遺言執行者とは、遺言内容を正確に実現させるために必要な手続きなどをおこなう人のことです。
基本的に遺言執行者は誰でもなることができますが、仕事内容や選任方法などについてよくわからないという方も多いでしょう。
本記事では、遺言執行者の必要性や役割、遺言執行者になれる人や選任方法、弁護士や司法書士などに依頼する場合の費用相場などを解説します。
「そもそも遺言執行者とは何をする人なのか」など、遺産相続における遺言執行者の基本的な知識を知っておきましょう。
被相続人が遺言書を作成している場合、基本的には遺言内容どおりになるように遺言を正確に執行していく必要があります。
たとえば、遺言で「隠し子の認知をする」とされていた場合は、子どもの認知届けを出す必要があります。
また、遺言執行者がいることで、誰が手続きをおこなうのか明確になり、手続きが放置されるような事態を回避できます。
遺言執行者には遺言内容を実現するための手続きをおこなう権限があるため、遺言執行者を選任することで不動産の相続登記がいつまでも放置されたり、ほかの相続人が勝手に財産を処分したりするような事態を回避できます。
さらに、相続人が複数人いる場合、書類収集や署名押印などの際に手間がかかりますが、遺言執行者を選任すれば相続人代表として手続きを進めることができて相続人の負担軽減につながります。
遺言執行者には以下のような手続きをおこなう権限が与えられ、相続人に対して進捗状況の報告などもする必要があります。
基本的には上記の手続きを淡々とこなしてくことになりますが、まずは下記の3点から始めるのがよいでしょう。
なお、これらの書類は「遺言書の写し」とあわせて全ての相続人へ交付します。
もし自力では難しいと感じる場合は、弁護士や司法書士などに依頼することをおすすめします。
ここでは、どのような人が遺言執行者になれるのかについて解説します。
未成年者や破産者以外であれば、誰でも遺言執行者になることができます。
しかし、だからといって適当に決めてしまうと、のちのちトラブルになるおそれもあるため、トラブルなくスムーズに済ませたいのであれば弁護士などに依頼することをおすすめします。
未成年者や破産者は遺言執行者になることができません(民法第1009条)。
相続状況によっては、遺言執行者がいなくても問題なく相続できる場合もあります。
ここでは、どのような場合に遺言執行者が必要なのかを解説します。
遺言執行者を選任すべきケースとしては、以下があります。
なお、遺言執行者しかできないこととして、遺言による子どもの認知や相続人廃除などがあります。
もしこれらの手続きが必要な場合は、遺言執行者を選任しなければいけません。
遺言執行者が不要なケースとしては以下があります。
上記に当てはまる場合でも、万が一のトラブルやミスが不安であれば、弁護士などにサポートを依頼することをおすすめします。
遺言執行者を選任する方法としては、以下の3つがあります。
この場合、被相続人が以下のように「〇〇を遺言執行者に指定します」などと記載するだけで構いません。
ただし、遺言執行者に指定された人が困惑するようなことがないよう、あらかじめ相談したうえで作成したほうがよいでしょう。
この遺言の遺言執行者に下記の者を指定する。 住 所 東京都新宿区西新宿○−○−○ |
遺言書では直接遺言執行者を指定せず、遺言執行者を決める人を指定するという方法もあります。
この場合、遺言書で指定された人が、別の誰かを遺言執行者として指定します。
相続発生時に遺言執行者が亡くなっている場合などは、家庭裁判所にて決めてもらうという方法もあります。
その場合、以下のような手続きが必要です。
相続人・遺言者の債権者・遺贈を受けた人、などの利害関係人が申し立てをおこないます。
申し立て先は「遺言者の最後の住所地の家庭裁判所」で、管轄先については「裁判所の管轄区域|裁判所」から確認できます。
家庭裁判所にて申し立てをする際は、以下のような書類が必要です。
申し立てをする際は、以下のような費用がかかります。
自分が遺言執行者として選任された場合、拒否することもできます。
ただし「就任する前に拒否する場合」と「就任したあとに辞任する場合」では手続きが異なり、ここではそれぞれの方法について解説します。
この場合、「遺言執行者になりたくない」という旨を速やかに法定相続人に伝えれば拒否できます。
口頭で伝えても問題ありませんが、のちのち「言った言わない」などのトラブルを防ぐためにも書面で伝えることをおすすめします。
遺言執行者への就任を承諾したあとに辞任する場合、家庭裁判所にて許可をもらわなければいけません。
その場合、「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」にて申し立てをおこない、病気や転勤といった職務を続けることが困難な事情があれば、辞任を認めてもらえる可能性があります。
なかには、遺言執行者の対応に不満を感じて「解任できないだろうか」などと考えることもあるでしょう。
ここでは、遺言執行者の解任が認められるケースや、解任の流れなどを解説します。
以下のようなケースに当てはまる場合、遺言執行者の解任が認められる可能性があります。
なお、「遺言の解釈をめぐって相続人と遺言執行者で争っている」というような場合は解任事由とはなりません。
ただし、単純に感情的な対立があるだけではなく、遺言執行者が特定の相続人の利益増を図ったりして、公正な遺言執行が期待できないなどの事情がある場合は解任事由にあたります。
遺言執行者を解任するには、家庭裁判所にて許可を得る必要があります。
利害関係人が家庭裁判所にて遺言執行者の解任を請求し、請求後は家庭裁判所にて解任が妥当かどうかの判断がおこなわれます。
解任が確定した場合、遺言執行者はその地位を失うことになります。
遺言執行者の依頼先としては、弁護士・司法書士・税理士・信託銀行などがあります。
ここでは、それぞれの依頼費用の相場について解説します。
ただし、事務所によっても費用には差があるため、あくまでも目安のひとつとして参考にしてください。
弁護士の場合、費用相場は30万円~100万円程度です。
事務所によっては「(旧)弁護士会報酬基準規程」をもとに金額設定しているところもあり、その場合の費用は以下のとおりです。
旧弁護士会報酬規程(遺言執行の場合) |
|
経済的利益の額 |
費用 |
300万円以下の場合 |
30万円 |
300万円を超え3,000万円以下の場合 |
2%+24万円 |
3,000万円を超え3億円以下の場合 |
1%+54万円 |
3億円を超える場合 |
0.5%+204万円 |
司法書士の場合、費用相場は20万円~75万円程度です。
「約30万円~」や「相続財産の1%程度」などと設定している事務所が多いものの、詳しくは直接確認することをおすすめします。
税理士の場合、費用相場は50万円程度です。
基本料金に加えて、相続財産に応じて別途報酬が発生するのが一般的で、相続財産が大きいほど依頼費用も高額になります。
信託銀行の場合、費用相場は100万円~300万円程度です。
ただし、信託銀行によってプラン内容などが異なり、300万円を大きく超える場合もあります。
被相続人の遺言内容どおりの遺言を実現するためには、遺言執行者の役割は重要になります。
ただし、法律的な知識のない人が対応しようとすると、場合によっては、判断や事務処理が難しく、なかなか手続きが進まなかったりするおそれがあります。
遺言執行者を選任することを考えるのであれば、弁護士や司法書士などに遺言執行者を依頼しましょう。
事務所によっては初回相談無料のところもあるので、まずは一度相談してみることをおすすめします。
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