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相続時精算課税制度をわかりやすく解説|メリット・デメリットや新制度との違い

税理士法人Bridge
黒田 悠介(税理士)
監修記事
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相続税対策のひとつとして、相続時精算課税制度について調べている方も多いでしょう。

相続においてできるだけ節税をして、損をしたくないと考えるのは当然です。

本記事では、相続時精算課税制度の詳細や適用条件、メリット・デメリット、計算例、手続き方法や相続時精算課税制度の選択がおすすめな方などについて解説します。

また2023年度税制改正による、相続時精算課税制度の変更内容についても紹介しますので参考にしてください。

目次

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、父母・祖父母から子・孫へ財産の贈与をおこなった場合に適用できる贈与税の特例です。

この制度を適用すると、申請書で指定した贈与者から受贈者に対する贈与財産の累計が2500万円(特別控除)以下であれば贈与税がかかりません

贈与財産の累計が2500万円を超えた場合、超えた部分については一律20%の税率で贈与税が課されます。

贈与税ではなく相続税として課税される

相続時精算課税制度を使う際に注意が必要なのは、贈与税が免除されるわけではないということです。

本制度を使った場合は贈与税の支払いが先送りされ、制度の名前のとおり相続時に精算されます。

具体的には相続が発生した際に、相続時精算課税の対象となった贈与財産全額と相続財産を合算して相続税を算出し、納付済の贈与税額を控除して納税額が決定されるのです。

このように、相続時精算課税制度を使えば贈与税の発生を一時的に停止させ、相続が発生した際にまとめて納税ができます。

2024年以降の新しい相続時精算課税制度では何が変わる?

2023年度の税制改正により、2024年以降に相続時精算課税制度が一部変更されることになりました。

この変更によって、制度の利用者にもたらされる影響は小さくありません。

それでは実際に、なにが変わるのでしょうか。

年間110万円分の基礎控除額が認められる

2023年度の税制改正に関する重要なポイントのひとつは、相続時精算課税制度における基礎控除の導入です。

これまでこの制度を使うと、暦年課税における年間110万円の基礎控除額は適用されませんでした。

今回の改正では、特別控除とは別枠でさらに年間110万円の基礎控除が設けられたのです。

これにより、年間110万円以下の贈与は贈与税が課税されず、累計2500万円の特別控除の対象からも外れます

この基礎控除は、相続時精算課税制度を利用する方にとって大きなメリットとなるでしょう。

暦年課税と相続時精算課税の「年間110万円」の基礎控除は何が違う?

暦年課税とは、贈与税に関する通常の課税方式です。

暦年課税では年間110万円の基礎控除額があるため、年間110万円までの贈与には贈与税がかかりません。

しかし被相続人が亡くなる前の3年間(2024年1月以降の贈与では最大7年間)の贈与については、「生前贈与加算」の対象となり相続税の課税対象となります。

一方、税法改正後の相続税時精算課税における年間110万円の基礎控除額は、被相続人が亡くなる直前でも生前贈与加算の対象とはなりません。

その分、暦年課税に比べ贈与税を節税できるわけです。

このように相続時精算課税制度では、生前贈与加算に関するメリットも大きいです。

しかし相続時精算課税制度にはデメリットもある上、本制度を選ぶと暦年課税に戻ることはできません。

相続時精算課税制度を選択する場合は、そのメリットとデメリットを十分に理解し、将来の贈与や相続の予定も考慮して慎重に判断する必要があります。

相続時精算課税制度の適用要件

相続時精算課税制度には、適用要件があります。

以下、相続時精算課税制度の適用要件をひとつずつみていきましょう。

相続時精算課税制度を利用できる人とは

相続時精算課税制度は、一定の条件を満たす贈与者と受贈者の間でおこなわれた贈与に対して、選択的に適用できる制度です。

具体的には、贈与者が60歳以上の父母・祖父母で、受贈者が18歳以上(2024年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上)の子・孫である場合に、本制度を利用するか選択できます。

適用には贈与税の申告と届け出が必要

相続時精算課税制度を選択する場合、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、相続時精算課税選択届出書を含めた必要書類を贈与税の申告書と一緒に税務署に提出します。

この制度を選択すると、選択した年度以降の贈与者と受贈者の間の贈与は、全て相続時精算課税の対象となります。

一度選択すると、暦年課税に戻ることはできません

相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度には以下のメリットがあります。

【相続時精算課税制度のメリット】
  • 多額の贈与を一度にした場合に、高額な贈与税の発生をおさえられる
  • 多額の生前贈与ができるため相続争いを未然に防げる
  • 財産の値上がりが見込める場合に相続税を節税できる可能性がある

