被相続人が遺言を残さずに死亡した場合、相続人だけで遺産分割のための協議をしなければなりません。
しかしこの話し合いは、ときに心情的な対立を生み、長期化することも珍しくありません。
遺産分割協議自体に期限はありませんが、長期化することで税制優遇を受けられなくなったり、協議している間に新たな問題が発生したりすることもあります。
この記事では、遺産分割が未了のままにおこるデメリットや分割協議に時間がかかる場合にとるべき対策、遺産分割を早期に解決する方法について解説します。
遺産分割が未了であることのデメリットは主に以下の3つです。
具体的にこれらのデメリットについて解説していきます。
誰のものかを確定していない不動産などの遺産は、相続人全員の共有財産となります(民法898条)。
遺産分割前の共有財産を管理、処分する場合には、民法上の決まりにより、他の相続人の意向を確認することが必要です。
共有財産の管理は、各相続人が単独でできる「保存行為」と、相続人による多数決で決める「管理行為」があります。
保存行為とは家の雨漏り修繕や草刈りなど、遺産の現状を維持・向上させるための行為です。
管理行為とは共有財産を利用または改良することです。
不動産の場合、誰かに貸したりするためには相続人の法定相続分に応じた持ち分価格の過半数の同意が必要となります。
共有財産を処分する行為は、民法上は「変更行為」となり、相続人全員の同意が必要です(民法251条)。
不動産を売却してお金に換えたり、駐車場として有効利用したりする場合には、相続人全員の同意を得なければなりません。
共有財産を自分の持ち分を超えて使用する場合は、超えた部分の使用対価を他の相続人に支払う義務があります(民法249条)。
たとえば亡父名義の不動産に相続人Aが住んでいる場合、他の相続人に対して持ち分に応じた対価を支払う義務があります(最判平12.4.7 平9(オ)1876号 )。
しかし、他の相続人がAに立ち退きを請求することは現状を変更するため「処分行為」(民法251条)となり、相続人全員の同意が必要です(最判昭41.5.19 昭38(オ)1021号)。
ただ、自分の持ち分を超えて使用する場合は、善良な管理者の注意力を持って共有財産を管理する義務があり(善管注意義務)、注意不足で共有財産に損害が発生したら、他の相続人から損害賠償請求をされる可能性があります。
数次相続が発生すると、遺産分割協議がさらに困難になります。
数次相続とは、相続手続きが終わらないうちに相続人が死亡し、新たな相続が発生することです。
遺産分割が終わらないうちに他の相続が始まってしまうと、相続人が増えるうえにお互いの関係が希薄になるため、遺産分割がさらに難しくなります。
遺産分割が未了の場合に起こる2つめのデメリットは、相続税に関することです。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です(相続税法第27条)。
遺産分割を未了のままにしておくと、相続税の優遇措置を受けることができなくなります。
配偶者の税額軽減の特例とは、配偶者の相続分が以下の要件を満たす場合に相続税が免除される制度です。
この特例は残された配偶者の生活を保障するための優遇措置ですが、期限内に相続税の申告が終わっていなければ適用を受けることができません。
相続税を計算する際に、以下の条件を満たす宅地に限り、評価額を最大で80%減額できます。
不動産の評価額が減額されると、評価額を基準に算定される相続税も減額されます。
税金が払えないために土地を失くす状況に追い込まれないようにこの特例制度が設けられました。
しかし、この特例を利用するためには、期限内に遺産分割を終えていなければなりません。
農地の納税猶予特例は、被相続人が営んでいた農業を引き継ぐ場合に適用され、農地にかかる相続税の納税が猶予されます。
この適用を受けるためには相続税の申告期限内に申請しなければなりません。
この特例は、農地を引き継ぐ際に莫大な相続税がかかり、農家離れが進んでしまうことを防ぐために制定された優遇措置です。
中小企業の経営者が亡くなったとき、事業を相続人が受け継ぐ場合には相続税が猶予または免除されます。
相続開始後8ヵ月以内に経済産業大臣の認定を受け、相続税の申告期限内に提出することが条件です。
