公正証書遺言は効力が無効になるリスクが低く、安全性・確実性の高い遺言書です。
ただし、作成時の状況などによっては公正証書遺言の効力が無効になる場合もあり、自力での作成が不安な場合は弁護士に依頼することも検討しましょう。
本記事では、公正証書遺言の効力や無効になるケース、遺言書作成の流れなどを解説します。
公正証書遺言を作成しようか悩んでいるあなたへ
公正証書遺言と自筆証書遺言、どちらで作成するのが良いんだろう...と悩んでいませんか?
結論からいうと、公正証書遺言はより無効になりにくいことから、もっとも安全・確実な遺言書の作成方法とされています。
遺言無効のリスクを避けたい方は、弁護士に公正証書遺言作成のサポートを相談・依頼するのをおすすめします。
弁護士に相談・依頼すると、以下のようなメリットを得ることができます。
- 遺言書にどんな内容を記載すべきか相談できる
- 遺言書以外の相続対策について相談できる
- 依頼すると、より意思の通った遺言書が作成できる可能性が高まる
- 依頼すると、公証役場とのやり取りを代行してもらえる
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公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証役場にて公証人が遺言内容を聞き取って作成する遺言書です。
以下のとおり、遺言書は3種類あります。
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自筆証書遺言(民法第968条):遺言者が自分で書いて作成する遺言書(財産目録については自書不要)
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公正証書遺言(民法第969条):公証役場にて公証人が遺言内容を聞き取って作成する遺言書
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秘密証書遺言(民法第970条):遺言者が自分で作成して公証役場で認証を受け、開封するまで遺言内容を秘密にできる遺言書
遺言者が自ら作成する自筆証書遺言や秘密証書遺言とは異なり、公正証書遺言の場合は「公証人が作成する」というのが大きな特徴です。
原則として、公証人は裁判官・検察官・弁護士などの経験者から任命され、高度な法的知識と豊富な法律実務経験を有しています。
そのような公証人が作成に関与する公正証書遺言は信頼性が高く、なるべく確実な遺言書を作成したい場合には有効です。
公正証書遺言の効力|自筆証書遺言との違いは?
ここでは、公正証書遺言の効力について自筆証書遺言と比較して解説します。
遺言書としての効力に差はない
公正証書遺言と自筆証書遺言は、いずれも民法によって認められている遺言書の方式です。
民法上の要件・手続きを満たす形で作成されていれば、公正証書遺言と自筆証書遺言の効力に差はありません。
公正証書遺言は無効になりにくい
公正証書遺言と自筆証書遺言の効力に差はないものの、実際に遺言書作成する際は公正証書遺言のほうが無効になるリスクが低いといえます。
自筆証書遺言の場合、民法にて作成方法に関する厳格なルールが設けられています。
財産目録以外は自書しなければならず押印も必要で、記載内容の訂正に関するルールも厳密に決められています。
また、遺言書の文言は適切な内容でなければならず、「文言が不明確な場合」や「公序良俗に反するような内容の場合」などは効力が無効になります。
一方、公正証書遺言の場合も作成方法に関する厳格なルールがあるものの、法的知識や法律実務経験を十分に有する公証人が作成するため、基本的にミスが起こることはありません。
遺言書の案文については事前に公証人がチェックし、もし法的に問題がある部分があれば指摘してくれます。
このような特徴があるため、公正証書遺言のほうが遺言書が無効になるリスクを軽減できます。
公正証書遺言の有効期限・時効
公正証書遺言には有効期限や時効がないため、時間の経過によって効力が失われることはありません。
なお、公証人法施行規則第27条1項では、公証役場における公正証書の保管期間について「原則20年」と定められています。
しかし、公正証書遺言の場合、遺言者が亡くなるまで遺言書を保存しておく必要があるため、20年を過ぎても公証役場にて保管されるのが通常です。
日本公証人連合会ホームページでは、公正証書遺言の具体的な保管期間について以下のように回答しています。
② 公証実務における遺言公正証書の保存期間
遺言公正証書は、上記規則の「特別の事由」に該当すると解釈されており、遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存する取扱いとしています。
引用元:2遺言|日本公証人連合会
公正証書遺言が無効・取り消しになるケース
公正証書遺言を作成しても、以下のいずれかにあてはまる場合は効力が無効になってしまいます。
- 遺言者に遺言能力がなかった場合
- 証人が欠格事由に該当していた場合
- 遺言者が詐欺または強迫を受けていた場合
遺言者に遺言能力がなかった場合
遺言書を作成する場合、作成時点で遺言者本人が十分な遺言能力を備えていなければなりません(民法第963条)。
