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農地を相続放棄する際の注意点|手続きの流れや相続放棄せずに手放す方法を解説

ゆら総合法律事務所
阿部 由羅
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亡くなった被相続人の農地を相続したくない場合は、相続放棄をすることが有力な選択肢の一つです。

ただし、相続放棄をすると他の遺産も相続できなくなるほか、相続権の移動が発生することがあります。

農地を手放す方法は相続放棄のほかにもあるので、各方法の特徴を比較した上で選択しましょう。

本記事では農地の相続放棄について、判断のポイント・手続き・相続放棄せずに手放す方法などを解説します。

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農地だけを相続放棄することはできない

近年では都市部への人口集中が進んでおり、実家の農地からは離れて暮らす人が大多数となりました。

遠方の農地を相続しても管理が難しいので、相続せずに手放したいと考える方がたくさんいらっしゃいます。

しかし、相続放棄はすべての遺産を相続しない意思表示なので、農地だけを相続放棄することはできません。

他の遺産を相続しつつ農地だけを手放したい場合は、財産放棄」など別の方法をとる必要があります

相続放棄はすべての相続財産が対象|農地だけの相続放棄は不可

「相続放棄」とは、遺産を一切相続しない旨の意思表示です。

相続放棄をした人は、最初から相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。

つまり、債務を含むすべての遺産を相続しないことになります。

相続放棄は、あくまでもすべての遺産を対象とする意思表示であって、特定の遺産をピンポイントで手放すものではありません。

したがって、農地だけを相続放棄することはできない点にご注意ください。

財産放棄なら農地のみの放棄も可能

他の遺産を相続しつつ農地だけを手放したい場合は、相続放棄以外の方法を検討する必要があります。

たとえば、相続人が他の相続人に対して、遺産を相続しない旨の意思を伝えることを「財産放棄」と呼ぶことがあります。

財産放棄であれば、他の遺産を相続しつつ農地を相続しないことも可能です。

ただし財産放棄には、相続放棄と異なる注意点があります。

特に被相続人の債務を相続する点や、遺産分割協議への参加が必要となる点には注意が必要です。

相続放棄と財産放棄のどちらを選択すべきか(またはどちらも選択すべきでないか)については、弁護士にアドバイスを求めることをおすすめします。

農地を相続放棄するメリット・デメリット

農地(を含むすべての遺産)を相続放棄することには、以下に挙げるように、メリット・デメリットの両面があります。

具体的な事情に照らしてメリット・デメリットを比較し、相続放棄をすべきかどうか慎重に検討しましょう。

農地を相続放棄するメリット

①農地の管理から解放される

遠方や山間部などに所在する、管理が難しい農地を管理する必要がなくなります。

※ただし、相続した農地のうち相続放棄の時点で現に占有しているものについては、他の相続人または相続財産清算人に引き継ぐまでは保存義務があります(後述)。

②被相続人の債務を支払わずに済む

被相続人が生前負っていた、借金などの債務を支払わずに済みます。多額の債務によって相続財産全体の価値がマイナスとなっている場合は、相続放棄を選択するのが賢明です。

③遺産分割協議への参加が不要となる

相続放棄をした人は、遺産分割協議へ参加する必要がなくなります。遺産相続に関わりたくない方は、相続放棄を検討しましょう。

農地を相続放棄するデメリット

①他の遺産も相続できなくなる

農地以外の遺産も相続できなくなります。手元に残しておきたい遺産がある場合は、相続放棄を避けた方がよいかもしれません。

②相続権が移動することがある

相続放棄によって同順位の相続人がいなくなった場合は、後順位相続人へ相続権が移動します。相続権の移動が原因で、相続トラブルが発生することもあるので注意が必要です。

(例)被相続人の子全員が相続放棄をした場合に、被相続人の兄弟姉妹へ相続権が移った。兄弟姉妹は被相続人の配偶者のことを快く思っておらず、配偶者と兄弟姉妹の間で相続トラブルが発生した。

相続放棄をした後の農地に関する対応・手続き

相続放棄をした後でも、農地については一定の対応・手続きが必要となる場合があります。

特に以下の3点については、どのような対応が必要となるかについてよく確認しておきましょう。

  1. 現に占有している農地は保存を続ける必要がある
  2. 他の相続人に農地の占有を引き継ぐ際の手続き
  3. 相続人が誰もいなくなった場合は、相続財産清算人の選任を申し立てる

現に占有している農地は保存を続ける必要がある

相続放棄をした時点で、相続財産である農地を占有している場合は、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その農地を保存しなければなりません。

これを相続放棄後の保存義務といいます(民法940条)。

相続放棄後の保存義務は、対象となる農地を他の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで続きます

農地の保存義務を負っている期間は、以下の対応をおこなわなければなりません。

  • 故意または重大な過失により、農地が滅失または損傷しないようにする(=自己の財産におけるのと同一の注意義務)
  • 他の相続人または相続財産清算人の請求に応じて、農地の保存状況を報告する(民法645条
  • 他の相続人または相続財産清算人に農地を引き渡した後、それまでの保存の経過および結果を遅滞なく報告する(
  • 農地を保存する過程で受け取った金銭その他の物(地代など)を、他の相続人または相続財産清算人に引き渡す(民法646条1項
  • 農地に関して、自己の名で取得した権利を他の相続人または相続財産清算人に移転する(同条2項