本項では、これらメリットの詳細をひとつずつみていきましょう。

多額の贈与を一度にした場合に、高額な贈与税の発生をおさえられる

一度に多額の贈与をするときに、相続時精算課税制度を選んでいれば贈与税が発生しないというメリットがあります。

たとえばお店を開きたいという子や孫へ、開店資金として2,500万円を一度に贈与するケースをイメージしてください。

この場合、相続時精算課税制度を選んでいれば贈与税がかからず、資金が必要な開店時に多くのお金を手元に残すことが可能です。

暦年課税では、年間控除額は110万円しかありませんので、一度に多額の贈与をするとその分だけ高額な贈与税が発生することになります。

上記例では、2,500万円-110万円=2,390万円の贈与額に対して贈与税が発生するのです。

相続時精算課税制度を使えば、相続が開始された際には猶予された贈与税が精算され、相続税として支払うことになります。

しかし、紹介した例のようにお金が必要なときに贈与税の課税が猶予されると助かるケースも多いでしょう。

多額の生前贈与ができるため相続争いを未然に防げる

相続時精算課税制度を利用することで、多額の生前贈与がしやすくなるため相続争いを未然に防げます。

生前贈与であれば、贈与者の意志で財産を譲ることが可能です。

しかし贈与者が生前贈与をしないままで亡くなった場合、必ずしも贈与者の希望するとおりに遺産が分割されるとは限りません

また、生前贈与をしなかった分だけ相続財産も多く残ることから、その分だけ相続争いが起こりやすくなります。

贈与者に財産配分について希望がある場合や、相続争いが予想される場合は、相続時精算課税制度を使った生前贈与の検討がおすすめです。

財産の値上がりが見込める場合に相続税を節税できる可能性がある

将来的に値上がりが見込める財産を贈与される場合、相続時精算課税制度を適用することで相続税を節税できる可能性があります。

相続時精算課税制度では、まだ値上がりしていない贈与時点の評価額で相続税が算出されるためです。

たとえば本制度を使い、開発途中で注目を集めている地域の不動産・収益物件を贈与すると仮定しましょう。

相続時精算課税制度を使えば、まだ値上がりする前の評価額でそれら財産が評価され相続税が算出されます。

そのため、結果的に相続税が節約できる可能性があるわけです。

ただし反対に財産の評価額が将来的に下がってしまった場合など、相続時精算課税制度を選ぶことで相続税が高くなってしまうこともあります。

必ずしも、このケースで相続税が節約できるとは限らないので注意してください。

相続時精算課税制度のデメリット

多額の贈与を一度にした場合に高額な贈与税を回避できたり、相続争いを防げたりなどメリットも多い相続時精算課税制度ですが、デメリットはあるのでしょうか。

相続時精算課税制度のデメリットは、以下のとおりです。

【相続時精算課税制度のデメリット】
  • 暦年課税を選んだ方が相続税を抑えられる場合もある
  • 相続税が発生する可能性がある
  • 相続時にお得な特例が使えなくなる

暦年課税を選んだ方が相続税を抑えられる場合もある

相続税精算課税でなく暦年課税を選んだ方が、相続税を抑えられる場合もあります。

相続時精算課税制度を選ぶことで、贈与時に贈与税の支払いを猶予することはできますが、かわりに贈与した分が相続財産に加算されます。

その結果、暦年課税を選んだ方が相続税を抑えられる場合も少なくないのです。

一般的には贈与額が大きく贈与期間も長い場合、暦年課税の方が節税につながることが多いですが、ケースによるので一概にはいえません。

どちらが節税につながるか正確に確かめるためには細かい計算が必要になるので、不安であれば税理士などの専門家に相談してアドバイスを求めるとよいでしょう。

相続税が発生する可能性がある

相続時精算課税制度を使うことで、相続税が発生する可能性があります。

この制度を利用した場合、相続発生時には、相続時精算課税制度で贈与された財産と、そのほかの相続財産を合わせた遺産の総額が相続税の基礎控除額を上回ると相続税が発生します。

相続税の基礎控除額は、3,000万円+法定相続人の数×600万円です。

暦年課税を選んでいた場合は相続財産が基礎控除額以下で相続税が発生しなかった場合でも、相続時精算課税制度を選び多額の贈与が相続税の課税対象になることで相続税が発生することがあります。