「遺言能力がある」と認められるためには、以下2つの要件を満たす必要があります。
- 15歳以上であること:15歳以上であれば、未成年者でも親権者の同意なく遺言書を作成できます(民法第961条)。
- 意思能力があること:遺言書によって生じる効果を理解できるだけの能力がなければいけません(民法第3条の2)。
なお、意思能力の有無は、以下の事情などから総合的に判断されます。
- 遺言の内容
- 遺言者の年齢
- 病状を含む心身の状況、健康状態とその推移
- 発病時と遺言時の時間的関係
- 遺言時と死亡時の時間的間隔
- 遺言時とその前後の言動および精神状態
- 日頃の遺言についての意向
- 遺言者と受遺者の関係
- 前の遺言の有無、前の遺言を変更する動機や事情の有無 など
【参考】東京地裁平成16年7月7日判決
公正証書遺言の作成時は、公的書類をもとに遺言者の年齢が確認されます。
さらに、公証人は遺言書の内容を読み聞かせる際、遺言者の認知状態なども確認します。
しかし、医学的な診断とは異なるため、遺言者の意思能力が欠如していても見落としてしまうおそれがあります。
たとえば、遺言者が認知症などを患っている状態で遺言者作成した場合などは、公正証書遺言の効力が無効になることがあります。
証人が欠格事由に該当していた場合
公正証書遺言を作成する際は2名以上の証人による立ち会いが必要ですが、以下のいずれかに該当する者は証人になることができません(民法第974条)。
- 未成年者(18歳未満)
- 推定相続人および受遺者、これらの配偶者および直系血族
- 公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人
たとえば、遺言者本人が証人を手配する場合などは、上記の欠格事由に該当していることに気付かないこともあり、その場合は公正証書遺言が無効になってしまいます。
遺言者が詐欺または強迫を受けていた場合
なかには、相続人などが自分にとって有利な遺言書を作成させるために、遺言者を騙したり暴力を振るって脅したりすることもあります。
そのような詐欺や強迫を受けて遺言書が作成された場合、遺言者は遺言書を取り消すことができます(民法第96条1項)。
遺言者が死亡している場合は取消権が相続されるため、相続を受けた相続人が遺言書を取り消すことができます。
公正証書遺言の作成手続き
公正証書遺言を作成する際の流れは以下のとおりです。
- 公正証書遺言の案文を作成する
- 公証役場に連絡をとって案文などを送付する
- 案文の調整・作成の日程調整
- 公正証書遺言を作成する
ここでは、作成手続きの流れについて解説します。
①公正証書遺言の案文を作成する
まずは、公正証書遺言の案文を作成しましょう。
案文には主に遺産の分け方を記載し、被相続人の所有財産をリストアップしてから、相続人を指定します。
また、公正証書遺言の場合、残される家族へのメッセージとして付言事項を記載することもできます。
付言事項には法的効力はありませんが、どうしても伝えたいことがある場合や、遺産の分け方を決めた経緯を説明したい場合などは記載しておくとよいでしょう。
なお、公正証書遺言の案文を作成する際は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、家庭状況や本人の希望などを考慮したうえで、どのような内容を記載すべきか的確なアドバイスが望めます。
②公証役場に連絡をとって案文などを送付する
公正証書遺言の案文が完成したら、公証役場に連絡しましょう。
連絡すると公証人の連絡先などを教えてもらえるので、指示通りに作成済みの案文や必要書類などを送付します。
なお、弁護士に依頼する場合は、基本的に弁護士が公証役場とのやり取りを代行します。
③案文の調整・作成の日程調整
公証人は、案文の内容をチェックしたうえで、問題があれば遺言者に対して修正を提案します。
遺言者は、公証人からの提案を踏まえて、自分の意思に沿いつつ法的に問題のない形へ修正します。
公証人とのやり取りを経て内容が確定したら、公正証書遺言の作成日程を調整します。
遺言者本人と公証人のほか、証人2名のスケジュールも調整しなければなりません。
弁護士に依頼している場合は、弁護士にも同席してもらいましょう。
なお、身体が不自由などの理由で公証役場へ行くのが難しい場合は、公証人に出張を依頼できます。
ただし、その場合は公証人手数料が1.5倍かかります。
④公正証書遺言を作成する
作成当日は、公証人が公正証書遺言の原本となる書面を持参します。
公証人は、遺言者と証人に公正証書遺言の内容を読み聞かせます。
遺言者と証人は、筆記内容が正確であることを承認したのち、署名・押印します。
最後に、公証人が所定の方式に従って作成したことを付記して署名・押印すれば、公正証書遺言が完成します。
公正証書遺言の原本は公証役場で保管され、遺言者には正本と謄本が交付されます。
公正証書遺言の内容に納得いかない場合の対処法
もし公正証書遺言の内容に納得いかない場合は、以下のような方法で解決を図ります。
相続人同士で交渉する
被相続人が公正証書遺言を作成していても、必ずしも遺言内容どおりに相続する必要はありません。
相続人全員が納得していれば、相続人同士で遺産分割協議をして遺言内容とは異なる方法で分け合うことができます。
