「先順位の相続人が相続放棄をしたかどうか確認したい」「自分に相続権が回ってきているのか知りたい」。そう考えていても、疎遠な相手に直接確認するのは難しいものです。
ある人が相続放棄をしたかどうかは、家庭裁判所への照会手続で確認できます。本人に連絡を取らずに、相続人や利害関係人であれば申請が可能です。
本記事では、相続放棄の確認(照会)ができる人や必要書類・手続きの流れ・かかる費用までを解説します。照会の結果、自分に相続権が回ってきたとわかった場合の対応や、よくある疑問にも触れているので、ぜひ参考にしてください。
特定の人が相続放棄をしたかどうかは、裁判所へ照会を申請すれば、本人に連絡を取らずに確認できます。相続放棄は家庭裁判所でおこなう手続きのため、申述の記録が全て裁判所に保管されているからです。
たとえば借金のあった兄が亡くなり、兄の子ども(甥・姪)が相続放棄をすると、弟である自分に相続権が回ってくる可能性があります。ただ、甥・姪と連絡が途絶えていると、本当に放棄したのか確認できません。放棄したのか本人に直接聞きづらいときに、照会手続が役立ちます。
注意したいのは、先順位の相続人が放棄しても、裁判所から後順位の相続人へ通知される仕組みはない点です。自分に相続権が回ってきているかは、自ら調べる必要があります。
照会の手数料は無料で、相続人や利害関係人であれば申請できます。ただし電話やメールでは確認できず、必ず書面での申請が必要です。
相続放棄をしたかどうかは個人のプライバシーに深く関わるため、照会できる人は相続人と利害関係人の2種類に限定されています。
相続人であれば、基本的に照会が可能です。たとえば自分が第3順位(兄弟姉妹)であっても、第1順位(子)や第2順位(父母)の相続人が放棄したかどうかを確認できます。ただし、家庭裁判所によって運用が異なる場合があるため、事前に確認しておくと安心です。
利害関係人とは、相続人以外で、被相続人に対して法律上の利害関係を持つ第三者です。具体的には、被相続人にお金を貸していた債権者・連帯保証人・遺言で財産を受け取る受遺者などが該当します。債権者などの第三者であっても、利害関係を示せれば照会できます。
利害関係人が照会する場合は、関係性を証明する書類の提出が必要です。たとえば金銭消費貸借契約書や、抵当権が記載された不動産登記簿謄本などです。
相続放棄の照会は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対しておこないます。ただし、調査の対象となる期間は家庭裁判所ごとに異なるため、申請前に各裁判所のホームページで確認しておくと安心です。
参考までに、東京家庭裁判所の調査対象期間は以下のとおりです。
| 被相続人の死亡日 | 申請者 | 調査対象期間 |
| 2000年(平成12年)以降 | 全ての相続人 | 死亡日から現在まで |
| 1999年(平成11年)以前 | 第1順位の相続人 | 死亡日から3ヵ月間 |
| 後順位の相続人 | 先順位者の放棄受理日から3ヵ月間 |
表の内容は東京家庭裁判所の運用であり、ほかの裁判所では対象期間が異なる場合があります。また、あまりに古い記録はすでに破棄されており、照会に応じてもらえないケースもあります。
相続放棄の照会に必要な書類は、自分で作成する書類と役所などから取得する書類の2種類にわかれます。
ただし、家庭裁判所ごとに運用や指定の書式が異なる場合があります。申請前に、管轄の家庭裁判所へ必要書類の最新情報を確認しておくと確実です。
自分で作成する書類は、おもに照会申請書・被相続人等目録・相続関係図の3つです。
| 書類名 | 記載する内容 |
| 照会申請書 | 照会者の氏名・住所・電話番号、照会を求める理由、添付書類の通数など |
| 被相続人等目録 | 被相続人の氏名・本籍・最後の住所・死亡日、照会したい人の氏名など |
| 相続関係図 | 被相続人と照会者・照会対象者の関係を示す図(手書きでも可) |
相続関係図は提出を求められる場合があり、手書きで作成したものでも問題ありません。
照会申請書と被相続人等目録の書式は、家庭裁判所によって若干異なります。申請する裁判所のホームページから書式をダウンロードしてください。
役所などから取得する書類は、照会者が相続人か利害関係人かによって異なります。
| 書類 | 相続人が申請する場合 | 利害関係人が申請する場合 |
| 被相続人の書類 | 住民票の除票(本籍地の記載あり) | 住民票の除票(本籍地の記載あり) |
| 照会者の書類 | 被相続人との関係がわかる戸籍謄本、照会者の住民票 | 個人は住民票/法人は商業登記簿謄本または資格証明書 |
