大切な人が亡くなったあと、遺言書も相続人もいない場合には財産はどうなるのでしょうか。
このようなケースでは、被相続人を介護していた方や同居していた方などが、「特別縁故者」として財産の一部または全部を相続できる可能性があります。
ただし、特別縁故者の要件に該当していても自動的に財産を受け取れるわけではなく、家庭裁判所にて定められた手続きをおこなう必要があります。
本記事では、特別縁故者の要件や相続手続きの流れ、相続時の注意点や生前対策などについて解説します。
「自分が特別縁故者になるにはどうすればいい?」とお悩みの方へ
「自分は特別縁故者になれる?」「手続きはどうすればよい?」と悩んでいませんか?
結論からいうと、特別縁故者に関する悩みは弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
特別縁故者として財産を受け取るためには、自身が特別縁故者であることを証明しなければならず、必要な手続きも多くあります。
弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットを得られます。
- 自分が特別縁故者になれるかアドバイスしてもらえる
- 特別縁故者になるための手続きの流れがわかる
- 特別縁故者として相続財産を受け取る場合の相続税について相談できる
- 代理人として相続手続きを代わってもらえる
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特別縁故者とは条件を満たすことで遺産を相続できる人のこと
特別縁故者(とくべつえんこしゃ)とは、被相続人(亡くなった人)に法定相続人(相続を受ける人)がいない場合に、特別に相続を受けられる人のことです。
相続では、被相続人の配偶者・子ども・両親・兄弟姉妹などが法定相続人になります。
しかし、必ずしも法定相続人がいるとは限らず、すでに全員亡くなっている場合もありますし、そもそも独り身で配偶者などがいない場合もあります。
相続で法定相続人がいない場合、被相続人の遺産は国庫に帰属されて国のものになります。
しかし、「遺産を分配できる人がほかにもいるのではないか」ということで始まった制度が、特別縁故者に対する財産分与制度です。
特別縁故者になれる3種類の人物

民法にて相続権がある人のことを法定相続人と呼びますが、相続では必ずしも法定相続人がいるとは限りません。
被相続人が遺言を残さずに亡くなってしまった場合、生前に親密な付き合いがあっても遺産を受け取ることはできないのでしょうか?
そのような場合は、たとえ法定相続人でなくても、特別縁故者の申し立てをして認められれば遺産を受け取れる可能性があります。
特別縁故者の定義は民法で定められており、以下の内容に当てはまらないと特別縁故者とは認められません(民法第958条の2)。
特別縁故者として認めてもらうためには証拠が必要
特別縁故者として認めてもらうためには、相続発生後に申立てをおこなう際に証拠もあわせて提出しなければいけません。
どのようなものが証拠になるのかは被相続人との関係性によって異なり、ケースごとにまとめると以下のとおりです。
被相続人との関係性
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証拠になり得るもの
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被相続人と生計を同じくしていた
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・被相続人との同居期間を確認できるもの(住民票など)
・定期的な振り込みがあった通帳 など
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被相続人の療養看護に努めた
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・献身的に療養看護していたことがわかるもの(メール・LINE・SNS・手紙など)
・医療費や介護費用などの領収証
・病院や施設までの交通費の領収証 など
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被相続人と特別の縁故があった
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・親密な関係性であったことがわかるもの(メール・LINE・SNS・手紙など)
・一緒に過ごしていたことがわかるもの(写真や日記) など
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1. 被相続人と生計を同じくしていた人物
被相続人と生計を同じくしていた人とは、婚姻届を提出していないものの夫婦関係と同等の生活を送っていた内縁関係にある人や、事実上の養子関係にある人などを指します。
2. 被相続人の療養看護に努めた人物
被相続人の看護や介護などをしていた人も、特別縁故者として認められる可能性があります。
しかし、業務として報酬を得ていた看護士・介護士・家政婦・付添人などは除かれます。
3. その他、被相続人と特別の縁故があった人物
遺言がなくても、以下のような人は特別縁故者として認められる可能性があります。
- 被相続人の身元引受人や後見人となるなど、精神的なよりどころとなっていた人
- 仕送りを長年おこなっていたり、被相続人の活動や事業に協力するなど、実の親子のような関係があった人
法人も特別縁故者になれる
公益法人・学校法人・地方公共団体・宗教法人・権利能力がない団体なども、特別縁故者として認められる可能性があります。
