遺言書は、相続分の指定や相続人の廃除、未成年後見人の指定などの意思表示ができます。
ただし、法律で定められた特定の事項以外を書いても、法的な効力は生じません。
また、遺言書の書き方には厳密なルールがあり、ひとつでも反すると無効になる可能性があるため注意が必要です。
当記事では、遺言書における8つの効力や、反対に効力が認められないことを解説します。
無効にならないための自筆証書遺言の書き方も説明するので、これから遺言書を作成したい方はぜひ参考にしてください。
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遺言書は法律の定める方式に則って作成する必要があり、知識のない人が作成した場合、内容が無効になることもあります。
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また、弁護士に相談することで以下のようなメリットを得ることができます。
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そもそも遺言書とは?
遺言書とは、死後に財産を誰にどのように遺すかを示す法的な意思表示をした書面のこと。
民法に定められた要件を満たして作成することで法的効力をもち、相続人全員でおこなう遺産の分け方についての話し合い(遺産分割協議)よりも優先されます。
たとえば、法定相続分とは異なる割合で特定の相続人に多くの財産を遺したい場合や、法定相続人ではない内縁の配偶者に遺贈したい場合、遺言書を作成することで希望を法的に実現できます。
もし遺言書がなければ原則として法定相続人が法定相続分どおりに財産を相続するため、自身の意思を確実に反映させるためには遺言書の作成が極めて重要です。
遺言書とエンディングノートとの違い
遺言書が法的な効力を持つ正式な文書であるのに対し、「エンディングノート」には原則として法的な効力はありません。
エンディングノートは、自身の希望や考え、身辺の情報(たとえば銀行口座や加入保険、交友関係、葬儀の希望、延命治療に関する意思など)を家族に伝えるための、自由な形式のノートです。
法的な形式要件を満たしていない限り、遺言書としては扱われません。
そのため、自身の財産を確実に特定の人へ引き継がせたいと考える場合には、エンディングノートへの記載だけでは不十分で、法的な要件を満たした「遺言書」を別途作成することが不可欠です。
遺産相続時の遺言書でできることは?8つの効力

法律で定められた特定の事項以外のことを遺言書に書いても、それはあくまで遺言者の希望や思いを伝えるメッセージとして扱われ、法的な拘束力を持ちません。
効力が生じるとされるものには、相続分の指定や遺産分割方法の指定、相続人廃除の意思表示などがあります。
特定の相続人を排除する
遺言書では、特定の相続人から相続権を法的に剥奪する意思表示(=相続人の廃除)ができます。
ただし廃除が認められるのは、その相続人から著しい虐待を受けた、重大な侮辱を加えられたなど極めて限定的な場合のみ。
被相続人本人または遺言執行者が家庭裁判所に申し立てをしてその理由が正当であると認められれば、その相続人は相続権を失います。
また廃除の対象にできるのは、遺留分(法律で保障された最低限の相続分)を有する相続人、すなわち配偶者、子など(直系卑属)、親など(直系尊属)に限られます。
兄弟姉妹には遺留分がないため、財産を遺さないことと記載すれば相続できないため、廃除の対象とする必要がありません。
なお、廃除された相続人は法的には初めから相続人でなかったものとみなされますが「代襲相続」が発生するため、廃除された人に子がいる場合にはその子が代わりに相続します。
排除された相続人は遺留分を請求できない
排除された相続人は、「遺留分」の権利を失います。
遺留分とは、兄弟姉妹甥姪以外の法定相続人に保障されている最低限の相続分で、それらの相続人の権利です。
通常は、遺言書によっても奪うことはできないとされている権利です。
しかし、法的に廃除された相続人は、ほかの相続人や遺贈を受けた人に対して、自身の遺留分が侵害されたとして金銭の支払いを求める「遺留分侵害額請求」をおこなうことが一切できなくなります。
遺留分については後ほど詳しく説明します。
自由に相続分を決める
遺言書では、法律で定められた相続割合(法定相続分)とは異なる割合で、各相続人が受け取る遺産の配分を指定できます。
たとえば相続人が配偶者・長男・次男の場合、法定相続分に従うと、配偶者が遺産の2分の1、長男・次男が残りの2分の1を等分で相続することとなります。
しかし遺言書を作成すれば、「次男に全体の3分の2、配偶者と長男に6分の1ずつ」などと自由に相続分を定めることが可能です。
