これから相続手続きをする予定の方のなかには、「遺産分割協議書はいつまでに作るべき?」と疑問に思っている方もいるでしょう。
遺産分割協議書とは、遺産分割協議で相続人全員が合意した内容をまとめたものです。
誰がどの財産をいくら相続するのかを細かに記載する必要があるので、作成できるのか不安に思う方もいるのではないでしょうか?
本記事では、遺産分割協議書を作成する期限や大まかな流れなどを解説します。
主な相続手続きの期限も紹介しているので、これから手続きをする方はぜひ参考にしてください。
遺産分割協議書には「いつまでに作成しなくてはならない」といった、作成期限はとくにありません。
民法では、遺産分割はいつでもおこなってよいと定められています。
遺産分割協議書を作成するのが遅れたからといって、遺産分割協議の内容が無効になることはありません。
(遺産の分割の協議又は審判)
第九百七条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
引用元:民法|e-Gov法令検索
他方、遺産を相続するにはさまざまな手続きが必要で、それぞれに期限が設けられています。
遺産分割協議書の作成が遅れると、ほかの相続手続きを進められず「期限に間に合わなかった…」ということになりかねません。
スムーズに相続できない可能性があるので、遺産分割協議書はできるだけ早く作っておきましょう。
遺産分割協議書と関連する相続手続きの中には期限が設けられているものがあります。
期限を過ぎてしまわないよう、それぞれの手続きの期限をしっかりと確認しておきましょう。
相続放棄や限定承認は、自己が相続人となって相続が開始したことを知った日から3ヵ月以内に手続きをする必要があります。
相続放棄とは、遺産を相続する権利・義務を放棄することです。
限定承認は、預貯金や不動産などのプラスの財産の範囲内で、借金やローンなどのマイナスの財産を相続することをいいます。
相続放棄や限定承認をおこなうかどうかで遺産分割の内容が変わるため、どちらかを検討している場合は早めに手続きしておきましょう。
相続税の申告・納付は、相続開始を知った日から10ヵ月以内の手続きが必要です。
相続税の申告期限を過ぎてしまった場合、期限の翌日から延滞税がかかります。
期限を過ぎた日数に応じて自動的に加算されるため、期限を過ぎたら1日でも早く手続きを終わらせましょう。
いつまでも申告せずにいると、延滞税に加えて無申告加算税も課され、さらに余分な税金を負担しなければなりません。
申告期限を過ぎてしまいそうな場合は、以下のいずれかの方法で対応しましょう。
期限までに申告しておけば、延滞税や無申告加算税などのペナルティを受けずに済みます。
申告後に遺産分割協議がまとまったら、修正申告や更正請求などの手続きをおこない、適正な税金を納めましょう。
相続登記の手続き期限は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年です。
相続登記とは、不動産を所有していた人が亡くなった場合に、不動産の名義を相続人に変更することをいいます。
これまで、相続登記には明確な手続き期限がありませんでした。
しかし、2024年4月1日から相続登記が義務化されるのにともない、手続きの期限が法律的に定められることになっています。
期限を過ぎると10万円以下の過料が課されるので、早めの対応を心がけましょう。
特別受益や寄与分を請求できるのは、相続開始を知った日から10年以内です。
特別受益とは、複数の相続人のうち一部の相続人だけが、被相続人からの生前贈与・遺贈などにより受け取った利益のことをいいます。
たとえば、被相続人Aが長男のみに生前贈与をした場合、贈与を受けなかった次男は、相続開始から10年以内であれば遺産分割協議の中で、「長男は生前贈与で財産を受け取っているのだから、その分相続分を少なくするべきだ」と主張することができます。
また、寄与分とは被相続人の財産の維持・増加のために特別な貢献をした人が多くの遺産を受け取れる制度のことです。
「被相続人と同居して献身的に介護をした」「長年にわたり被相続人の事業を無償で手伝った」などの場合に、寄与分が認められることがあります。
遺産相続に関する手続きは、ほかにもあります。
