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相続時精算課税制度のメリットと贈与税対策のポイント

水野総合FP事務所
水野崇(FP)
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相続時精算課税制度(そうぞくじせいさんかぜいせいど)とは、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上(2022年3月31日以前の贈与については20歳)の推定相続人である子どもまたは孫に対して財産を贈与した場合に、2,500万円の限度額に達するまで何度も控除できる贈与税の特例のことです。

この制度を選択する場合には、最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告書に添えて提出する必要があります。

なお、一度相続時精算課税制度を選択すると、それ以降は全てこの制度が適用されて「暦年課税」に変更できないという制限があります。

しかし、税法上は便利な制度であるため、相続時精算課税制度を利用するケースは一定数あるようです。

この記事では、相続時精算課税制度を活用するメリットや注意点、活用した際の税金の計算方法などを解説します。

*本記事の専門家による監修日は2023年6月28日です。

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相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度のメリットとしては以下があります。

財産移転がスムーズに進行できる

相続税の節税にはなりませんが、早期に多額の財産を移転することができます。

特に、相続税がかからない程度の財産状況の場合は効果的です。

土地などの分けにくい財産でも生前に移転が可能

相続で遺産分割協議が難しい財産も生前に移転することができます。

ただし、贈与財産は遺産分割の対象にはならないものの、特別受益に該当して相続財産に含まれる可能性があります。

【関連記事】特別受益とは?生前贈与の持ち戻し計算方法や時効を解説

一度に2,500万円の贈与が可能

贈与しても2,500万円までは贈与税がかからないため、不動産などの金額が大きくなりそうなものを贈与する際はメリットが大きいでしょう。

2,500万円を超えたとしてもかかる税率は一律20%で、まだ良心的といえます。

また、贈与財産の種類・金額・贈与回数・年数などには制限がありません。

【関連記事】生前贈与で不動産を贈与する際に贈与税を抑える為の手順

収益物件の贈与なら相続税対策になる

収益物件の贈与の場合、贈与後の収益は受贈者のものになるため、贈与者の財産が増えないことで間接的な相続税対策になる場合もあります。

収益物件とは

収益物件とは、毎月一定の家賃収入のある不動産のことです。

一棟売りのアパート・賃貸マンション・テナントビルなどが該当し、投資した不動産の家賃収入から収益を得る目的で購入する物件のことをいいます。

値上がり見込みがある財産を贈与するなら相続税対策になる

贈与時の金額が相続開始時に加算されるため、将来的に値上がりが見込まれる土地や建物などの財産の贈与であれば、値上がり分の相続税を回避できます。

相続時精算課税制度のデメリット

相続時精算課税制度には、以下のようなデメリットもあります。

  • 年齢や対象者などの制限がある
  • 相続時精算課税制度を利用すると暦年課税に変更できない
  • 金額にかかわらず贈与税の申告が必要になる
  • 相続時に物納(金銭以外での納税)が認められない
  • 相続時に小規模宅地等の特例が受けられない
  • 不動産の贈与の場合は移転コストが高くなる など

移転コストについては、相続の場合は登録免許税が0.4%ですが、贈与の場合は2.0%で不動産取得税もかかります。

不動産について相続時精算課税制度を利用する際は、価額を正確に把握する必要があるため、税理士などの専門家に依頼するべきでしょう。

相続時精算課税を選択したあとは暦年贈与に変更できない

相続時精算課税制度を選択した場合、それ以降の同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ変更することができません(逆は可能)。

相続税の対策にはならないが贈与税の対策になる

贈与者の相続では、相続時精算課税制度での贈与財産を加算して相続税を計算し、相続税と一旦支払っていた贈与税との差額分を支払います。

贈与税の対策にはなっても相続税の対策にはならないので注意が必要です。

相続時精算課税制度と暦年課税(従来の生前贈与)の比較

ここでは、相続時精算課税制度と暦年贈与(年間110万円までの贈与行為)の違いについて解説します。

 

従来の贈与(暦年課税)

相続時精算課税制度

贈与税の計算

(贈与額-110万円)×累進税率-控除額
※累進税率は10%~55%の8段階
※税率は「直系尊属から18歳以上の子どもや孫への贈与(特例贈与)」と「それ以外への贈与(一般贈与)」で異なる

