生活保護を受給中に相続が発生した場合、相続放棄が認められるかどうかは「相続財産の内容」によって異なります。
プラスの財産がある場合の安易な放棄は、生活保護の打ち切りにつながるリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
本記事では、生活保護受給者の相続放棄の可否や相続発生後の手続きを解説。
相続が不正受給にあたる行為やケースワーカーへの報告方法、費用の不安についても取り上げているので、参考にしてください。
生活保護を受給していても、遺産を相続できます。
相続権は、生活保護の有無に関わらず民法で保障された権利です。
ただし、生活保護法では「利用しうる資産は全て最低生活の維持に活用すること」が定められており、相続財産もその対象となります。
そのため「相続はできるが、得た資産は生活費に充てる必要があり、結果として保護が停止・廃止になるケースがある」という点を、まず理解しておきましょう。
生活保護を受給できるのは、世帯収入が厚生労働大臣の定める「最低生活費」を下回り、かつ活用できる資産・能力・あらゆるものを活用してもなお生活できない場合です。
第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
引用元:生活保護法 第四条
具体的には、受給するために主に以下の3つの要件を満たす必要があります。
相続によって最低生活費を上回る資産を得た場合、その金額に応じて生活保護は停止または廃止となります。
「停止」とは、数ヵ月分の生活費に相当する資産を得た場合に、受給を一時的に中断することです。
資産を使い切ったあとは、保護が再開されます。
一方で「廃止」とは、当面の生活を自力で維持できると判断される多額の資産を得た場合に、受給資格自体がなくなること(打ち切り)。
どちらの判断になるかは、相続した資産の額や種類、自治体の基準によって異なります。
相続した財産であっても、最低限度の生活に必要不可欠と判断されるもの、または処分が著しく困難なものは、例外的に保有が認められる場合があります。
生活保護制度は、全ての資産の即時処分を求めるものではありません。
生活の自立を助長する観点から、保有が容認される資産が存在します。
ただし、保有を認めるかどうかの最終判断は、福祉事務所が個別の事情を考慮しておこないます。
最低生活費の半分程度など、自治体が定める基準額の範囲内であれば、急な出費に備えるための預貯金として保有が認められるのが一般的です。
基準額は自治体によって異なるため、一律の金額はありません。
相続した預貯金の一部がこの範囲内に収まる場合は、保護を継続しながら保有できる可能性があります。
買い手がつかない山林・原野・農地など、市場価値がほとんどなく処分が困難な財産は、資産として見なされず保有が認められる場合があります。
資産価値の評価は、固定資産税評価額だけでなく、実際の換金可能性も考慮されます。
処分が困難であることを示す資料(不動産業者の査定書など)があると、福祉事務所への説明がスムーズです。
ただし、将来的に価値が上がる可能性や活用方法がある場合は、指導の対象となることもあります。
現在住んでいる持ち家や、自営業を営むために不可欠な最低限の機械・器具などは、保有が認められるのが原則です。
居住用不動産は、処分価値が利用価値に比べて著しく大きくない限り、保有が認められます。
事業用資産も、それがなければ収入を得られず自立を妨げることになるため、保有が認められるでしょう。
いずれも「最低限度の生活維持に必要か」という観点から判断されます。
生活保護を受給中に相続が発生した場合、財産を放棄するのは原則認められません。
生活保護法は「利用しうる資産は全て活用すること」が受給の前提条件です。
プラスの財産が存在するにもかかわらず放棄することは、資産活用の義務に違反すると判断されます。
そのため、福祉事務所から相続するよう指導されるのが一般的な対応です。
福祉事務所の指導に従わず相続放棄を強行した場合、生活保護の停止や廃止につながるリスクが高いので注意してください。
また、それまでに受け取った保護費の返還を求められるケースもあります。
原則として放棄は認められませんが、例外的に認められるケースがあります。
具体的には、相続によってかえって経済的に困窮する場合です。
以下の2つが、相続放棄が認められる代表的なケースです。
故人に多額の借金や未払金があり、プラスの財産を全て合わせても返済しきれない場合は、相続放棄が認められます。
相続は、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐ制度です。
借金を背負うことは生活の自立を著しく困難にするため、マイナスの財産が上回る状況では相続放棄が最も合理的な選択といえます。
財産調査の結果(財産目録など)をケースワーカーに提示し、債務超過であることを具体的に説明しましょう。
主観的な説明だけでなく、客観的な資料の準備が、相続放棄の正当性を認めてもらううえで重要です。