上記以外の手続きの期限についても確認していきましょう。
被相続人の確定申告は、相続開始を知った日から4ヵ月以内に手続きをしなければなりません。
被相続人の代わりに相続人が確定申告をすることを「準確定申告」といいます。
被相続人が自営業者やフリーランスで、毎年確定申告をおこなっていた場合等は準確定申告が必要です。
期限を過ぎた場合、加算税や延滞税などがかかる可能性があるので、早めの手続きが大切です。
遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分侵害を知った日から1年以内におこなう必要があります。
遺留分侵害額請求とは、相続人が最低限相続できる持ち分(遺留分)を侵害されたときに、財産を多く受け取ったほかの相続人に対し、遺留分相当額の支払いを求めることです。
期限を過ぎると、遺留分侵害額請求をできる権利が失われてしまうので注意しましょう。
被相続人が生命保険に加入していた場合、相続開始を知った日から3年以内に生命保険金を請求する必要があります(簡易保険の場合は5年)。
生命保険金は、被保険者が亡くなったことを申告しないと支払われません。
生命保険金の請求を忘れていたり、あと回しにしたりしていると、本来もらえるはずだった保険金を受け取れなくなってしまう可能性があります。
被相続人が生命保険に加入していたか、どこの保険会社の保険に加入していたかをしっかりと把握して、早めに請求をしましょう。
ここからは、遺産分割協議書の作成が遅れた場合のデメリットを6つ紹介します。
遺産分割協議が終わるまで、相続財産は相続人全員の共有財産として扱われます。
預金や不動産に誰も手をつけられない状態なので、預貯金の解約や不動産の有効活用などができません。
遺産を活用できないわりに、固定資産税や口座管理手数料などのコストはかかるため、相続人にとっては損でしょう。
遺産分割をおこなわないまま相続人が亡くなった場合、相続人が増えて複雑化してしまうおそれがあります。
たとえば、被相続人Aの遺産分割をしないまま、Aの相続人であるBが亡くなったとします。
相続人Bに何人も子どもがいたり、家族関係が複雑だったりした場合、相続人が一気に増える可能性があるでしょう。
遺産分割協議は相続人全員が参加する必要があるため、相続人が増えると協議をおこなうのが難しくなります。
協議をおこなえたとしても、相続人が多いために話し合いがまとまらなかったり、けんかになってしまったりすることがあるでしょう。
遺産分割協議書を作成せずに口約束だけで遺産の分割方法を決めてしまうと、あとから相続人の気が変わってトラブルになる可能性があります。
遺産分割協議書を作成しておけば、あとからその内容を変更したり取り消したりすることはできません。
しかし、遺産分割協議書がないと自分の言い分をいくらでも変えられるため、あとでほかの相続人から「やっぱり、もっと多くの財産を相続したい」と主張されるおそれがあります。
相続人同士のトラブルを防ぐためにも、遺産分割協議書はしっかりと作成しておきましょう。
相続人が認知症などで判断能力が低下している場合、成年後見人を立てる必要があります。
成年後見人がいないと遺産分割協議を開けないうえ、あらゆる相続手続きを進められません。
成年後見人の選任手続きには時間がかかるので、手続きの期限が迫っている場合や急を要する場合は困ってしまうでしょう。
遺産分割が完了するまで、相続財産は相続人全員の共有財産として扱われます。
相続財産に不動産が含まれている場合、固定資産税を全員で負担しなければなりません。
また、万が一その不動産が倒壊したり火事にあったりした場合、修繕費用や処分費用などを相続人全員で支払う必要があります。
遺産分割をしていれば支払う必要がなかった税金・費用を負担しなければならないので、遺産分割をあと回しにするのは避けましょう。
遺産分割協議をあと回しにしている間に、被相続人が所有していた貴金属や宝石が紛失してしまうおそれがあります。
そのまま放置していると、財産のありかや紛失した背景を知っている人が亡くなってしまい、遺産総額を正確に把握しづらくなるでしょう。
ここからは、遺産分割協議書を作成する際の流れを5つのステップに分けて解説します。
