相続税に多少なりとも関心がある方は、「毎年110万円を贈与することで相続税が抑えられる」という内容を耳にしたことがあると思います。
しかし、この情報だけを鵜呑みにして、毎年110万円を贈与し始める人も少なくないでしょう。
しっかりと、生前贈与と相続税の仕組みを理解した上で、節税に移らないと、後々思わぬ相続税が生じてくることも考えられます。
ただ、他のサイトを見てみても、相続税に関する内容はずいぶん難しく書かれていることが多く、理解しづらい部分があるのも確かでしょう。
今回は、生前贈与で節税をする際の仕組みと注意点をなるべく分かりやすく解説します。
*本記事の専門家による監修日は2023年6月28日です。
生前贈与について 弁護士に相談するメリットとは? |
生前贈与は、相続前に財産を減らすことで、節税効果が期待できるという大きなメリットがある一方、相続人の間におけるトラブル原因にもなりやすいです。 その点、弁護士は、相続トラブルを解決する立場にあるため、生前贈与絡みの案件も扱うことが多く、豊富な経験を元に「どのような策をとれば良いか」アドバイスをすることが可能です。 ・生前贈与に関する相続トラブルを未然に防ぎたい ・生前贈与が絡んだ相続トラブルに悩んでいる このような方は、まず無料相談などを気軽に活用してみましょう。 |
それではまず、相続と生前贈与の違いを簡単にご説明しましょう。
相続とは、被相続人が亡くなった際に、遺産を法定相続人に分配することです。
一方、生前贈与は、被相続人が生前のうちから、親族やその他の人に資産を譲り渡す事です。
相続や贈与など、まとまった金額を本人以外に渡す際は税金が関わってきます。
それぞれ相続税と贈与税です。
そして、それぞれの税金に基礎控除があります。
相続税は3,000万円+(600万円×法定相続人数)
贈与税は1月1日から12月31日の1年間の間で110万円
例えば、1億円の多額の資産がある方が、亡くなってしまえばその1億円に相続税が関わってきます。
そこで、毎年10年間110万円ずつ贈与することで、贈与税をかけずに相続する資産を減らし、結果的に相続税を抑えられます。
確かに生前贈与は、基礎控除額110万円となっており、多額の貯金などをまとめて贈与されると贈与税が掛かってしまいます。
毎年毎年ちまちまと110万円ずつしか贈与できないのでしょうか?
しかし、生前贈与は1人あたりの基礎控除額が110万円です。
これは複数の人物に贈与が出来るということです。
つまり、妻と子供が二人いたのであれば、年間それぞれ110万円、合計で330万円まで非課税で贈与することが出来ます。
1年間で大人数にそれぞれ贈与することも可能です。
では、具体的に例をあげてみましょう。
相続税に関して詳しくは「相続税の計算手順と税額を抑える為のポイント4つ」をご覧ください。
Aさんが3億円の資産を所有したまま亡くなりました。
そして、法定相続人は妻・子供2人の合計3名です。
基礎控除が3,000万円+600万円×3名になるので、4,800万円となります。
よって、基礎控除後の遺産が2億5,200万円です。
2億円以上3億円以下の相続税率が45%と控除額が2,700万円です。
なので、2億5,200万円×0.45-2,700万円=8,640万円。
つまり、この場合、8,640万円が相続税(配偶者控除前の額)となります。
一方、Bさんも3億円を所有しています。
Bさんは生前から法定相続人になる妻・子供2人それぞれに毎年110万円ずつ合計10年間贈与をしました。
つまり、合計で3,300万円を贈与したことになります。
このことから、Bさんが亡くなった時の遺産は2億6,700万円です。
そこから基礎控除額4,800万円を引き、2億1,900万円が相続税の課税対象になります。
そこに税率と控除額を引くと、2億1,900万円×0.45-2,700万円=7,155万円。
7,155万円が相続税(配偶者控除前の額)となります。
Aさん(8,640万円)とBさん(7,155万円)の相続税を比較すると、相続税が1,485万円も違ってきます。
確かに所有の資産が多いということもありますが、生前贈与をしていることで節税が出来ることは確かです。
相続税の基礎控除は3,000万円からですので、なかなか規模の大きな話に感じられますが、持ち家を持っている場合、資産が3,000万円を超えることも十分に考えられるでしょう。
銀行に眠っていて、後で相続税としてかかってくるお金があるのであれば、生前から110万円の贈与をおこない、税金を抑えることが賢い方法といえるでしょう。
生前贈与を110万円に抑えることで、節税効果があることがご理解いただけたでしょうか。
「生前、1年間に1人110万以内を贈与すれば、贈与税がかからずに資産を先に分配でき、結果的に相続税が抑えられる。」ということは間違いありません。
しかし、110万円の贈与をするにあたって、いくつかの注意点があります。