(贈与額-2,500万円)×20%

利用条件

誰でも利用可能

60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子ども・孫への贈与が対象
※贈与の年の1月1日現在の満年齢

相続税との関係

相続税とは切り離して計算する
※相続開始前から3年以内の贈与は相続税の課税価格に加算する

相続税の計算時に贈与税は精算される
※精算時の贈与財産の評価は贈与時の時価

贈与税の納税

暦年単位で計算して納税する
※暦年:その年の1月1日~12月31日のこと

2,500万円を超える贈与ごとに納税して相続時に精算する

節税効果

基礎控除(110万円)は毎年利用できて非課税となる

相続時に評価が上がっているものを贈与する場合は、相続財産の圧縮ができて節税効果がある

大型贈与について

数年にわたり多数におこなえば大型の贈与が可能

2,500万円まで贈与税がかからないので大型の贈与がしやすい

制度の移行

暦年課税を選択後、相続時精算課税制度への移行は可能

相続時精算課税制度を選択後、暦年課税への移行は不可能

5,000万円を贈与した場合の計算例

ここでは、贈与額5,000万円の場合の税金の計算方法を解説します。

なお、暦年課税の累進税率は下記のとおりです。

表:一般贈与の税率(兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子どもへの贈与で子どもが未成年者の場合など)

基礎控除後の課税価格

税率

控除額

200万円以下

10%

300万円以下

15%

10万円

400万円以下

20%

25万円

600万円以下

30%

65万円

1,000万円以下

40%

125万円

1,500万円以下

45%

175万円

3,000万円以下

50%

250万円

3,000万円超

55%

400万円

表:特例贈与財産用(父母や祖父母が、その年の1月1日において18歳以上の子どもや孫に贈与する場合

基礎控除後の課税価格

税率

控除額

200万円以下

10%

400万円以下

15%

10万円

600万円以下

20%

30万円

1,000万円以下

30%

90万円

1,500万円以下

40%

190万円

3,000万円以下

45%

265万円

4,500万円以下

50%

415万円

4,500万円超

55%

640万円

暦年課税の場合(一般贈与の税率を採用)

まず、計算式は以下のとおりです。

(贈与額-110万円)×累進税率-控除額

上記の式に贈与額5,000万円をあてはめると、贈与税額は以下のとおりです。

贈与税額=(5,000万円 − 110万円)×55%-400万円=2,289万5,000円

相続時精算課税制度の場合

まず、計算式は以下のとおりです。

(贈与額-2,500万円)×20%

上記の式に贈与額5,000万円をあてはめると、贈与税額は以下のとおりです。

贈与税額=(5,000万円-2,500万円)×20%=500万円

このように、相続時精算課税制度を利用することで、上記のケースでは1,800万円近く贈与税を抑えることができます

相続時精算課税制度を選択できる人

相続時精算課税制度を利用できるのは、以下の条件にあてはまる場合のみです。

財産を贈与した人(贈与者)

贈与者は「60歳以上の父母または祖父母」でなければいけません。

財産の贈与を受けた人(受贈者)