生前、被相続人が経営者として組織の発展に深く関わっていた法人においては、裁判所が特別縁故者として財産分与を認めることもあります。
特別縁故者として遺産相続が認められないケース
上記のいずれかに該当していても、なかには特別縁故者として遺産相続できないケースもあります。
ここでは、例外的に遺産相続が認められないケースについて解説します。
あとから相続人がいることがわかった場合
特別縁故者として相続手続きを進めている中で、なかには今まで知らなかった相続人の存在が判明することもあります。
このようなケースでは、特別縁故者に関しては財産分与を受けられず、その見つかった相続人が被相続人の財産を受け取ることになります。
相続債権者や受遺者に弁済をして相続財産がなくなった場合
詳しくは「特別縁故者として財産分与を受けるまでの流れ」で後述しますが、特別縁故者として財産分与を受ける場合、先に相続債権者や受遺者に対して弁済がおこなわれます。
相続債権者や受遺者に弁済をして相続財産がなくなった場合は、特別縁故者への財産分与はおこなわれずに手続きは終了となります。

相続が発生した場合、特別縁故者にはどうすればなれるのでしょうか。
もしあなたが被相続人の内縁の妻で、ほかに相続人がいなかったとしても、「あなたは特別縁故者に適任です」などと国が能動的に認めてくれるわけではありません。
特別縁故者として財産分与を受けるためには、たとえ内縁の妻として被相続人に尽くし死後の葬儀にも尽力したとしても、特別縁故者の申し立てを家庭裁判所にして認められなければならないのです。
ここでは、相続発生後の手続きの流れについて解説します。
1. 相続財産清算人の選任申立て
被相続人が亡くなって相続人がいない場合や、相続人がいるかどうかわからない場合などは、家庭裁判所に相続財産清算人の選任申立てをおこないます。
これは特別縁故者のケースだけではなく、たとえば被相続人に債務があった場合には「被相続人に貸しているお金がまだ返ってきていない」と債権者がおこなうこともあります。
申立て先は「被相続人が最後に所在した管轄の家庭裁判所」で、申立て費用として8,000円程度かかります。
なお、申立て書類として「被相続人の出生後から亡くなるまでの全ての戸籍謄本」や「相続人になるはずだった被相続人の両親・子ども・兄弟姉妹などの全ての戸籍謄本」などが必要になります。
2. 相続財産清算人の選任・法定相続人の捜索
家庭裁判所によって相続財産清算人が選任されると、法定相続人の捜索がされます。
たとえ「被相続人の晩年にも葬式にも家族が誰一人現れなかった」というような状況でも、相続財産清算人が選任された旨や、相続人がいる場合は名乗り出るように官報にて6ヵ月間公告をおこないます。
あなたが被相続人の内縁の妻だったとして、被相続人の療養中にも葬式にも家族が誰一人現れず、しばらくしてから自由奔放に遊んでいる被相続人の弟が見つかった場合は、その被相続人の弟が相続することになります。
3.相続財産の清算・債務の弁済
法定相続人の捜索とあわせて、相続財産清算人は相続債権者や受遺者に対して、請求を申し出るように2ヵ月以上公告をおこないます。
相続債権者や受遺者からの申し出があった場合は、被相続人の相続財産から弁済・清算がおこなわれます。
4. 特別縁故者への相続財産分与の申立て
法定相続人の捜索をおこなったものの見つからなかった場合は、相続人不存在が確定となります。
その場合、確定後3ヵ月以内に家庭裁判所にて財産分与の申立てをおこなわなくてはなりません。
特別縁故者として申立てができるのは、以下に該当する人のみです。
- 被相続人と生計を同じくしていた人
- 被相続人の療養看護に努めた人
- その他、被相続人と特別の縁故があった人
申立て先は「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」で、各裁判所の管轄区域については「裁判所の管轄区域|裁判所」で確認できます。
5. 特別縁故者の認定・財産分与
特別縁故者として財産分与の申立てをして認定を受ければ、被相続人の遺産が分与されます。
一方、特別縁故者として認められなければ財産は受け取れず、相続人不在として扱われます。
6.相続財産の国庫への帰属
財産分与の申立てが認められなかった場合や、特別縁故者への財産分与が済んでも相続財産が余っている場合には、相続財産清算人によって国庫に帰属することになります。
特別縁故者の申し立てにかかる費用・必要な書類
続いては特別縁故者の申し立てを行う際にかかる費用と必要な書類について解説します。
申し立て費用|収入印紙代、連絡用の切手代
特別縁故者の申し立てをする際は、以下のような費用がかかります。
- 収入印紙:800円
- 連絡用の切手代:裁判所によって金額は異なる
連絡用の切手代については裁判所によって金額が異なるため、詳しくは「各地の裁判所一覧|裁判所」から直接確認しましょう。
必要書類|申立書1通、戸籍謄本など
特別縁故者の申し立てをする際は、以下のような書類が必要です。
- 申立書1通
- 申し立てをする人の戸籍謄本1通(申立人が法人の場合には、資格証明書等)
- 被相続人の戸籍(除籍)謄本1通
- 特別な縁故にあることを証する資料1通
- 相続財産目録
- 親族関係図(親族申立ての場合のみ必要。被相続人との親族関係が明らかとなる現在戸籍、除籍、改製原戸籍謄本の提出も併せて必要。なお、相続財産清算人選任事件において提出の場合は不要。)
特別縁故者の相続税に関する注意点

特別縁故者として相続財産を受け取る場合、上記のような点に注意する必要があります。
ここでは、各注意点について解説します。
1. 相続税の基礎控除額は3,000万円のみ
相続税には「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」という基礎控除枠が定められています。
