遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障された最低限の遺産取得分です。
仮に遺言書で「長男に全財産を譲る」と書かれていても、次男は遺留分を請求することで、一定額の財産を受け取れます。
ただし、遺留分の計算を誤ると、過剰な金額を請求してトラブルになったり、逆に損してしまったりするおそれがあります。
そのため、遺留分の計算にあたっては、正しい方法・手順を理解しておくことが重要です。
本記事では、遺留分の計算方法や遺留分割合の考え方、遺留分を侵害された場合の対処法などを解説します。
ケース別にシミュレーション付きでわかりやすく解説しているので、参考にしてください。
はじめに、遺留分の計算方法を解説します。
大きく3つのステップに分けられるので、それぞれ詳しくみていきましょう。
まず、遺留分算定の基礎となる財産額を確定させます。
|
基礎財産額 = 相続時の財産 + 生前贈与 - 債務 |
「相続時の財産」「生前贈与」「相続債務」に関して、算入対象となるものは以下のとおりです。
|
相続時の財産 |
預貯金・不動産・有価証券・自動車・貴金属類・遺贈の目的となる財産など |
|---|---|
|
生前贈与 |
・相続開始から1年以内におこなわれた贈与 ・相続開始から10年以内に相続人に対しておこなわれた特別受益(遺贈、婚姻・養子縁組のための贈与、生計の資本)に該当する贈与 ・当事者双方が遺留分権利者が遺留分以下の財産しか得られないことを知っておこなった贈与 |
|
債務 |
借金・医療費の未払い・買掛金など ※葬儀費用は算入対象外 |
例えば、相続開始時の預貯金が5,000万円、生前贈与が2,000万円、借金が1,000万円だった場合、遺留分算定の基礎となる財産額は「5,000万円+2,000万円-1,000万円=6,000万円」です。
次に、総体的遺留分と個別的遺留分の割合を確認します。
|
概要 |
算出方法 |
|
|---|---|---|
|
総体的遺留分 |
遺留分権利者全体が確保できる遺留分 |
・相続人が父母のみ:3分の1 ・上記以外:2分の1 |
|
個別的遺留分 |
各遺留分権利者に認められる遺留分 |
総体的遺留分×法定相続分 |
個別的遺留分を求める際に必要な法定相続分は、相続人の数や続柄に応じて以下のように決められています。
|
相続人の構成 |
配偶者 |
子ども |
父母 |
兄弟姉妹 |
|---|---|---|---|---|
|
配偶者のみ |
1 |
― |
― |
― |
|
子どものみ |
― |
1 |
― |
― |
|
父母のみ |
― |
― |
1 |
― |
|
兄弟姉妹のみ |
― |
― |
― |
1 |
|
配偶者+子ども |
1/2 |
1/2 |
― |
― |
|
配偶者+父母 |
2/3 |
― |
1/3 |
― |
|
配偶者+兄弟姉妹 |
3/4 |
― |
― |
1/4 |
例えば、配偶者と被相続人の母が相続人にあたる場合、遺留分割合は以下のように計算できます。
なお、兄弟姉妹には遺留分が認められていないため、割合は0%です。
最後に、基礎財産額と遺留分割合を掛け合わせれば、遺留分の具体的な金額を算出できます。
例えば、基礎財産6,000万円、配偶者と被相続人の母が相続人にあたる場合、それぞれの遺留分額は以下のように計算できます。
ただし、実際に請求できるのは、遺留分額からすでに受け取った遺産を差し引いた金額です。
ここでは相続でよくあるケースについて、基礎財産額6,000万円を想定し、遺留分の計算シミュレーションを紹介します。
遺留分割合に関しては、以下の早見表も活用してください。
|
相続人の構成 |
総体的遺留分割合 |
個別的遺留分割合 |
|||
|---|---|---|---|---|---|
|
配偶者 |
子ども1人あたり |
父母1人あたり |
兄弟姉妹 |
||
|
配偶者のみ |
1/2 |
1/2 |
― |
― |
― |
|
子ども1人 |
1/2 |
― |