特定の相続人に多くの財産を遺したい、あるいは逆に少なくしたいといった場合は、遺言書で具体的に指定することができます。
遺産分割方法の指定と分割の禁止を決定する
遺言書では、単に相続分の割合を指定するだけでなく、どの財産を誰に相続させるかという具体的な「遺産分割の方法」まで指定できます。
たとえば、「自宅不動産と土地は妻に、預貯金は長男に、株式は次男に相続させる」といった形で、個別の財産ごとに承継者を明確に定めることが可能です。
遺産分割協議における相続人間の話し合いの手間を省き、争いを未然に防ぎたいときは、遺言書で指定するとよいでしょう。
また遺言書では、遺産分割の方法の決定そのものを、特定の第三者(たとえば弁護士など)に委託することも認められています。
さらに遺言書によって、相続が開始してから最長で5年間、遺産の分割を禁止することも可能です。
すぐに分割すると事業継続に支障が出る場合や、相続まで一定の冷却期間を置くことが望ましい場合などに有効な手段です。
相続人以外の人や団体に遺贈する
遺言書を活用すると、法定相続人ではない方や団体、あるいは社会貢献活動をおこなう法人などに財産を譲り渡すことが可能です。
具体的には、以下のようなケースです。
- 「20年間生活を共にした内縁の妻に、預貯金のうち〇〇万円を遺贈する」
- 「闘病生活を支えてくれた友人〇〇さんに、所有する株式を遺贈する」
- 「〇〇財団の活動に賛同するので、所有する不動産を寄付する」
法律上、内縁の配偶者は相続人になれません。
たとえば、長年つれ添った内縁の配偶者に財産を遺したいと思ったら、遺言書で意思を明らかにしておく必要があります。
また、特定の目的のために財産を管理・運用してもらう「信託」の設定も、遺言によっておこなえます。
子どもを認知する
遺言書では、婚姻関係にない女性との間に生まれた子ども(非嫡出子)を、自身の法律上の子として認める「認知」の意思表示もできます。
非嫡出子において、母親との関係は出産によって明らかになるものの、父親との間では、認知をしない限り法律上の親子関係は認められません。
そのため、認知されていない非嫡出子は父親の戸籍に入ることもできず、原則として父親の財産を相続する権利もありません。
しかし、父親が遺言書でその子を認知する意思を明確に示しておけば、その子は、ほかの相続人と同様に、法定相続人として父親の遺産を相続する権利が認められます。
未成年後見人を指定する
自身が亡くなったあとに未成年の子どもが遺され、かつ、子どもの親権をおこなう方がほかに誰もいない場合、信頼できる人物を「未成年後見人」として指定できます。
未成年後見人は、子どもが成人するまでのあいだ、子どもの身の回りの世話や教育、財産の管理などをおこなう存在です。
親権者が自身しかいない場合や、万が一、夫婦が同時に亡くなるような不測の事態も想定し、子どもの将来を託せる人物を遺言書で指定しておくと安心でしょう。
さらに遺言書では、指定した未成年後見人の職務が適切におこなわれているかを監督する「未成年後見監督人」を併せて指定できます。
後見制度の適正な運用を確保し、より一層子どもの保護を図ることが可能です。
担保責任の負担者や負担割合を指定する
遺言書では、特定の財産に関する担保責任を、誰がどの程度の割合で負担するのかをあらかじめ指定できます。
相続によって引き継いだ財産が、実は他人のものであったり、あるいは財産に隠れた欠陥があったりした場合、その財産を受け取った相続人は、ほかの相続人に対して一定の責任(担保責任)を負うよう求めることができる場合があるためです。
たとえば、「長男に相続させる甲不動産に万が一欠陥があった場合でも、担保責任は長男自身が全て負うものとし、ほかの相続人は責任を負わない」といった指定ができます。
負担者や負担割合を指定しておけば、相続開始後に予期せぬ財産の欠陥が発覚した場合でも、相続人間でのトラブルを未然に防げるでしょう。
ただし、担保責任に関する規定は複雑な側面もあるため、具体的な指定を検討する際には、弁護士等専門家のアドバイスを受けるのが望ましいでしょう。
遺言執行者を指定する
遺言書では、遺言の内容をスムーズかつ確実に実現するために「遺言執行者」を指定することも可能です。
遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を実行する責任と権限を持つ人のこと。
具体的には、以下のような遺言の内容を実現するために、相続人に代わって必要なさまざまな手続きをおこなう役割があります。
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 預貯金の解約と相続人への分配