資産価値が低く売却が困難な不動産で、固定資産税や管理費などの維持費が負担になる場合も、相続放棄が認められる可能性があります。
例えば地方の古家や原野などは、相続しても現金収入にはならず、むしろ毎年の支出が増えて生活を圧迫しかねません。
「換金が難しい財産」として相続して保有を認めるか、それとも放棄を認めるかは、個別の状況に応じた福祉事務所の判断となります。
同じように見える状況でも、結論が異なる場合があるため、事前にケースワーカーへ相談したうえで進めましょう。
不動産の査定額や年間の維持費の見積もりなどを資料として準備し、放棄の必要性を説明することが求められます。
相続後にはまず財産調査をおこない、結果をもとに専門家やケースワーカーと相談しながら、定められた期限内に適切な手続きを進めていきます。
相続放棄には「相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内」の期限があります。
期限を過ぎると自動的に相続を承認したと見なされ、借金も全て引き継ぐため、早めに動き出すことが重要です。
まずは、亡くなった方の財産(プラス・マイナス両方)を正確に把握しましょう。
調査結果が、相続するか放棄するかの判断材料となります。
プラスの財産の調査では、市区町村役場で名寄帳を取得し不動産の有無を確認する方法や、金融機関への残高照会があります。
マイナスの財産の調査では、信用情報機関(JICC・CICなど)への情報開示請求や、自宅に届いている郵便物の確認が有効です。
相続財産の調査は、手がかりが少なく複雑になるケースも多くあります。
弁護士や司法書士などの専門家に依頼すれば、効率よく正確な調査を進めることができておすすめです。
財産調査の結果がまとまったら、速やかに福祉事務所のケースワーカーに報告・相談します。
調査結果を正直に伝え、今後の対応について指導を受けてください。
法的な手続きに不安があれば、弁護士に相談するのも有効です。
相続放棄の手続きやほかの相続人との遺産分割協議について相談できます。
ケースワーカーや専門家に相談せずに次の手順に進むと、生活保護の停止・廃止や保護費の返還につながるリスクが高まります。
客観的な意見を踏まえたうえで、方向性を決めることが重要です。
調査結果と専門家のアドバイスをもとに、 3ヵ月の期限内に、相続するのか放棄するのかを最終的に決定します。
ほかの相続人と遺産分割協議をおこない、誰が何を相続するかを決めるのも、この段階です。
相続するかどうかの判断のポイントは「相続した場合に生活が自立できるか」「放棄する正当な理由があるか」の2点。
判断に迷ったまま期限が過ぎると、単純承認したと見なされ、借金も全て相続しなくてはいけません。
余裕をもって決断しましょう。
決定した方針に従い、具体的な手続きを進めます。
| 相続方法 | やること |
|---|---|
| 相続する | ・遺産分割協議書を作成する ・不動産の相続登記や預貯金の解約・名義変更をおこなう ・相続税を申告・納付する |
| 放棄する | ・相続放棄申述書を作成する ・家庭裁判所に申述する |
相続放棄は口頭でおこなうだけでは、法的に放棄したと認められません。
相続放棄申述書を作成し、必要書類とともに家庭裁判所に提出する手続きが必要です。
一方、相続する場合は遺産分割協議書を作成したうえで、預貯金口座や不動産など相続財産の名義変更をおこないます。
加えて、相続税が発生する場合には申告と納付を済ませてください。
全ての手続きが完了したら、結果を証明する書類を添えて、福祉事務所に最終報告をおこないます。
相続した場合は、相続した財産の内容がわかる書類(通帳のコピー・登記簿謄本など)を提出します。
相続放棄した場合は、家庭裁判所が発行する「相続放棄申述受理通知書」のコピーを提出してください。
報告をもとに、福祉事務所が生活保護の停止・廃止・継続を最終的に決定します。
手続きが完了しても、報告を怠ると届出義務違反となるため、必ず速やかに連絡しましょう。
相続の事実を隠したり、意図的に財産を少なく見せかけたりする行為は、悪質な不正受給と判断されます。
発覚した場合は、保護費の返還だけでなく、罰則が科される可能性もあります。
福祉事務所との信頼関係が損なわれ、今後の生活相談にも支障が生じるため、不正行為は絶対に避けてください。
具体的に不正受給とみなされる行為を3つ紹介します。
福祉事務所の指導に反して、活用できる資産があるにもかかわらず相続放棄をした場合、保護の停止・廃止や、それまでの保護費の返還を求められる可能性があります。
「資産活用の義務」を意図的に怠ったと見なされるためです。
たとえ家庭裁判所で相続放棄が受理されたとしても、福祉事務所の判断とは話が別です。
生活保護制度上は問題があると判断されるケースがある点を理解しておきましょう。
生活保護を継続したい場合は、福祉事務所の指導に従うのが原則です。
自己判断で放棄を進めることは、リスクが非常に高い行為といえます。
