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公正証書遺言の通知は相続人に来ないのが一般的?後から判明した際の対処法

ゆら総合法律事務所
阿部 由羅
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遺言書を作成したとしても、その存在が相続人に知られることなく、遺産分割がおこなわれてしまうケースがあります。

文書としての信頼性の高さから、公正証書遺言が作成されるケースが多いですが、公証役場から相続人への通知がおこなわれることはありません

遺言書を作成する場合には、その存在が相続人へ伝わるように、生前の段階から対策しましょう。

この記事では、遺言書の存在が相続人に伝わるようにするための注意点や、把握していなかった遺言書の存在があとから判明した場合の対処法を紹介します。

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目次

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、遺言者本人の意思を確認しながら、公証人が作成する遺言書です。

公正証書遺言のメリット3つ

民法では、遺言書の形式として、主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つが認められています。

その中でも、公正証書遺言には以下のメリットがあるため、遺言書作成時に幅広く活用されています。

①紛失、改ざん等を防げる

公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざん等を防ぐことができます。

②遺言無効のリスクを防げる

専門家である公証人が遺言書の形式を確認するため、遺言無効のリスクを抑えられます。

③検認が不要

自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合、相続開始時に家庭裁判所の検認を経る必要があります(民法1004条1項)。

これに対して公正証書遺言の場合、家庭裁判所の検認が不要であるため(同条2項)、相続手続きの手間が1つ省けます。

公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言を作成する場合、以下の流れで手続きをおこないます。

①遺言書の文案を作成する

遺産の分け方を中心に記載した遺言書の文案を作成します。

形式・内容を整えるため、弁護士のサポートを受けると安心です。

②公証役場に文案を送付し、調整する

公証人に遺言書の文案を送付して、内容を確認してもらいます。

形式面で問題のある箇所などが調整されたあと、遺言書の文案が完成します。

③証人を2名手配する

公正証書遺言の作成には、2名以上の証人の立会いが必要です(民法969条1項1号)。

遺言者が自分で手配するか、弁護士や公証役場に手配を依頼します。

④公証人が原本を作成する|公証役場または出張

公証人は、遺言の内容を記載した書面をあらかじめ作成しておきます。

遺言者は、証人2名以上の立会いの下、遺言内容を公証人に対して口頭で伝えます。

公証人は、遺言内容を遺言者と証人に読み聞かせます。

最後に、遺言者・証人・公証人が署名・押印をおこなえば、公正証書遺言の原本が完成です。

原本は、公証役場で保管されます。原本作成の手続きは、原則として公証役場でおこないますが、追加費用を支払えば出張を依頼することもできます。

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公正証書遺言の作成者が亡くなった場合、相続人に通知は来るのか?

公正証書遺言の存在は、遺言者が家族(相続人)に対して伝えていないケースもあります。

遺言者が亡くなった場合、公正証書遺言の存在や内容について、相続人に対して通知はおこなわれるのでしょうか?

公証役場からの通知はおこなわれない

公正証書遺言は公証人が作成しますが、遺言者が亡くなった場合でも、公証役場から相続人に対する通知はおこなわれません

公証役場の役割は、公正証書遺言を作成して、その原本を保管するところまでです。

その後に遺言者が亡くなった際の通知は、公証人や公証役場に義務付けられているものではありません

遺言執行者がいる場合、相続人に対する通知義務がある

公正証書遺言において遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は任務開始時に遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知する義務を負います(民法1007条2項)。

よって遺言執行者が遺言者の死亡を認識すれば、民法の規定に従って職務を遂行する限り、遺言執行者から相続人に対する遺言内容の通知がおこなわれることになります。

ただし以下に挙げる場合のように、遺言執行者が指定されていても、相続人に対する通知がおこなわれないケースもあり得るので注意が必要です。

  • 遺言執行者として指定された者が、指定の事実を知らなかった
  • 親族ではない遺言執行者(弁護士など)が、遺言者死亡の事実を知る機会がなかった
  • 民法の知識に乏しい遺言執行者が、相続人に対する通知を怠った など

通知が来ない公正証書遺言の存在を把握する方法は?