- 株式などの有価証券の移管手続き
- 子の認知の届出
- 相続人廃除の申立て
もし遺言書で遺言執行者が指定されていない場合、手続きは相続人全員が協力しておこなう必要があり、相続人間で意見が対立すると手続きが滞ってしまうかもしれません。
遺言書内で遺言執行者を指定しておくと、相続開始後の手続きが円滑に進み、相続人間の負担や争いが軽減するメリットがあります。
なお、遺言執行者には特定の相続人、もしくは弁護士や司法書士などの法律の専門家を指定するのが一般的です。
遺言書の効力はいつから発生する?有効期間・期限は?
遺言書の効力は、遺言を書いた本人が亡くなったその瞬間に発生します。
遺言者が生きている間は、遺言書に法的な効力は一切生じません。
また、一度有効に作成された遺言書には、原則として有効期間はありません。
何十年も前に作成した遺言書であっても、法的に正式なものであれば有効。たとえ内容が現在の状況に合わないとしても、自動的に無効になったり効力が失われたりすることはないのです。
一度遺言書を作成したあとに、考えが変わったり財産状況や家族関係に変化が生じたりした場合には、改めて新しい遺言書を作成し直す必要があります。
死後に複数の遺言書が見つかった場合、日付の古い遺言書の内容と矛盾する部分は新しい遺言書の内容が優先され、古い遺言の該当部分は撤回されたものとして扱われます。
遺言書に書いても効力が認められない3つのこと

遺言書に書いた全てが法的な効力を持つわけではありません。
法的な効力が認められるのは、前述の法律で定められた特定の事柄に限られます。
遺言書に書いても効力が認められないことは主に3つです。
遺留分を侵害する内容
遺留分は、法律上最低限保障される遺産の取り分として、兄弟姉妹甥姪を除く法定相続人(配偶者、子や孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属)に与えられた権利です。
その遺留分を侵害する内容を遺言書で指定すること自体は可能ですが、侵害された遺留分に相当する金銭の支払い請求を無効にはできません。

たとえば「私の全財産は愛人にゆずる」といった遺言も、形式上は有効に成立します。
このとき、相続人である配偶者や子が納得すれば問題ありません。
しかし納得できない場合には、全財産を受け取った愛人に対して「遺留分侵害額請求」という法的な手続きを取れます。
遺留分侵害額請求が行われると、財産を受け取った人は請求に応じて遺留分相当額の金銭を請求者に対して支払わなければならなくなり、結果として、遺言の効力が無効になる可能性があります。
ただし例外として、正当な理由に基づいて家庭裁判所により「相続人の廃除」が認められた場合、廃除された相続人は遺留分侵害額請求をおこなうことはできません。
法定遺言事項以外の希望や想い
自身の希望や家族への思いといった付言事項には、法的な効力はありません。
たとえば「私が亡くなった後も、家族みんなで仲良く暮らしてほしい」「私の葬儀は質素にとりおこなってほしい」といった内容は、故人の希望や思いとされます。
相続人がこれらの内容に従わなかったとしても、法的に何かを強制したり、ペナルティを課したりすることはできません。
そのほか「会社を〇〇に継いでほしい」といった事業承継に関する希望や、「臓器提供をしてほしい」といった医療に関する希望などにも法的な効力はなく、実現させるには別の手続きや相続人間の合意などが必要となります。
なお、遺言書に自身の希望や思い、人生観などを書いたとしても、遺言書が無効になるわけではありません。
ご自身の思いなどは遺言書とは別に手紙を書くといった方法が望ましいですが、遺言書にまとめて書くこと自体に問題は何らありません。
公序良俗に反する内容
遺言書に書かれた内容が社会の道徳観や倫理観、社会的な常識や秩序に照らして著しく不当である場合、その部分は法的な効力が認められません。
たとえば不倫相手に対して、「関係を秘密にするのを条件に財産を遺贈する」といった遺言は、動機や目的が社会的に許容される範囲を超えているとして、無効と判断される可能性があります。
また、特定の相続人に対して、合理的な理由なく差別的な扱いをする内容も同様。
たとえば「長男は気に入らないので一切の財産を相続させない」といった遺言などです。
さらに、「もし再婚したら相続した財産は取り上げる」のような、相続人の婚姻の自由など基本的人権を不当に制限する遺言も無効になる可能性が高いでしょう。
なお、遺言内容が公序良俗に反するかどうかは、事案ごとに社会通念に照らして裁判所が個別具体的に最終判断をすることとなります。
効力をもつ遺言書の種類は3つ!

