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相続財産を処分してしまった!相続放棄はできるのか?できない場合の対処法も解説

ゆら総合法律事務所
阿部 由羅
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相続財産を処分すると、原則として相続放棄が認められなくなります。

また、すでにした相続放棄も無効となってしまうので注意が必要です。

例外的に相続財産を処分してよい場合もありますが、判断が難しいことが多いので、事前に弁護士へご相談ください。

本記事では、相続財産を処分してしまった場合に相続放棄ができるのかどうか、および相続放棄ができない場合の対処法などを解説します。

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相続財産を処分してしまった場合に、相続放棄について生じる影響

相続財産を処分してしまうと、相続放棄が認められなくなるほか、すでにした相続放棄も無効となるおそれがあります。

①今後の相続放棄が認められなくなる

相続財産を処分すると、法定単純承認」が成立します(民法921条1号)。

法定単純承認とは、相続を「単純承認」したと法律上みなされることです。

単純承認とは、相続財産(資産・債務)を制限なく相続する意思表示をいいます。

法定単純承認が成立すると、その後は相続放棄をすることができません

家庭裁判所に対して相続放棄の申述をおこなっても、すでに相続財産を処分している場合は却下されてしまうおそれがあります。

②すでにした相続放棄が無効になる

すでに相続放棄の手続きが済んで家庭裁判所に受理された場合でも、その後に相続財産を処分すると法定単純承認が成立し、相続放棄が無効となってしまいます(民法921条3号)。

たとえば被相続人の債権者から、相続財産を処分したことを指摘されると、相続放棄をしたにもかかわらず相続債務を支払う義務が生じるおそれがあります。

>相続放棄が無効になるケースについて詳しく知る

相続放棄の際に処分してしまわないように注意が必要なもの

相続放棄が認められなくなってしまわないように、相続財産に関する対応には慎重を期す必要があります。

特に以下の各行為については、法定単純承認のリスクがあるので注意が必要です。

判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。

  1. 携帯電話の解約
  2. 家財の処分
  3. 遺品整理業者への依頼

携帯電話の解約

被相続人の携帯電話を解約することは、相続財産に属する権利義務関係を処分する行為です。

携帯電話の解約は、相続財産の減少を防ぐことを目的とした「保存行為」(後述)であり、法定単純承認は成立しないとする見解もあります。

しかし、確立した見解というわけではないため、携帯電話の解約は避けた方が無難です。

相続放棄をするのであれば、相続財産が減少したとしても、ご自身には関係がありません。

遺産を相続する他の相続人に解約手続きを任せるか、または相続人が誰もいない場合には、契約をそのままにしておきましょう。

家財の処分

被相続人が死亡当時に所有していた家財も、相続財産に含まれます。

したがって、家財を処分することは相続財産の処分行為です。

経済的価値のある家財については、処分すると法定単純承認が成立する可能性が高いので、処分を控えましょう。

これに対して経済的価値のない家財は、処分しても保存行為に当たると判断され、法定単純承認は成立しない可能性があります。

ただし、保存行為に当たるかどうかの判断は難しいので、いずれにしても家財の処分は避けた方が無難です。

老朽化等のため、どうしても家財を処分する必要がある場合には、遺産を相続する他の相続人に処分を任せましょう。

相続人が誰もいない場合には、対応について弁護士にご相談ください。

遺品整理業者への依頼

被相続人が死亡当時に所有していた財産は、原則としてすべて相続財産に含まれます。

したがって、遺品整理は相続財産の処分に当たる可能性が非常に高いです。

相続人が自ら遺品整理をおこなう場合に限らず、業者に依頼して遺品整理をおこなう場合でも、相続財産の処分として法定単純承認が成立する可能性があります。

遺品整理業者への依頼が必要な場合には、遺産を相続する他の相続人に任せましょう

相続財産を処分しても、例外的に相続放棄が認められるケース

相続財産を処分したとしても、以下の場合には例外的に相続放棄が認められます。

  1. 保存行為
  2. 短期賃貸借
  3. 相当な金額の葬儀費用の支出
  4. 弁済期が到来した債務の支払い
  5. 経済的な価値のない相続財産の形見分け

