公正証書遺言が残されていたものの、記載された内容に納得できないと感じていませんか?
また「公正証書遺言の効力はどこまで及ぶのか」「遺言書を無効にするにはどうしたらよい?」などの疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、公正証書遺言の効力が及ぶ範囲・及ばない範囲、公正証書遺言が無効になるケースなどを解説します。
公正証書遺言に関して悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
公正証書遺言は、公証人2人以上の立ち会いのもと、法律で決められた形式に従って作成する遺言です。
まずは、公正証書遺言の効力について解説します。
公正証書遺言には法的な効力があるため、基本的に従う必要があります。
つまり、公正証書遺言が有効と認められた場合は、原則として遺言書の内容に沿って遺産分割をおこなうことになります。
遺言書には、公正証書遺言のほか、自筆証書遺言と秘密証書遺言があります。
いずれも法律で決められた形式に則った有効な遺言であると認められれば、同様の効力が発生します。
「公正証書遺言だから効力が強い」「自筆証書遺言の効力は弱い」のように、遺言の形式による効力の差はありません。
しかし、公正証書遺言は、公証人の立ち会いのもとで法律に則って作成するため、書式の誤りなどで無効になるリスクを抑えられます。
正しく書かれたものであれば、ほかの形式の遺言書よりも自分の意思を実現しやすい点が、公正証書遺言の大きなメリットといえるでしょう。
遺言書が複数見つかった場合は、日付が新しいものが有効となります。
法的な効力は全ての遺言書に発生するものの、内容が矛盾している場合もあるため、最も新しいものを優先し、それ以前に作成された遺言書は後の遺言書と抵触する部分については撤回したとみなされます(民法第1023条)。
公正証書遺言には有効期限がありません。
ただし、公正証書遺言の保管期限には定めがあり、通常20年までとされているので注意しましょう。
ただし、20年経っても遺言者が存命の場合も考えられるため、公証役場によっては「遺言者が120歳になるまで保管する」「100歳まで保管する」「保管期限を定めない」という場合もあるようです。
遺言書で指定できる内容のことを「法定遺言事項」といいます。
法定遺言事項に該当するのは以下の事項が挙げられます。
公正証書遺言では、法定遺言事項以外の事柄を指定することはできません。
具体的には、以下の4つです。これらの事項は法的効力は生じないものの「付言事項」として記載することは可能です。
公正証書遺言には法的な効力がありますが、必ずしも遺言書の内容どおりになるとは限りません。
ここからは、公正証書遺言の効力が絶対とはいえない理由を2つ紹介します。
遺言書が相続人の遺留分を侵害するような内容だった場合、遺言書のとおりに遺産分割できないおそれがあります。
遺留分とは、一定の相続人が最低限相続できる遺産の割合のことです。
遺留分を侵害する内容の遺言書を書いてしまうと、侵害された相続人がほかの相続人に対し「遺留分に相当する金銭を支払ってほしい」と請求する可能性があります。
遺留分を請求されたからといって遺言書が無効になるわけではありませんが、遺言者の思いどおりに相続できなくなってしまうおそれがあるため注意が必要です。
以下のケースに該当する場合、公正証書遺言が無効になることがあります。
遺言を書いた方が認知症を患っていた場合、遺言書が無効となる可能性があります。
有効な遺言書は、遺言内容やその影響範囲をきちんと理解していないと作成できません。
遺言書を作成するときは、医師の診断を受ける・ご自身の希望をビデオで残しておくなどして、遺言能力があることを証明できるようにしておきましょう。
また、遺言者が15歳未満である場合も十分な遺言能力がないと考えられ、遺言書が無効となります。
証人が不適格だった場合も遺言書が無効になるので注意が必要です。
公正証書遺言を作成する際は、2人以上の証人が立ち会うことになります(民法第969条1号)。
証人は遺言者が自由に指名できますが、以下の人は欠格事由に該当するため選ぶことができません。
いずれかの人物を証人に選んでしまうと、遺言書が無効になるため注意しましょう。
公正証書遺言を作成する際に「口授」を欠いてしまうと、遺言書が無効となる可能性があります。
口授とは、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝えることです。
病気や高齢などによって遺言者が言葉を話せない場合は、筆談や通訳人による通訳によって遺言の趣旨を伝える必要があります。
なお、実際に口授を欠いていたかどうかを確認したい場合は、作成当時の診療記録(もしくは看護記録)を確認したり、当時の公証人や証人に問い合わせたりするという方法があります。
遺言者が第三者から詐欺・脅迫・錯誤を受けて遺言書を作成した場合も、無効となることがあります。
しかし、遺言者が亡くなったあとに、詐欺・脅迫・錯誤を受けたという事実を証明するのは困難です。
そのため、誰にも気づかれず、遺言書どおりに遺産分割されてしまうケースがほとんどでしょう。
誰かから脅されて遺言書を書かされた場合は、遺言書の内容を撤回する・新たに遺言書を作成するなどの対策を講じることが大切です。
遺言書の内容が公序良俗に反する場合も無効となるでしょう。
たとえば、配偶者がいるにもかかわらず愛人に全財産を遺贈する、といった内容などが該当します。
遺留分侵害額請求は、遺言者から遺贈・贈与を受けた人に対し、遺留分相当額を支払うよう求めることです。
遺留分侵害額請求が認められた場合、遺言書自体は有効ではあるものの、遺言書で指定されたとおりに相続しなくてもかまいません。
むしろ、遺言者にとっては自分の意思と反する相続になってしまうため注意しましょう。
遺言書をこれから作成する方は、遺留分を侵害しない内容にすることが大切です。
なお、遺留分侵害額請求の詳細な手順や期限などに関しては、以下の記事を確認してください。
公正証書遺言が自分にとって不利な内容だった場合、遺言書を無効にしたいと思うこともあるでしょう。
ここからは、公正証書遺言の無効を認めてもらうまでの流れを解説します。
まずは、「遺言書の内容と異なる方法で遺産分割したい」ということを相続人全員に伝えて合意を得ましょう。
ほかの相続人から合意を得られれば、遺言書の内容に従う必要はなく、相続分や遺産分割方法を変更できます。
遺言書とは異なる方法で遺産を分け合う場合は、遺産の分け方を相続人全員で話し合い、その結果を遺産分割協議書にまとめましょう。
遺産分割協議書がないと、預金の払い戻しや不動産の名義変更などの手続きを進められない可能性があるので注意しましょう。
遺産分割協議で相続人全員の合意が得られなかった場合は、家庭裁判所に遺言無効確認調停を申し立てましょう。
調停では、調停委員が各相続人の話を聴いたうえで解決案を提示してくれます。
調停によって合意がとれた場合は、その合意内容に基づいて遺産を分割します。
調停でも合意できなかった場合は、地方裁判所で遺言無効確認訴訟を提起します。
訴訟は、法定相続人・受遺者・受贈者・遺言執行者などを被告として提起するのが一般的です。
裁判をとおして原告被告が互いの言い分を主張し合い、最終的に裁判官が遺産の分け方を判断します。
なかには、裁判の途中でお互いに和解してトラブルが解決することもあります。
訴訟に発展した場合はかなりの労力・時間・知識が必要なので、可能な限り早い段階で弁護士に相談・依頼しましょう。
ここからは、公正証書遺言の効力に関するよくある疑問をまとめています。
一度作成した公正証書遺言の内容を更新することは可能です。
遺言書が複数ある場合、日付が新しいものが優先されます。
ただし、変更後の遺言書の形式が間違っていた場合は、無効となるおそれがあるので注意しましょう。
遺言書をもう一度作成するときは、法律で定められた形式に沿って正しく書くようにしてください。
公正証書遺言の効力は、遺言者が亡くなったときから発生します。
遺言書の効力に時効はありませんが、公証役場によっては公正証書遺言の保存期間が定められていることがあります。
(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
公正証書遺言の存在に気づいたときにはすでに保管期限を過ぎていた、といった事態にならないよう、遺言者と相続人の間で遺言書があることを共有しておくことが大切です。
公正証書遺言をめぐって相続人どうしでトラブルになる可能性があるなら、早いうちに弁護士へ相談しましょう。
相続問題に詳しい弁護士に依頼すれば、「複数の遺言書が出てきて、どれが有効なのかわからない」「遺言書を無効にしたい」などのお悩みを解決できます。
トラブルの防止・早期解決にもつながるので、相続や公正証書遺言に関して少しでも悩んでいるなら、ぜひ一度相談してみてください。
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