遺産分割協議には相続人全員が参加しなければならないので、まずは誰が相続人なのかを確定させましょう。
相続人調査は、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を全て集めておこないます。
被相続人が何度も転籍していた場合はかなりの手間と時間がかかってしまうので、可能であれば弁護士などの専門家に依頼しましょう。
相続財産がどのくらいあるのかも調査する必要があります。
相続財産を洗い出さなければ、遺産の分け方を話し合うことができません。
相続財産には、預金・不動産などのプラスの財産だけでなく、借金やローンといったマイナスの財産も含まれるので、もれなく調査しましょう。
財産の確定後、財産目録を作成しておくと、その後の遺産分割協議をスムーズに進められますよ。
相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で遺産分割協議をおこないます。
遠方に住んでいる人や仕事で出席できない人がいる場合は、電話やオンラインで意思確認をしましょう。
遺産分割協議に相続人全員が合意したら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、誰が・どの財産を・いくら相続するかを細かく記載しなければなりません。
あいまいな書き方をしてしまうと、あとで相続人同士でトラブルになるおそれがあります。
また、新たな財産が見つかった場合の対応方法も記載しておくと安心です。
遺産分割協議書には相続人全員の署名・押印が必要なので、実印と印鑑証明書を手元に用意しておきましょう。
遺産分割協議で相続人全員の合意が得られなかった場合、遺産分割調停や審判をおこないましょう。
調停では、調停員が当事者の間に入って話を聞き、適切な解決案を考えてくれます。
調停で合意できなかった場合は、審判で裁判官に遺産の分け方を決めてもらうことが可能です。
審判の内容にも納得できない場合は、不服申し立てをして高等裁判所で決定を受けることになります。
ここでは、遺産分割協議書をスムーズに作成するためのポイントを4つ紹介します。
遺産分割協議では、つい感情的になり、話し合いがなかなかまとまらないといったことがしばしば起こります。
自分の言い分ばかり主張していると、いつまでたっても相続を終えられないので、まずは落ち着いて相手の話も聞きましょう。
落ち着いた対話を心がけることで、相手の主張の意図がわかり話し合いを前に進めやすくなります。
相続人以外の人が遺産分割協議に参加してしまうと、話し合いがまとまりづらくなる可能性があります。
たとえば相続人の妻が被相続人を献身的に介護していた場合、「自分にも遺産をもらう権利がある」と主張してくることも考えられるでしょう。
遺産分割協議は、できる限り相続人だけでおこなうようにしてください。
相続手続きには、財産の評価方法や遺産分割に関する法律の知識が求められます。
相続に関する法律の知識がまったくなかったり、相続のルールを勘違いしていたりすると、遺産分割協議をスムーズに進めるのが難しいでしょう。
法律の知識をつけておくことで、話し合いや手続きを円滑におこなえる可能性が高くなります。
相続トラブルが得意な弁護士に依頼すれば、遺産分割協議をスムーズに進めやすくなるでしょう。
相続人同士では話し合いがなかなかまとまらなくても、第三者である弁護士が間に入ることで、冷静に対話ができるでしょう。
また、戸籍謄本の収集、相続財産の調査、不動産の登記など、相続に関わる手続き全般を代行してもらうことも可能です。
自力でなんとかしようとするよりも、弁護士に依頼したほうが相続を早く終わらせられるでしょう。
相続は、手続きが複雑だったり、ほかの相続人とトラブルになる可能性があったりして骨が折れるものです。
相続手続きに少しでも不安があるなら、弁護士に相談・依頼しましょう。
弁護士に依頼すれば、複雑な相続手続きを代行してもらえる・遺産分割協議を円滑に進めてもらえる、といったさまざまなメリットを得られます。
相続を早期かつ円満に終わらせられるので、ストレスを抱える心配がないでしょう。
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