農地の保存に要した費用は、他の相続人または相続財産清算人に対して、利息を付して償還するよう請求できます(民法650条1項)。

また、農地の保存に必要と認められる債務を負担したときは、自己に代わって他の相続人または相続財産清算人が支払うことを請求可能です(同条2項)。

他の相続人に農地の占有を引き継ぐ際の手続き

相続財産である農地の占有を他の相続人に引き継ぐときは、以下の手続きが必要となります。

  1. 農地の所有権移転登記手続き(相続登記)
  2. 農業委員会への届出

農地の所有権移転登記手続き(相続登記)

農地の所有者を公示するため、法務局または地方法務局において所有権移転登記手続き(相続登記)をおこなう必要があります。

相続登記を経ることによって、第三者に対して農地の所有権を対抗できるようになります(民法177条)。

従来は、相続登記は法律上義務付けられていませんでした。

しかし2024年4月1日以降は、不動産登記法の改正により、相続開始後3年以内の相続登記が義務付けられる予定です。

2024年3月31日以前に発生した相続についても義務化の対象となるので、農地を相続する人が決まり次第、速やかに相続登記の手続きをおこないましょう。

農業委員会への届出

農地についての所有権移転や権利の設定などは、農地法によって規制されています。

農地の所有権を移転するためには、原則として農業委員会の許可を受ける必要がありますが、相続による場合は許可不要とされています(農地法3条1項12号)。

しかしその一方で、相続によって農地の所有権を取得した者は、遅滞なく(おおむね10か月以内に)所在地の市町村の農業委員会にその旨を届け出なければなりません(農地法3条の3)。届け出るべき事項は以下のとおりです(農地法施行規則17条)。

  1. 権利を取得した者の氏名・住所
  2. 権利を取得した農地所在・地番・面積
  3. 権利を取得した事由および権利を取得した日
  4. 取得した権利の種類・内容
  5. 所有権を取得した者の国籍等

農地を相続する人が決まったら、相続登記と併せて農業委員会への届出もおこないましょう。

相続人が誰もいなくなった場合は、相続財産清算人の選任を申し立てる

相続人が誰もいない農地については、相続財産清算人が管理して、最終的に国庫へ帰属させます。

相続放棄によって誰も相続人がいなくなった場合には、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てましょう。

相続財産清算人とは

相続財産清算人とは、相続人のあることが明らかでない相続財産を管理し、相続債権者や受遺者への弁済等をした後に国庫へ帰属させる業務をおこなう者です。

家庭裁判所は、相続人のあることが明らかでない相続財産につき、利害関係人または検察官の申立てによって相続財産清算人を選任します(民法952条1項)。

相続財産清算人は、民法の規定に従って相続財産を管理し、最終的に国庫へ帰属させます。

相続人がいない農地についても、相続財産清算人が管理および国庫帰属等に関する業務をおこなうことになります。

相続放棄の時点で占有している相続農地についても、相続財産清算人に引き渡せば、保存義務を免れます

相続財産清算人の選任申立ての手続きについては、裁判所ウェブサイトをご参照ください。

相続財産清算人による対応の流れ

相続財産清算人は、以下の流れで相続財産(農地を含む)の管理および国庫帰属等に関する業務をおこないます。

①相続財産目録を作成する(民法953条、27条1項

②相続財産を保存する

※ただし、家庭裁判所の許可を得れば、保存行為を超える行為も可能(民法953条、28条

※相続債権者または受遺者の請求があるときは、相続財産の状況を報告する(民法954条

③すべての相続債権者および受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて、その期間内に請求の申出をすべき旨を公告する(民法957条1項