1/2 |
― |
― |
|
子ども2人 |
1/2 |
― |
1/4 |
― |
― |
|
子ども3人 |
1/2 |
― |
1/6 |
― |
― |
|
配偶者+子ども1人 |
1/2 |
1/4 |
1/4 |
― |
― |
|
配偶者+子ども2人 |
1/2 |
1/4 |
1/8 |
― |
― |
|
配偶者+子ども3人 |
1/2 |
1/4 |
1/12 |
― |
― |
|
父母のみ |
1/3 |
― |
― |
1/6 |
― |
|
配偶者+父母 |
1/2 |
1/3 |
― |
1/12 |
― |
|
配偶者+兄弟姉妹 |
1/2 |
1/2 |
― |
― |
なし |
相続人が配偶者のみの場合、配偶者の遺留分は以下のように計算できます。
仮に遺言書で愛人に全財産を渡すと記載されていても、配偶者は最低3,000万円を確保できます。
子どもが1人だけで相続する場合、子どもの遺留分は以下のように計算できます。
相続人が子ども2人の場合、子ども1人当たりの遺留分は以下のように計算できます。
遺言書で「長男に全財産を相続させる」と書かれていた場合でも、次男は1,500万円の遺留分を確保することが可能です。
相続人が子ども3人の場合、子ども1人当たりの遺留分は以下のように計算できます。
子どもの人数が増えるほど、1人あたりの遺留分は減少します。
例えば、子ども4人で相続する場合、1人当たりの遺留分は「6,000万円 × 1/8 = 750万円」となります。
相続人が配偶者と子ども1人の場合、それぞれの遺留分は以下のように計算できます。
相続人が配偶者と子ども2人の場合、それぞれの遺留分は以下のように計算できます。
相続人が配偶者と子ども3人の場合、それぞれの遺留分は以下のように計算できます。
父母のみが相続人となる場合、父母の遺留分は以下のように計算できます。
父母のみが相続人となる場合、総体的遺留分割合が2分の1ではなく3分の1になる点に注意してください。
子どもがおらず、配偶者と被相続人の父母が相続人となる場合、それぞれの遺留分は以下のように計算できます。
父母の一方のみが存命の場合は、個別的遺留分割合が1/6となるため、遺留分は「6,000万円×1/6=1,000万円」です。
前提として、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
そのため、相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、遺留分を請求できるのは配偶者のみです。
遺留分が侵害されている場合は、遺留分侵害額として返還を求めることができます。
遺留分侵害額の計算式は以下のとおりです。
|
遺留分侵害額 = 遺留分額 - 受け取った純遺産額 - 特別受益額 + 負担する債務額 |
では、以下の状況を想定して、遺留分侵害額を計算してみましょう。
上記のケースでは、「500万円 - 200万円 - 0円 + 100万円 = 400万円」を遺留分侵害額として請求できます。
なお、計算結果がマイナスになった場合は、遺留分の侵害は生じていないということです。
受け取った遺産が遺留分を下回っていた場合は、遺留分侵害額請求によって不足分を取り戻せます。
ここでは、請求手順と注意点を解説します。
遺留分を侵害されていた場合は、協議の場を設けて、侵害額相当の金銭を支払うように求めましょう。
まず、遺留分侵害額請求をおこなう意思を内容証明郵便で相手に通知します。
内容証明郵便を使う理由は、請求内容や送付日などが証拠として残るためです。
通知後、相手方と支払金額や支払方法について話し合い、合意に至れば合意書を作成して金銭を受け取ります。
時間と費用を最小限に抑えるためにも、まずは当事者間での解決を目指しましょう。
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。
調停では、中立的な立場の調停委員が双方の言い分を聞き取り、合意形成をサポートしてくれます。