| その他 | 返信用封筒(返信用切手を貼付) | 利害関係を証明する書面のコピー(金銭消費貸借契約書、不動産登記簿謄本など)、返信用封筒 |
弁護士に代理を依頼する場合は、いずれも委任状が必要です。なお照会者が法人の場合は、自社の社員を代理人に立てられます。その際は代表者印が押された社員証明書を提出します。
家庭裁判所によっては、表にない書類を求められる場合もあるため、申請前に管轄裁判所へ確認するのがおすすめです。
必要書類の準備が整ったら、管轄の家庭裁判所へ照会を申請します。手続きは大きく3つのステップで進みます。
照会の申請先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。管轄外の裁判所に提出しても受け付けてもらえないため、申請先を間違えないよう注意してください。
被相続人の最後の住所地は、住民票の除票または戸籍の附票で確認できます。どの家庭裁判所が管轄かは、裁判所の公式ホームページ(裁判所の管轄区域)で調べられるので、申請前に確認しておきましょう。
なお、被相続人の死亡から3ヵ月(先順位者の熟慮期間)が経過していない時期は、照会に応じてもらえない場合があります。この期間中は先順位者がまだ相続放棄をする可能性が残っており、放棄の有無が確定していないためです。
二度手間を避けるためにも、申請前に管轄裁判所へ照会の条件を確認しておくと安心です。
次に、家庭裁判所に照会申請をします。照会の申請方法は、家庭裁判所の窓口へ直接持参するか、郵送で提出するかの2種類です。
郵送する場合は、返信用封筒に切手を貼付し、申請書類一式とあわせて送付します。書類の記載内容に不安がある場合は、窓口への持参がおすすめです。不備があってもその場で担当者から指摘を受け、訂正できます。
裁判所での調査が完了すると、提出した返信用封筒で照会結果が送られてきます。回答までの期間は家庭裁判所の混雑状況によって異なりますが、数日から数週間程度かかる場合があります。
結果の読み方はシンプルです。相続放棄の申述があった場合は事件番号と受理年月日が記載され、なかった場合は申述がない旨が明記されます。
もし先順位の相続人が放棄しており、自分に相続権が回ってきているとわかった場合は、速やかに次の手続きを進めましょう。
照会でよくあるミスは、①照会したい人の氏名の字体違い、②照会結果が実態とずれるケースへの対処、③管轄外の裁判所への誤送付、の3点です。申請前に確認しておけば、やり直しや確認漏れを防げます。
照会対象者の氏名は、旧字体・新字体まで正確に記載してください。裁判所は照会書の氏名と事件簿に登録された氏名を照合するため、字体が一致していないと別人と判断され、正確な回答が得られない場合があります。
たとえば高橋と髙橋の違いだけでも、申述があるのに「相続放棄の申述なし」と回答される可能性があります。
氏名の取り違えを防ぐため、手続きの前に照会対象者の正しい氏名を戸籍謄本で確認しておきましょう。改姓や改名があった場合は、変更前と変更後の両方の氏名を記載しておくとより確実です。
照会結果は、実際の相続放棄の状況と一致しない場合があります。
相続放棄の申述期限(熟慮期間)は、原則として相続開始を知った日から3ヵ月以内です。ただし、特別な事情が認められれば、3ヵ月を過ぎてから相続放棄が受理されるケースもあります。
3ヵ月経過後に受理されたケースでは、家庭裁判所の調査対象期間の設定によって、実際には放棄されていても照会結果に反映されない場合があります。
さらに、氏名表記の違いや調査対象期間外、管轄違いなどが原因で、結果がずれる可能性も否定できません。「相続放棄の申述なし」と回答されても、実際には放棄がおこなわれている場合があります。
少しでも不安が残る場合は、管轄の家庭裁判所へ直接問い合わせるか、弁護士への相談を検討してみてください。
照会先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に限られます。注意したいのは、申請者自身の住所地の裁判所ではない点です。たとえば被相続人の最後の住所地が大阪市なら、申請者がどこに住んでいても照会先は大阪家庭裁判所です。
管轄を間違えると受理されず、最初から手続きをやり直しになります。申請前に、住民票の除票や戸籍の附票で被相続人の最後の住所地を確認しておきましょう。
照会の申請は無料で、申請書類に収入印紙を貼る必要もありません。ただし、必要書類の取得や郵送にかかる実費は自己負担です。主な目安は以下のとおりです。
| 費用項目 | 目安金額 |
| 照会手数料 | 無料 |
| 戸籍謄本の取得 | 1通450円 |