日本において、法的に有効な遺言書として民法で定められている主な方式は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つあります。
それぞれ、作成の方法や保管方法、遺言者が亡くなった後の手続きに違いがあります。
自筆証書遺言:手書きで保管する
自筆証書遺言は、遺言者本人が遺言書の本文や作成した日付、氏名を自筆し、押印して作成する方式の遺言書です。
費用がかからず、紙とペンがあればいつでも思い立った時に作成できる手軽さ、そして遺言の内容を誰にも知られずに秘密にしておける点がメリットです。
一方、法律で定められた形式要件が非常に厳格で、ひとつでも不備があると遺言書全体が無効になってしまう点はデメリットといえます。
また、遺言書を自身で保管するため、死後に相続人に発見されなかったり、紛失してしまったりする心配もあるでしょう。
さらに、相続が発生したら開封前に家庭裁判所で検認手続きを受ける必要があります。
検認とは、遺言書の形状や日付、署名、押印など遺言書そのものの外形的な状態を確認し、遺言書の偽造や変造を防ぐことを主な目的とした手続きです。
手続きを怠ると罰金が科せられるため注意しなくてはいけません(ただし法務局の保管制度を利用した場合は検認不要)。
公正証書遺言:公証役場で作成する
公正証書遺言は、遺言者本人が公証役場に出向いて作成する遺言書。公証人に遺言の内容を口頭で伝え、それに基づいて公証人が作成する遺言書です。
最大のメリットは、法律の専門家である公証人が作成に関与するため、不備が生じる可能性が極めて低く、遺言が無効になるリスクがない点です。
法的な確実性や信頼性の面では、最も安心できる遺言方式といえるでしょう。
また、作成された遺言書の原本は公証役場で厳重に保管されるため、紛失や偽造、改ざんの心配がありません。
一方デメリットは、公証人への手数料や、証人を依頼する場合の費用(たとえば弁護士などに依頼した場合)などコストがかかる点です。
また、作成時には利害関係のない証人二人以上の立会いが必要となりますので、遺言の内容を一切秘密にしたい方には不向きかもしれませんが、遺言執行者に指定した弁護士に証人になってもらうと効率よく確実性の高い遺言書を作成することが可能です。
公正証書遺言の効力については以下記事を参考にしてください。
秘密証書遺言:自筆の遺言書を公証役場で証明してもらう
秘密証書遺言は、自筆の遺言書を公証役場で証明してもらうものです。
公証役場に遺言書を持参後、公証人が提出された日付と申述内容を封紙に記載し、遺言者、証人とともに署名押印することで、遺言書の存在を公的に証明してもらいます。
主なメリットは、遺言の内容を公証人も含め誰にも知られることなく秘密にしておける点です。
また、遺言書は、署名以外は、ワープロで作成したり、代筆により作成したりしたものでも問題ありません。
しかし、公証人は遺言書の内容を確認しないため、もし遺言書本文の記載内容や形式に法律上の不備があった場合、遺言が無効と判断されてしまうリスクがあります。
さらに、公証役場には遺言書を作成したという記録が残るだけで、遺言書の原本は自分で保管する必要があります。
自筆証書遺言と同様に、紛失や発見されない可能性もあるでしょう。
なお、相続開始後には家庭裁判所での検認手続きも必要です。
秘密証書遺言については以下の記事が参考になります。
無効にならないための自筆証書遺言の正しい書き方

自筆証書遺言は手軽に作成できるというメリットがある反面、法律で定められた厳格な方式を守らなければ遺言書が無効になってしまうというリスクも伴います。
自身の最後の意思を確実に実現し、残された家族の間での無用なトラブルを避けるためには、正しい書き方を正確に理解して作成するのが重要です。
書面で用意する
自筆証書遺言は必ず紙に書く必要があります。
遺言を録音した音声データやビデオメッセージは法的な遺言として一切認められません。
