農地を相続することになった場合、基本的には相続税が課せられます。
しかし、農地の相続は何度も経験するものではないため、何から手をつけてよいのかわからず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、農地にかかる相続税の申告手続きについてわかりやすく解説します。
相続税の計算方法や納税猶予の特例などについても詳しく解説するので、農地を相続する際の不安を少しでも解消したい方は参考にしてみてください。
まずは、農地にかかる相続税の納付手続きについて解説します。
大きく5つのステップに分けられるので、一つひとつ詳しく見ていきましょう。
農地の相続が発生した場合、まずは遺産分割協議によって農地の取得者を決めましょう。
取得者の構成や人数によって、相続税額は変動するためです。
遺産分割協議をおこなう際は、相続人全員が参加しなければならない点に注意してください。
1人でも欠けていた場合は、協議内容が無効になってしまいます。
なお、遺産分割協議自体に期限はありませんが、できるだけ速やかにおこなうようにしましょう。
相続税は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内」に申告する必要があり、遺産分割協議が長引くと申告期限に遅れ、ペナルティが課せられるおそれがあります。
なお、遺言がある場合は記載内容に従って相続するのが基本ですが、相続人全員の合意があれば遺産分割協議でほかの相続方法を話し合うことも可能です。
農地の取得者が決まったら、所有権移転登記による名義変更をおこないましょう。
所有権移転登記の手続きは、農地の所在地を管轄する法務局で受け付けています。
2024年4月からは相続登記が義務化され、違反した場合は10万円以下の過料が科されるので注意してください。
相続登記をおこなう際は、以下のような書類の提出が必要です。
なお、相続登記は申請後1週間から10日程度で完了するケースが一般的です。
相続登記を終えたら、農業委員会に対する手続きを進めましょう。
農地を相続した場合は、市区町村の農業委員会に届出をおこない、許可を得なければなりません。
農業委員会への届出に必要な書類は、主に以下の2種類です。
届出の期限は、相続が発生したことを知った日から10ヵ月以内です。
期限内に届出をおこなわなかった場合は、10万円以下の罰金が科されることがあります。
農業委員会への手続きを済ませたあとは、相続税の納付税額を算出しましょう。
ここでは、相続税を算出する際の大まかな流れを解説するため、細かな計算方法を知りたい場合は以下の記事を参考にしながら作業を進めてみてください。
まずは、相続人ごとに相続した財産の合計額を計算します。
たとえば、被相続人には配偶者と2人の子どもがいて、預金・株式・自動車を以下のとおり相続すると仮定しましょう。
上記の場合、各相続人が相続した財産の合計額は、配偶者5,000万円・長男4,000万円・次男2,000万円となります。
相続税算定のもととなる数字なので、漏れのないように計算することを心がけてください。
次に、相続財産の合計額を計算します。
上記の例で考えると、「配偶者5,000万円+長男4,000万円+次男2,000万円=1億1,000万円」が合計額となります。
相続財産の合計額が算出できたら、基礎控除額を差し引き「課税遺産総額」を求めましょう。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定人数の数」です。
1億1,000万円の財産を3人で相続する場合の計算式は、以下のようになります。
次に、課税遺産総額に対する相続税を計算しましょう。
具体的には、課税遺産総額の法定相続分で按分し、各相続人の相続税額を求めたうえで合算します。
法定相続分とは、民法で既定されている各相続人の相続割合のことです。
実際にはほかの方法で相続する場合でも、まずは法定相続をおこなうと仮定して各相続人の相続税額を計算し、合算する必要があります。
たとえば、配偶者と子ども2人で相続する場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子どもが4分の1ずつです。
各相続人の法定相続分が確定したら、取得金額に応じた税率・控除額をもとに相続税額を求めていきましょう。
相続税額は、「法定相続分による取得金額×税率-控除額」で算出できます。
相続税の税率・控除額は、国税庁のWebサイトで確認してください。
最後に各相続人の相続税額を合算すれば、相続税の総額が785万円と算出できます。
相続税の総額を算出できたら、各相続人の算出税額を求めましょう。
相続税は、各相続人の相続割合に応じて課税されるのが基本的な仕組みです。
最後に、各相続人の算出税額から各種控除額を差し引いて、「納付税額」を算出しましょう。