第三者が介入することで、感情的な対立を避けながら冷静に話し合える点がメリットです。
調停が成立すれば、確定判決と同じ効力を持つ調停調書が作成されます。
そのため、相手が支払いに応じない場合は、強制執行によって財産を差し押さえることも可能です。
また、調停の申立てにかかる費用は収入印紙代1,200円と郵便切手代程度なので、訴訟よりも低コストで手続きを進められます。
調停で合意に至らなかった場合は、裁判を起こすことも選択肢に入れなければなりません。
請求額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円超なら地方裁判所に対して遺留分侵害額請求訴訟を提起します。
訴訟では、裁判官が証拠や双方の主張をもとに判決を下し、支払うべき金額などが決定します。
裁判所の判決に強制力があるため、相手が支払いに応じない場合には給与や預貯金の差し押さえが可能です。
なお、裁判所が提案した和解案を双方が受け入れ、訴訟が終了するケースもあります。
ただし、訴訟は解決までに1年以上かかるケースも多く、手間と時間がかかる点には注意が必要です。
遺留分侵害額請求権には、2種類の時効があります。
|
期限の種類 |
起算点 |
期間 |
|---|---|---|
|
消滅時効 |
相続開始および遺留分侵害を知ったとき |
1年 |
|
除斥期間 |
相続開始時 |
10年 |
遺留分が侵害されていると知った時点から1年が経過すると、遺留分侵害額を請求する権利そのものが消滅します。
単に生前贈与や遺贈があったことを知っていただけで、遺留分の侵害に気づいていない状態であれば、消滅時効のカウントは進行しません。
ただし、遺留分の侵害に気づいていなくても、相続開始から10年が経過すると遺留分侵害額請求はできなくなります。
なお、内容証明郵便などで遺留分侵害額請求をする旨の意思表示をおこなえば、時効の進行がストップします。
最後に、遺留分の計算に関してよくある質問に回答します。
同様の疑問を感じている方は、参考にしてください。
遺留分算定の基礎となる財産の算定にあたって、不動産は相続開始時の時価で評価するのが原則です。
固定資産税評価額や路線価で計算すると、本来の遺留分より低い金額になってしまうため注意してください。
|
評価方法 |
目安 |
|---|---|
|
固定資産税評価額 |
時価の約70% |
|
相続税路線価 |
時価の約80% |
|
時価(実勢価格) |
100% |
時価を調べる方法としては、不動産会社の査定を利用するケースが一般的です。
ただし、調停や訴訟で争う場合は、不動産鑑定士による鑑定評価が必要になることもあります。
死亡保険金は、原則として遺留分の計算に含まれません。
保険金は受取人固有の財産とみなされるため、遺産分割や遺留分の対象外とするのが基本的な考え方です。
ただし、遺産総額に比べて保険金の割合が極端に高い場合などは例外とされています。
とはいえ、明確な基準はないので、迷ったときは弁護士に相談することをおすすめします。
遺留分侵害額請求で受け取った金銭は、相続財産とみなされるため、相続税の課税対象となります。
すでに相続税の申告・納付を済ませている場合は、以下の対応が必要です。
なお、遺留分の争いが長引いている間も、一旦は相続開始から10ヶ月以内に相続税申告をしておく必要があります。
遺留分算定の基礎となる財産額を確定させ、遺留分割合を確認すれば、遺留分を計算することができます。
しかし、財産に不動産が含まれる場合や生前贈与があった場合などは、計算方法が複雑になりやすいので、専門家のサポートが必要です。
遺留分の計算とあわせて、遺留分侵害額請求も任せたいときは、弁護士に相談することをおすすめします。
相続問題が得意な弁護士であれば、遺留分を守るために必要な手続きを円滑に進めてくれるはずです。
ベンナビ相続なら、地域や相談内容を絞って弁護士を検索できるので、有効に活用してください。
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