相続時にお得な特例が使えなくなる

相続時精算課税制度を利用して不動産などを贈与すると、その不動産は小規模宅地等の特例の対象外となります。

小規模宅地等の特例とは、高額な相続税により相続人が自宅などを手放さなければならなくなるのを防ぐための制度です。

本特例を適用すると、要件を満たした場合に200平方メートル以下の住宅用地の評価額を最大80%下げて相続税の計算をすることができます。

たとえば評価額が1億円の住宅用地であれば、評価額を最大80%下げて2,000万円として相続税の計算ができるわけです。

これによって相続税を大幅に抑えられます

相続時精算課税制度を選ぶことで、小規模宅地等の特例が使えなくなる分、相続税が高くなってしまう可能性があるのです。

相続時精算課税制度を利用した場合の贈与税の計算例

相続時精算課税制度を利用した場合の贈与税の計算は、どのようになるのでしょうか。

こちらでは、実際の計算例を紹介します。

なお、以下に挙げる計算例については、一般税率を用いることを前提にしています。

現行の相続時精算課税制度の場合

例1 ある年に2,660万円を相続時精算課税制度を利用して贈与した場合の贈与税

(2,660万-2,500万円)×20%=32万円

例2 毎年400万円ずつ10年間、合計4,000万円贈与した場合の贈与税

(4,000万-2,500万)×20%=300万円

新しい相続時精算課税制度の場合

例1 ある年に2,660万円を相続時精算課税制度を利用して贈与した場合の贈与税

((2,660万-110万)-2,500万円)×20%=10万円

例2 毎年400万円ずつ10年間、合計4000万円贈与した場合の贈与税

((400万-110万)×10年)-2,500万)×20%=80万円

相続時精算課税制度を利用した場合の相続税の計算例

続いて、相続時精算課税制度を利用した場合の相続税の計算例について紹介します。

現行の相続時精算課税制度の場合

例1 ある年に2,660万円を相続時精算課税制度を利用して贈与し、ほかに2,000万円の相続財産があった場合

相続税の課税対象=2,660万+2,000万=4,660万円

相続税=4,600万円について課税された額-すでに贈与税として支払った32万円

例2 毎年400万円ずつ10年間、合計4,000万円贈与し、ほかに2,000万円の相続財産があった場合

相続税の課税対象=4,000万+2,000万=6,000万円

相続税=6,000万円について課税された額-すでに贈与税として支払った300万円

新しい相続時精算課税制度の場合

例1 ある年に2,660万円を相続時精算課税制度を利用して贈与し、ほかに2,000万円の相続財産があった場合

相続税の課税対象=(2,660万-110万)+2,000万=4,550万円

相続税=4,550万円について課税された額-すでに贈与税として支払った10万円

例2 毎年400万円ずつ10年間、合計4,000万円贈与し、ほかに2,000万円の相続財産があった場合

相続税の課税対象=((400万-110万)×10年)+2,000万=4,900万円

相続税=4,900万円について課税された額-すでに贈与税として支払った80万円

相続時精算課税制度の選択がおすすめな方

相続時精算課税制度に関するメリット・デメリットや計算例について紹介してきましたが、ご自身のケースについて相続時精算課税制度を選択するべきなのかわからないという方も多いでしょう。

そこで、ここでは参考までに、相続時精算課税制度の選択がおすすめな方の主な例を紹介します。

【相続時精算課税制度の選択がおすすめな方】
  • 相続財産が相続税の基礎控除額内に収まる方
  • 年間の贈与額が110万円を上回っている方
  • 収益不動産を所有している方
  • 将来的に値上がりが予想される財産のある方

相続財産が相続税の基礎控除額内に収まる方

相続時精算課税制度は、相続財産が相続税の基礎控除額内に収まる方におすすめです。

具体的には、贈与者の死亡時の相続財産の総額が、相続税の基礎控除額以下であれば、相続時精算課税制度を選択するとよいでしょう。

相続税の基礎控除額とは、相続税がかかるかどうかの基準となる金額で、3,000万円に法定相続人の人数に応じた加算額(600万円×法定相続人の人数)を加えたものです。