書面であれば、使用する用紙の種類やサイズに決まりはありません。市販の便箋やノート、コピー用紙はもちろんのこと、チラシの裏やメモ帳のようなものであっても法的には問題ないとされています。
ただし、遺言書を大切に保管し、相続人が内容を正確に読み取れるようにするには、ある程度の大きさがある丈夫な紙を選ぶのが望ましいでしょう。
筆記具も指定はないものの、鉛筆や消せるボールペンのような簡単に改変できるものは避けるべきです。
長期間の保存に適した、ボールペンや万年筆などインクが消えない筆記具を使用しましょう。
全文を自筆で書く
自筆証書遺言における最も重要かつ厳格な要件ひとつが、遺言の本文内容の全てが、遺言者自身の手書きでなければならないという点。
たとえ本人の意思に基づくものでも、代筆してもらったものやワープロで作成して印刷したもの、あるいはコピーしたものは原則として無効となります。
遺言の本文を作成する際は、誰が読んでも判読できるような丁寧な文字で書くことを心がけてください。読みにくい文字や曖昧な表現はトラブルのもとです。
財産の指定や相続人の氏名なども具体的に記載する必要があります。
訂正箇所には押印する
自筆証書遺言では、修正方法にも法律で定められた厳格なルールが存在します。
削除・訂正・加筆の際は、まず以下のように対処します。
削除
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二重線を引く
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訂正
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二重線を引き、正しい文字を近くの余白に書く
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加筆
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挿入したい箇所にV字のような加入記号を書き、近くの余白に挿入する文字を書く
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加えて、これらの訂正・削除・加筆した箇所に遺言書に押印したものと同じ印鑑で押印します。
さらに、遺言書の本文の末尾や欄外などの余白部分に、「〇行目の〇字を削除し、〇字を加入した」のように変更内容を具体的に記載し、遺言者本人が署名して完了です。
この一連のルールをひとつでも守らないと、訂正自体が無効とみなされ、訂正前の内容が有効とされたり、遺言書全体の有効性が疑われたりします。
訂正箇所が多く複雑になる場合は、全文を新しく書き直すのがおすすめです。
日付・氏名・押印は必須
自筆証書遺言が法的に有効なものとして認められるためには、「作成した日付」「氏名」「押印」の3つが必須です。
どれかひとつでも欠けていると、遺言書が無効となります。
まず遺言書を完成させた年月日を、「令和6年5月20日」のように年・月・日まで特定できるように明確に記載する必要があります。
「令和6年5月吉日」や「満70歳の誕生日」といった曖昧な記載は、作成日が特定できないため無効と判断されます。
次に、戸籍上の本名をフルネームで自署しましょう。日常的に使用している通称やペンネームは、遺言者本人であることの特定が困難となり、遺言書が無効とされる可能性が高いです。
また、使用する印鑑は認印でも実印でも問題ありません。
しかし、後々の相続手続きや万が一の争いを考慮すると、印鑑登録された実印を使用する方法が望ましいでしょう。
遺言者本人の意思に基づいて作成されたことの証明となります。
なお、シャチハタのようなインク浸透印は印影が変形しやすいため避けるべきです。
財産目録を用意する
遺言書には「どの財産を誰に相続させるのか」を具体的に記載する必要があるため、「財産目録(所有している財産のリスト)」を別途作成して遺言書に添付しましょう。
財産目録に記載するものの例は次のとおりです。
- 預貯金がある金融機関名・支店名・口座の種類・口座番号・おおよその残高