裁判手続きをおこなう
相続人同士で意見が対立して交渉がうまくいかない場合は、遺言無効確認請求調停・訴訟などの裁判手続きをおこないます。
遺言無効確認請求調停では、裁判官や調停委員が各相続人の主張を聞き、話し合いによる解決を目指します。
調停でも相続人全員の同意が得られない場合は遺言無効確認訴訟に移行し、遺言の有効性について裁判官に判断を求めます。
遺言の有効性を認める判決が下された場合は遺言内容に従って遺産相続し、無効の判決が下された場合は改めて遺産分割協議をして分割方法を決定します。
公正証書遺言の効力に関するQ&A
ここでは、公正証書遺言の効力に関するよくある質問について解説します。
公正証書遺言が無効になるリスクを避けるためにはどうすればよい?
たとえば「遺言者に十分な意思能力がなかった」と判断された場合などは、公正証書遺言の効力が無効になります。
そのような事態を避けるためには、遺言書作成の前後の時期における遺言者の言動を撮影し、判断能力が十分に残っていたことの証拠を保存しておくなどの方法が有効です。
遺留分を侵害するような内容の公正証書遺言でも有効?
相続人の遺留分を侵害するような内容の公正証書遺言でも有効です。
遺留分侵害の有無を問わず、遺産の分け方は遺言者が自由に決定できます(民法第902条)。
ただし、公正証書遺言の内容が遺留分を侵害している場合、相続発生後に遺留分侵害額請求(民法第1046条)などがおこなわれる可能性があります。
取り分をめぐる相続人同士でのトラブルを避けたい場合は、それぞれの遺留分に配慮して遺産の分け方を決めましょう。
遺言者が認知症を患っていると公正証書遺言は作成できない?
公正証書遺言を作成できるかどうかは、認知症の進行の程度によります。
軽度の認知症であれば、まだ十分な意思能力が残っており、公正証書遺言を作成できる場合もあります。
一方、重度の認知症の場合、遺言能力がないと判断されて作成できないおそれがあります。
証人を依頼できる人がいない場合はどうすればよい?
証人を依頼できる人がいない場合は、公証役場に手配を依頼しましょう。
その際、1人あたり7,000円~1万5,000円程度の日当が発生します。
なお、公証役場のほかにも弁護士に依頼するという手段もあります。
その際の費用は事務所によって異なるため、詳しくは依頼先に直接確認しましょう。
公正証書遺言の作成に関する弁護士費用
かつて用いられていた「日本弁護士連合会弁護士報酬基準」を参考にすると、弁護士に公正証書遺言の作成を依頼した場合の費用相場は以下のとおりです。
①遺言内容が定型の場合
②遺言内容が非定型の場合
相続財産
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費用相場
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財産が300万円以下の場合
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23万円程度
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財産が300万円を超え3,000万円以下の場合
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財産の1%+20万円程度
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財産が3,000万円を超え3億円以下の場合
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財産の0.3%+41万円程度
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財産が3億円を超える場合
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財産の0.1%+101万円程度
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ただし、あくまでも上記の金額は目安であり、正確な金額を知りたい場合は直接事務所に確認しましょう。
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公正証書遺言の作成にあたっては、財産調査や案文作成のほか、公証役場とのやり取りなども必要です。
弁護士であればこれらの対応を一任でき、手続きにかかる負担を大幅に軽減できます。
公正証書遺言を作成しようか悩んでいるあなたへ
公正証書遺言と自筆証書遺言、どちらで作成するのが良いんだろう...と悩んでいませんか?
結論からいうと、公正証書遺言はより無効になりにくいことから、もっとも安全・確実な遺言書の作成方法とされています。
遺言無効のリスクを避けたい方は、弁護士に公正証書遺言作成のサポートを相談・依頼するのをおすすめします。
弁護士に相談・依頼すると、以下のようなメリットを得ることができます。
- 遺言書にどんな内容を記載すべきか相談できる
- 遺言書以外の相続対策について相談できる
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