こちらでは、その注意点を記載します。
生前贈与に関して、110万円という金額が必ず出てきますが、これは、贈与税の基礎控除額が110万円で、その金額以内であれば税金がかからないということです。
すなわち、110万円を超えると贈与税がかかります。
更に、贈与税の税率は相続税より高く設けられています。
管理が甘く、基礎控除額を超えてしまうと結果的に相続税を払うより損をしてしまうのです。
詳しくは、以下の表をご覧ください。
基礎控除額後の金額 |
贈与税 |
相続税 |
||||
右以外 |
直系尊属からの贈与 |
|||||
税率 |
控除額 |
税率 |
控除額 |
税率 |
控除額 |
|
~200万円 |
10% |
0円 |
10% |
0円 |
|
0円 |
200万~300万円 |
15% |
10万円 |
15% |
10万円 |
||
300万~400万円 |
20% |
25万円 |
||||
400万~600万円 |
30% |
65万円 |
20% |
30万円 |
||
600万~1,000万円 |
40% |
125万円 |
30% |
90万円 |
||
1,000万~1,500万円 |
45% |
175万円 |
40% |
190万円 |
15% |
50万円 |
1,500万~3,000万円 |
50% |
250万円 |
45% |
265万円 |
||
3,000万~4,500万円 |
55% |
400万円 |
50% |
415万円 |
20% |
200万円 |
4,500万~5,000万円 |
55% |
640万円 |
||||
5,000万~1億円 |
30% |
700万円 |
||||
1億~2億円 |
40% |
1,700万円 |
||||
2億~3億円 |
45% |
2,700万円 |
||||
3億~6億円 |
50% |
4,200万円 |
||||
6億円~ |
55% |
7,200万円 |
また、1年間で110万円以内の贈与を受けれは贈与税は非課税ですが、家や土地などの高額な資産を生前贈与されると、贈与税がかかってしまいます。
そこで、生前贈与はほとんど、現金や預貯金のやり取りになるでしょう。
家や土地の場合、名義人が変わるのでしっかり形に残りますが、お金の場合そうはいきません。
贈与のやり取りの記録または証拠が残っていないと、相続の際に贈与したはずのお金が被相続人のものとみなされ、相続税がかかることもあります。
方法として、以下の様なものがあります。
上記の内容に関連しますが、毎年110万円を決まって贈与するから、「3年に一回だけ書類を作成した」などと、横着をしてしまうと、定期贈与とみなされて、相続税がかかるケースが出てきます。
定期贈与とみなされると、せっかくの節税対策も無駄になってしまうので、必ず贈与をする度に贈与契約書を作成しましょう。
例えば、父親が贈与しようと一方的に息子の口座に贈与したとします。
しかし、ここで贈与を受けた息子が「贈与を受けた」という認識が無ければ、「父親が息子の口座を借りて預貯金をしていた」とも判断されてしまいます。
そうなってしまうと、贈与したつもりのお金が相続税の対象になってしまいます。
結果的に110万円の贈与は失敗です。そのような事態にならないためにも、贈与する側だけでなく、贈与を受ける側の認識も必要になります。
生前贈与とは、生きているうちに財産を贈与することを指し、課税制度には「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。
将来相続が発生する(つまり、被相続人が亡くなる)事を見据えて、生前贈与を考える人もいるでしょう。
暦年贈与は、相続開始の3年以内に贈与したものは相続財産として加算されてしまいます。
なお、令和6年1月1日以降は、暦年贈与における生前贈与の加算期間は7年に延長されるほおか、延長期間である4年間に受けた贈与のうち、100万円については相続財産に加算しないこととする形で、税制改正が行われます。
これは、相続直前で相続税を回避する事を防ぐためにこの制度があります。
相続開始=被相続人が亡くなった日になり、それをコントロールすることは不可能です。
なので、贈与による相続税の節税は、前もって計画的におこなう必要があります。
毎年110万円以内の贈与をすることで、相続時の財産を減らし、相続税の節税に繋がります。
しかし、前もってコツコツとおこなう必要があり、大きな金額を一度に贈与できる訳ではありません。
また、贈与したという証拠も形に残さなければなりません。
しかし、前もって準備をしておくことで節税だけではなく、相続時のトラブルも防げます。
資産が多く、相続の事が心配な方は、早い段階から税理士などの専門家に相談し対策を取って下さい。
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