たとえば、法定相続人が2人であれば、基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2)となります。

そのため、贈与者は自分の死亡時の相続財産の総額を見積もっておくことが重要です。

年間の贈与額が110万円を上回っている方

年間の贈与額が110万円を上回っている方は、相続時精算課税制度を検討した方がよいでしょう。

暦年課税では、年間110万円以下の贈与は原則として贈与税が免除されますが、年間110万円を超える贈与では贈与税が発生します。

そのうえで贈与税は贈与額が増えるほど税率が高くなる超過累進課税なので、高い贈与税の負担が予想されるのです。

ただし相続時精算課税制度を選ぶことで負担が減るとは一概には言えないので、1度シミュレーションをおこなってみるといいかもしれません。

収益不動産を所有している方

賃貸マンションや賃貸アパートなどの収益物件を所有している方は、相続時精算課税制度を選択することで節税につながる可能性があります。

相続時精算課税制度を選ばなかった場合、収益物件の評価額に加え相続開始時までに発生した毎月の家賃収入などの収益も評価対象となり相続税が算出されます。

つまり多くの収益を生む物件程、相続税も高くなるわけです。

一方、相続時精算課税制度を選べば、贈与時点での価値で相続税が算出されるので、その分、相続税を抑えられる可能性があります。

一方で収益不動産は「小規模宅地等の特例」の対象となる「貸付事業用宅地等」に該当する場合があり、条件を満たせば限度面積200㎡までの宅地等の評価額を50%減額できます。

ただし前述のとおり、相続時精算課税制度を選んだ場合、小規模宅地等の特例は適用できません。

そのため収益不動産を所有している場合に、相続時精算課税制度をえらんで節税できるか否かはケースによります。

相続時精算課税制度を選んだ方が節税できるか否かは、シミュレーションしてみるとよいでしょう。

ご自身で計算するのが難しい場合は、税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。

将来的に値上がりが予想される財産のある方

将来的に値上がりが予想される財産のある方も、相続時精算課税制度を検討することをおすすめします。

相続時精算課税制度を利用して贈与をおこなうと、贈与時点の評価額で相続税が算出されるためです。

たとえば、贈与時に1,000万円だった土地が相続開始時に4,000万円になっていたとしても、相続税の計算では1,000万円として扱われます。

その分、相続税も抑えられるわけです。

相続時精算課税制度を活用できる財産としては、都市開発計画が進んでいる土地や、将来的に高騰が予想される株式などの有価証券が考えられます。

ただし、相続開始時に贈与された財産の価値が贈与時よりも下がってしまった場合でも、値下がり前の価格で評価される点は注意しましょう。

相続時精算課税制度の手続き方法

相続時精算課税制度の概要やメリット・デメリットをみてきました。

それでは実際に、相続時精算課税制度を利用するためには、どのような手続きをすればよいのでしょうか。

必要書類

相続時精算課税制度の利用手続きをする際は、以下の必要書類を用意します。

【相続時精算課税制度の必要書類】
  • 贈与税申告書
  • 相続時精算課税選択届出書
  • 戸籍謄本または戸籍妙本
  • 住民票または戸籍の附票
  • 贈与を受けた人の18歳以降の住所がわかるもの

申告方法

贈与を受けた方は、申告期間内(贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日まで)に、贈与税の申告書と相続時精算課税選択届出書を添付書類とともに、管轄する税務署に提出してください。

これで申告手続きは完了です。

まとめ|生前贈与で迷ったら専門家に相談!

相続時精算課税制度を使うことで、贈与税の支払いを猶予できるなどのメリットがあります。

また2023年の税法改正により年間110万円の基礎控除額が追加されたことで、相続時精算課税制度は従来より使いやすくなりました。

しかしながら、誰でも利用できる制度ではなく、適用要件があります。

また相続時精算課税制度を選ぶことで、特例が使えなくなるなどの理由で相続税が高くなってしまうケースも少なくありません。

実際に相続時精算課税制度を選ぶと良いか否かは、細かい計算をして判断する必要があります。

また相続時精算課税制度を使うためには、専用の手続きが必要なので手間も時間もかかります。

そのため相続時精算課税制度を使うべきか否かをはじめ生前贈与について迷ったら、税理士や弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。

費用はかかりますが、手続きを一任できるため、負担の軽減にもつながります。

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この記事の監修者
税理士法人Bridge
黒田 悠介(税理士)
大手税理士法人、金融機関・IPO企業・富裕層コンサルティング会社を経て、税理士法人Bridge東京・静岡事務所を創設。「お客様に幸せの架け橋を」というビジョンを掲げ、多角的な税務サービスを行っている。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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