被相続人に借金があるなど、被相続人の財産や負債を相続したくない場合には、期限内に裁判所に相続放棄の申述の申し立てをしなくてはなりません。
ただ、どの裁判所に申し立てをしてもよいわけではなく、必ず、管轄のある裁判所に申し立てる必要があります。
本記事では、相続放棄の管轄がどこなのか、そしてその調べ方について詳しく解説しています。
本記事を読めば、簡単に相続放棄の管轄がわかるようになります。
相続放棄の管轄は、家事事件手続法の第201条に定められており、「相続が開始した地を管轄する家庭裁判所」です。
申し立てをしようとする方の住所地ではありません。
第二百一条 相続の承認及び放棄に関する審判事件(別表第一の九十の項から九十五の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
引用元:家事事件手続法 | e-Gov法令検索
まず、「相続が開始した地」とは、被相続人の最後の住所地のことをいいます。
被相続人が亡くなったときの住所によって相続放棄を申し立てる裁判所が決まるということになります。
つぎに、裁判所の中でも家庭裁判所が管轄になります。
一般的な民事事件などを取り扱う地方裁判所や簡易裁判所ではなく、家事事件を取り扱う家庭裁判所に申し立てることになります。
ここでは、相続放棄の管轄となる家庭裁判所を調べる手順を紹介します。
被相続人の最後の住所地は、原則として被相続人が亡くなった時の住民票に記載されている住所になります。
住民票は相続放棄の申し立ての必要書類にもなりますので、まず市役所などで被相続人の住民票を取得して、被相続人の最後の住所地を調べましょう。
なお、亡くなった方の住民票は、正確には「住民票の除票」となりますので、取得する際には「住民票の除票」を取得しましょう。
被相続人の住民票上の住所が特定できたら、次はその住所地がどの家庭裁判所の管轄なのかを調べましょう。
管轄裁判所は基本的には市町村単位で決まっており、裁判所のWebサイトに一覧が掲載されています。
次の項目で、一覧の見方を具体的に説明します。
新宿区・八王子市・大島町を例として紹介します。
たとえば、東京都新宿区の場合、まずは東京高等裁判所管内にある「東京都」のところを選択します。
そうすると、東京都内の管轄区域表のページが出てきますので、その中から、「新宿区」を含む以下の場所を探します。
ちなみに、ここにまとめて記載がある区域は全て同じ管轄裁判所になります。
引用元:東京都内の管轄区域表 | 裁判所
先ほど説明したとおり、相続放棄は家庭裁判所の管轄ですので、「地方・家庭裁判所」の欄を見ると、「東京地方・家庭裁判所」と記載があるのが分かります。
すなわち、新宿区の場合の管轄は、「東京家庭裁判所」となります。
東京都八王子市の場合も同様に見ていくと以下の場所が該当しますが、地方・家庭裁判所の欄に「本庁」と「支部」の両方に記載があります。
この場合は、支部の記載が優先され、本庁ではなく支部が管轄裁判所になります。
すなわち、八王子市の場合の管轄は、「東京家庭裁判所立川支部」となります。
本庁の東京家庭裁判所にも管轄があるわけではないのでご注意ください。
引用元:東京都内の管轄区域表 | 裁判所
東京都大島町の場合は以下の場所が該当しますが、ここでは「本庁」と「家庭出張所」に記載があります。
この場合も家庭出張所の記載が優先され、家庭裁判所の出張所である「東京家庭裁判所伊豆大島出張所」が管轄となります。
本庁の東京家庭裁判所には管轄はありませんのでご注意ください。
引用元:東京都内の管轄区域表 | 裁判所
以上のように、基本的には住民票を取得すれば管轄裁判所が特定できますが、被相続人の住所がわからないときには、別の公的書類などを手がかりにして調査する必要があります。
なお、以前は住民票の除票の保存期間が5年間しかなく、被相続人が亡くなってから5年以上経過した後に亡くなったことがわかった場合などのときには住民票の除票が取得できないことがありましたが、現在は保存期間が150年になりましたので、この問題はほとんどなくなりました。
住所がわからなくても、被相続人の親族の情報などから本籍地が分かる場合、住民票上の住所の履歴が記載されている「戸籍の附票」を取得することで住所が分かることが多いです。
戸籍の附票は、戸籍謄本と同じく本籍地の市町村役場で取得することができます。
住所も本籍地もわからない場合であっても、被相続人が不動産を所有していた場合には、登記簿謄本の記載から分かることもあります。
所有者欄に所有者の住所や氏名が記載されていますので、この住所の住民票を取得してみる方法も一つの手です。
ただ、住所を変更するときに登記簿謄本上の住所まで変更する方は少なく、登記簿謄本上の住所が最新のものではない場合が多いため、この住所を手かかりにして最新の住所をたどっていく必要があります。
住民票が取得できなかった場合であっても、死亡届記載事項証明書を取得することで最後の住所地の証明とする方法もあります。
通常は被相続人が亡くなったときに死亡届を役所に提出していますが、この死亡届は亡くなってから一定期間経過後に被相続人の本籍地を管轄する法務局保管されますので、その法務局に申請すれば取得することができます。
管轄裁判所を間違えて相続放棄の申述をしてしまっても、直ちに申し立てが却下されるわけではなく、裁判所によって管轄のある正しい裁判所に記録を送ってもらえます。
ただし、申し立て資料から正しい裁判所が分かることが前提ですので、住民票などの必要書類は最低限提出するようにしましょう。
相続放棄の申述申し立ては必ずしも家裁裁判所の窓口でする必要はなく、郵送でも受け付けてもらえます。
郵送の際には、「家事受付係」など、申し立ての窓口宛に郵送すればよいでしょう。
調査をしても被相続人の住所がまったくわからない場合もあるかと思いますが、相続放棄には期限がありますので、管轄がわからなくても必ず期限内に申し立てをする必要があります。
この場合は、家事事件手続法に特例が定められており、「東京都千代田区」を管轄する裁判所、すなわち「東京家庭裁判所」を管轄とすることになっていますので、ひとまず東京家庭裁判所に申し立てをしましょう。
(管轄権を有する家庭裁判所の特例)
第七条 この法律の他の規定により家事事件の管轄が定まらないときは、その家事事件は、審判又は調停を求める事項に係る財産の所在地又は最高裁判所規則で定める地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
引用元:家事事件手続法 | e-Gov法令検索
(法第七条の最高裁判所規則で定める地の指定)
第六条 法第七条の最高裁判所規則で定める地は、東京都千代田区とする。
引用元:裁判所|家事事件手続規則
ここまで読まれた方は、もう相続放棄の申述先に迷うことはないでしょう。
相続放棄の申述先は被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
間違って管轄のない裁判所に申し立てをしてしまって時間や手間を増やさないように、正確に調査をして申し立てを行いましょう。
どこに申し立てたらよいのか不安のある方、そもそも住所がわからず困っている方は、弁護士に相談してアドバイスや調査をしてもらいましょう。
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