この特例措置は2027年12月31日までに発生した相続に適用されます。
申告期限内に遺産分割が未了だと、遺産管理が煩雑になり、相続税法上の優遇措置が受けられなくなるというデメリットがあります。
遺産分割が間に合わない事情がある場合には、あらかじめ申請しておくことで、後からでも税法上の優遇措置を受けることができます。
遺産分割が期限内にできない場合は、いったん法定相続分で相続したことにして相続税の申告と納付をしましょう。
そして、遺産分割協議が成立した時点で修正申告をし、還付請求または追納をします。
未分割のまま仮の申告をすると相続税の特例が受けられません。
しかし、同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくと、後日協議がまとまり修正申告する際に、配偶者の特例と小規模宅地等の特例のみ遡って適用を受けることができます。
遡って特例を受けるには、3年以内に協議をまとめて4ヵ月以内に修正申告をする必要があります。
税務署の承認を受けることができれば、3年経過しても遺産分割協議がまとまらない場合でも、特例の適用をさらに延長することができます。
税務署の承認を受けるためには、3年経過してから2ヵ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出しなければなりません。
やむを得ない事情とは、裁判で争っている場合や、遺言によって一定期間遺産分割することを禁止されている場合などです。
やむを得ない事情が解消してから4ヵ月以内に修正申告をすれば、配偶者の特例と小規模宅地等の優遇措置が適用されます。
遺産分割を困難にする大きな原因としては、手続きが煩雑であることと、相続人同士に感情的な対立が生まれやすいことの2点が挙げられます。
どちらも弁護士に依頼することで解決できる問題です。
以下で遺産分割の問題を弁護士に依頼するメリットについて解説していきます。
相続人同士で話がまとまらない場合でも、弁護士に依頼することで遺産分割調停・審判など法的手続きを活用してスムーズに遺産分割を進めることができます。
調停では論点整理や主張書面に沿った証拠収集が重要です。
調停での話し合いがまとまらずに審判に移行すると、主張書面や証拠書類が最終的な審判を下すうえでの重要な材料となります。
相続はやるべきことが多く、面倒な手続きも多いです。
しかも、手続きの中には期限付きのものもあります。
弁護士に依頼すれば、期限のあるものから逆算して手続きを進めることができ、また、手続きの漏れもなくなることでしょう。
遠方に住んでいる相続人がいたとしても、弁護士が拠点となって必要書類のやりとりや協議書の作成をまとめてくれます。
遺産分割が進まない原因には、相続人同士の心情的な対立もあるでしょう。
対立している場合、お互いに特別受益や寄与分などを主張しがちになりますが、その論点を裁判で争うと、司法判断が出るまでかなりの時間がかかります。
心情的に対立する相手と長期間話し合いを続けることは、精神的に大きなストレスになります。
弁護士に依頼することで、相手と直接交渉をしなくてよくなるため、精神的なストレスは大きく軽減されるでしょう。
また、話し合いが長期化した場合でも、法律的に妥当な落としどころを探ってまとめることも可能です。
遺産分割は、困難なものほど弁護士に依頼しましょう。
弁護士に依頼することで、遺産分割が長期化することを避け、スムーズに手続きを進めることができます。
遺産分割を相続税の申告期限までに終わらせることは、税制の優遇を受けるためにも大変重要です。
税法上の優遇措置は、相続人が大きな相続税負担を負うことの救済手段として設けられています。
そのため、優遇措置が使えなければ、相続人の税負担は過酷なものになってしまうでしょう。
相続業務に注力している弁護士は、相続税の知識も豊富です。
初回の無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、遺産分割が未了で困った場合には初回の無料相談だけでもしてみましょう。
遺産相続では相続人ごとに優先順位が定められており、相続人の組み合わせによってそれぞれの取り分が異なります。本記事では、相続順位・相続割合のルールや、パターンごと...