まず、配偶者は「配偶者控除」を適用することで、相続財産が1億6,000万円または法定相続分までであれば、非課税になります。
そのほか、相続税法上は未成年者控除や障害者控除などもありますが、今回挙げた例のように子どもに適用できる控除はないものと仮定すると、最終的な納付税額は以下のようになります。
最後に、相続税の申告・納税をおこないましょう。
被相続人の住所地を管轄する税務署に対して、各相続人が申告書や関係書類を提出してください。
提出方法は持参・郵送・電子申告のなかから選択できますが、慣れていない場合は持参するのがよいでしょう。
疑問点を直接尋ねられるほか、修正点が見つかった場合にその場で指摘してもらえる可能性があります。
なお、相続税の申告・納税期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。
期限に遅れると、無申告加算税や延滞税が課される可能性もあるので、早めに済ませておくことをおすすめします。
農地の相続税を計算する際は、2つのステップがあります。
相続する農地の種類などによっては計算が複雑になるので、自力での対応が難しければ税理士を頼ることも検討してみてください。
農地の相続税は評価額をもとに算出することになりますが、種類ごとに計算方法が異なるため、まずは相続する農地の種類を把握する必要があります。
ここでは、農地の種類と確認方法を詳しく見ていきましょう。
相続税法上、農地は純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の4つに分類されます。
分類 | 対象 |
---|---|
純農地 |
・農用地区域内にある農地 ・甲種農地(市街化調整区域内で特に良好な営農条件をもつ農地) ・第1種農地(10ヘクタール以上の農地や土地改良事業などの対象となった農地、良好な営農条件をもつ農地) |
中間農地 | ・第2種農地(駅から500メートル以内、市街地として発展する見込みがある農地や生産性の低い農地) |
市街地周辺農地 | ・第3種農地(駅から300メートル以内、都市的施設が整備された区域内や市街地区域内にある農地) |
市街地農地 |
・農地法第4条または第5条の転用許可を受けた農地 ・市街化区域内の農地 ・農地法などの規定により、転用許可を要しない農地として都道府県知事の指定を受けた農地 |
農地の種類に関しては、農地法や都市計画法などの法律が関与しているため、分類が難しく感じられるかもしれません。
しかし、農地の種類を容易に確認する方法があるので、上記の要件は参考程度にしておくのでも問題ないでしょう。
農地の種類は、国税庁Webサイト内の「路線価図・評価倍率表」で確認できます。
市区町村をクリックすると評価倍率表が表示されるので、該当する地域の「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」をチェックしてください。
「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」の記載内容によって、農地の種類を判別できます。
農地の場所が倍率表のどの地域に該当するのかわからないときは、住宅地図を確認してみましょう。
また、「農業振興地域内の農地区域」かどうかの判断が必要なケースもあるため、疑義が生じた場合は役所に問い合わせてみてください。
農地の種類を確認できたら、評価額の計算に着手しましょう。
種類ごとに計算方法が異なるので、それぞれ詳しく解説します。
純農地を相続する場合は、倍率方式で相続税評価額を計算します。
固定資産税評価額は、毎年4~5月に送付される固定資産税の通知書に記載されています。
倍率は、評価倍率表の「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」欄に表示されている数字を使用してください。
なお、田や畑などの地目によって適用する倍率が変わる点にも十分注意しておきましょう。
中間農地を相続する場合は、純農地と同様に倍率方式で評価額を計算してください。
純農地や中間農地は2つの決まった数字を用いて計算できるので、評価額を比較的容易に求められるはずです。
市街地周辺の評価額は、その農地が市街地農地と仮定した場合に算出される評価額の80%に相当します。
市街地周辺農地は宅地転用ができるものの、実際には許可を受けていないため、市街地農地よりは価値が低い土地として扱われます。
市街地農地の評価方法は、宅地比準方式と倍率方式の2種類があります。
路線価図を確認し、農地が接している道路に路線価が記載されている場合は宅地比準方式、評価倍率表の「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」に「周比準」と記載されている場合は倍率方式を用いてください。