保存行為

「保存行為」とは、相続財産の価値を保存して、現状を維持する行為です。

相続財産の処分に当たる行為でも、保存行為に当たるものについては、法定単純承認の対象外とされています(民法921条1号但し書き)。

たとえば、以下のような行為は保存行為に当たると考えられます。

  • 壊れそうな建物を保存に必要な範囲内で修繕する
  • 腐敗している物を処分する
  • 被相続人の債権の消滅時効完成を阻止するため、債務者に対して請求を行う
  • 被相続人の債権の弁済を受けた後、相続財産として保管する など

ただし、保存行為に当たるかどうかの判断は難しいケースが多く、判断を誤ると法定単純承認が成立するリスクがあります。

そのため、保存行為に当たると思われる場合でも、相続財産の処分はできる限り避けた方が無難です。

どうしても相続財産を処分する必要があり、保存行為に当たるかどうかを知りたい場合には、弁護士にご相談ください。

短期賃貸借

賃貸借は処分行為に当たる場合がありますが、相続財産の種類ごとに以下の期間を超えない賃貸借(=短期賃貸借)は、定単純承認の対象外とされています(民法921条1号但し書き、602条)。

①樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃貸借

10年

②①以外の土地の賃貸借

5年

③建物の賃貸借

3年

④動産の賃貸借

6か月

相当な金額の葬儀費用の支出

葬儀費用については、亡くなった被相続人を弔う費用であることに鑑み、社会通念上相当な金額であれば相続財産の処分に当たらないとする見解が有力です。

しかし、どの程度の額の葬儀費用が相当であるかは、被相続人の生前の立場や交友関係などによってさまざまです。

被相続人の債権者から、「葬儀が豪勢だったから多額の費用を支出したはずだ」などと指摘され、トラブルになるリスクも否定できません。

そのため、相続放棄を予定している場合には、葬儀費用は相続人の固有財産から支出するのが無難です。

どうしても相続財産から葬儀費用を支出せざるを得ない場合は、あらかじめ弁護士にご相談ください。

>葬儀費用を相続財産から支払う際の注意点を詳しく知る

弁済期が到来した債務の支払い

弁済期が到来した被相続人の債務を、相続財産を用いて支払うことは、相続財産の処分行為に当たらないと考えられます。

金銭が出て行く代わりに債務が消滅するので、相続財産の額に増減はないからです。

経済的な価値のない相続財産の形見分け

形見分けについては、その財産に経済的価値があるかどうかによって、相続放棄との関係での取り扱いが異なります。

経済的価値がある財産の形見分けを受けた場合は、相続財産の処分として法定単純承認が成立する可能性が高いです。

たとえば貴金属類の形見分けなどは、相続放棄をする場合には避けるべきでしょう。

これに対して、経済的価値がない財産の形見分けについては、法定単純承認が成立しない可能性があります。

たとえば写真の形見分けなどは、通常問題ないでしょう。

形見分けの可否について判断が難しければ、弁護士にご相談ください。

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相続放棄ができない場合の対処法

相続財産を処分してしまい、相続放棄ができないとしても、遺産を相続したくない場合があるかもしれません。

その場合は、以下の対処法が考えられます。

  1. 他の相続人に遺産を相続させる
  2. 相続債務の負担割合を合意する|ただし債権者には対抗できない
  3. 相続土地国庫帰属制度を利用する

他の相続人に遺産を相続させる

相続放棄ができないとしても、遺産分割協議で合意すれば、自分の相続分をゼロとすることはできます。

遺産の相続を希望しない場合には、その旨を他の相続人に伝えて、自分の相続分をゼロにしてもらうように交渉しましょう。

ただし、管理が難しい不動産などについては、誰も相続したがらないことがあります。

その場合、相続人間で話し合ったうえで、誰かがその遺産を相続しなければなりません。

管理が難しい不動産などの相続を回避するには、弁護士に交渉を依頼することをおすすめします。

相続債務の負担割合を合意する|ただし債権者には対抗できない

被相続人が生前に負っていた債務のうち可分であるもの(例:借金などの金銭債務)は、法定相続分に応じて法律上当然に分割されます(最高裁昭和34年6月19日判決)。

したがって、債権者から請求を受けた場合は、ご自身の法定相続分に従って債務を支払わなければなりません。