受贈者は「18歳(2022年3月31日以前の贈与については20歳)以上で、贈与者の子どもまたは孫」でなければいけません。

贈与者ごとに適用できるため、たとえば父からの贈与を暦年課税、母からの贈与を相続時精算課税制度にするなど、自由に選択できます。

相続時精算課税制度の贈与税と相続税の計算方法

相続時精算課税を利用した場合、贈与を受けてから相続するまでの流れを汲んだ税金は以下のようになります。

2015年に父から子どもへ2,500万円を贈与

贈与税の申告は必要ですが、相続時精算課税制度によって贈与税はかかりません

2020年に父から子どもへ1,000万円を贈与

2015年の贈与と合計すると3,500万円になるため、以下の贈与税がかかります

贈与税額=(3,500万円-2,500万円)×20%=200万

2022年に父が亡くなり相続が発生

ここでは「遺産:1億円、相続人:子ども2人」と仮定します。

相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があり、まずは以下の式で課税遺産総額を計算します。

課税遺産総額=遺産1億円+贈与財産3,500万円-基礎控除額(3,000万円+600万円×2)=9,300万円

次に、相続人が2人いるので課税遺産総額を半分にし、以下の相続税率の表にあてはめて相続税を計算します。

相続税={(9,300万円÷2)×20%-200万円}×2=1,460万円

最後に、すでに贈与税として支払っている分を差し引いて、実際の納税額を求めます。

相続時の納税金額=相続税1,460万円-贈与税200万円=1,260万円

※相続時精算課税に係る贈与税額を計算する際、暦年課税の基礎控除額110万円は控除できないため、贈与を受けた財産が110万円以下の場合でも贈与税の申告をする必要があります(2024年1月1日以降に相続時精算課税制度を選択した場合の贈与については、年間110万円の基礎控除が新たに創設されます)。

相続税率の表

法定相続分に応ずる取得金額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

1,000万円超~3,000万円以下

15%

50万円

3,000万円超~5,000万円以下

20%

200万円

5,000万円超~1億円以下

30%

700万円

1億円超~2億円以下

40%

1,700万円

2億円超~3億円以下

45%

2,700万円

3億円超~6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

相続時精算課税制度を利用する際の必要書類

相続時精算課税制度を選択する受贈者は、納税地の所轄税務署に以下の書類を提出する必要があります。

手続きに必要な書類

  • 相続時精算課税選択届出書(書類フォーマット
  • 贈与税の申請書
  • 以下の情報がわかる受贈者の戸籍の謄本または抄本
    ※受贈者の氏名・生年月日
    ※受贈者が贈与者の推定相続人である子どもまたは孫であること
  • 受贈者が18歳に達してからの住所または居所がわかる、受贈者の戸籍の附票の写し
  • 以下の情報がわかる贈与者の住民票の写しまたは戸籍の附票
    ※贈与者の氏名・生年月日
    ※贈与者が60歳に達してからの住所または居所

申告期限

申告期限は「贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日まで」です。

申告期限までに提出しなかった場合には、相続時精算課税制度の適用は受けられません。

相続時精算課税制度を利用する際の注意点

相続時精算課税制度の利用にあたっては、以下のポイントに注意しましょう。

小規模宅地等の特例と比較しておく

相続時精算課税制度を選択すると、相続時に小規模宅地等の特例の適用が受けられません。

小規模宅地等の特例を利用したほうが有利な宅地がある場合は、相続時精算課税制度を選択しないほうがよいでしょう。

住宅の贈与のほうが節税になる場合もある

住宅取得資金を贈与するよりも、贈与者が住宅を建てて贈与することで評価額が下がり、結果的に相続税の節税につながる場合もあります。

住宅取得等資金の贈与については非課税の特例がありますが、「贈与の翌年3月15日までに住宅の引き渡しを受けて自宅として居住する」などの一定の要件が定められており、引き渡しが間に合わない場合などは適用されないこともあります。

詳しくは、国税庁の「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」を確認してください。

孫が受贈者の場合は相続税の面で不利になることもある

たとえば、祖父から孫への贈与で相続時精算課税制度を選択したのち、祖父が亡くなって相続が発生した場合、孫は法定相続人ではないため相続税の2割加算の対象になります。

このようなケースでは結果的に損を被ってしまうこともあり、詳しくは以下の記事で解説しています。

【関連記事】遺贈と死因贈与は違うもの!混同しやすい遺贈・贈与・相続の区別とは

最後に

相続時精算課税制度は、贈与税を大幅に節税できる制度です。

しかし、基本的に相続税の対策にはならず、小規模宅地等の特例などと十分に比較検討しないと結果的に損を被る可能性もあります。

場合によっては複雑な計算が必要になることもあるので、迷った際は税理士などに相談することをおすすめします。

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この記事の監修者
水野総合FP事務所
水野崇(FP)
「お客様の人生の伴走者として長期的に選ばれ続けるFPでありたい」と考え、ライフプランや投資・資産運用、不動産・住宅ローンを中心に、年間100名以上のご相談を承っております。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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