倍率方式の計算方法は、上述のとおりです。
宅地比準方式では、まず農地を宅地と仮定した場合の価額を求めます。
そのうえで、宅地転用する際に必要な宅地造成費を差し引き、最終的な評価額を算出します。
なお、宅地造成費は都道府県ごとに毎年定められており、国税庁の「路線価図・評価倍率表」から確認できます。
農地を相続する場合は、納税猶予の特例を利用できることがあります。
ここでは、特例の適用条件や具体的な手続きを詳しく見ていきましょう。
「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」とは、農業を営んでいた被相続人から相続によって農地を取得し、農業などを引き続きおこなう場合などに、相続税の納税を猶予できる制度のことです。
また、一定の条件を満たしていれば、猶予された納税が免除される点も大きな特徴といえます。
なお、相続時精算課税にかかる贈与によって取得した農地については、特例の適用を受けられないので注意が必要です。
納税猶予の特例を適用するためには、一定の要件を満たしている必要があります。
被相続人・相続人・農地ごとに要件が定められているので、ひとつずつ見ていきましょう。
詳細な要件を知りたい場合は、国税庁のWebサイトで確認してください。
納税猶予特例を適用するためには、既定の手続きをおこなう必要があります。
大きく3つのステップに分けられるので、一つひとつ詳しく見ていきましょう。
納税猶予特例を適用する場合は、まず農地の取得者を確定させましょう。
生前一括贈与によってすでに取得者がいる場合を除けば、遺言や遺産分割協議で決定するケースが一般的です。
納税猶予特例の適用は先延ばしできないので、相続税の申告期限までに確実に遺産分割をおこなってください。
遺産相続は話し合いがまとまらないケースも多いですが、農地だけでも先に取得者を決めておくことが大切です。
農地の取得者が確定し、相続税の算出が終わったら申告手続を進めましょう。
納税猶予特例を適用させるには、相続税の申告書とあわせて以下の書類を税務署に提出する必要があります。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。
期限に遅れると、特例が適用できなくなるうえ、無申告加算税が課されることもあるので注意してください。
特に「相続税の納税猶予に関する適格者証明書」と「特例適用農地の明細書」は農業委員会に申請し、発行してもらう必要があるので優先的に着手しておくようにしましょう。
納税猶予特例を受け続けるためには、3年ごとに継続届出書を提出しなければなりません。
各自治体のWebサイトなどから継続届出書を入手し、農業経営を継続している旨の証明書を添付して提出してください。
証明書は農業委員会に発行してもらうことになりますが、発行までに2週間から20日程度かかるので早めに申請してことが大切です。
最後に、農地の納税猶予特例に関する2つのポイントを解説します。
あとで知ってから後悔することのないよう、納税猶予特例の基礎知識としてしっかりと理解しておきましょう。
農地の納税猶予は、途中で打ち切られる場合があります。
一度適用されたからといって、無期限の納税猶予が成立するわけではないので注意が必要です。
特例の適用が打ち切られると、猶予の対象となっていた相続税に加えて利子税の支払いも必要になります。
利子税の目安は、市街化区域内農地なら「6.6%×特例基準割合÷7.3%」、それ以外なら「3.6%×特例基準割合÷7.3%」です。
ただし、利子税の計算方法は複雑なので、納税猶予の打ち切りが予想される場合は税務署や税理士などに相談してみることをおすすめします。
納税猶予特例が全額打ち切りになるケースは、以下のとおりです。
納税猶予特例が一部打ち切りになるケースは、以下のとおりです。
納税猶予特例が適用されている場合、一定条件を満たせば納税が全額免除されます。
具体的には以下の要件のうち、いずれかを満たす必要があります。
なお、相続人が後継者に生前一括贈与した場合、後継者は「贈与税」の納税猶予を受けられます。
相続によって農地を取得する場合、基本的には相続税が課せられます。
農地の種類や規模によっては、ある程度まとまったお金を用意しなければならないので、できるだけ早く手続きを進めるようにしてください。
ただし、一定の要件を満たせば、特例によって相続税の納税を猶予できます。
相続した農地で農業を長く継続する場合などは、納税が全額免除されることもあるので積極的に活用しましょう。
とはいえ、相続税の金額や特例の適用可否などを自力で判断することは難しいケースもあるでしょう。
その場合は、無理して手続きを進めようとせず、税理士などの専門家に相談してみることが大切です。
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