その一方で、遺産分割協議等の際に、相続債務の負担割合を相続人内部で取り決めることはできます。

債権者に対しては合意した負担割合を対抗できませんが、負担割合を超えて債権者に弁済した場合には、他の相続人に対して求償を請求可能です。

相続放棄ができないケースにおいて、遺産分割協議をおこなう際には、相続債務の負担割合についても相続人間で話し合っておくとよいでしょう。

相続土地国庫帰属制度を利用する

相続した土地の管理が難しいために手放したい場合は、「相続土地国庫帰属制度」の利用を検討しましょう。

相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって取得した土地を国に引き取ってもらえる制度です。

他の遺産は相続しつつ、土地だけを手放すことができます。

相続土地国庫帰属制度が利用できるのは、却下事由または不承認事由に該当しない土地です。

①却下事由

(a)建物の存する土地

(b)担保権または使用・収益を目的とする権利が設定されている土地

(c)通路用地、墓地、境内地、水道用地、用悪水路、ため池が含まれる土地

(d)特定有害物質により汚染されている土地

(e)境界が明らかでない土地など、所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地

②不承認事由

(a)勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用・労力を要するもの

(b)土地の通常の管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木その他の有体物が地上に存する土地

(c)除去しなければ土地の通常の管理・処分をすることができない有体物が地下に存する土地

(d)以下の土地であって、現に他の土地の通行が妨げられているもの

・公道へ通じない土地

・池沼・河川・水路・海を通らなければ公道に至ることができない土地

・崖があって公道と著しい高低差がある土地

(e)(d)のほか、所有権に基づく使用・収益が現に妨害されている土地(その程度が軽微で、土地の通常の管理・処分を阻害しないと認められるものを除く)

(f)(a)~(e)のほか、通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として、相続土地国庫帰属法施行令3条3項で定めるもの

また、相続土地国庫帰属制度の利用に当たっては、審査手数料と負担金を納付する必要があります。

審査手数料は土地1筆当たり1万4,000円、負担金額は地目に応じて以下のとおりです。

宅地

①原則

20万円

②市街化区域・用途地域が指定されている地域内の土地

面積に応じて計算(たとえば、200㎡の場合は79万3000円)

田・畑

①原則

20万円

②市街化区域・用途地域が指定されている地域、農用地区域、土地改良事業などの施工区域内の農地

面積に応じて計算(たとえば、1000㎡の場合は112万8000円)

森林

面積に応じて計算(たとえば、3000㎡の場合は29万9000円)

その他

20万円

相続土地国庫帰属制度については、法務局および地方法務局で相談を受け付けています。

利用を希望する方は、最寄りの法務局または地方法務局へご相談ください。

まとめ|相続放棄をするなら弁護士に相談を

相続財産を処分してしまうと、相続放棄が認められなくなります。

その結果、被相続人の債務を相続せざるを得なくなるなど、思わぬ不利益を被ってしまうおそれがあるので注意が必要です。

相続放棄に当たっては、相続財産の調査や、申述書の作成や戸籍謄本類の取得などの対応をおこなう必要があります。

また相続財産の処分など、法定単純承認に当たる行為をしないように、慎重に行動しなければなりません。

確実に相続放棄をおこなうためには、弁護士のサポートを受けるのが安心です。

弁護士に依頼すれば、相続放棄に必要な手続きを代行してもらえるほか、やるべきこと・やってはいけないことについて具体的にアドバイスを受けられます。

相続放棄をご検討中の方は、お早めに弁護士へご相談ください。

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この記事の監修者
ゆら総合法律事務所
阿部 由羅 (埼玉弁護士会)
不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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