公正証書遺言が存在するかどうかを相続人が確かめるには、以下の対応をおこないましょう。

遺品の中に正本・謄本があるかどうかを探す

公正証書遺言を作成した際には、原本以外に正本・謄本が作成されます。

  • 正本:原本の全部の写しであって、原本と同一の法的効力を持つもの
  • 謄本:原本の全部の写しであって、正本以外のもの

正本・謄本は、遺言者本人と、作成に同席していれば遺言執行者(弁護士など)に交付されます。

少なくとも遺言者本人は、正本・謄本のいずれかを保管するのが一般的です。

もし遺品の中に公正証書遺言の正本または謄本があれば、その中に記載された公証役場に連絡を取ってみましょう。

公証役場に遺言検索を依頼する

公証役場では遺言検索システムにより、1989年以降に作成された公正証書遺言に関するデータを一元的に管理しています。

そのためどの公証役場でも、公正証書遺言が存在するかどうかにつき、一斉検索を依頼できます。

遺言者が存命中の段階では、遺言検索を依頼できるのは遺言者本人のみです。

これに対して遺言者の死後は、相続人など法律上の利害関係があれば、遺言検索を依頼できます。

遺言検索の手数料は無料です。

公正証書遺言があるかどうかわからない場合は、最寄りの公証役場に遺言検索を依頼してみましょう。

【参考】遺言検索|神戸公証役場

相続人に通知してほしい場合は「自筆証書遺言書保管制度」の利用を

公正証書遺言の場合は、遺言者が死亡しても相続人への通知がおこなわれないのが原則です。

遺言執行者が指定されている場合でも、状況によっては相続人に対する通知がおこなわれないケースもあります。

生前の段階で遺言書の存在を相続人に伝えられない事情があり、死後に通知してほしいと希望する場合は、「自筆証書遺言書保管制度」の利用も検討してください。

自筆証書遺言書保管制度とは

「自筆証書遺言書保管制度」とは、遺言者が自署により作成した自筆証書遺言を、法務局の遺言書保管所で保管してもらえる制度です。

2020年7月10日から開始された、新しい制度となっています。

自筆証書遺言書保管制度のメリット

遺言書保管制度のメリットとして、遺言者の死亡時には相続人に対する通知がおこなわれる点が挙げられます。

死亡届などの記載から、遺言書保管官が遺言者死亡の事実を確認した際に、遺言者があらかじめ指定した1名に対して通知がおこなわれるのです。

自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、相続人の誰にも遺言書の存在が知られずに終わってしまう事態を防ぐことができます。

そのほかにも、正証書遺言と同様に以下のメリットがあります。

①紛失、改ざん等を防げる

遺言書の原本が法務局の遺言書保管所で保管されるため、紛失・改ざん等を防ぐことができます。

②遺言無効のリスクを防げる

法務局の担当職員が形式要件を確認するため、形式不備による遺言無効のリスクを防げます。

③検認が不要

遺言書保管所で保管されている自筆証書遺言については、家庭裁判所による検認が不要とされています(法務局における遺言書保管等に関する法律11条)。

自筆証書遺言書保管制度を利用できない場合

自筆証書遺言書保管制度を利用する際には、本人確認のため、遺言者本人が法務局に行かなければなりません

たとえば遺言者の足が不自由な場合や、体調が優れず寝たきりの場合などには、自筆証書遺言書保管制度を利用することは難しいでしょう。

これに対して、公正証書遺言を作成する場合、公証人に出張を依頼することが可能です。

自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言の2つは、状況に応じて選ぶのがよいでしょう。

公正証書遺言の存在を忘れられてしまう事態を防ぐには?

相続人に公正証書遺言の存在を伝えたとしても、その相続人が忘れてしまう事態も想定しておかなければなりません。

公正証書遺言の存在が忘れられてしまうことを防ぐには、以下の方法を組み合わせた対策をおこなうことをおすすめします。

信頼できる複数の相続人に伝えておく

公正証書遺言の存在は、一人ではなく複数の相続人に伝えておくことが望ましいです。

一人が公正証書遺言の存在を忘れてしまっても、ほかの相続人が指摘することにより、遺言書どおりに相続がおこなわれるよう軌道修正できます。

相続人の中に信頼できる人が複数いる場合には、その全員に公正証書遺言の存在を伝えておくのがよいでしょう。

遺書を作成する

自分が亡くなったときに備えて、「公正証書遺言がある」ということを書き記した遺書を作っておくことも一つの方法です。

遺書は遺言書そのものではありませんが、相続人に対して公正証書遺言の存在を伝えることで、遺言者の意思に従った相続手続きを促す効果を発揮します。

遺書を作成する場合には、家族が遺品整理する際に、見つかりやすい場所へ保管しておきましょう。

弁護士を遺言執行者とする

遺言書の作成を弁護士に依頼する場合、弁護士を遺言執行者としておくのが安心でしょう。

民法の規定に従い、相続人に対する遺言内容の通知を確実におこなってもらえるためです。

弁護士が普段から遺言者と交流していない場合、遺言者が死亡した事実を把握するきっかけが訪れないことも想定されます。

その場合は、生前の言伝や遺書などを通じて、遺言執行者の弁護士に連絡するよう親族に伝えておくのがよいでしょう。

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通知がなく、把握していなかった遺言書の存在があとから判明したら?

