相続に関する手続きは、人生でそう何度も経験することではありません。
特に配偶者が亡くなった場合、大きな喪失感を抱えながら複雑な手続きをおこなわなければならないことに不安を感じる方も多いでしょう。
被相続人の配偶者として、相続人の順位や配偶者の取り分、相続税の計算方法など、相続に関する基本的な知識をもつことは非常に重要です。
配偶者は、法定相続人として一定の割合で遺産を相続することができますが、その割合は被相続人の親族構成によって変わります。
また、相続税の計算には、基礎控除額の計算や課税遺産総額の算出、配偶者控除など複雑な要素が多いことも特徴です。
本記事で配偶者という立場における相続の基本について知り、適切な対策を講じるための第一歩にしましょう。
相続が発生すると、故人の財産は法律で定められた「法定相続人」によって引き継がれます。
この際、配偶者は常に相続人となり得る特別な位置を占めることになり、その他の相続人は相続順位に従って決定されます。
相続順位は、故人との血縁関係に基づいて民法で厳格に定められているのが特徴です。
以下では、法定相続人の相続順位のほか、法定相続人でも相続権がないケースについて解説します。
法定相続人の相続順位は、故人の子どもや孫である「直系卑属」、親や祖父母である「直系尊属」、そして兄弟姉妹の順に定められています。
また、配偶者はこれらの順位にかかわらず、常に相続人となります。
相続順位 |
相続人の範囲 |
説明 |
- |
配偶者 |
配偶者は相続順位にかかわらず、常に相続人となります。 配偶者の相続分は、他の相続人の有無や数によって変動します。 |
第一順位 |
直系卑属 |
故人に子どもがいる場合、このグループが最優先で相続人となります。 子どもがすでに死亡しているケースでは、孫が相続人になります。 |
第二順位 |
直系尊属 |
故人に直系卑属がいないケースでは、親が相続人となります。 親がすでに亡くなっている場合は、祖父母が相続人になります。 |
第三順位 |
兄弟姉妹 |
故人に直系卑属も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。 兄弟姉妹が亡くなっているケースでは、その子どもが相続人になります。 |
相続順位が高いほど相続権をもつ可能性が高くなり、故人の財産を引き継ぐ割合も大きくなります。
たとえば、故人に子どもがいるケースでは子どもが第一順位の相続人となり、配偶者と共に遺産を相続します。
故人に子どもがいないときは、故人の親が次の順位で相続人となるという流れです。
法定相続人であっても、特定の条件下では相続権を失うことがあります。
相続権を失う理由としては、相続欠格・相続廃除・相続放棄が挙げられます。
相続欠格 |
故人に対する重大な犯罪行為をおこなった法定相続人が相続権を失うケースです。 |
相続廃除 |
故人が生前に裁判所への申立てにより特定の相続人の相続権を剥奪することができる制度です。 |
相続放棄 |
相続人が故人の負債を引き継ぎたくないなどの理由で、相続全体を放棄する選択肢です。 |
上記に当てはまると、たとえ法定相続人であっても遺産を受け継ぐことはできません。
相続とは、故人が所有していた財産を法定相続人が引き継ぐ手続きです。
配偶者は相続順位に関係なく必ず法定相続人となりますが、相続人の構成や故人との関係によって配偶者の相続分は大きく変わります。
以下では、相続人が配偶者のみだったケースをはじめ、配偶者と子ども、配偶者と父母、配偶者と兄弟姉妹、そして配偶者と孫や甥姪に分けて、配偶者の取り分について解説します。
被相続人に子どもや孫がおらず配偶者のみが相続人である場合は、全財産が配偶者に相続されます。
遺産相続をおこなうのが1人に絞られるもっともシンプルなケースであり、相続争いのリスクも低いことが特徴です。
被相続人に配偶者と子どもがいる場合は、法定相続分によって配偶者は遺産の2分の1、子どもが残りの2分の1を相続します。
子どもが複数人いるケースでは、子どもが相続する2分の1の遺産を子どもたちでさらに等分することになります。
配偶者と被相続人の父母が法定相続人となっている場合は、配偶者は遺産の3分の2を、父母は残りの3分の1を相続することになります。
父母が複数人いるケースでは、この3分の1の遺産をさらに等分します。
配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人となっている場合は、配偶者は遺産の4分の3を、兄弟姉妹は残りの4分の1を相続します。
兄弟姉妹が複数人いるケースでは、この4分の1の財産をさらに等分することになります。
被相続人の子どもや兄弟姉妹がすでに亡くなっており、孫や甥姪が相続人となるケースでは、代襲相続が発生します。
このケースでも配偶者が遺産の大部分を相続しますが、孫や甥姪も一定の割合を相続することが可能です。
具体的な割合は、相続人の数や関係によって異なります。
相続税を計算することは、故人の財産を引き継ぐ過程で非常に重要です。
特に配偶者が相続するときには、税額の計算方法が複雑になるため専門的な知識が必要になります。
以下では、相続税の基礎控除額の計算をはじめ、課税遺産総額の算出、法定相続分による分割、そして最終的な税率の適用に至るまでの流れを具体的な計算式と共に解説します。
相続税計算の基礎知識を身につけ、適切な税務計画を立てるために役立てましょう。
相続税の基礎控除額は、すべての相続人に共通する控除額です。
基礎控除額は、以下の計算式で求めることができます。
たとえば法定相続人が3名いるのであれば、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3)=4,800万円」となります。
この計算式で控除額を超えた金額にのみ相続税が課されます。
課税遺産総額とは、故人の遺した全財産から基礎控除額を差し引いた金額です。
具体的には、不動産・預金・株式などの財産総額から、基礎控除額・借金・葬儀費用などを差し引いて算出します。
課税遺産総額を算出することが、相続税計算の基盤となります。
法定相続分に基づいて、課税遺産総額を相続人ごとに分割します。
配偶者・子ども・親などの法定相続人が存在するときには、それぞれの法定相続分に応じて遺産を分けます。
たとえば配偶者と子どもがいるケースでは、配偶者は遺産の2分の1を、子どもは残りの2分の1を相続することになります。