| 住民票の除票の取得 | 1通300円程度(自治体により異なる) |
| 照会者の住民票の取得 | 1通300円程度(自治体により異なる) |
| 返信用切手・郵送代 | 往復で220円程度 |
※戸籍謄本・住民票などの取得費用は自治体によって異なります。最新の手数料はお住まいの市区町村のホームページでご確認ください。
自分で手続きをおこなう場合、実費の合計はおおむね1,500円〜3,000円程度が目安です。取得する戸籍の通数や郵送方法によって前後します。
なお、弁護士や司法書士に依頼する場合は、実費に加えて専門家への依頼費用が別途必要です。費用相場は「専門家に依頼した場合の費用相場」で詳しく解説します。
照会の結果、先順位の相続人が相続放棄をしており、自分に相続権が回ってきていると判明する場合があります。相続権が回ってきたとわかったら、速やかに次の2つの対応を進めましょう。
まずは被相続人の財産調査をおこない、プラスの財産とマイナスの財産を把握したうえで相続方法を判断します。相続の選択肢は単純承認・相続放棄・限定承認の3つです。
| 相続方法 | 概要 | 適しているケース | 裁判所での手続き |
| 単純承認 | プラスの財産もマイナスの財産も全て引き継ぐ | プラスの財産のほうが多い場合 | 不要 |
| 相続放棄 | プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない | マイナスの財産のほうが多い場合 | 必要 |
| 限定承認 | プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ | どちらが多いか不明な場合 | 必要 |
先順位の相続人が放棄している場合、借金などマイナスの財産が多い可能性が高いと考えられます。ただし、財産調査をせずに即断するのは危険です。相続放棄は一度受理されると基本的に撤回・取り消しができないため、念入りな調査が欠かせません。
なお、限定承認を選ぶ場合は、同順位の相続人全員の同意が必要です。一人でも反対する方がいると手続きを利用できません。
相続放棄や限定承認は、自己のために相続の開始があったと知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。この3ヵ月を熟慮期間といいます。照会によって自分に相続権が回ってきたと知った場合は、その時点から3ヵ月のカウントが始まります。
熟慮期間を過ぎると単純承認をしたものとみなされ、原則として相続放棄や限定承認は認められなくなります。被相続人の借金も全て引き継ぐため、期限管理には十分注意してください。
財産調査に時間がかかり、3ヵ月以内の判断が難しい場合は、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てられます。ただし必ず認められるとは限らないため、早めの対応を心がけましょう。なお申述先は、照会のときと同じ家庭裁判所です。
相続放棄の照会手続は自分でもおこなえますが、書類の準備や裁判所とのやり取りに不安がある場合は、弁護士や司法書士への依頼も選択肢に入ります。専門家に任せれば、確実かつスムーズに事実関係を確認できます。
弁護士と司法書士では依頼できる業務の範囲が異なるため、違いを理解したうえで目的に合った依頼先を選びましょう。
弁護士と司法書士の大きな違いは、代理権の有無にあります。相続放棄の有無照会について、代理人として家庭裁判所に申請できるのは弁護士のみです。司法書士は書類作成の支援をおこなえますが、代理人として申請はできません。
| 対応業務 | 弁護士 | 司法書士 |
| 照会申請の代理 | ◯ | ✕(書類作成の支援のみ) |
| 裁判所提出書類の作成 | ◯ | ◯ |
| 照会後の相続放棄手続 | ◯(代理) | ✕(書類作成の支援のみ) |
| 相続財産の調査 | ◯ | △(範囲に制限あり) |
| 債権者との交渉 | ◯ | ✕ |
弁護士に依頼すれば、照会から相続放棄の申立て、債権者対応までをワンストップで任せられます。複雑な財産調査や、短い熟慮期間の管理を一任できる点も大きなメリットです。
一方、費用を抑えたい場合や書類作成だけを手伝ってほしい場合は、司法書士への依頼も検討するとよいでしょう。
専門家への依頼費用は事務所によって異なりますが、一般的な相場は以下のとおりです。
| 依頼先 | 費用相場(目安) | 対応範囲 |
| 弁護士 | 5万円〜15万円程度 | 照会の代理申請・相続放棄手続・債権者対応まで |
| 司法書士 | 2万円〜5万円程度 | 書類作成の支援が中心 |
