
代襲相続では、子どもや孫のような直系卑属だけでなく、甥や姪が代襲相続人になる可能性もあります。
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産全体を一切相続しないという手続きです。
相続放棄をすれば相続トラブルに巻き込まれずに済むなどのメリットがあります。
しかし、債務などのマイナスの財産よりもプラスの財産のほうが多い場合は損をする、などのデメリットもあるため注意が必要です。
相続放棄をおこなうためには、相続人になってから3ヵ月以内に家庭裁判所への申立てが必要です。
相続放棄の申請が受理されると、その人は最初から相続人ではなかったとみなされ、相続権は次の順位の人に移ることになります。
相続の対象となるのは資産だけでなく、被相続人が抱えていた借金などの負債も対象となります。
こうした負債を引き継がないためにおこなうのが相続放棄です。
ただし、相続放棄が受理されると、負債を含む遺産の相続権は次の順位の相続人に移ります。
そこで問題になるのが、「親が相続放棄した負債が、代襲相続によって子どもや孫に移らないか」ということです。
結論からいうと、相続放棄しても代襲相続は発生しません。
つまり、相続放棄をした人の子どもや孫が自動的に相続人になることはありません。
しかし、特定の状況下では代襲相続が発生することがあるため、以下で詳細な条件について解説します。
相続放棄をしていても、特定の条件下では代襲相続が発生することがあります。
具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。
父母が亡くなったあとに相続放棄をし、そのあとに祖父母が亡くなったケースでは、通常は父母が祖父母の相続人になりますが、その相続権が移ることで孫が祖父母の代襲相続人となり得ます。
被相続人が亡くなり、配偶者や子どもが相続放棄をすると、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
しかし、すでに兄弟姉妹が亡くなっているケースでは、その子どもである被相続人の甥や姪が代襲相続人になります。
相続放棄は、相続人が故人の財産を受け継がないという選択をする法的手続きです。
相続放棄すると代襲相続は発生しませんが、それでは誰が相続人になるのでしょうか。
以下では、祖父母・父母・子ども・兄弟姉妹が存在する一般家庭のケースを想定して、相続放棄がおこなわれた際の相続権の移動について解説します。
被相続人の子どもが相続放棄をしたケースでは、相続権は直系尊属や兄弟姉妹など、次の順位の法定相続人に移ります。
具体的には、子どもがいない場合は被相続人の父母が次の相続人となり、すでに父母も亡くなっている場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人になる可能性があります。
このケースでは、相続放棄をした人は「最初から相続人ではなかった」とみなされるため、代襲相続は発生しません。
被相続人の子どもだけでなく、父母も相続放棄をしたケースでは、相続権は被相続人の兄弟姉妹に移ります。
このケースでは、直系尊属と直系卑属が相続放棄をおこなったため、法定相続人の範囲が拡大して兄弟姉妹が相続人となるのです。
兄弟姉妹がいない場合や兄弟姉妹も相続放棄をする場合、相続権はさらに遠い親族や、最終的には国に移ることになります。
被相続人の子ども・父母・兄弟姉妹全員が相続放棄をしたケースでは、相続権は被相続人のさらに遠い親族に移ることがあります。
しかし、遠い親族も存在しないケースや関係者全員が相続放棄をしたケースでは、相続財産は最終的に国に帰属することになります。
代襲相続は、本来の相続人が亡くなっている場合などに、その子どもや孫が相続人となる制度です。
たとえば、先に父母が亡くなっている状況で祖父母が亡くなったケースなどは、父母の子どもが代襲相続人となる可能性があります。
代襲相続も通常の相続と同様に、プラスの財産だけでなく借金などの負債も引き継いでしまうことになります。
そのため、代襲相続人も相続放棄することが認められています。
相続放棄を検討する際には、相続開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があることを覚えておきましょう。
この期間を過ぎると、自動的に「相続を承認したもの」とみなされます。
代襲相続人は通常の相続人とは異なり、「自分が相続人である」ということを想定していないケースも珍しくありません。
借金などの負の遺産の相続を避けるためにも、相続放棄について知っておくことが重要です。
代襲相続も通常の相続と同様に、借金などの負債まで引き継ぐことになるおそれがあり、条件によっては相続放棄したほうがよいケースもあります。
以下では、代襲相続人が相続放棄を検討すべき具体的なケースを解説していきます。
父母が先に亡くなっており、そのあとに祖父母が借金を残して亡くなったケースでは、代襲相続人である被相続人の孫が祖父母の借金を引き継いでしまうリスクがあります。
しかし、代襲相続人となる孫が相続放棄をおこなえば、祖父母の借金を引き継ぐことはありません。
相続放棄によって、代襲相続人は祖父母の資産だけでなく負債の相続からも解放されるため、負債の割合が大きいケースでは相続放棄を検討すべきです。
代襲相続人には、直系卑属だけでなく甥や姪がなるケースもあります。
たとえば、叔父や叔母が多額の借金を残して亡くなり、相続人である配偶者や子どもなどが相続放棄をすると、次順位の兄弟姉妹が相続人となります。
しかし、その兄弟姉妹が先に亡くなっていると、その子どもが代襲相続人になります。
代襲相続人も相続放棄をすれば叔父や叔母の借金を引き継ぐことはなく、負の遺産の相続から解放されます。
相続人が相続放棄することで自分が代襲相続人になる可能性があるケースでは、相続放棄を検討しておく必要があります。
もし亡くなった親族が大きな負債を抱えていて相続放棄したケースであっても、自分の子どもや孫が代襲相続人になることはありません。
ただし、特定の条件下では相続放棄後に代襲相続が発生する可能性もあることを知っておきましょう。
相続放棄の手続きは自分でもおこなえますが、必要書類が多く専門知識も必要になります。
そのようなときに活躍するのが、法律に関する専門家である弁護士です。
弁護士なら、相続放棄の手続きや必要書類、相続放棄後の法的影響などについて的確なアドバイスが望めます。
さらに、弁護士には相続放棄の手続きを依頼することもでき、自力で対応できるか不安な方には特におすすめです。
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