相続によって収入や資産を得たにもかかわらず、福祉事務所に報告しないのは、明確な届出義務違反であり、不正受給です。
福祉事務所は、生活保護法に基づき、金融機関や市区町村に対して資産調査をおこなう強力な権限をもっています。
銀行への預貯金残高照会や、法務局での不動産所有者情報の確認なども可能です。
不正が発覚した場合、過去に遡って保護費の返還を求められるだけでなく、悪質なケースでは刑事告発される可能性も否定できません。
「黙っていればバレないだろう」という安易な判断は非常に危険です。
近い将来に遺産を相続することが確実であるにもかかわらず、その事実を隠して生活保護を申請・受給した場合も、不正受給と見なされます。
生活保護の申請時には、資産状況について正確に申告する義務があります。
相続の見込みがある場合は、正直に申告したうえで、遺産が入るまでの間の対応についてケースワーカーに相談するのが正しい手順です。
虚偽の申告は、保護の開始決定が取り消され、全額返還となるリスクがあります。
申告内容に迷いがある場合は、弁護士に相談して申告しましょう。
生活保護を受けていた人が死亡した場合、生活保護の事実だけを理由に相続放棄をする必要はありません。
通常の相続と同じく、「マイナスの財産があるかどうか」などで判断します。
生活保護費は、故人の生活を支えるための給付であり、相続人が返還する義務は原則としてありません。
役所から医療費などの返還請求が届くケースもまれにありますが、それは相続財産の中から支払うものであり、相続人が自腹で負担する義務はありません。
「生活保護受給者だったから」という理由だけで放棄を決める必要はなく、財産内容を正確に調査したうえで判断しましょう。
生活保護と相続が絡む問題は、法律と福祉制度の両方の知識が必要なため、専門家への相談が不可欠です。
正確な財産調査のサポート、適切な法的手続の代行、ケースワーカーへの説明補助など、複雑な手続きを一貫して任せられます。
また、相続放棄の3ヵ月という期限が迫っている場合でも、迅速に対応してもらえる点もメリットです。
相続問題に強い弁護士を探すなら、ポータルサイト「ベンナビ相続」を利用しましょう。
ベンナビ相続では、地域や相談内容で弁護士を絞り込めるため、自分に合った専門家を見つけやすいのが特徴です。
多くの事務所が初回無料相談を実施しているため、費用を気にせず、まずは現状を話してみてください。
生活保護を受給している方の相続放棄に関して、特に多く寄せられる疑問にQ&A形式で回答します。
個別の事情によって対応が異なる場合があるため、詳しくは専門家への相談をおすすめします。
相続が発生したと知った時点で、できるだけ速やかに電話などで第一報を入れましょう。
手続きが始まっていなくても、まず事実を伝えることが重要です。
報告の際は、故人との関係・亡くなった日・現時点でわかっている財産や借金の状況を正直に話します。
「まだよくわかっていない」という段階でも、早めに連絡することで、隠す意図がないことを示せます。
「よくわかってから報告しよう」と先延ばしにせず、まず報告・相談という姿勢が、福祉事務所との信頼関係を保つうえで最も大切です。
発覚する可能性は極めて高いです。
福祉事務所は、生活保護法に基づき、金融機関や官公署に必要な調査をおこなう強力な権限をもっています。
具体的には、銀行や郵便局への預貯金残高照会、法務局での不動産所有者情報の確認などが可能です。
相続登記をおこなえば固定資産税の通知が届くようになるため、そこから発覚するケースも少なくありません。
隠し通すことは現実的ではなく、発覚した際の保護費返還や信頼失墜を考えれば、正直に報告するのが唯一の正しい選択です。
経済的に弁護士費用の支払いが難しい場合は、法テラス(日本司法支援センター)の「民事法律扶助制度」の利用を検討してください。
法テラスは、無料の法律相談や弁護士・司法書士費用の立替えをおこなっている国の機関。
収入や資産が一定基準以下の方が対象で、生活保護を受給している方の多くが利用要件を満たしています。
生活保護受給中は原則として立替金の返済が免除・猶予されるため、費用の心配をせずに相談できます。
相続が発生したら、まず速やかにケースワーカーへ報告することが原則です。
プラスの財産があるにもかかわらず安易に放棄すると、生活保護の停止・廃止につながります。
一方、借金がプラスの財産を上回るなど正当な理由がある場合は、相続放棄が認められるケースもあります。
財産の隠蔽や虚偽申告といった不正受給は、保護費の返還だけでなく罰則の対象になるため、絶対に避けてください。
判断に迷う場合や手続きに不安がある場合は、 3ヵ月の期限が来る前に弁護士などの専門家に相談しましょう。
法テラスの無料相談や、ベンナビ相続を通じた弁護士探しを活用し、自身の状況に合った対応を専門家と一緒に進めることをおすすめします。
相続放棄とは、亡くなった人の財産についての相続の権利を放棄することです。本記事では相続放棄の手続きの流れや注意点、どんなケースで相続放棄を検討すべきかを解説しま...