※専門家への費用は自由化されており、事務所や対応範囲、相続の複雑さによって異なります。相続人が多い場合や債権者との交渉を含む場合などは、上記を超えることもあります。
弁護士のほうが費用は高いですが、対応できる業務の範囲は広めです。照会後の相続放棄まで見据えているなら、最初から弁護士に依頼したほうが、トータルの手間やコストを抑えられるケースもあります。
自分で手続きをおこなえば、かかるのは実費のみ(1,500円〜3,000円程度)です。ただし、書類の不備による再提出や、期限切れのリスクも伴います。手間や不安も考慮したうえで、どこまで専門家に任せるかを判断しましょう。
照会の結果、相続権が自分に回ってきたとわかったら、その後の相続放棄手続まで弁護士に相談できると心強いものです。相続放棄を見据えて弁護士を探すなら、相続問題に強い弁護士を検索できるポータルサイト「ベンナビ相続」がおすすめです。
地域と相談内容を選ぶだけで絞り込め、さらに次の条件も指定できます。
ベンナビ相続に登録されているのは、相続放棄をはじめ相続トラブルを得意とする事務所です。照会後の相続放棄の申立てや財産調査まで、まとめて任せられる弁護士が見つかります。
相続放棄には3ヵ月の期限があるため、相続権が回ってきた可能性がある方は、自己判断で動く前に、まずはベンナビ相続で相談先を探してみてください。
相続放棄の照会手続を進める中で、疑問に感じやすいポイントをまとめました。手続きの前に目を通しておけば、よくある失敗や思い違いを未然に防げます。
いいえ、電話での確認はできません。相続放棄の照会は、必ず書面での申請が必要です。
照会申請書と必要書類を家庭裁判所に提出し(郵送または窓口持参)、裁判所が調査した結果を書面で受け取る、という流れです。プライバシー保護の観点から、裁判所に電話で問い合わせても相続放棄の有無は回答してもらえません。
回答までの期間は、家庭裁判所の混雑状況によって異なります。数日から数週間程度を見込んでおくとよいでしょう。
なお、窓口に直接持参して申請した場合でも、その場で即日回答してもらえるわけではありません。調査完了後、後日改めて書面で送付されます。余裕を持ったスケジュールで申請しましょう。
いずれも相続放棄に関わる書類ですが、発行されるタイミングや用途、受け取る人が異なります。
| 書類名 | 受け取る人 | 発行のタイミング | 主な用途 |
| 相続放棄申述受理通知書 | 相続放棄をした本人 | 受理時に1回のみ | 放棄が受理された事実の確認 |
| 相続放棄申述受理証明書 | 相続放棄をした本人(申請制) | 申請のたびに発行 | 債権者への証明など繰り返しの使用 |
| 照会回答書 | 照会を申請した相続人・利害関係人 | 照会の調査完了後 | 他人の相続放棄の有無を確認 |
自分が相続放棄したことを債権者に証明したい場合は、受理証明書を取得します。一方、今回解説する照会回答書は、他人が相続放棄したかどうかを知るための書類です。
いいえ、連絡は来ません。先順位の相続人が相続放棄をしても、家庭裁判所から後順位の相続人へ通知する仕組みはないためです。
自分に相続権が移っているかどうかは、本人に直接確認するか、家庭裁判所に照会を申請して自分で調べる必要があります。
なお、先順位の相続人には、相続放棄したことを後順位の相続人へ知らせる法的な義務もありません。弁護士や司法書士に依頼したケースでは、専門家の判断で後順位の相続人へ連絡する場合もありますが、通知されるかどうかはケースによります。
いいえ、記載されません。相続放棄の事実は、戸籍謄本や住民票に反映されないからです。
相続放棄は家庭裁判所での手続きであり、記録は家庭裁判所にのみ保管されています。
戸籍を取得しても相続放棄の有無は確認できません。確実に知りたい場合は、家庭裁判所への照会手続を利用しましょう。
相続放棄の有無は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所への照会で確認できます。手数料は無料で、相続人や利害関係人であれば申請が可能です。
照会の結果、自分に相続権が回ってきているとわかったら、速やかに被相続人の財産調査をおこない、相続するか放棄するかを判断しましょう。
相続放棄や限定承認には自分が相続人になったと知った日から3ヵ月以内の期限があるため、過ぎないよう注意してください。
照会自体は自分でおこなえますが、その後の手続きには期限があります。手続きや期限に不安があれば、一人で抱え込まず、ベンナビ相続で相談先を探してみてください。
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