相続放棄を選択する場合、まず亡くなった方の財産や借金を調べ、原則として被相続人が死亡したことを知った日から(先順位の相続人がいる事案では自分が相続人となったことを知った日から)3ヵ月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。
財産調査の時間を確保できないときは、相続放棄の期限を伸長する方法、上申書によって期限後の相続放棄を認めてもらう方法もあります。
ただし、どちらも例外的な扱いになるため、以下のような疑問を感じている方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、相続放棄の期限伸長や、3ヵ月経過後の対処法などをわかりやすく解説していきます。
上申書の文例も掲載していますので、相続放棄の期限が迫っている方はぜひ参考にしてください。
相続放棄は重要な選択になるため、判断を誤らないように3ヵ月の熟慮期間が設けられています。
熟慮期間は「相続開始を知った日」が起算点になっており、被相続人の死亡日になるとは限らないので注意してください。
たとえば、1月1日に被相続人が亡くなり、翌日に被相続人の死亡を知ったときは、民法の初日不参入の原則から1月3日の開始時(午前0時)が熟慮期間の起算点になります。
相続放棄は熟慮期間中に家庭裁判所へ申述するので、1月3日が起算点であれば、3ヵ月後の4月2日の満了時までが相続放棄の申述期限です。
被相続人が親しい人物であった場合の死亡日と相続開始を知った日は同日になることが多いでしょう。このような場合被相続人の戸籍や除籍謄本で日付を証明できます。
ただし、被相続人の死亡を翌日以降に知った場合、熟慮期間の起算点を明らかにする必要があるので、メールやLINE、電話の着信履歴は保存しておく必要があります。
上述のとおり、被相続人の死亡日から3ヶ月が経過していたとしても、被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月が経過していない場合や先順位の相続人がいる事案で自分が相続人となったことを知ってから3ヶ月が経過していない場合は、熟慮期間は満了しておらず、相続放棄の申述が可能です。
また、相続放棄の熟慮期間である3ヵ月を過ぎてしまい、申述期限に間に合わなかったときでも状況によっては上申書を提出して事情を説明すれば、相続放棄を受理してもらえる場合もあります。
ただし、これはあくまでも例外的な措置になっており、簡単には認めてもらえないので注意が必要です。
熟慮期間経過後の相続放棄を認めてもらいたいときは、以下を参考に上申書を作成してください。
上申書とは、相続放棄を認めてもらうための根拠を説明する書類です。
公的機関などに対して自分の意見を申し述べたり、事情を説明することを「上申」といい、書類名に決まりはないため、事情説明書や状況説明書でも構いません。
死亡日から3ヶ月が経過したものの、自分が相続人となったことを知ってからは3ヶ月を経過していない場合には、経緯や事情を説明するために上申書を提出した方が良いでしょう。
また、以下で述べるとおり、一般的な熟慮期間中(被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月間)に相続放棄の申述ができなかったとしても例外的に相続放棄の申述が認められる場合があります。
このような場合も例外的な取り扱いを求めることになりますので、熟慮期間中に申述できなかった理由を説明し家庭裁判所の判断を仰ぐことになります。
相続放棄の上申書は自分で作成しなければなりませんが、決まった書式がないため、書き方がわからない方は以下の文例を参考にしてください。
相続放棄の上申書を作成するときは、以下のような文面になります。
上申書 被相続人アシロ太郎の相続にかかる相続放棄につき、相続人かつ申述人である私の「相続開始を知った日」について、以下のとおり事情を説明いたします。
(1) 私は、令和5年1月1日に死亡した、被相続人アシロ太郎の相続人であるアシロ一郎です。
(2) 私は、アシロ太郎との不仲が原因で20年近くは連絡を取っておらず、アシロ太郎の死亡時において、自己のための相続開始を知ることはできませんでした。
(3) しかし、令和5年9月10日、アシロ太郎の債権者となる○○○○から私あてに督促状が送付されたため、当人の死亡や、自己のための相続開始を知ることとなった次第です。
(4) アシロ太郎の死亡から3ヵ月以上経過していますが、上記の理由から、私が相続開始を知った日は「令和5年9月10日」となります。令和5年9月10日からは3ヵ月を経過していないため、相続放棄を申述いたします。
令和5年10月1日 住所:東京都新宿区西新宿○-○-○ 申述人:アシロ 一郎 印 |
基本的には申述の理由と根拠がわかればよいので、「なぜ被相続人と不仲になったのか」等の個人的な事情まで記載する必要はありません。
債権者からの督促で相続開始を知った場合は、督促状を上申書に添付しておきましょう。
なお、申述人の印鑑は認印でも構いません。
相続放棄の上申書を作成したあとは、同時に相続放棄の申述も必要になるので、以下の書類を「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」へ提出します。
なお、以下の書類は被相続人の配偶者、または子供が相続放棄するときのものです。
相続放棄申述書は家庭裁判所の窓口、または裁判所のホームページで入手できます。
被相続人の父母や兄弟姉妹が相続放棄する場合、相続順位が上位となる相続人がいないことを疏明する必要があり、戸籍謄本の取得数が多くなるので注意してください。
相続放棄の上申書には家庭裁判所が納得してくれるだけの理由と根拠が必要です。
上申書の書き方に迷ったときは、弁護士にサポートしてもらうとよいでしょう。
3ヵ月の熟慮期間経過後に相続放棄する場合、以下のように特別な事情が必要です。
いずれも過去の判例を要約したものですが、相続財産が全く存在ないと信じることに理由があった場合や、被相続人の財産状況を知ることが著しく困難であった場合に限られています。