遺産相続にあたって遺産分割協議書をどのように作成すればよいのか、悩んで方も多いのではないでしょうか。本記事では、遺産分割協議書の必要性や具体的な書き方を解説しま...
遺産相続で兄弟姉妹の意見が対立してしまいトラブルになってしまうケースは少なくありません。民法には、遺産相続の割合や順位が定められているので、原則としてこの規定に...
法定相続人の順位が高いほど、受け取れる遺産割合は多いです。ただ順位の高い人がいない場合は、順位の低いでも遺産を受け取れます。あなたの順位・相続できる遺産の割合を...
遺産相続を依頼した際にかかる弁護士費用の内訳は、一般的に相談料・着手金・成功報酬金の3つです。相続の弁護士費用がいくらかかるのかは、どんな解決を望むかで異なりま...
養子縁組を結んだ養親と養子には、法律上の親子関係が生じます。養子には実子と同じく遺産の相続権が与えられるうえに、相続税の節税にもつながります。このコラムでは、養...
特定の相続人に遺産を相続させない方法を知りたくはありませんか?夫・妻・兄弟はもちろん、前妻の子・離婚した子供に財産・遺留分を渡したくない人は注目。悩み解消の手助...
株式の相続が発生すると、株式の調査や遺産分割、評価や名義の変更などさまざまな手続きが必要になります。この記事では、株式の相続で必要な手続きについて詳しく解説しま...
遺産分割協議とは、相続人全員による遺産分割の話し合いです。この記事では、遺産分割協議の進め方や、不動産など分割が難しい財産の分配方法などを解説するとともに、話し...
遺言執行者とは、遺産分割をスムーズにおこなうために必要不可欠な存在です。相続人の誰かが選任されるのが一般的ですが、弁護士などに依頼することもできます。本記事では...
遺産分割についてほかの相続人と話し合う中で、嫌がらせを受ける事例が多発しています。 相手の要求が正当なものであれば対応する必要がありますが、不当な嫌がらせに対...
遺産分割に関する詐欺的行為に対しては、弁護士のサポートを受けながら、公正な遺産分割の実現を目指しましょう。 本記事では、遺産分割に関する詐欺的行為の手口や、ほ...
遺産分割が終わったあとで、被相続人の遺品などから遺言書が発見されるケースがあります。 遺言書があとから出てきた場合、原則として遺産分割をやり直さなければなりま...
遺産分割協議書の作成期限はとくにありません。しかし、作成が遅れるとほかの相続手続きに影響する可能性があるので注意が必要です。本記事では、主な相続手続きの期限、遺...
遺産分割協議書には特定の財産だけを記載しても構わないので、不動産の相続のみで作成するケースがあります。本記事では、遺産分割協議書に不動産のみ記載する方法をわかり...
長男が全ての遺産を相続すると主張している場合、どのように対処すべきか気になるところでしょう。 本記事では、長男が遺産の独り占めを主張している場合の対処法、独り...
亡くなった方に身寄りが少なく、存命の親族がいとこのみであった場合、遺産相続をおこなうことは可能なのでしょうか。 本記事では、遺産相続といとこの関係性について詳...
遺産分割協議証明書とは、遺産分割協議の結果に対して相続人が合意したことを証明するための書類です。本記事では、遺産分割協議証明書について詳しく解説します。遺産分割...
代襲相続とは、被相続人(故人)が亡くなった時点で、本来相続人となる人がすでに亡くなっている場合、死亡した相続人の代わりに遺産を取得する権利を引き継ぐことをいいま...
遺産分割協議書は、遺産相続の内容を相続人間で話し合い、合意した内容を記載した書面のことをいいます。本記事では、遺産分割協議書の提出先や遺産分割協議書の提出が不要...