- 不動産の所在地(住居表示ではなく地番・家屋番号)・面積
- 株式などの有価証券を保有している証券会社名・銘柄・株数
財産の種類や内容を具体的にまとめておくと、どの財産についての意思なのかが相続人にとって明確になり、遺産の特定を巡る混乱や解釈の違いによる争いを未然に防げます。
遺言書の本文は自筆でなくてはいけませんが、財産目録はワープロで作成しても問題ありません。
預金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)そのものを添付することも可能です。
ただし、自筆でない財産目録を作成し、添付した場合は、目録の全てのページ(コピー等を添付した場合はその書面自体も含む)に、遺言者本人の署名と押印が義務付けられているので忘れないようにしてください。
遺言書開封前に検認を受ける
自筆証書遺言は、相続手続きを進める前に「検認」を受ける必要があります。
遺言書を保管している人や遺言者死亡後に遺言書を発見した相続人は、できるだけ速やかに家庭裁判所に検認の申立てをしなくてはいけません。
封筒に入れられ封印されている遺言書は、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いのもとで開封することになっています。
もし検認前に勝手に開封すると、5万円以下の過料に処せられる可能性があるため注意が必要です。
相続人が検認の必要性を知らない場合に備え、遺言書を入れた封筒の表に「この遺言書は、私の死後、勝手に開封せず、必ず家庭裁判所で検認の手続きを受けてください」などと書き添えておくと手続きがスムーズに進むでしょう。
遺言書の効力が認められない5つのケース
遺言書を書いても、法的な効力が認められず、無効とされる場合があります。
意思表示が無駄にならないよう、遺言書が無効とされるケースを理解しておきましょう。
遺言書の方式に不備がある
特に自筆証書遺言の場合、民法で定められた方式要件を全て満たしていないものは効力がないものとされます。
具体的には以下のようなパターンです。
- 遺言書を作成した日付の記載がない
- 遺言者本人の氏名の記載がない
- 遺言者本人の押印がない
- 自筆ではなくワープロで作成されている(財産目録を除く)
これらの厳格な方式要件は、遺言が遺言者本人の真意に基づいて、慎重な意思決定のもとで作成されたことを担保するための重要なルールです。
少しでも不備があると、原則として遺言書は無効となります。
遺言能力が欠如している
重度の認知症や精神的な疾患などの場合、遺言の内容や遺言によって生じる結果を正しく理解できなかった、すなわち「遺言書作成時に遺言能力を欠いていた」と判断されて無効とされる可能性があります。
特に高齢の方が作成した遺言書は、ほかの相続人から「遺言能力がなかったのではないか」と主張され、遺言の有効性を巡って争いになるケースも少なくありません。
遺言能力があったかどうかは、一概に判断できません。
遺言能力についての争いがある場合は、遺言書作成当時の遺言者の具体的な言動、かかっていた病気の種類や程度、医師による診断記録、介護記録などのさまざまな事情を総合的に考慮し、最終的には裁判所で判断されることとなります。
遺言能力について少しでも懸念がある場合には、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言の形式を選択すると、トラブル予防になるためおすすめです。
遺言書の日付が古い
内容が異なる複数の遺言書が残されていた場合、「日付が最も新しい遺言書」の内容が有効です。
古い遺言書と新しい遺言書で内容が矛盾する部分は、新しい遺言書の内容が優先され、古い遺言書の矛盾箇所は、新しい遺言によって撤回されたものとみなされます。
たとえば、5年前に作成した遺言書で「銀行の預金は長男に相続させる」と書いていても、1年前に作成した遺言書で「銀行の預金は妻に相続させる」と書いていれば、預金を相続するのは妻です。