たとえば、法定相続人が1人のケースでは、3,000万円+600万円=3,600万円まで相続税は課税されません。
ただし、特別縁故者の場合の控除額は「3,000万円」のみで、「法定相続人1人あたりの控除額600万円」の部分は適用されません。
2. 相続税の税額控除や特例制度は適用されない
相続税に関しては、基礎控除のほかにもさまざまな控除・特例制度があります。
一例として以下のようなものがありますが、特別縁故者の場合は適用されません。
相続税の税額控除・特例制度
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内容
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相次相続控除
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10年間に2回以上相続があった場合、「1回目の相続税額から今回の相続までの経過年数1年につき10%減額した金額」が控除される制度
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障害者控除
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相続人が障害者の場合、「10万円(※特別障害者は20万円)×85歳になるまでの年数」の金額が控除される制度
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配偶者控除
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相続人が配偶者の場合、「法定相続分」または「1億6,000万円」の大きい方の金額まで相続税がかからない制度
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未成年者控除
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相続人が未成年者の場合、「10万円×18歳になるまでの年数」の金額が控除される制度
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3. 特別縁故者の相続税は2割加算される
相続税法第18条により、被相続人の1親等の血族または配偶者以外が相続する場合、相続税額の2割が加算されます。
もし相続財産の中に土地や建物などの不動産があって売却しない場合は、手元に十分な現金がない状態で相続税を支払うことになるおそれもあります。
ただし、特別縁故者でも相続税の基礎控除である3,000万円は適用されるため、相続を受けた合計が3,000万円以内であれば相続税はかかりません。
4. 相続税の申告期限は審判確定日の翌日から10ヵ月以内
特別縁故者に相続税の申告義務が生じる場合、財産分与の審判が確定した翌日から10ヵ月以内に「被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署」に相続税申告書を提出する必要があります。
この期限内に申告と納税を完了しなければなりません。
期限を1日でも過ぎると延滞税が課され、さらに申告の遅延理由によっては加算税も課せられる可能性があります。
特別縁故者の財産分与を検討している場合の生前対策
たとえ被相続人の遺産を引き継ぐ権利がなく、遺言が残っていない場合でも、特別縁故者として認定を受ければ遺産を受け取ることができます。
もし親密ではあるものの法律上相続人にはなれない関係性の人がいる場合は、生前のうちに財産管理について気にかけましょう。
たとえば、あなたが内縁の妻であれば、婚姻届を提出して婚姻関係を結ぶのも有効ですし、遺言書で財産の分配方法を指定してもらうことでもトラブル回避が望めます。
なかには「お金のことは話しにくい」と思う人もいるかもしれません。
しかし、亡くなったあとに本人の意思とは裏腹に遺産トラブルが起きてしまったり、親密な関係にあった人に何も残せず亡くなってしまったりするほうがよっぽど悲しいことです。
遺言・遺贈・生前贈与などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
さいごに|特別縁故者として相続を受けたい場合は弁護士に相談を
被相続人が家族のいない状態で亡くなって遺言なども残っていない状態でも、被相続人と生前親密な関係にあった人などは特別縁故者として遺産を受け取れる可能性があります。
しかし、特別縁故者として認定を受けるには手間もかかりますし、申立てをしたからといって確実に認定されるわけではありません。
相続に強い弁護士であれば、特別縁故者に該当するかどうかをアドバイスしてくれて、相続のために必要な手続きを一任することもできるほか、遺言書作成や生前贈与といった生前対策に関してもサポートしてくれます。
当サイト「ベンナビ相続」では、お住まいの地域から相続に強い弁護士を一括検索できますので、相続で悩んでいる方は一度利用してみましょう。
「自分が特別縁故者になるにはどうすればいい?」とお悩みの方へ
「自分は特別縁故者になれる?」「手続きはどうすればよい?」と悩んでいませんか?
結論からいうと、特別縁故者に関する悩みは弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
特別縁故者として財産を受け取るためには、自身が特別縁故者であることを証明しなければならず、必要な手続きも多くあります。
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