公正証書遺言に関する通知がおこなわれず、遺言の存在を相続人が把握しないままに、遺産分割がおこなわれてしまうケースも時々あります。

遺産分割が進行中、または完了後に遺言書の存在が判明した場合、相続人はどのように対応すべきなのでしょうか?

遺産分割協議は中断・やり直し|まずは遺言書に従って遺産を分ける

遺言書がある場合、まずは遺言書に従って遺産を分けなければなりません

そのため、遺言書がない前提で話し合っていた遺産分割協議は、ただちに中断する必要があります。

また、すでに遺産分割が完了していた場合も、遺言書の存在を前提としてやり直すことになります。

なお、遺産分割によって相続財産の名義変更が済んでいる場合、慌てて名義を元に戻す必要はありません。

遺言書に従った相続の内容を確認したあと、その内容に従って遺産を取得する者に対して名義を移転すれば大丈夫です。

遺言書で配分が指定されていない遺産について、再度遺産分割協議をおこなう

遺言書では、全ての相続財産の配分が指定されているとは限りません。

もし相続財産のうち、遺言書(遺贈)の対象ではないものがある場合には、その相続財産が遺産分割協議の対象となります。

全ての相続人の間で、残りの相続財産の分け方を改めて話し合いましょう。

あとから判明した遺言書の内容を無視して、遺産分割の内容を維持してもよい?

すでに遺産分割を済ませてしまったので、あとから判明した遺言書に従った相続手続きをせず、遺産分割の内容を維持したいと考える場合もあるでしょう。

その場合には、相続人全員の同意があることを条件として、遺産分割の内容を維持してもよいと解されています。

相続人全員の同意があれば、遺言とは異なる内容の遺産分割も認められる

相続によって引き継がれた財産は、各取得者が自由に使用・収益・処分できます。

したがって、一度遺言書に従った相続がおこなわれたとしても、相続財産を改めて持ち寄って分け直すことは、相続人全員の同意があれば認められるべきです。

実際には、遺言書による相続と、相続人の合意による相続を段階的におこなうのは二度手間です。

そのため、相続人全員の同意があれば、当初から遺言とは異なる内容の遺産分割をおこなってもよいと解されています。

遺言書の存在を知らずにおこなわれた遺産分割は、内容が偶然一致している場合を除けば遺言とは異なる内容の遺産分割にあたります。

したがって上記の理由により、相続人全員が同意していれば、すでにおこなわれた遺産分割の内容を維持することも認められるのです。

遺言執行者がいる場合は、辞任または解任が必要

遺言執行者がいる場合には、相続人全員の同意があっても、そのままでは遺産分割のやり直しを回避することはできません

遺言執行者は、遺言の内容を実現する責務を負い、そのために必要な行為をする権限を有しているからです。

遺言執行者がいるケースで、すでにおこなわれた遺産分割の内容を維持したい場合には、遺言執行者の辞任または解任が必要となります(民法1019条1項、2項)。

  • 辞任:家庭裁判所の許可を得て、遺言執行者が自発的に辞めること
  • 解任:相続人などの利害関係人の請求により、家庭裁判所が遺言執行者を辞めさせること

相続人全員が遺言とは異なる内容の遺産分割に同意していることは、遺言執行者の辞任事由として認められる傾向にあります。

その一方で、遺言執行者の解任事由としては認められにくい点に注意が必要です。

もし遺言執行者が辞任を拒否する場合には、相続人全員で説得するなどの対応が求められます。

最後に|遺言書による相続対策は弁護士に相談を

遺言書による相続対策をおこなう際には、注意すべき点がたくさんあります。

大前提として、形式・内容の両面から、法的に不備のない遺言書を作成することが必要不可欠です。

それだけでなく、遺言書の存在と内容が相続人へきちんと伝わるように、適切に手配しておくべきでしょう。

弁護士に相談すれば、家庭の状況や本人の希望に応じて、遺言書の内容をオーダーメイドに検討してもらえます。

また、信頼できる親族などに遺言書の存在が伝わるように、利用可能な制度・仕組みなどについてもアドバイスを受けられます。

遺言書を作成することは、相続トラブルを予防する観点から非常に効果的です。

きちんと効果を発揮する遺言書を作成するためには、一度弁護士まで相談しましょう。

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この記事の監修者
ゆら総合法律事務所
阿部 由羅 (埼玉弁護士会)
不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ相続(旧:相続弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。 ※本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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