「仕事が忙しくて財産調査できなかった」などの理由では、期間経過後の相続放棄を認めてもらえないので注意してください。
相続放棄の期限までに相続を受けるのか相続放棄をするのかの判断を下すことができない場合、相続開始を知った日から3ヵ月以内であれば、家庭裁判所への申し立てによって熟慮期間を伸長してもらえる可能性があります。
伸長期間や必要資料などは以下のとおりですので、相続放棄の申述期限が迫っているときは、早めに対処しておきましょう。
家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立て、認められた場合は1~3ヵ月程度の期間が伸長されます。
基本的には3ヵ月になるケースが多いため、相続を受けるのか相続放棄をおこなうのかの判断ができるように速やかに財産調査をおこないましょう。
相続放棄の熟慮期間を伸長する場合、以下の資料とともにで管轄の家庭裁判所へ申して立てる必要があるので、伸長の申立が必要だと思われる場合(相続放棄をすべきかの判断をおこなうのに時間を要する場合)資料は早めに準備するようにしましょう。
家庭裁判所に相続放棄の熟慮期間伸長を申し立てるときは、以下の書類を提出してください。
申立書は「家事審判申立書」を使用するので、書式と記載例を家庭裁判所の窓口、または裁判所ホームページで入手しておきましょう。
なお、熟慮期間が伸長されても財産調査の時間が足りない場合、もう一度家庭裁判所へ申し立てることで再伸長が認められるケースもあります。
ただし、当初の伸長期間よりも短くなってしまう場合もあるので、再度の伸長を求めるとしても相続放棄をおこなうかどうかの判断を速やかにおこなうことができるように計画をしておきましょう。
熟慮期間の伸長は「審判」の手続きになるため、伸長が認められるかどうかは裁判官によって判断されますが、以下のようなケースは期間伸長が認められやすいでしょう。
また、相続放棄する人が北海道在住で被相続人の住所地が沖縄など、それぞれが遠方に居住しているケースでも、期間伸長は認められやすいといえます
相続放棄が3ヵ月の熟慮期間を経過しそうなときは、財産調査から申述までの手続きを弁護士に依頼することも検討しましょう。
弁護士に依頼すると以下のメリットがあります。それぞれの状況に照らして相続放棄が可能かどうかを適切に判断してくれますし、一見熟慮期間が経過しているように見えても、ヒアリングを通じて相続放棄が可能かどうかを探ってくれます。
相続放棄を検討する場合には、まず財産調査を弁護士に依頼するのも一つの選択肢です。
相続開始直後は葬儀や法要が続き、喪中はがきや香典返しの準備、年金の受給を停止する手続きなどに追われてしまうため、財産調査に十分な時間を割けません。
また、以下のような財産と負債は見落としやすいといえます。以下の資料は相続人でも照会が可能ですが、弁護士からのヒアリングや調査を通じて新たな財産や負債を発見できる可能性があります。
金融機関や消費者金融の借金は信用情報機関などに照会できますが、個人から借金している場合、借用書や督促状がなければ同居親族でも気付かない場合があります。
財産調査の時間を確保できない方や、調べ方がよくわからない方は、早めに弁護士へ相談しましょう。
弁護士は相続放棄の申述を代理してくれるので、必要書類の収集や申述書の作成、家庭裁判所への提出まで、すべての手続きを依頼できます。
相続放棄を申述するときは戸籍謄本や住民票除票などを添付しますが、市区町村役場は平日しか開庁していないため、土日が休みの方は取得が難しいでしょう。
家庭裁判所も平日しか開庁していないので、有給休暇を取得しにくい方は、相続放棄の申述期限に間に合わない可能性があります。
戸籍謄本の取得や相続放棄の申述は郵送でもできますが、郵送日数分のロスがあるため、期限が迫っている方にはおすすめできません。
自分で相続放棄の申述に対応できないときは、すぐにでも弁護士に相談しておきましょう。
>相続放棄の手続きについて詳しく知る
>相続放棄の必要書類について詳しく知る
弁護士に依頼すると、熟慮期間伸長の申し立てや、状況に応じて3ヵ月経過後の上申書作成にも対応してもらえます。
相続放棄の申述は基本的に書面で審理がなされるため、申立書や上申書の内容が非常に重要です。
事案が複雑等の理由で裁判官に納得してもらえるように事情説明したいときは、弁護士に作成を任せたほうが安心でしょう。
また、早めに弁護士へ相談しておくと、熟慮期間の伸長が必要かやどのような上申書が必要かを状況に応じて判断してくれます。
家庭裁判所に期限後の相続放棄を受理してもらえなかった場合、弁護士に依頼すると即時抗告をおこなうことができる可能性があります。
即時抗告とは、家庭裁判所の審判に不服がある場合、再審理してもらうように高等裁判所へ申し立てる手続きです。
即時抗告は審判の告知日から2週間以内が期限になります。
また、即時抗告は家庭裁判所の審判を覆すこと求めるので、相続放棄の申述の受理を妥当とする資料を揃え、法律や裁判例に沿った論理的な主張をおこなう必要があります。
上申書が受理されなかったときは、即時抗告が可能かどうかの判断も含め、まず早急に弁護士に相談してみるべきでしょう。
相続人は、被相続人が亡くなってから色々な事務に追われることになるので3ヶ月を経過しそうになることもあります。
また、被相続人との関係や財産状況によっては財産や負債の調査に時間を要する場合もあります。
期限を過ぎそうなときは熟慮期間伸長の申し立てもできますし、場合によっては熟慮期間を経過しているようにみえても厳密に検討すれば相続放棄の申述が可能なケースもあります。
しかし、いずれにしても、家庭裁判所が納得するだけの合理性や根拠資料が必要です。
多忙な方は期限伸長の申し立てや上申書作成が負担になってしまうので、相続放棄の期限に間に合わないおそれがあるときは、まず弁護士に相談しておきましょう。
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