※相続債権者および受遺者に対する公告期間は、家庭裁判所がおこなった相続人に対する公告(民法952条2項)の期間内に満了する必要がある

④相続債権者に対して弁済をする(民法957条2項、929条、930条

※相続財産を売却する必要がある場合は、競売に付す(民法957条2項、932条)。相続債権者および受遺者も競売に参加可能(民法957条2項、933条

⑤受遺者に対して弁済をする(民法957条2項、931条

※相続財産を売却する必要がある場合は、競売に付す(民法957条2項、932条)。相続債権者および受遺者も競売に参加可能(民法957条2項、933条

⑥特別縁故者に対して相続財産を分与する(民法958条の2

⑦相続財産を国庫へ帰属させる(民法959条

⑧相続財産の清算に係る計算を行う(民法959条、956条2項

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農地を相続放棄すべきケースの例

相続放棄すべきかどうかは、具体的な状況に応じて、メリット・デメリットを比較した上で判断すべきです。

たとえば以下のようなケースでは、農地を含む遺産の相続放棄を検討した方がよいでしょう。

  1. 相続したい遺産がほとんどない場合
  2. 被相続人に多額の借金がある場合
  3. 農地の管理が大変で、相続土地国庫帰属制度を利用できない場合

相続したい遺産がほとんどない場合

相続したい遺産がなければ、相続放棄をすることのデメリットがほとんどありません。

この場合、遺産分割協議への参加など面倒な手続きをおこなうよりも、シンプルな手続きで済む相続放棄をした方がよいことがあります。

被相続人に多額の借金がある場合

被相続人に多額の借金がある場合には、相続財産全体の価値がマイナスとなっている可能性があります。

この場合、遺産を相続すると経済的に損をしてしまうので、相続放棄を検討すべきでしょう。

相続放棄をすれば、被相続人の借金を支払う必要がなくなります。

農地の管理が大変で、相続土地国庫帰属制度を利用できない場合

農地だけをピンポイントで手放したい場合は、「相続土地国庫帰属制度」を利用することが考えられます(後述)。

ただし、相続土地国庫帰属制度の利用には一定の要件を満たす必要があり、すべての農地を国に引き取ってもらえるわけではありません

管理が大変な農地について、相続土地国庫帰属制度を利用できない場合には、相続放棄をすることも検討しましょう。

農地を相続放棄すべきでないケースの例

これに対して、以下のようなケースでは、農地を含む遺産の相続放棄は避けた方がよいかもしれません。

  1. 他に相続したい財産がある場合
  2. 相続権の移動を避けたい場合

他に相続したい財産がある場合

相続放棄をすると、農地だけでなく他の遺産も相続できなくなります。

預貯金や価値の高い不動産、代々受け継がれてきた土地や家財などを残したい場合には、相続放棄を避けた方がよいでしょう。

相続権の移動を避けたい場合

相続放棄をすると相続権が移動し、それがトラブルの原因になり得る場合には、相続放棄を避けた方が無難です。

特に被相続人の子から兄弟姉妹へ相続権が移動するケースで、被相続人の配偶者と兄弟姉妹の仲が悪い場合などには十分ご注意ください。

相続放棄せずに農地を手放したい場合の対処法

相続放棄をせずに農地を手放したい場合には、主に以下の2つの方法が考えられます。

  1. 他の相続人に農地を相続させる
  2. 相続土地国庫帰属制度を利用する

他の相続人に農地を相続させる

遺産分割協議で他の相続人が農地を相続することに合意すれば、ご自身は農地を相続せずに済みます。

ただし、管理が難しい遠方の農地などについては、相続人が誰も相続したがらないことがよくあります。

その場合は、他の遺産を多めに与えるなどの配慮を見せて交渉するか、または相続土地国庫帰属制度の利用などを検討しましょう。

相続土地国庫帰属制度を利用する

相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって取得した土地を国に引き取ってもらえる制度です。

農地についても、相続土地国庫帰属制度の対象となる場合があります。

相続放棄とは異なり、他の遺産を相続しながら、農地だけをピンポイントで手放すことが可能です。

相続土地国庫帰属制度の利用を希望する方は、最寄りの法務局または地方法務局へご相談ください。

相続土地国庫帰属制度の利用に関する注意点

相続土地国庫帰属制度の利用に当たっては、以下の2点にご注意ください。

  1. 農地の状態によっては、相続土地国庫帰属制度を利用できないことがある
  2. 負担金を納付する必要がある

農地の状態によっては、相続土地国庫帰属制度を利用できないことがある

相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、却下事由(相続土地国庫帰属法2条3項)および不承認事由(同法5条1項)がいずれも存在しない土地のみです。

①却下事由

(a)建物の存する土地

(b)担保権または使用・収益を目的とする権利が設定されている土地

(c)通路用地、墓地、境内地、水道用地、用悪水路、ため池が含まれる土地

(d)特定有害物質により汚染されている土地

(e)境界が明らかでない土地など、所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地

②不承認事由

(a)勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用・労力を要するもの

(b)土地の通常の管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木その他の有体物が地上に存する土地

(c)除去しなければ土地の通常の管理・処分をすることができない有体物が地下に存する土地

(d)以下の土地であって、現に他の土地の通行が妨げられているもの

・公道へ通じない土地

・池沼・河川・水路・海を通らなければ公道に至ることができない土地

・崖があって公道と著しい高低差がある土地

(e)(d)のほか、所有権に基づく使用・収益が現に妨害されている土地(その程度が軽微で、土地の通常の管理・処分を阻害しないと認められるものを除く)

(f)(a)~(e)のほか、通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として、相続土地国庫帰属法施行令3条3項で定めるもの

農地の状態によっては、却下事由または不承認事由が存在すると判断され、国庫帰属が認められないことがあります

負担金を納付する必要がある

相続土地国庫帰属制度の利用を申請する際には、土地1筆当たり1万4,000円の審査手数料がかかります。

さらに農地(田・畑)については、国庫帰属時に以下の負担金がかかる点にもご留意ください。

原則

20万円

市街化区域・用途地域が指定されている地域、農用地区域、土地改良事業などの施工区域内の農地

面積に応じて計算(たとえば、1000㎡の場合は112万8000円)

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この記事の監修者
ゆら総合法律事務所
阿部 由羅 (埼玉弁護士会)
不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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