各相続人の取得額に対して適用される税率を乗じて、相続税の総額を計算します。
税率は取得額の大きさによって段階的に設定されており、取得額が大きいほど高い税率が適用されます。
具体的な税率については、以下の表のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
- |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
最終的な相続税の総額を算出したら、各相続人が実際に受け取る遺産の割合に応じて相続税を按分します。
ここでは、相続人それぞれがどれだけの遺産を受け取るかに基づいて、その人が負担すべき相続税額を決定します。
たとえば、配偶者が遺産の半分を、子どもが残りの半分を等分して受け取るケースでは、相続税も同様の割合で配偶者と子どもに按分されるのが基本です。
ただし、配偶者には税額軽減措置が適用されるため、実際に支払う税額は計算上の割合よりも少なくなる可能性があります。
相続税計算における配偶者控除とは、相続人が配偶者である場合に適用される重要な節税対策です。
この制度を適切に活用することで、相続税の負担を大幅に軽減することが可能になります。
この節税対策の中心となっているのは、「基礎控除」と「配偶者控除」です。
これらの控除を利用することで相続税が大幅に減少するだけでなく、相続税がまったくかからないケースもあります。
以下では、配偶者が利用できる控除・特例制度の概要をはじめ、適用条件や手続きの流れ、そして具体的な計算例について解説します。
相続税の計算の出発点となるのが基礎控除です。
基礎控除とは、相続財産の総額から一律で差し引かれる金額であり、3,000万円に法定相続人の数に応じた600万円を加算した額が控除されます。
たとえば、法定相続人が3人いるケースでは、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」となり、4,800万円までの相続財産には相続税が課されません。
基礎控除によって多数の相続が非課税となるため、相続税計算の初歩的なステップとして非常に重要です。
配偶者控除とは、配偶者が相続人である場合に適用される特別な控除制度です。
この制度のもとでは、配偶者が相続する財産について、法定相続分もしくは1億6,000万円のいずれか大きい額までが非課税となります。
配偶者控除を活用することで相続税の負担を大幅に軽減することが可能になり、特に大規模な遺産を相続するケースで顕著な効果が得られます。
配偶者控除を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
具体的な適用要件は以下のとおりです。
上記の要件をすべて満たしていることで、配偶者控除の適用が可能となります。
配偶者控除を受けるためには、必要書類を揃えたうえで手続きをおこなう必要があります。
手続きの流れは以下のとおりです。
1.遺産分割協議の実施 |
相続人全員で遺産の分配について協議し、遺産分割協議書を作成します。 |
2.必要書類の準備 |
遺産分割協議書、戸籍謄本、相続財産の詳細など、申告に必要な書類を準備します |
3.相続税申告書の提出 |
準備した書類を添えて、相続税申告書を税務署に提出します。 申告期限は、被相続人の死亡日の翌日から10カ月以内です。 |
以下は、配偶者が利用できる相続税の控除・特例制度を活用した具体的な計算例です。
被相続人の遺産総額を2億円、相続人は配偶者1人のみというケースで計算します。
遺産総額 |
2億円 |
相続人 |
配偶者1人のみ |
配偶者控除 |
2億円のうち1億6,000万円までが非課税 残りの遺産総額:2億円-1億6,000万円=4,000万円 |
基礎控除 |
残った4,000万円に対して基礎控除が適用 3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円 残りの遺産総額:4,000万円-3,600万円=400万円 |
相続税 |
課税対象額400万円に対して10% 400万円×10%=40万円 |
上記のとおり、2億円という高額な遺産を相続したケースであっても、配偶者控除と基礎控除を組み合わせることで結果的に相続税の負担を大幅に減らすことができます。
配偶者が被相続人と同居していた場合は、相続において特別な権利や制度が適用されることがあります。
特に知っておくべきなのが、「配偶者居住権」という制度です。
以下では、配偶者が被相続人と同居していたときに適用される配偶者居住権について、その成立要件や適用条件を解説します。
配偶者居住権とは、配偶者が被相続人と同居していた自宅に引き続き住み続けることができる権利です。
この権利は、令和2年4月1日以降に発生した相続から新たに認められたもので、配偶者の居住権を保護するために設けられました。
配偶者居住権の考え方では、建物の価値を「所有権」と「居住権」に分けることで、配偶者は建物の所有権をもっていなくても一定の要件の下で居住権を取得することが可能です。
そのため、たとえ建物の所有権がなかったとしても、配偶者は被相続人が所有していた建物に引き続き住み続けることができます。
配偶者居住権が成立するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
上記の要件を満たすことで、配偶者は被相続人と同居していた自宅に住み続ける権利を保有することができ、亡くなった配偶者の遺志に沿った生活を続けることが可能です。
本記事では、相続割合や相続税の控除制度など相続手続きにおいて配偶者が知っておくべきことについて解説しました。
配偶者は相続人のなかでも特に相続の割合が大きく、控除についても税負担を大きく減らせる制度を活用できます。
ただし、相続は複雑な手続きが多く、法律や税金に関する知識は必須です。
特に、相続税の計算や申告、遺産分割協議では専門的なアドバイスがなければスムーズに進めるのは困難です。
配偶者の相続手続きについて不明な点があれば、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
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