相続放棄では、被相続人との続柄によって必要な書類が異なります。提出期限などもあるすので、漏れなく迅速に対応しましょう。本記事では、相続放棄の必要書類や、注意すべ...
相続放棄の手続きは、手順を理解すれば自分でおこなうことが可能です。ただし、原則として3ヵ月の期限内に裁判所への申述をおこない、手続きを始める必要があります。本記...
親が作った借金の返済義務は子どもにはありません。ただし、相続が発生した場合は借金などのマイナスの財産も継承されるため、子どもにも返済義務が生じます。本記事では、...
相続放棄申述書とは、相続放棄をおこなう際に必要な書類です。書き方にはルールがあり、ほかの必要書類も収集したうえで、期限内に提出しなければいけません。本記事では、...
本記事では、相続放棄にかかる費用の相場や内訳をわかりやすく解説。費用を抑える方法や、費用を誰が払うのかについても詳しく紹介するので、参考にしてください。
再婚すると家族関係が複雑になり、相続時に深刻なトラブルに発展することも珍しくありません。実子や連れ子などがいる場合、権利関係が曖昧になることもあるでしょう。この...
限定承認とは、プラスの財産の範囲内で借金などを引き継ぐという手続きです。どうしても引き継ぎたい財産がある場合などは有効ですが、手続きの際は期限などに注意する必要...
生前のうちから、相続を見据えて相続放棄はできるのでしょうか?結論を言いますと、生前に相続放棄はできません。生前から相続放棄ができない理由と、その代替案として考え...
相続放棄申述受理証明書は、相続登記や債権者とのやり取りなどの際に必要な書類で、誰が交付申請するのかによって必要書類が異なります。本記事では、相続放棄申述受理証明...
不動産の共有持分は、相続においてトラブルが生じやすい問題です。本記事では、共有持分を相続放棄できるかどうかをはじめとして、相続放棄をする際のメリット・デメリット...
相続が発生した際は、被相続人の借金の有無をしっかり確認しておかないと思わぬ返済義務を負う可能性があります。本記事では、被相続人の借金の調べ方や、借金が発覚した際...
本記事では、相続財産に負動産があったという方に向けて、負動産が含まれていた場合は「相続放棄がおすすめ」であること、相続放棄をする際の具体的な流れと手続きのコツ、...
相続放棄をする方法、相続放棄をするときに重視するべきポイント、相続放棄を検討しているときに弁護士に相談するメリットなどについてわかりやすく解説します。
離婚した父親が死亡し、相続放棄をおこなう場合、まずは相続放棄の必要書類を用意しましょう。家庭裁判所に申述をし、送られてきた照会書に回答したあと、問題がなければ受...
実家の相続放棄は、兄弟姉妹の了承がなくてもおこなえます。ただし、黙って相続放棄した場合、兄弟姉妹とトラブルになる可能性がある点に注意が必要です。本記事では、実家...
本記事では、知らない親戚の財産を相続放棄する際の具体的な流れと、相続放棄を選択したほうがよい3つのケースについて解説します。
遺産から葬儀代を支払った場合でも、相続放棄は原則として可能です。ただし、場合によっては相続放棄が認められない恐れがあります。本記事では相続放棄が認められる条件や...
事故物件は、一般の不動産と取り扱いが異なるので、相続する際は注意が必要です。デメリットが気になるようであれば、相続放棄すべきです。本記事で、相続する際の注意点や...
2023年に民法が改正され、相続放棄した空き家の管理方法が変わりました。では民法改正後、空き家の管理はどのように変わったのでしょうか。この記事では、空き家を相続...