複数の遺言書が存在すると、どれが遺言者の最終的な意思なのかがわかりにくくなるため、新しい遺言書を作成するときは、可能な限り、過去の遺言を全て撤回して作成することをおすすめします。
遺言が撤回された
遺言者は、一度有効に遺言書を作成したあとでも、生存中いつでも自由に遺言の全部または一部を撤回できます。
遺言を撤回する方法はいくつかありますが、最も確実な方法は、新しく遺言書を作成するときに撤回する意思も記載しておくことです。
新たな遺言の中で「〇年〇月〇日付で作成した遺言の全部を撤回する」と、撤回の意思をはっきり記載するとよいでしょう。
さらに、遺言者が故意に遺言書を物理的に破棄した場合(たとえば破り捨てたり燃やしたりした場合)も、破棄された部分について遺言を撤回する意思があったものと推定されます。
同様に、遺言で特定の財産を誰かに遺贈すると指定した後に、遺言者がその財産を生前に売却したりほかの人に贈与したりした場合も、処分された財産に関する遺言箇所は撤回されたものとみなされます。
詐欺や脅迫の可能性がある
ほかの人からの詐欺や強迫によって、遺言者が自身の本当の意思に反する内容の遺言書を作成させられた場合、その遺言は取り消されたり、無効と判断されたりする可能性があります。
たとえば、「もしこの内容で書かなければ、あなたや家族に危害を加える」と脅された場合や、「長男はあなたの悪口ばかり言っている」などと虚偽の内容を吹き込まれ、長男に不利な内容の遺言を作成した場合です。
詐欺や強迫の事実があったかどうかは、遺言書作成時の具体的な状況、関係者の証言、遺言の内容の不自然さなどから総合的に判断されることとなるでしょう。
もし、遺言書作成の経緯に不審な点や疑わしい点がある場合は、相続開始後にほかの相続人から遺言の有効性を争われ、深刻なトラブルに発展することも考えられます。
法的効力のある遺言書作成は弁護士に相談しよう
遺言書は作成方法や記載内容によって法的な効力が大きく左右される、非常に重要な文書です。
要件を全て満たし、内容に曖昧さのない遺言書を作成することが極めて重要です。
もし、遺言書の効力について疑問や不安を感じる場合や遺言書の記載内容を悩む場合は、相続問題に詳しい弁護士に相談することが最善の策といえます。
弁護士は、遺言や相続に関する法律や関連する数多くの判例、そして実際の相続実務に精通した法律の専門家です。
依頼者の状況や意向を丁寧にヒアリングした上で、遺言書の形式の選択から具体的な文案の作成、さらに相続人同士のトラブルを予防するための具体的なアドバイスまできめ細やかなサポートを提供できます。
特に、会社を経営していたり、相続財産の種類が多かったり、相続人の関係が複雑だったりする場合には、早期に相続関連法や会社法に明るい弁護士に相談し、専門家としての助言を得ながら遺言書作成や相続対策を進めるのがおすすめです。
ポータルサイト「ベンナビ相続」では、住んでいる地域や相談したい内容に応じて、相続問題に強い弁護士を効率的に探せます。
無料相談に応じている法律事務所も多く掲載しているので、ぜひ気軽に探してみてください。
さいごに
遺言書では、主に次のことができます。
- 特定の相続人を排除する
- 自由に相続分を決める
- 遺産分割方法の指定と分割の禁止を決める
- 相続人以外の人や団体に遺贈する
- 子どもを認知する
- 未成年後見人を指定する
- 担保責任の負担者や負担割合を指定する
- 遺言執行者を指定する
遺言書の効力は死後に発生し、適切に作成されていれば有効期間はありません。
ただし、公序良俗に反する内容、遺留分を侵害する内容(相続人の排除を除く)、希望や思いの丈は、書いても法的な効力が認められません。
また、遺言書に不備があったり、遺言者に遺言能力が欠如していたりしても、法的な効力が認められない場合がありますので注意してください。
遺言書をまだ作成したことがない方は相続に明るい弁護士に相談するなど、また遺言書を自己流で作成したことのある方は状況に応じてその内容の見直しを検討するなど、未来を生きる大切な人たちに確実に財産を遺す準備を整えておきましょう。